エピソードII 白い悪魔と死神

初めてブリッツが実戦に出て三日目、あの日からは全く攻撃がなくなった。そして何年振りかに訪れた平和な日を満喫することになった。

私は久しぶりに寮に籠って、新聞を読んだ。ローマを除く他のメンツは全員別支部に会議に行った。おそらく次の作戦の準備をしているのだろう。

それにしてもなかなかにいい日だ。こんなに緩い日は久しぶりだ。

すっかりぬるくなったココアを片手にだらしなく寝っ転がりながら新聞を読んでいると、この前のブリッツの戦闘の記事が載っていた。

気になって読んでみると、あの事がどれだけすごいことなのかがよく分かった。

記事によれば今まで劣勢で型落ちの部隊が多かったインディバル・パーシュート社に新型機が登場して早々に二十五機を仕留めることは異例ということだ。

さらに、ほかの企業間でも白い悪魔と呼ばれて恐れられていそうだ。その後読み進めると、あの第四戦闘区域の周辺の土地を入手することに成功したそうだ。

あの土地自体を入手できるとは。森林も多く、町もちょうどよい割合であることから前々から狙っていたのだ。それを今回の戦いで入手できるとはなかなかに大きな戦果だ。

これでまた安定するだろう。

その後、少しうれしい気持ちになりながら新聞を読んでいると、着信が来た。

ブリッツを五機生産したというメッセージのようだ。まあそこまでは問題ではない。しかし、その後のメッセージの内容に驚きココアを落としかけた。

どうやらすべての部隊に均等に配備、ではなく、私の部隊、ファルコンズにすべて配属になるそうだ。

さらに、それだけでは終わらない。

さすがはインディバル・パーシュート社の傘下兼、変態企業、アルフォンス・テクノロジーズ。

今でも十分に強いブリッツにオプションを付けるそうだ。

具体的には、前線でひたすら特攻するトラファルガー、マーキュリーは特攻用のオーバードブースト強化装備に、アクチュエーター強化。そして軽装、軽量化を図ったものにし、

ローマとアルテミスは原子力光線砲と全面的なスラスターの強化、重装甲の装備を取り付ける。

最後に私の機体は、総合的な機動力に長けていて、かつ高火力な光学兵器を満載した兵装にする予定らしい。

しかもそれぞれに名前があるらしく、近接仕様のものはアサルト・ブリッツ、遠距離仕様はヴァッシュ・ブリッツ。

私の中距離兼バランス型はセーヴェル・ブリッツになるそうだ。

それにしても飛んだいかれた案だ。もう十分強いというのに。それにその予算はいったいどこから…

ちなみに、アルフォンス・テクノロジーズは装甲や機体、車両の設計、供給元である。

ブリッツの装甲もすべてアルフォンス・テクノロジーズが設計から製作をした。私はバイクを持っているのだが、それもアルフォンス製だ。

しかし、なぜ変態企業と呼ばれるかというと諸説あるのだが私が思うに彼らの頭には浪漫と空力の二つの単語以外が存在しないのだろう。

事実、機体も彼らに勝手に作らせると、装甲の厚みを完全に度外視。被弾しなければどうということはないという完全に振り切った設計になる。

それも空力のために重さを最低限にすると思いきや変形機構をぶち込んだりしてくる。

きっと論理などというものは捨て去ったのだろう。聞いた話によれば、ブリッツも設計当初は例にもれず空力の化け物になっていたらしく、ファイタージェットに変形する機構を持っていたらしい。

