~インディバル・デイ~

灰狼

エピソードI ブリッツの誕生

国家解体戦争が終結して早くも二十年後、争うはずのない企業はそれぞれの支配域を広げるために決められている場所で争っている。

死傷者も多く、最近では私たちの所属する企業であるインディバル・パーシュート社はすでに領土の過半数を奪われてしまった。

全盛期と比べて大きな衰退だ。大きな理由は大きく言って二つあるだろう。

まず一つ目として大きな理由はサイクロン社の開発した新型モデルが量産効率が高く、機動性、火力に優れているところだ。

個の性能を重視にするインディバル・パーシュート社はその量産性によって苦しむこととなった。

事実、近年では量産するペースト失うペースが大体同じか、失う方が早いかとなってきた。

二つ目はサイクロン社とパーシヴァル社の二社は互いに二社連盟となることを合意したことだ。

量産至高主義に当たるパーシヴァル社とバランス至高主義のサイクロン社のタックはこちらにとっては大きな痛手となった。特に新モデルの量産に限ってはパーシヴァル社が主導している。

今、私達に残された希望は少ない。いやそれどころかもうないのではないだろうか。

そうすらも思う。だがそれでも私たちはやりきらなければならない。

最後のこの時代というフロンティアで。

私はグラビティ・タニティード・エース大佐と書いてある自分のデッキのプレートを眺めた。

パーシュート三型の調整がずれてないかを見た。機体の調整はどんな戦場に行くにしても最も大切な準備だ。

これを忘れては自殺行為といっても過言ではない。それほど重要なものだ。乗り手が乗りて自身の癖を分からなければベストな調整はわからない。人によってベストな調整は異なる。

それを見つけるには幾つもの歳月を要する。

それにしてもいい。このパーシュート三型は。今までどんな任務をやってきても一度もジェネレータなどの内核を破損したことがない。

パーシュート三型はもう九年前のモデルだ。四脚で角ばったデザインが特徴の中型機だ。

型落ちで等級も現行では第三等級の中でも少し強い部類に当たる程度まで落ちた。以前は第四等級と第五等級に次ぐ次に強い機体だった。

しかし今となってはこの通りだ。型落ちもいいところというところだ。

ただいまだに私の操るパーシュート三型無類の強さを誇る。今まで何機もの現行第五等級を打ち取ってきたことか。もうそれはわからない。

これだけ言うとただ機体の素がいいように思えるが、この機体に乗ってるのが私のように早七年近く付き合ってきたやつが乗っているからなのであって、決して素人にこの機体を使いこなすことなどできない。

何せそもそも四脚と二脚では動きに差がありすぎる。挙動がまず何よりも違う。安定性が高すぎることが問題で接地性が高いことにより上昇が若干鈍い。

さらにミッションも通常と比べて頻繁に動かさなくてはならない。出力を均等に割り振るのは二脚であれば簡単だが、四脚になった瞬間にスラスターが増える。

よってそのすべての出力を考えなくてはならない。もし間違えれば自分の命が危ない。

そういう少し癖のある機体だ。決して素人向きではない。

それなのによくも最初から私の乗機になったものだ。普通なら二脚の代表、フォースターからだろう。

さて、そんなことはいい。一体この先どうすればいいのだろうか。前回の任務では灼熱の拳といわれ恐れられていたサイクロン社のアームドスーツ、オーバーヒーターを倒したところだ。

だが、それによる犠牲は多く、この一機のため二十機の第四等級機がやられた。私達の部隊であるファルコンズは無事だったものの、これはインディバル・パーシュート社にとって大きな損害だ。

「なあエース。この先どうする?」

「さあな。出来ることだけではなく最善も尽くそう。それしかない。マーキュリー。」

「だな。」

そしてまたマーキュリーと話しながらわたしはデッキのパーシュート三型を眺めている。真っ赤なボディーは初日に見た時の衝撃を思い出させる。

そして昔の思い出に浸っていると、電話に呼び出しが来た。おそらく社長からだ。きっと無謀なミッションの連絡などについてだろう。

「今呼び出しが来たから行ってくる。」

「行って来い。」

そして少しばかり重い足取りで社長室まで向かった。

そして社長室につくとすっかり年を取った社長が座っていた。

だが何やら少しばかり笑ってるようにも見えた。

「やあエース大佐。しばらくどうだい?」

「このままじゃまずいですよ。会社が倒れかけていますよ。」

そして社長は胸のポケットから葉巻を出して一服した。薄く白い煙は社長の頭上を抜けていく。

「そうだろうな。何せこんな状況でよく君たちは戦ってくれるよ。ありがたい。」

「いえいえ。働く場所があってこそですよ。ところで呼び出したのはなぜですか?」

そして社長は吸っていた葉巻を灰皿に入れた。まだ薄く煙は筋を作っている。

彼はそうしてすっかりやせた体で立ち上がり、後ろにあるカーテンをめくった。すると今も動く一番工場が一つ一つ鮮明に見えてきた。しかし様子が何やらおかしい。今まで見たことのない機体があるではないか。

何だろうか。今までの設計ではない二脚機体であるのは確かだ。しかし何かが違う。何だこの違和感は?

