ちょんちょこ、ちょんちょこ植えてきたのよ

赤、ピンク、青、紫、白……。

六月にもなると、色様々な紫陽花が一斉に咲き始める。梅雨に入った、という雨の日の象徴でもある紫陽花は、その鮮やかな色で私たちの心を晴れやかにする。雨が降って雫を湛えたまま、雨雲が過ぎ去りお天道様が顔を出した時、キラキラと光りを反射する様は本当に綺麗だと思う。


今日は30度を超える暑い日だった。家の庭で少しきだるげな紫陽花たちが風に揺れている。夕方のオレンジ色の中で、青、ピンク、白の紫陽花がゆらゆらと動いているのを、窓から眺めていた。


紫陽花の色が、土壌に含まれるアルカリ性や酸性によって変化するのは、よく知られた雑学だと思う。もちろん、変化しない紫陽花もあるが。


では、皆さんは紫陽花の増やし方をご存知だろうか。


知っていたら、「まぁ作者が少し雑学を自慢したいんだな」、くらいに思ってくれると嬉しい。ちなみに私は最近知った雑学である。常識なら恥ずかしい。


祖母の家には、狭い庭にありえない程紫陽花が植っている。紫陽花と一口にいっても、もちろん花弁の大きさや色といった様々な種がある。お察しの通り、様々な紫陽花が祖母の庭で花を咲かしているのだ。

「おばあちゃん、ちょんちょこ、ちょんちょこ植えてきたのよ。」

祖母はそう言った。この人はいつも、変な擬音を使う。歩く時はぽくぽく、という。

「そうしたら、こんなに増えてしまったのねぇ。」

祖母はけらけらと笑った。


と、いうのも、紫陽花は茎が分かれているところを斜めに切り、挿し木でどんどん増やしていけるのだ。近所の人から分けてもらったり、うちの品種を強請ったことで、とんでもない数の紫陽花が咲き誇ってしまった。挿し木で簡単に増やせることから、「ちょんちょこ」と表現したのだろう。


近所の人から庭を、あら素敵ねぇと褒められるのが何よりも生き甲斐の祖母は、これからも紫陽花を増やしていきそうで恐ろしい。

というのも、狭いスペースの庭なのに紫陽花と同じくらい、バラを蔓延らせているのだ。バラがわぁっと一斉に咲いた後に、同じく紫陽花が咲く。祖母が庭にいる時に褒められると、通行人に花を持たせるらしい。一人暮らしの祖母は元々おしゃべり好きなので、こうやって人とコミュニケーションを取っていく。


自分の家の紫陽花を眺めながら、祖母の家のことを思い出してつらつらと書いてみた。横で犬と戯れる母に聞いてみる。

「紫陽花を挿し木で増やす方法って、みんな知ってる?」

母は犬の頭を撫でながら

「知ってる。」


紫陽花の挿し木を通して、祖母の庭をメインに書いたからいいんだし。


夕方の中で揺れる紫陽花は、オレンジ色が混ざって優しげだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る