だがさすがにそれはまずいということで、インディバル・パーシュート社が三回やり直しをさせたという。

本当にいろんな意味でねじが飛んでいる企業だ。

他にも傘下の企業は多い。超絶精密で理にかなった武装が専門のメカニカル・バレッツ、メカニカル・バレッツが変態企業というほどに精密な金属加工をする峯刃鉄鋼。

そしてさっきも言った浪漫と空力の鬼であり、変態企業、アルフォンス・テクノロジーズだ。

私は変態企業が考案した案を眺めながら資料を見る。

どうやらオプションとは言えど本当に振り切った構造になっているようだ。

アサルト・ブリッツはスラスターの推力、噴射時間、出力、数を三倍。

ヴァッシュ・ブリッツは史上最強の威力を誇り、昔の要塞ごときは一撃で吹き飛ばせる壊滅砲を無理やり変形機構をぶち込んで背中にギリギリ搭載したもの。

最後に私のセーヴェル・ブリッツは推力と出力を二倍に。腰のスカートの装甲の一部を撤廃し、壊滅砲の縮小版であるアンチアームドを二丁載せするようだ。

なんでこれで上層部はオッケーを出したのだろうか。それに本当に謎なのだが予算はどっから引っ張り出してきてるんだっ!

「ローマ、私らの企業の予算っていつからこんだけ贅沢に使えるようになった?」

さすがに知らんだろうと思って聞いてみたが、予想のはるか斜め上を行く回答が出てきた。

「昔、めちゃくちゃ仲が良かったけどパーシヴァル社に買収されたスピアアロー社がパーシヴァル社とサイクロン社から流れてくる大金をこっそりインディバル・パーシュート社に横流ししてるんだぞ。

あんまり大きな声では言えないが、兆単位でやってるらしい。」

入社して七年、大佐の地位まで上り詰めたが知らないことがあったとは。

「いったいどこで知ったんだそんなこと?」

「入って三日目に先輩に言われたよ。それもエースがちょうどいないときにな。どうやら暗黙の了解としてインディバル・パーシュート社にあるそうだ。」

こんなことしててよくスピアアロー社は無事だと思うが、なぜばれない?内部通告者が誰一人としていないというのか?やばいだろう。

このままではインディバル・パーシュート社が不正で多額の賠償を負うことになるかもしれない。

心配でしょうがないがそれでもやってくれてるというならありがたい。黙っておこう。

「ところで、会議は大丈夫そうか?一時間後にあるぞ。大佐としていくべきじゃないのか?」

忘れてた。しかし言ったところで中央の社長は聞いているようで聞き流しながら頷き、私は後ろで聞いてるふりしてふんぞり返るだけだから行ったところでというところだ。

おそらく今後について今のうちに話すのだろう。まあ、行かなくてもいいか…

と思ったがどうやらそうにもいかなさそうだ。ブリッツの話もおそらく入ってくるとしたら私がいないと話にならない。

まさに例えるならゲーム会社としてゲームを企画してみて、どんな感じなのかはテストプレイヤーしか知らないのに、そのプレイヤーが誰もいないような状況になるだろう。

それはまずい。それに後で呼び出しでも喰らったら、私の立場としてよろしくない。

…ということで私は死ぬ気で準備し、制服を整え、ガレージからアルフォンス・テクノロジーズが何十年も前に作ったバイクを引っ張り出し、会議場に向かった。

その後、社内の広い道路を爆走して、ちょうど五分前に到着し、バイクに乗って乱れた髪と制服の襟を正した。

「グラビティ・タニティード・エース、今出席しました。」

「来てくれてよかったです。では社長の隣へどうぞ。」

そうして少し堅苦しいモノトーンの会議室で社長の隣に座った。ガラス一枚張りの机がキラキラと光に照らされて光る。うっかりペンの先っぽでも落としたらバリっと逝きそうだ。

