魔剣士と黒の組織【四】


 キメラを一撃――いや、八撃で倒した俺に、


「ど、どういうこと、アレン!? 今の威力はなにっ!?」


「足、速過ぎなかった!?」


 リアとローズは凄まじい勢いで食い付いてきた。


「お、俺も驚いているところなんだ」


 今のは最低でもあの天才剣士――シドーさん並みの加速力・剣速・腕力だった。


 全ての段階ステージが一段上がったような、そんな感覚だ。


(シドーさんという桁外れの天才と戦った経験値か? それとも霊核に体を乗っ取られた副産物のようなものか?)


 どちらにせよ……これは助かる。


 俺はまだまだ――強くなれる!


「うぅ、もっと魂装の修業をしないと……っ」


「これ以上、離されたくない……っ」


 ひとまず三件の依頼を無事に達成した俺たちは、一度ボンズさんの元へ戻ることにした。


「おっ、もう三件とも終わったのか? やるじゃねぇか!」


 何やら書類仕事に精を出してボンズさんは、その手を止めて嬉しそうに笑った。


 相変わらず凶悪な笑顔だけど、さすがに少しずつ見慣れてきた。


「なっ、俺の言った通り、魔獣駆除にしといて正解だっただろう?」


「はい、おかげさまでどれもいい経験になりました」


「がははっ! そうかそうか、そりゃよかったっ! だがまぁ、今回のはちょっとした肩慣らしだ。あの森にはキメラ以上の魔獣も確認されているし、これから難易度の高い奴にもどんどん挑戦していってもらうぞ」


「はいっ、よろしくお願いします」


 それから俺たちは――様々な依頼をこなしていった。


 もちろん全てが順調に行ったわけではない。


 ジャイアントスライムの討伐では、リアとローズの服が溶かされ……そのいろいろとあった。


 結果的に、そのとき俺の着ていた上の服を貸すことによって難は逃れたものの……。


 二人が同時ににおいを嗅ぎ出したときは、本当に焦った。


 そんなに汗はかいてなかったので、大丈夫だった……はずだ。


 こうして魔剣士としての生活を送るようになってから、一週間もの時が過ぎた。


 人というのは意外となんにでも慣れてしまうもので、今ではこの明らかに周囲から浮いた建物も気にならなくなった。


 それに少しだけど、魔剣士仲間もできた。


 リアとローズがお手洗いに行っている間、俺が依頼板に張り出された依頼書をぼんやりと眺めていると、


「おーい、アレンっ! ちょっと付き合ってくれよっ!」


 小ぶり・・・のグラスを片手に持ったドレッドさんが、声を掛けて来た。


「なんですか、ドレッドさん? お酒なら、飲みませんよ?」


 あの一件以降、彼は酒量を減らしているようで、以前のように泥酔した姿は見たことがない。


「へっへっへ。相変わらずの堅物だなぁ、お前さんは! まっ、ちょっと座りなよ! 男二人でしか語れねぇ話ってのも……あるだろう?」


 そう言って彼は口角を吊り上げた。


 ドレッドさんのことだ、多分ろくな話ではないと思うけど……。


 断るのもどうかと思われたので、仕方なく彼の隣の席へ座った。


 すると、


「――で、どっちと付き合ってんだ?」


「……はい?」


 突然彼は、意味のよくわからない質問をしてきた。


「またまたぁ! はぐらかすんじゃねぇよ! あの金髪ボインのリア嬢と、クールビューティーのローズ嬢! どっちと付き合ってるかって聞いてんだよ!」


「え、い、いや、あの……それは……っ」


 予想外の質問にしどろもどろとなってしまった。


(こ、これが巷で噂のこ、恋バナ……? とかいう奴なのだろうか?)


 すると周りでこっそりと俺たちの話を聞いていたのだろう。


 顔見知りの魔剣士たちが一気に会話に参加し始めた。


「そ、その反応……っ!? もしかして二人か!? 二人と付き合ってんのか!?」


「くぅ、まぁお前さんほどの大器たいきだと、そうなるかぁ……っ。ったく、羨ましいぜぇ……っ!」


「しかしだなぁ……。いくら二人同時とはいえ、やっぱり『本命』ってのがいるんじゃねぇか? えぇ?」


「いいや、待てっ! どこまで進んでるのか確認するのが、先ってもんだろう?」


 話は勝手にどんどんわけのわからない方向へと進んでいった。


(は、早く止めないと……っ)