「違和感に気づいたようだね。今回はこいつを間接に用いたんだ。」

そして社長はデスクの棚から白いパイプを出した。カッチカチで曲がりそうにもない。手で曲げようと本気で力を入れたが駄目だ。まったく曲がる気配がない。これをメインフレームに用いたというのか。

「これはアウトレイジという最近見つかった新元素だ。この物質には電圧を加えると収縮したり膨張する性質がある。また、熱を蓄えやすいという性質もある。

しかし、何よりも大きいのはその性質にもかかわらず、ダイヤモンドの何倍も硬度が高く、更には密度はアルミ以下だ。

そして面白いのが、電圧を加えながら力をかけることで鉄のような加工も可能という点だ。これを今回はメインフレームはもちろん、装甲にも間接にも用いた。だからあのような違和感があったのだよ。」

そんな物質があったとは…まさかとしか言えない。しかし、仮に装甲に使うとしたら熱をため込むという性質は邪魔になりかねない。

機体がオーバーヒートとなってはシステム系がすべていかれるの騒ぎでは済まない。機体ごとまるっと交換しなければならないほどの大事態に陥る可能性だってある。

いや、その可能性の方が機体を変えずに済む可能性よりもはるかに高い。そんな致命的な弱点を抱えた装甲なんぞ、取り付けた日にはきっと溶けてインゴットになって帰ってくるだろうに。

「熱をため込むという言う性質は装甲に不向きだと思いますが?」

そういうと社長はわかっていないと思うような表情を見せた。

「熱をため込むという性質。それを活かす。前回のミッションでオーバーヒーターを撃破しただろう?あいつは自分の熱量を活かした戦闘をしていた。今回はその機構を用いる。

今回はそのために大量の冷却版を用意した。これの素材はアウトレイジに従来のアルミ合金を混ぜて熱量保存を弱めたものを使っている。」

私はここまで聞くと先ほどの弱点を克服することができたのではないのだろうかと思う。だとすると本当にこのアウトレイジの悪いところは何だろうか。聞いてみると、思ったより厳しい回答が返ってきた。

「もちろんいいことばかりでもない。材料はあの新機体五機分を作るのがやっとの量しか発掘されていない。それに予算もこの時点で十機分のフォースターと同じだ。

材料の加工にはすさまじい電力が必要だ。さらにそれを曲げるための機会も予算から引き出さなければならない。それでこの金額だ。」

確かに先ほどの話だと曲げるにはそれ相応の電圧がいるだろうだが、最新型のジェネレーターの駆動コストなら問題ないだろう。

だとするとこれは新しい時代を作り出すカギになるのではないだろうか。

だが、それだけを社長は言いに来たのだろうか。

「それで、その機体の報告についてだけですか?」

「いや、あの機体のテストパイロットをやってほしい。君がここでは一番の実力者だからな。」

「そうでしたか。ありがとうございます。」

「いえいえ。君こそ頑張ってくれ。最初のテストは二か月後だ。それまで頑張ってくれ。」

「はい。」

そして私は社長室を去った。そしてまたいつものデッキへ行き、このことをうちの部隊のみんなに話した。

「そうか!そいつはよかったな!ンで、どんな機体なんだ?」

「真っ白いボディーが特徴の機体だろうな。詳しいことはわからないが、そのアウトレイジという真っ白い新元素を装甲に用いるとさ。」

「そうなのか。羨ましいぜ。」

「ローマもそう思うか。私もクッソ羨ましいな。実際。」

そうしていると、早くも出撃のミッションが来た。場所は第七戦闘地区みたいだ。さあ急ぐとしようか。

今回はブリーフィングもないことからいつものように柔軟に対応しろということだろう。

そしてデッキを駆け上がり、急いで機体の準備をした。

制服には大きなショルダーパッドがある。これはすぐに制服のまま乗れるようになっていて、ショルダースタビライザ-というアームドスーツに乗るためのシートベルトのような装備の取り付け用のものだ。

もし付けなかったら強烈なGが体にかかり、失神しかねない。もちろんしっかりと制服を着なければ元も子もないが。

よし、機体のチェックを確認しよう。機体下半身の角度を調整するロウアーダンパーよし。

ショルダースタビライザよし。

装甲を守るためのリフレクターのレベルよし。

ジェネレーターを調整、保持する電極保持器第一、第二、第三問題すべてなし。

ミッション移行、メインサブ比四:二:二。

サイドブレーキのアームドスーツ版、カタパルト電磁ロック固定。

準備完了だ。

さあ行くとしよう!