そうして、スライドとホログラムが投影されると会議の説明担当が淡々と説明していった。

社長は腕を組んで背もたれによりかかった定番のポーズで中央の席を占領していた。

説明の切れ目に外の窓を見るたびにオレンジに燃え盛る太陽が段々と沈んでいった。

「それでは、定刻となりましたので、会議を終了します。」

結局、私の出番はなく終わった。何のために来たんだか。

その後、社長とあいさつを交わしてバイクでゆっくりと帰宅した。

すっかり暗くなった空に輝く一つの黄金の欠けた月は白いバイクのボディーを照らした。

寮につくころにはすでに明かりで満ちていた。

ガレージにバイクを止めるとすでにローマが飯を作ってくれていた。どうやら残りのメンツは全員明日帰ってくるそうだ。

大佐の私よりも大変そうな彼らを思うと気の毒になる。

「今日の会議は出番あったか?まあさすがにあっただろう…」

「なかった。何にも、なかった。」

ポカンとしてローマは私の前で口に運ぼうとした匙を止めた。

「行く意味はあったのか?それ?」

「なかった。」

「…そうか。そいつは気の毒に。無駄に八時間拘束されていたのか?」

「…そうだ。」

二人そろって真っ白になりながらも飯を食べた。その後、食器を片付けて、さっさと二階に上がった。

上に行き、定期的に回ってくる日報を書き、玄関から外に出て、隣の寮にいる次の日報を書く部隊に日報を渡した。

そして、また二階に上がって寝間着を取って、一階に降りて、風呂に入った。今日の疲れがすっかり流れていい気分だ。

「お休み、ローマ。」

「はいよ。」

そして、また二階に上がってベッドの布団にくるまった。

心地よい夜を寝過ごそうとした。

『緊急!!第一工場方面から敵襲!!おそらく企業勢力と思われる!!直ちに応戦できる舞台は応戦せよ!!

繰り返す!!直ちに応戦できる舞台は応戦せよ!!』

深夜に突如として平穏を破るサイレンが響いた。すぐに飛び起きて制服に着替えて自身のデッキに急行した。

「まさか企業に突如として攻め込んでくるとは。かなりまずいぞ。」

「今は言ってる暇がない!!ローマ!!残念だがうちの部隊にはまだブリッツが五機配属されてるがそのうち三機はパイロットがいない!!

おまけに今の私のブリッツにしかオプション転換が完了していない!!ローマはまだ二番工場で転換中だ!!こっちのデッキじゃなくて二番工場方面にローマは行け!!」

「くそがっ!!」

寝起きのローマは私についてきていた足を止めて急いで寮に戻った。おそらく自分の車を出して急いで向かうのだろう。

だが気にしている暇はない。

私は急いで自分のデッキに滑り込み、コックピットから延びるラダーを駆け上がった。

こんなところで二度目の出撃とはなかなかこの機体も運が悪い。そもそも初陣が五十機近くと戦わなければならなかったというのに。

そして次は本部に大軍が攻めてくるとは。本当に運が悪い。

だが言ってられる暇はない。

統合管理システムにアクセス、ブリッツの整備状況及びオプションの状態、武装の状態を急速診断した。

整備状況はよかったが、ほとんどのオプションの武器がワンマガジンしかない。特にアンチアームドに限っては左右合わせて二発だ。

使うところを考えなければな。

ショルダースタビライザを後ろから降ろし、自分の肩に当たって、固定されていることを確認した。

コックピットのラダーを格納し、ハッチをロックしてストッパーを解除した。

「こちらエース!!ファルコンズのデッキよりセーヴェル・ブリッツ、出撃する!!」

『こちらデッキ内司令塔、了解した。直ちに一番工場緊急出口に向かってくれ。すでに一番工場が壊滅状態に等しい。』

「了解!!」

デッキの中をブリッツで走り抜け、緊急出口から出ようとした。

『アクセスできません。』

何だと?システムの故障か。こうなったら仕方あるまい。

私はブリッツからダブルエッジドレーザーブレードを出して、展開しそのまま緊急出口を切り刻んだ。

そしてその先に広がっていたのは地獄絵図だった。

そこらじゅうで部隊が応戦し、負けてやられた跡がある。機体の残骸がそこらじゅうに刺さってまるで針山のようだ。

銃声と金色の閃光が飛び交っていた。

パシン!!!!