 こんなあらぬ噂が広がってしまっては、リアとローズに迷惑が掛かってしまう。


「あ、あのっ! 俺は別に二人とは付き合ってませんから!」


 これだけは、はっきりと言っておかなければならない。


 俺だけが被害を受ける噂ならば、別に放っておけばいい。


 人の噂も七十五日と言うし、そのうち忘れられる。


 だけど、大事な友達に迷惑が掛かる噂は、ちゃんと否定しておかなければならない。


 だが、


「またまたぁっ!」


「あんなにずっと一緒にいて『どっちとも付き合ってません!』ってのはなぁ?」


「あぁ! そうは問屋とんやおろさんぜぇ、アレンさんよぉ?」


 この酔っ払い魔剣士たちには、俺の声は届かなかった。


(こ、これだから酔っ払いは……っ)


 これ以上、理屈を並べても効果は薄いだろう。


 どれだけ詳しく話したところで、聞く耳を持っていなさそうだ。


 だから俺は、


「とにかく――変な噂を流したら、知りません・・・・・からね・・・?」


 優しい笑顔で、一言だけ釘を刺しておくことにした。


「お、おぉ、もちろんわかってんぜ……っ」


「へ、へへ、冗談じゃねぇか……。アレンの兄貴ぃ?」


「そ、そんなにマジにならんでくれよ……。な、なぁ?」


 ようやくわかってくれたのか、彼らは視線を泳がせてその話題からサッと離れた。


 すると、


「アレーンっ!」


「次の依頼、受けよう」


 リアとローズが受付の前でこちらに手を振っていた。


「あぁ、今行くよ」


 それから俺たち三人は、いつものようにボンズさんに依頼を見繕みつくろってもらった。


「さて……次の依頼だが、こいつを受けてもらいたい」


「これは……護衛任務ですか」


 ここオーレストからドレスティアまでの荷馬車の護衛。


 都から『商人の街』へ――よくある護衛依頼だ。


「あぁ、ここからドレスティアまでのわずかな区間だ。アレンたちには簡単な依頼になるだろうが……これはちょっと訳アリでな。この依頼人の婆さん、腰が弱いんだよ……。もしものことがねぇように、腕の立つ魔剣士に頼みたいんだが……。受けちゃくれねぇか?」


 念のためリアとローズに視線を向けると、二人はすぐにコクリと頷いた。


 考えていることは同じようだ。


「――俺たちでよければ、ぜひ受けさせてください」


 ゴザ村のような田舎では、いつもみんなが助け合って生活してきた。


 米が不作のときは、他の農家がみんなそれぞれの作物を持ち寄る。


 小麦やイモ――他の作物が不作のときも同じだ。


 困っている人は、みんなで助けるべきだ。


「おぉ、そうか! そいつは助かるぜ! お前さんたちになら、安心して任せられるからな!」


 そう言ってボンズさんは、大きなハンコを依頼書にボンと打った。


「それともう一件――こいつは俺からの依頼だ」


 すると彼はおもむろに懐から三枚の紙幣を――三万ゴルドを取り出した。


「ちょっくら、市場の調査を頼みてぇのさ」


「市場の調査……ですか?」


 多分、その三万ゴルドで、何かおつかいのようなものを頼まれるんだろうけど……。


 正直、あまり修業とは関係ないように思えた。


「アレンたちは、さっきの護衛任務でドレスティアに行くだろう?」


「はい、そうなりますね」


「ドレスティアでは、明日から三日間『大同商祭だいどうしょうさい』ってでけぇ祭りが開かれる。そこで三人には、いろいろな露店で商品を買って、その感想を教えて欲しいんだ」


 そう言ってボンズさんは、俺の手に三万ゴルドを握らせた。


「……え?」


「そ、それって……」


「祭りを楽しんで来いってこと?」


「いんや、そうじゃねぇ。あそこの祭りは、どえれぇ人気でなぁ。その秘密をちょっくら探ってきて欲しいんだよ。今後魔剣士協会で開く祭りのためにもな。まぁ、つまりこれは大事な依頼ってことだ。変な勘違いすんじゃねぇぞ?」


 彼は真剣な表情で『大事な依頼』だと念を押しては来たけれども……。


「いや、それは……」


 さすがにこじつけというか、無理があるというか……。


 俺たちに祭りを楽しめと言っているのが、あまりに明らかだった。


 するとボンズさんは首を横に振りながら、大きくため息をついた。


「はぁ……。あのなぁ、アレン……。修業ってのは、馬鹿正直に自分を追い詰めることだけが全てじゃねぇ。しっかりとした休息に精神的な充足! こういう『余裕・遊び』が大事なんだ!」