「みんな!準備はいいか?」

『もちろんだ!いつでもいけるぞ!』

『今回もやってやりますよ!』

『今日もボコしてやりますよ。』

『相変わらずマーキュリーはご機嫌だな!このまま行こうぜ!』

「じゃあやるとしようか。」

エンジン始動!ジェネレーターの甘美な音はコックピットを包み込み、四脚の安定した健脚とともに第五カタパルトに向かった。横には組み立て途中のブリッツが見える。

彼が生まれるまで決して死んではいけない。そう思わせる。

「こちらパーシュートタイプスリーバイエース。射出許可求む。」

『こちら本部了解。エース、珍しいな。まあ堅苦しくなるなや。』

「気分の問題さ。落ち着い行くとしよう。」

『シーケンサー更新、カウントダウン、二十秒前。』

ギアを巡行に設定、ミッションを六:一:一に変更。いけるな。

『五…四…三…二…一…射出!!』

そうして風となって曇る灰色の空を駆けた。

しばらく進むと、そこには戦闘地区が広がっていた。さあ行くとしようか。

「私が前線で近接をやる!!トラファルガーとマーキュリーは中距離で制圧!!ローマとアルテミスは遠距離からスナイパーを迎撃!」

『了解だぜ!!』

『任せといてくださいよ。今日もランスでぶち抜いてやりますから。』

『いっちょやりますか。』

『ひねってやろうじゃないか!』

そしてそれぞれがバラバラになり、私は銃弾飛び交う中をクイックブーストを連発して避けながら一気に接近し、ブレードで片づけていった。

そして一機ずつ、丁寧に仕留めていった。すると途中から第五等級が現れた。相手の方が私よりも二つ等級が上だ。しかし問題はない。技量さえあれば対等、もしくはそれ以上だ。

『エース気を付けろよ!そいつ第五等級だぜ!』

「私にかまわず他のところをやってくれ!」

そして第五等級の相手とブレードを削りあった。なかなか原子力ライフルに持ち替えさせてくれない。だが問題ない、牽制しつつとどめを刺す。

一気に相手のブレードを払い、アサルトライフルで牽制しながらブレードと原子力ライフルを持ち替える。

そして一気に二段チャージ!青い閃光が銃身を走る。バッチバチだ。

そしてまた相手が接近してくるのを見て、アサルトライフルの下にあるブレード受け流し用のプレートでブレードを止める。

そして相手のジェネレーターに向けてフルチャージの原子力光線を撃った。

ドギャーーーン!!

ドコドコドッコーン!!

連鎖的な爆発が起こり、相手のコックピットもろとも粉砕した。しかしあまりにも至近距離であったため、自分もわずかながら損傷した。

そしてブレードに切り替えようとしたその時…

パシン!!

バラバラ…

どうやら何者かに射抜かれたようだ。前を見ると迫ってくる近接型の特攻機が攻めてきていた。

そして、まずいことに、左腕部のスタビライザーが今ので損傷した。

腕を上げて、構えようとしたとき、違和感を覚えた。

「ブレードの反応速度が遅れてる…!?構えきれない!」

そしてもう目の前にはその機体が迫っていた。その時…

シュパーーン!!

金色の閃光がその特攻機のコックピットを貫通していき、私の足元に倒れた。

『エースに手を出す前にスナイパーに気を付けな。』

「ナイスだアルテミス!」

『任せとけって。これくらいは朝飯前よ。』

ふと広域レーダーを確認してみると、もうすでにさっきのもので打ち止めだったようだ。さあ、帰還するとしようか。

私達は戦闘を終えて帰還し、いつものようにデッキに片づけた。そしてまた赤い機体を眺めるのであった。

そしてそれから二か月。大きな事件や攻撃もなく、それらをしのいだ。そしてとうとう新機体が生まれようとしていた。

IPX-Mk.Iブリッツ。

これが機体名のようだ。そして一番工場に向かうと、そこには真っ白な機体の姿があった。

「これが…ブリッツ…!」

私は息も熱くなるような興奮に浸った。今までの機体とは違うデザインで、かっこよく仕上がっていたからだ。美しい。それでいて力強い。言葉で表しきれない。

つまり素晴らしいということだが、それでもない。それ以上の何かだ。

そしてプロテクタースーツを片腕にかけながら眺めていると、社長が来て私の肩に手を乗せた。

「これが将来の君の相棒になる機体だ。大切にしてやれ。」

その言葉で私は一瞬目が覚めた。さっさと工場にある臨時のデッキを登り、操縦してみることにした。全てが統合管理システムによる管理だから扱いやすい。

リアルタイムでミッションがチェンジされるため、今までのような面倒な手間が省けた。

そして単純かつ洗練されたコックピットも素晴らしい。とても鮮明で見やすくまとまっている。

さあ、操作用のスティックに手をかけて動かしてみる。

最初の一歩だ。

ガシャン!

