エピソードIV 幕開け
あの筋肉痛を味わって数日後、また、出撃の命令が出た。今回は小規模で、マーキュリーと私だけで行くことになった。
デッキに上り、コックピットから延びるラダーを登って、いつもの空間に入った。自己診断をさせながらショルダースタビライザを下ろした。
さて、始めるとしようか。
「マーキュリー。調子はどうだ?」
『至って元気だ。』
なかなかに元気な声が聞こえてきた。
「さあ、始めよう。」
『ささっと終わらせてやんよ。』
そう来なくてはな。さすがだマーキュリー。
二番カタパルト上に足をかけた。
『五…四…三…二…一…射出!!』
いつものように負荷がかかる。なんやかんやでこの感覚があると生きているということを感じる。
またここに戻れた。そう思うのだ。
『今日は、第三戦闘地区みたいだな。ここで待ち合わせみたいだ。』
「まだ開始前か?」
『そうらしい。今回はここら辺の領土の奪還を行うようだ。』
昔はヨーロッパはもちろん、国家解体戦争最後のフロンティアで、未踏領域もいまだ数多く残るアフリカ大陸も私たちのものにした。
それが今となってはヨーロッパも怪しくなってきた。そこで、今回の作戦のようだ。これでヨーロッパを確実なものにするようだ。
『見えてきたぞ。準備するか。』
「ああ。そうだな。」
私は後ろで新調されたばかりの単発式の対物ライフルを持って後方の山の中に籠った。
久しぶりのスナイピングだ。ステルスモードを起動。リフレクターレベルを最大まで高めて、機動力全捨てで防御を高める。
そのまま伏せて、カメラスコープをのぞき込んだ。
マーキュリーの姿が鮮明に見える。
『着いたか?』
「着いた。ベストポジションだ。」
ひたすら周りを警戒しながら弾倉ケースを置いて、スナイパーを構えた。弾が入ってるかを確認すると、しっかり入っていた。
メカニカルバレッツ製の189.02ミリメートル弾、高エネルギー残留徹甲弾だ。
相手の装甲を貫いた直後に衝撃を残留させる凶悪な銃弾だ。なかなかいいものを使っていやがる。
ちなみに、メカニカルバレッツは本当に銃弾と銃器に関してはピカイチで、それはもう銃器の王者とも称される。
凄まじく精密で誤差のない加工が特色で、最大五万分の一マイクロメートルまで精密に加工できる。
ただ、上には上がいて、日本にもと会った企業、峯刃鉄鋼は百万分の一マイクロメートルまで加工でき、ずれが全くない。
とんでもない企業だ。それもすべてお手製というのだからもうすごいとしか言えない。今回は銃身の設計と銃弾はメカニカルバレッツが担当して、
実際に製作をしたのは峯刃鉄鋼だ。寸分たがわぬこの精密な加工はもう何度見てもすごいとしか本当に言えない。
『さあ、お出ましの時間だぞ。』
「了解だ。」
私はスナイパーを構えなおしてスコープの倍率を確認したのちに、広域レーダーを見た。どうやら近くに敵はいなさそうだ。
ということで狩りの時間だ。スコープを除くと、わんさかと敵がいた。
中には第四等級機が何機も登場している。マーキュリーはそれを一機ずつ片付けていった。
「さすがにきついか?」
『全然余裕だな。というか後ろにいる敵をやってくれ。回り込まれると面倒だ。』
「了解だ。」
十字のポイントを回り込んだ敵に合わせた。その時、上空に別の機体が引っ掛かった。
私はいったんマーキュリーを信じて、そちらに照準を合わせ直した。
トリガーを引く。
バァーン!!!!
轟音とともに敵機は火を出して落ちた。
これが今は亡きサンダース隊長の言っていた“初見殺し”か。確かにこれは楽しい。
リリース用のレバーを後ろに引いて弾を出した。
カランカラカラ…
近場の岩に当たって転がっていく音ともにアツアツの薬莢はどこかに行った。
第二弾を銃の横についている弾倉ホルダーから一発出して、閉鎖機にぶちこんだ。
リリースレバーを戻し、シャッター型の閉鎖機をしっかりと閉める。
ガシャン!!
金属の音とともにリロードが終わった。
そして、マーキュリーが鬱陶しがっている回り込もうとする敵に向けて発砲した。
バァーン!!!!