「は、はぁ……」


「まぁつまり俺が言いてぇのは――お前らここ一週間、毎日毎日馬鹿正直に修業をやり過ぎだっ! ちっとは休みやがれっ!」


 ついに本音がこぼれ出たようだった。


「え、えぇ……っ」


「い、いやでも……ねぇ?」


「私たちは停学中」


 ローズがごく真っ当なことを言うと、


「おぉ、だからこいつは俺の『依頼』だ。――もしも文句を言ってくる奴がいりゃ、すぐに教えやがれ。ぶっ飛ばしてやるからな!」


 そう言って彼はバキボキと指を鳴らした。


 ……凄まじい迫力だ。


「わ、わかりました……っ。その、ありがとうございます」


 さすがにここまで気を回されて、断るのはどうかと思われたので、素直に好意に甘えることにした。


「へへっ、それじゃよろしく頼んだぜ!」



 それから俺たちは、依頼主のお婆さん――シャンディーさんの元へ行き、すぐにオーレストの街をった。


 オーレストからドレスティアまでの道中、


「はぇぇ……っ! あんたさんら、あの・・千刃学院の生徒なのかい?」


 シャンディーさんは目を丸くしてそう言った。


「は、はい、一応」


 ……停学中ですけど。


「千刃学院の生徒に護衛してもらえりゃ、そりゃあもう大安心だねぇ。でもいいのかい? この依頼は安いよ? あたしゃ貧乏な小麦農家だからねぇ」


 そう言って彼女は、荷馬車に積まれた大量の袋を指差した。


 そこには溢れんばかりの脱穀だっこくした小麦が詰まっていた。


 さっき少し見えたけれど、色艶いろつやも良いし、皮部ひぶ充実具合じゅうじつぐあいもちょうどよい。


 立派な一等麦だ。

 これならいい値が付くだろう。


「あはは、お金が目的じゃありませんから」


 これはあくまでボランティア、お金が欲しくてやっているわけではない。


 実際、これまで受けた全ての依頼で報酬は一切もらっていない。


「だけど、千刃学院ねぇ……。最近は『落ちぶれた』なんて言われてるけど、やっぱりあたしらの世代には『最強』のイメージが強いよ」


 そうしてシャンディーさんは、昔話を聞かせてくれた。


「特に黒拳のレイア=ラスノート! あまり詳しくはないけど、確か『無刀むとう流』って言うんだっけ? とにかく本当にかっこよかったよ……。並み居る剣士たちをボッコボコにしていくんだっ! 女だてらにあれは見ていて気持ちがよかった!」


 彼女はシュッシュッと、右手でパンチをして見せた。


「彼女に太刀打ちできたのは、氷王学院のフェリスぐらいのものさ! と言っても、結局は一度も勝てなかったみたいだけどねぇ」


「へぇ、そうなんですか」


 中々興味深い話を聞かせてもらった。


 それからも昔の千刃学院の話を聞いていると、気が付けばあっという間にドレスティアに到着していた。


 運がいいことに害獣にも魔獣にも一切遭遇しなかったようだ。


「何事も無く、無事に仕事を終えられてよかったです」


「ありがとうねぇ。いろいろと話も聞いてもらえて楽しかったよ。それじゃ私はこのあたりで……はうっ!?」


 シャンディーさんは、話の途中で突然石像のように固まってしまった。


「しゃ、シャンディーさんっ!?」


「ど、どうしたんですか!?」


「大丈夫?」


「こ、腰が……っ!?」


 彼女は顔を引き吊らせながら、絞り出すようにそう言った。


 そう言えば……、ボンズさんが依頼人は腰が弱いと言っていたな。


「と、とにかく病院へ行きましょう!」


 俺がまだ小さいとき。

 竹爺たけじいが腰をやって寝込んだことを、今でもはっきりと覚えている。


 あの元気な竹爺が、丸々一週間ほとんど身動きを取れないでいた。

 腰は痛めてしまうと本当に動けないらしい。


「だ、駄目だよっ! そ、その積み荷は今日の正午までに届ける契約なんだ……っ」


 どうやらこの小麦には納期があるらしい。


 それも今日の正午――あと一時間ほどの猶予しかない。


「わ、わかりました。それじゃこれは俺が責任を持って届けます!」


「い、いいのかい?」


「えぇ、任せてください」


「そ、それじゃこれを、頼む、よ……っ」


 そう言って彼女は懐から一枚の紙を取り出した。


 それには小麦の納期、納品場所、買取価格などが記されてあった。

 どうやら契約書のようだ。


「確かに受け取りました。それじゃリアとローズは、シャンディーさんを近くの病院まで頼む」


「え、えぇ、それはいいけど……」


「アレンは一人で平気?」


「あぁ、こっちは任せてくれ。……そうだな、お互いに落ち着いたら、あそこの大きな時計塔に集合しよう」


 ちょうど目の前にあった目立つ時計塔を指差した。


「えぇ、わかったわ」


「気を付けてね」


「ありがとう。それじゃシャンディーさんを任せたよ」


 それから俺は、シャンディーさんから受け取った契約書――そこに書かれていた地図を頼りに納品場所へと向かった。


「っと、ここだな」


 地図の示した場所には、『ロッキー商店』という店があった。


(この小麦を全部店の中に運ぶのは迷惑だろうし、一袋だけ持っていくとしよう)


