母のママ友コミュニティ
「一万円札のキラキラシールがついていなかったんだって」
談笑中、母は思い出したようにそう言った。ママ友コミュニティで聞いたらしい。ちなみにキラキラシールとはホログラムを指している。
「え?剥がれちゃったってこと?あれ剥がれるの?」
違う、違う、ぶんぶんと手を横に振る母。
「偽札かもって」
あるママ友の一人が手にした一万円札三枚がセルフレジを通らなかったらしい。おかしいなと思ってお札を見てみると、ホログラムがついていなかったようだ。だが、手触りだったり大きさは本物と変わらないらしく、ホログラムの有無でようやく偽札かもしれないと気づいたらしかった。その後警察に届け出たらしい。そんなルパンみたいなことが実際にあるのか。
「あの人、いつも色んなことに巻き込まれるよね」
そう、このママ友、定期的に何かしらが周辺で起きるのだ。
ママ友はある公共施設の窓口で働いており、この間は女性の靴を盗むおじさんを捕まえたらしかった。女性の靴、特に中学生の女の子の靴を中心に盗み続けていた変態で、汚れた運動靴が特に好物だった、らしい。実行犯でなければ逮捕ができないからと警察に言われ、警察と一緒に張り込んだようだった。私が住むこの街に、そんな変態がいるのかと思うと、少しショックだった。
「警察に表彰されることが目標だからねぇ」
母はそう言うが、あまりにも危険なことには巻き込まれないようにと祈るばかりである。
父も隣で聞いており、俺も一枚一枚ちゃんと福沢諭吉の透かしが入ってるかかざしてみようかなぁ、でも月給全部それやるの大変だなぁ、へへなんて言っている。萌木もやってみろ、と言われる。うるさい。
片田舎のママ友コミュニティのおばさん達の会話では、様々な事件が舞い込んでくるようだ。やれ息子が留年した、やれ不倫している人がいた、やれ息子が卒論を受け取ってもらえなかった、など。そんな様々な話題が飛び交うなか、母は何を話しているのだろう。
「あんたが急に3年近く勤めたアパレルのバイト先を辞めて、いきなり巫女を始めたことだったり」
「お兄ちゃんがお見合いみたいな形で彼女ができた話だったり」
「徳島まで新宿から夜行バスで8時間かけて行ったあんたの話」
「あとは最近始めた畑の話」
うーん、面白がってママ友の話を聞いていたけれど、私も面白がられている可能性があるじゃないか。このラインナップでいきなり畑の話が入るのも母らしい。
父は私と母が談笑しているのを見て、横でニコニコ聞いていた。たまによく分からない合いの手をいれていたけれど。
私たちが話しているのを、うるさそうにしながら犬が横で寝そべっていた。
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