なかなか力強く安定している。少しばかり小柄なところもまたいい。

『こちら本部。訓練場でフォースターと戦ってみてくれ。』

「了解。」

スロットルを開けて、訓練場まで飛んでみた。すると今までとは比べ物にならないほどの滑らかさで変速され、快速だった。

ヒュゴォーーーー…

静かなジェネレータだが、一回吹かすともう別次元だ。獣の叫びような音ともにすさまじい加速をする。

そして訓練場につき、フォースターとの戦闘を開始した。

最初のうちはクイックブーストでかわしながらライフルを撃つことができたのだが、あまりにも高い出力が裏目に出て、逆に不器用になってしまっている。扱いづらい。

特に近接面では少し詰まる。

性能で何とか勝ったが、これではあまりいい機体とは言えない。不器用すぎるのだ。

またスラスターをフルスロットルにして一番工場に戻した。

そして、コックピットから降りると社長が立っていた。

「どうだった?」

「だいぶ扱いづらいですね。特に近接だと…」

不器用すぎるということを伝えた。近接では高い出力のせいで間合いが取れない。さらに、少しスロットルを開けるだけでは反応が鈍い。

だからといって一定以上あげると急に剃刀のように鋭い反応を見せてくる。ピーキーとはまさにこいつのことだ。

「どうやら改良が必要そうだな。最近開発された脳幹リンク機構を使ってみるとしよう。予算はかさむが、いいものができるなら問題ない。」

「ありがたいです。」

プロテクタースーツから制服に着替えた。もう日が暮れ始めてきた。私は今日の日報を書いて、寮に向かった。

そして、みんなとうまい飯を食いながら雑談をした。

こんな時間が永遠にあったらな…

それから二か月後、とうとうブリッツが完成したようだ。連絡が私の形態に来た。今回はさっそく実戦に出すみたいだ。

私は急いで一番工場に向かい、またあの機体に乗った。シートが脳幹リンク機構を搭載したことがわかるようなシートになった。ヘッドレストとセーフティーが全体的に大きくなった。

脳幹リンクの死捨て身の一つである脳幹の神経信号を解読するための装置が付いたからだろう。

ジェネレーターを起動してみる。するとまた静かな音がコックピットをすり抜けていった。

今回の任務はなかなか大規模なようで、五十機が敵から出てるという。

私たち以外にも、昔お世話になったサンダース隊長率いるレイダースに、スピアーノがメンバーにいるユーコン・アレイが先行で行っているようだ。

なかなか豪華なメンツだ。行くとしよう。

五番カタパルトに行き、準備を済ませた。

「今日から私の担当が新機体になった。あの純白の機体だよ。」

『楽しみにしてるぜ!がんばろうぜ!』

『とうとうか。まあせっかくもらったものだ。壊すなよ?』

『いつも通りが少し贅沢になったな。』

『それじゃあ、新メンツのファルコンズで頑張りましょうや!』

「それじゃあまた後でな。」

無線をシーケンサーにつなぎ、カウントダウンで射出されるのを待った。

『五…四…三…二…一…射出!!』

真っ白い風になって突き進み、一機にアサルトブーストで戦闘地区へ向かった。今回は第四戦闘地区のようだ。

『エースの機体かっこいいな!輝いてるぜ!』

『そのデザインマジでいいな!』

「ありがとう!」

そして進んでいると、もうすでに戦っている二つの部隊があった。しかし、どうにも瀕死みたいだ。急いでいかなければ。

『こちらレイダース!後ろに引く!!』

『こちらユーコン・アレイ!!ファルコンズ!!頼んだ!!』

そうして私たちは着陸し、急いで戦闘を始めた。今回は背中に武装がつけられないため、ほとんど手持ちのライフルとダブルエッジドブレードで戦わざるを得ない。

私はライフルを腰にしまい、腕からダブルエッジドブレードを出して相手を切り刻んでみた。

すると何だろうか。すさまじく扱いやすく、繊細な動きができるようになってるではないか!

細かく自分の指のように操作できる。

弾丸をも切りながら突進し、ひたすら切り刻む。

ふと広域レーダーを確認すると、もうすでに残り三機となっていた。

怖気づいたのか、そそくさと逃げていった。もう追うことはないだろう。

そして、大きな勝利を挙げて、私たちは帰還した。

帰りに気になって計算してみると、単機で突撃して今回は損害なしで二十五機を落としたことになる。普通じゃありえない撃破数だ。

それにしてもなんやかんやで、いつもよりも忙しい日であった。しかし、このブリッツは何かを変えた気がするのであった。

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