さっそくスナイパーに頭をやられかけたが、アウトレイジで作られた傾斜のきいた装甲のおかげで助かった。

スラスターを吹かしてひたすら雑魚どもを散らしてった。

眩いエメラルドの投信がひたすらに回転しながら敵を豪快に一刀両断する様子は狼が獲物を狩る様子そのものだった。

しかしどうにも切り裂きまくってもきりがない。何だと思うと、全長六百メートルの移動要塞、バスターが水平線のはるか奥に見えた。

さすがにあれに限っては私も手が伸びない。

そんな時だ。目の前から敵の第五等級機がわんさかと陣を組んで出てきた。

いったいこれをどう処理すればいいんだろうか。まともに戦ったら切り刻まれる。

あっ…!

私はオプション兵装を展開した。

アンチアームドをお見舞いしてやることにしたのだ。

銃口から青い光を漏らしながら、眩く青い雷がぱちぱちと銃身の周りをまとった。

「終止!!」

トリガーを引くと、すさまじい反動が肩から伝わると同時に青い閃光が両方の腰のアンチアームドから発射された。

ドッゴーン!!!

凄まじいエネルギー爆発が起こり一気にまとめて第五等級機を粉砕した。

だが弾数はもうない。これではバスターを排除することは厳しい。

どうすればいいのか。

私は迫りくるバスターを前に悩んだ。そしてブレードをもう一度握りしめ、命がなくなることを覚悟して突撃しようとしたとき、無線が入った。

『待たせてすまねぇな、エース。あの要塞は落とさせてもらうぞ!!』

後ろを振り向くと施設の設備に動力供給ケーブルをつなぎ、二十メートルはある銃身をバスターに向けていたローマの姿があった。

よく見ると一番工場の発電機につないでいる。確か三十二億ボルトはあるやつだ。万が一逆流したら命の保証はない。

『エネルギー補填状況よし、方角よし、天候よし、威力減衰率、チャージ率算出完了…』

凄まじいエネルギーを感じるほどに翡翠に銃身は輝く。

『…さらばだっ!!』

次の瞬間、翡翠色に輝いていた銃身から眩い青白い光線が空を裂き、衝撃波を響かせながらバスターに向かって伸びた。

その光の槍はバスターを貫き、途方もなくでかいエネルギー爆発を巻き起こし、大きな青い雷が覆うきのこ雲を作った。

数秒したその衝撃波がブリッツに伝わった。

今まで感じた衝撃の中で最も大きいものだった。私は無事だったが、一番工場が完全に壊れてしまった。

だが、無事に勝利を収めたことは大きかった。

『勝ったぞ…!』

「そうだな…!って待てよ、応援に出た部隊が私が来た時にやられていたはず…つまり、救助人がまだいるはずだ!急いで探すぞ!!」

『分かった!!こっちで見張っておくから急いで探してみてくれ!!』

私は急いて後続の部隊を呼んで、彼らが来る間にシステムがまだ生きている機体に同時にアクセスし、中で生きている人を探した。

どうやら大半が駄目のようだ。なら自力で探すしか…

ピッ…

おっ…!一件探知した。どうやらここからあまり遠くないところだ。

五百メートル先にその残骸があるそうだ。

私は急いでそこまでスラスターを吹かした。

そしてその残骸を見た時に衝撃を覚えた。

いつも見ていた懐かしいレイダースのマークが肩に入ったあの機体…もしかすると…!いや、まさか彼ではないはずだ。

急いでコックピットの装甲をこじ開けると、中にはあの隊長が血だらけになって座っていた。肺にスタビライザーの破片が刺さっている。

コックピットのハッチを開けて飛び降りた。救急キットをブリッツの脚部から出して応急処置をしようとした。

「おお…エース…助けに来てくれたのか…?」

すでに元気がなくなったサンダース隊長の声が耳に残る。

「まだ耐えてくださいよ!あと少しで後続の部隊が到着しますから!」

「そいつは…厳しいな…」

そのまま彼は擦れた声で続けた。

「いいかエース…俺の願いを…お前に託していいか…?」

「そんな弱音とは、あなたらしくないです!!まだ頑張ってください!!」

だが彼は朦朧としていそうな中続けた。

「そうか…だが聞いてくれ…」

そして彼は私の手を握りしめた。