約二百ミリの金色の弾丸は狙った獲物を逃さずに仕留めた。
よし、次弾を装填しよう。
その時、レーダーを見ると、なにやら近くに敵が来ている。
私は急いでライフルの装填を済ませて、リフレクターレベルを通常モードに戻した。
カメラサイトからアイアンサイトに切り替えて、直接狙う。
森の奥を見ると、こちらに気づかずに接近する敵の機体を見つけた。
念のためにレーダーを確認すると、それ以外はいないようだ。
いや待て、さすがにバカすぎる。こんな森の中を一人であんな風に歩くなんて。囮かもしれない。
ふと警戒して後ろをコックピットのバックスクリーンで見ると、やはりそうだった。ライフルを構えた機体がこちらに銃身を向けていた。
くそっ、さすがのブリッツもライフルはまずい。
急いで緊急用のスモークを展開し、クイックブーストをかました。
バァン!!!!
金色の閃光が横を過ぎていった。無事に外れたが一歩判断を誤れば危なかった。
一気に期待の向きを変えてライフルを構えなおし、ブリッツでスライディングしながら狙いを定めた。
ちょうど狙うところとアイアンサイトが重なった時、トリガーを引いた。
バァーン!!!!
金の閃光は相手のコックピットを破った。そして、煙を上げて倒れた。
その後、囮をアンチアームドで無効化した後に、急いで場所を移動した。
『大丈夫か?エース以外の銃声がしたが?』
「危なかった。一歩間違えれば棺桶行きだった。」
『マジか。頼むぜ。』
「もちろんよ!」
ライフルを持ったまんまひたすらいいポジションを探すと、ちょうどブリッツがすっぽり入る程度の洞窟を見つけた。
私は迷わずそこに入った。だいぶ洞窟は広いようで、全然閊えずには入れた。
またリフレクターレベルを極限まで上げて、ひたすらこもった。
カメラサイトに切り替え、スコープを除くと、もう敵はわずかだ。
弾数は異様に少ないように見えるが、関係なくさっさとトリガーを引いて、残っていた機体を片付けた。
気前良く響く銃声は何とも中毒性あふれるものだった。
その後、無事に勝利したのちに帰還しようとした時だ。
しまった!!
弾倉ケースをさっきのところに置いてきてしまった。
「マーキュリー!!弾倉ケースを忘れた!!少し遅れる!!」
『マジか!?まあいい。慌てることもない。こっちは帰還してるよ。』
その後、マーキュリーは私の上空を通過して、帰還していった。
私は必至こいてさっきの場所を探した。にしてもどこに置いたんだ?
そうして無駄なに十分が経つごろに、私はやっとあのケースを見つけた。
「よっしゃぁ…」
そして急いで帰還した。まるで学校に遅刻した気分だ。それも二、三分ではない。十分近く遅刻した時だ。
無事に帰還すると、もうマーキュリーの機体は元のデッキに戻されていた。
その後、機体を管理している管理人の元まで行き、このあとやることを聞いた。
しかし、どうやらこの後特にやることはないようだ。私は寮に戻ることにした。ブリッツの新しいプログラムを確認するためだ。
そして、寮に戻って、靴を脱いでいたその時…
「えーーー!?なんだってーーーー!?」
トラファルガーの大きな声が響いた。
私は思わぬ大声に驚いた。何事かと寮のリビングに行くと、そこにはいつものメンツが驚いた顔をして座っていた。
「何があった?」
「おおエース、帰ったか。」
「それで何があった?」
「あのな、アルテミスにな…」
「何だ?アルテミスに何だ?」
「彼女ができたんだ。」
マーキュリーの言葉に驚き、私もトラファルガーと同じ言葉が出た。まさか彼女ができるとは。彼は性格も頭脳もよく、顔立ちもいいから理由はなんとなくわかるが、
まさかこうなるとは。それで私は気になり、本人に聞くと、相手から告白してきたそうで、それもうちの会社の花とも呼ばれる、カーネリアン・リンダさんとだ。
いつもは活気に満ちていて、多くの人から告白を若いころからされて、断ってきたきたあの人本人が告白するとは。
驚きの連続でぶっ倒れそうだ。なんてこった。ああ、めまいがする。まあ疲れていたのもあるがまさかこんなことになるとは…
こうして驚きの連続でぶっ倒れそうになっていると、郵便ボックスに何かが投函されたようだった。
「私が確認しに行ってみる。」
「ありがとう」
まさかラブレターなんかしゃれたもんじゃないよな。これでもしアルテミス宛で、白い封筒だったら…
ああ、人の恋の話に首なんか突っ込むもんじゃない。どうせ本部からの指令のはずだ。
そしてその中身を確認した瞬間…
絶句した。白い封筒だ。しかもアルテミス宛だ。こりゃあ参った。玄関を開けて戻るとそこにはトラファルガーが立っていた。
「それで、中身は何だったんだ?」
私はその封筒を見せたすると、彼も絶句した。おんなじことを思ったに違いない。こいつの威力はあの対物ライフルなんかよりもたやすく人を絶句させられるレベルだ。
私はすぐにリビングに戻り、アルテミスに渡した瞬間、地獄の雰囲気が流れ始めた。
「開けるぞ。」
私達は見守るしかない。そう思った。そしてアルテミスが手紙を開けた瞬間、アルテミスはなぜか表情を変えた。
「…どうしたんだ?」
「エース、これは…」
みんながアルテミスに視線を向けて、唾をのんだ。
「ブリッツのオプションに関する手紙だよ。ラブレターじゃない。」
アルテミスはみんなの顔を見ながら笑った。だが私たちは何一つ笑えない。なぜだろう。なんかがっかりするような、引っかかるような感覚が渦巻く。
今を一言で言うなら、これじゃないんだなってところだ。なんてこった。私たちは何に期待したのだろうか。
そういえばだれが白い封筒だとラブレターなんて言うことを決めたんだっけ?またしても暗黙の了解か?
