ただ、

夕方七時。

途切れ途切れの雲の間からは、夕日の光が漏れている。雲にも光が反射して、西の空全体が鮮やかなピンク色に染まっていた。


「綺麗だね」

と私が雲を指差すと、彼も綺麗だねと返す。

夜ご飯を食べた帰り道だった。

周辺には何も無いから、お開きにしようかと提案された。

黙って彼の手にするりと触れて、手を繋いでもらえるように催促した。


ただ、手を繋ぎたかった。


「こっちの道から駅に向かおう」

と、彼は最短ルートで帰ろうとする。


「うーん、こっちの方が空がよく見えるし」

彼の手を引っ張って、無理矢理遠回りなルートに変更させた。


ただ、綺麗な夕焼けを見たかった。


「少し歩くのが速いかも」

今度は歩くスピードを緩めてもらった。

隣からは彼のふふ、という笑い声が聞こえる。


ただ、ゆっくり歩きたい気分だった。


「二歩進んで三歩下がろう」

と彼に提案すると、それじゃあ戻っちゃうねと手を引かれる。


ただ、三歩進んで二歩下がるを言い間違えてしまっただけなのだ。


ピョンと縁石に乗っかって歩いてみる。

ゆっくり歩かないと転んでしまう、から。

手を繋ぐ力を強めてみた。


「スーパーに寄ろうか」

彼に問われて力強く頷く。

駅の真横を通り過ぎた。

繋ぐ手をブンブン振りながらスーパーに向かう。


帰りたくない訳ではないが、ただ、もう少しだけ隣で話していたいだけなのだ。

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