「この戦争に…最狂のフィナーレを上げて終わらせろ…」

急に握りしめた手の力が抜けた。瞳を見ると、すでに明かりがなかった。

「サンダース隊長!!」

「…」

「サンダース隊長!!」

「…」

「サンダース隊長!!」

諦めきれずに叫び続けたが、返事が返ってくることはなかった。

私は今までサンダース隊長としてきた思い出を振り返った。

すべての記憶と記憶がつながり、七年間の思い出が頭を走り抜けては消えていった。

呆然と膝を落とした。

そして私は脳死したかのようにそのまま呆然とサンダース隊長の機体のディスプレイに膝を落としていた。

しばらくして意識が戻るとすでに朝日は昇っていた。

突然、分厚い手が肩に乗った。

「エース、彼の分まで生きよう。それが彼にとって君ができる最善のことだ。」

「そ、そうだな…」

私は手のひらを眺めながら一言言った。

「絶対に最狂のフィナーレを上げてやるっ…」

「そうか。ところで、落ち着いたらでいいが、機体の整理と残骸の回収を行うから手伝ってくれ。」

そうしてローマは走って自分のブリッツに戻って、すでに壊滅していた一番工場の方に向かった。

私は落ちていた膝を掬い上げ、立ち上がった。

さて、もうなってしまったことは仕方がない。

格納されていたラダーを外から操作して引き出し、出てきたラダーを登って、アイドリング中のジェネレーターを吹かした。

私はサンダース隊長の機体を担いで予備倉庫の隣の残骸置き場に放っていった。もちろん中の遺体は丁寧に出して。

ブリッツは小柄なボディーなのがいい。変に曲がった鉄筋に引っかからずに作業できる。

そして、また別の機体を持ってくると、ふと思いついた。

そういえばサンダース隊長は私が入ってすぐのころだっただろうか。白いコスモス畑があるとずいぶん遠くの戦闘区域の外れに行っていたような…

私はもしあるならそれをみんなの分供えたいと思った。そこで、本部と相談してオッケーをもらったのち、クッソでかい花瓶を持って、

ハイパーカタパルトで三百キロ先の戦闘地区の外れに飛ぶことにした。

ハイパーカタパルトは約五百メートルあり、電磁誘導による加速によって、最大二千キロメートルはカタパルトの射出速度で飛ぶことができるという代物だ。

これによって世界各地への兵力の展開が可能となった。さらに、他のカタパルトのように柔軟に方角を変えられない固定式のものにはなるが、

一万キロを一撃で飛ぶことができるというカタパルトもあるが、まず使うことがない。

『こちら司令部。射出する。』

「了解!」

ハイパーカタパルトのレールに乗り、そのまま構えた。

カシューン!!

凄まじい速度で射出され、そのまま一直線にあの戦闘地区の外れに行った。

あるのかと流れる景色を見ると不安になったが、次の瞬間、その不安は吹き飛んだ。

真っ白い平原が一面に広がっていたのだ。

私はその真ん中にぽっかりと緑色の空いている草原にブリッツを止めて、中にある花瓶を取った。

きれいなものをひたすら百本近く摘んだ。

本当に真っ白で、雪のような花だ。

両手で持った花瓶がいっぱいになったところでまたブリッツに戻り、本部に戻った。

コックピットがコスモスのせいで超絶狭いが仕方ない。あと三百キロの辛抱だ…

そして狭いコックピットで機体の操縦すること四十分、どうにか到着した。

コックピットのハッチを開けて、下を見ると、腰に手を当てたローマが立っていた。

「それで、例の花はとれたか?」

「親の仇のレベルでとってきた。」

私は水よりも多くコスモスの入った花瓶をラダーに乗りながらコックピットから出した。

そのまま片手が塞がりながらもラダーを降りると、少し驚いた顔をしたローマが立っていた。

「そりゃあ予想以上だ。さっそく供えておこう。」

私達は死体安置場に行き、その花瓶ごと花を供えた。

白いコスモスは、蛍光灯に照らされて、真っ白に色を放つのであった。

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