「…アルテミス、お前…」
重い口でマーキュリーは続ける。
「こいつは笑えねぇよ…何せ、期待外れの限度をもうすでにオーバーして、笑いから絶句に代わり、それも超えてシリアスそのものってところだ…」
「ははっ、そうだな。でも私が笑っているのは君たちの真剣な表情に笑っているんだ。いやぁ、面白い。」
私達の今のどこがおもしろいというのだ?今の私たちは原子力核爆弾を頭に落とされた気分だっていうのに。
モアイのような顔つきをしているとまた新しく、手紙が投函されたようだ。もう期待はできないな。というか、これで期待できるあほがいるならそいつの顔を見てみたいな。
「…私が行ってくる…」
そしてまた、玄関から出て、メールボックスを開けると、また同じ光景が広がっていた。アルテミス宛の白い封筒だ。
今度はブリッツの予備装甲か何かの話だろう。また私はアルテミスに手紙を渡し、ソファーに座り、テレビを見た。みんなはあきれて新聞を読んだり、本を読んだりしていた。
もう日が落ち始めた時、まだ続く沈黙の中一人アルテミスは手紙を読んだ。私は横目で見ていたが、彼の顔が次第に赤くなっていく。
まあ、さすがに何か恥ずかしいことでも書かれたのだろう。いたずらの手紙というのがおそらく通説さ。
そして、また私はテレビを見た。するとアルテミスがぼそっとつぶやいた。
「マジか…明日広場で待ってるだと。しゃあない。行くか。」
私は何かの打ち合わせかと思ってアルテミスに聞いてみた。
「誰に会うんだ?」
次の瞬間、再び私たちの頭の中に原子力核爆弾が落ちた。
「彼女だ。これ、ラブレターだ。明日、広場でデートしようと誘ってきた。」
『何だってーーーーーー!?』
もう頭の中がめちゃくちゃだ。みんなでそろって同じ声が出た。全員の視線が、真っ赤な顔をしたアルテミスに向いた。ついに来た。期待していた出来事が起こった。
喜びと、おめでとうという気持ちと、頑張れという感情がわいてきて、地獄の雰囲気だった場所が花の咲く野原になった。
「アルテミス、頑張れよ。」
「ふられないように頑張れ。」
「特に言えることはねーけどさ、しっかり付き合ってやれよ。」
「そうだな。ありがとう。」
「今日は祝いだな。じゃあうまい飯でも作りますか。」
「そうだな、エース。とびっきりのを頼むぜ。」
「任せなさい。」
急いでキッチンに向かい、料理を作り始めた。ポテトサラダに、ローストチキン、あとは牛ステーキ串と、普通のサラダ。そして白米と、トマトスープだ。
デザートには特製のケーキを作ってあげよう。でもそうなると人が足らない。私はローマをキッチンに呼び、手伝ってもらうことにした。
そして二人掛かりで作っていく。私は主に肉料理担当だ。ステーキを丁寧に焼き上げる。もちろん、ここで出た油はすべてソースに使う。この油はうまみになる。きれいな色になるまで焼き、
きれいな色になったところをひっくり返す。そして、裏も焼けたら横も焼く。そして、出てきたに肉汁にちょっと玉ねぎとオイスターソースを入れてソースを作りながら肉にからめる。
そしたらアツアツのうちに、肉を切りそのまま串にさして、保温庫に入れた。次はローストチキンだが、これはしっかりと炭火でローストする。こんがり外にいい焼き目がつくまでは待つだけだ。
私は自分の作業を終えて、ローマを見ると、もうケーキが出来上がっているではないか。それもおいしそうなフルーツケーキが。
その後、ローストチキンに焼き目がつき、おいしいころ合いになった時、すぐに皿に盛り、胡椒と塩を軽く振って出来上がりだ。
みんなをリビングに集めて、晩飯の時間にした。みんなで一緒に料理を食べた。
「全部絶品だな。特にステーキ串の焼き加減は最高だよ。」
「ありがとうマーキュリー。でも、ローマの作ったサラダのドレッシングは完成度が高くて驚くよ。このさわやかなバジリコの香りとバルサミコ酢が口の中で広がっておいしい。」
「さすがエース。そこに気付くとはなかなかやるな。」
そのまま雑談をしながら、食べ物を食べる。幸せなひと時だ。そして食事が終わり、絶品のデザートを食べた。
とても上品な甘みと、フルーツの香りが口いっぱいに広がり、鼻に抜ける。ああ、素晴らしい。
そんなケーキを食べ終わり、それぞれで風呂に入り、少しだけ話して寝床についた。ああ、おいしかった。今日もよく眠れそうだ。
そうしてよく寝て翌日、実に気持ちがよい朝とともにデッキに行った。機能の調整をあのショックで忘れてしまったから、もうデッキでやろうと思ったのだ。
すると、慌ててローマが私のところに駆け込んできた。
「おいエース!!この記事読んだか!?」
彼はいつも新聞を読んでいる。まあそれはいいことだがいったい何だというんだ。
彼は他の皆にも教えるために私に私の分を置いて慌てて走っていった。
私は自分の分の新聞を読んだ。すると、彼が慌てふためく理由がよく分かった。確かにこれはまずい事態だ。
簡単に言うと、あの二社連盟がとうとう宣戦布告をした。一週間後から開戦になるとのこと。
これで今までは戦闘地区のみの戦闘だったのが、すべての世界、すべてのフロンティアにおいて行われるようになった。
決してどちらかが果てるまでは終わらぬ戦争だ。とんでもないことになってしまった。
下手したらこのまま壊滅するのでは…
いや、まだそれはないだろう。私達にはまだ五機の白い悪魔が健在している。彼らがいる限り、この状況が決してまずい方向に向くことはないだろう。
私はデッキでまずは調整を行ったのちに、急いで弾薬庫の確認をした。
メカニカルバレッツの弾丸は供給されるが、それ以外の規格の弾もある。そこで、よく使う弾の確認をしなければ、計画的に使うことなどできない。
「弾薬員は今いるか?」
「はい!私ですよ。」
「そうか、確認してほしい項目があるんだが…」
その後最もよく使う種類の弾を確認し、レポートにその場でまとめ上げて、社長室前に提出した。
大体宣戦布告されたときにはどうするのかは暗黙の了解で決まっている。私らの部隊は弾薬、隣は機体部品など、そんな感じだ。
そして、せわしなく準備をしていると、放送が流れた。
『インディバル・パーシュート社本社の全員に次ぐ。皆は知っているだろうが、この度、二社連盟から宣戦布告を受けた。』
社長の決意にも聞こえる声が、工場とデッキ全体に響き渡った。
『私達は今まで奴らと協力してきた。だが、いざ国家が解体すれば、領土の争いが絶えず、平和な世界とは程遠かった。』
確かにそうだ。今まで争いをやめたことはなかった。
『そして、今日にいたっては、世界を地獄にすることを彼らは決定した。』
そして、一息をついて、続けた。
『だが、私たちはあのような卑劣な企業に屈することなどない!!最後の最後まで全力で抵抗し、奴らの思う運命に抗う!!
それでこそ、我がインディバル・パーシュート社ではないだろうか!!』
社長の力説に圧倒される中、放送は流れ続けた。
『奴らの思う平和など、ただの仮面にすぎぬ!!私たちは、勝利のために最後まで全力でやり遂げる!!異常だ!!総員、全力でかかれ!!』
放送が流れ終わると、オオーッ!!!!という掛け声とともに全員走り回ってそれぞれの配置についた。
団結力の塊ともいえる私たちのど根性を奴らに見せてやるとしよう。
そしてひたすらに準備し、防衛線の計画も完全に練った。
気づけばそのころには一週間が過ぎていた。
とうとう地獄が広がり始める。いったいどちらが勝つのだろう。今だ分からない。
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