 俺はガラガラと横開きの扉を開けて、小麦の入った袋を抱えて店内へ入った。


 少し進むと、店の奥に店主らしき人を見つけた。


「おや、お客さんかな?」


「いえ、シャンディーさんという小麦農家の方が腰をやってしまわれたので、代理でここまで運んできた魔剣士です」


「ほぉ……魔剣士ねぇ。それじゃ、ちょっと書類の方を見せてもらえるかい?」


「はい」


 そうして俺は彼女から手渡された大事な契約書を手渡した。


 彼はそれを受け取ると、


「んー……」


 何故かここまで運んできた小麦ではなく、俺の全身を頭からつま先までジッと見つめた。


「まぁ……半値・・ってところだな」


「……半値?」


「にぶい奴だな……契約の半値で買い取ってやると言ってるんだよ」


「なっ!? ど、どういうことですか!?」


「この小麦はなぁ……かなり質が悪いんだよ。半値で買い取ってもらえるだけ、ありがたく思って欲しいもんさ」


 彼は袋の中から小麦を一つまみして、そう評した。


「そんなわけはありません。これはとてもいい小麦です!」


「はっ、お前のような三流魔剣士に何がわかるって言うんだ? えぇ?」


「ひと目見ればわかります。俺の村では農業が盛んで、たくさんの小麦を見てきましたから。断言できます、この小麦には品質上の問題はありません。それどころか、素晴らしい一等麦です!」


 店主の男は、露骨に大きな舌打ちをした。


「ちっ……面倒くせぇ、ガキだな。――すみませーん、ちょっと来てもらってもよろしいでしょうか?」


 すると店の奥から、背の高くガタイのいい二人組の男が姿を見せた。


「おやおや……。ロッキーの旦那、問題発生ですかい?」


「んー、見たところ剣士のようですが……。まだガキじゃ無いですか」


「面倒をかけてすみませんねぇ……。聞き分けの無いガキがいて、困っているんですよ」


 二人組の男は、顔を見合わせると同時に肩を竦めた。


「おいおい、小さな僕ぅ? 子どもは黙って大人の言うことを聞くもんだよぉ?」


「今ならまだ間に合うよ? ほら、ロッキーさんにちゃんとごめんなさいしないと、な?」


 どうやらこの二人は、この店の用心棒のようだ。


「……ロッキーさん」


「くくくっ、どうした?」


「――この立派な小麦が、質を問題に安く買い叩かれるのはおかしい。適切な金額で買い取ってもらうよう、お願いします」


 その答えを聞いた彼は、大きくため息をついた。


「はぁ……。これだから魔剣士って奴はいけねぇ。根本的にオツムが足りてねぇんだよ。……お二人さん、すみませんがここは一つお願いしますよ」


「ふふっ、仕方ありませんなぁ」


「こんなのは、仕事のうちに入りませんよ」


 二人組の男は肩や首を回しながら、大股でこちらに詰め寄ってきた。


 そして、


「そら……よっと!」


 一人の男が大きく振りかぶった右ストレートを繰り出した。


(……なんだ、これは?)


 無駄の多い体重移動。


 無駄に大きな予備動作


 拳の握りも甘い。


 ボンズさんの芸術的な右ストレートとは、比べるべくもない。


「――ごめん」


 俺は隙だらけのみぞおちに、素早く裏拳を叩き込んだ。


「はぅっ、が……ッ!?」


 彼は突然の衝撃に顔を青くして、その場で崩れるようにして気を失った。


「な、なにをしたっ!?」


「……え? 見てなかったんですか?」


 戦闘中によそ見をするとは……どうやらこの二人組は体が大きいだけの素人のようだ。


「ふ、ふざけやがって!」


 残りの一人は、同じように右手を振り上げて殴り掛かってきた。

 これもさっきと同じ、あまりにも雑な一撃だ。


「――すみません」


「はがっ、は……っ!?」


 全く同じ位置に裏拳を叩き込み、二人目の意識を奪う。


 これでようやく話し合いの場が整った。


「さてと……」


 俺が一歩ロッキーさんの元へ近付くと、


「ひ、ひぃいいいいっ!?」


 少し怖がられてしまったようで、彼は尻もちをつきながら必死に後ろへ下がった。


「別に……俺は不当な要求はしていません。もう一度だけ・・・・・・言います。――適切な金額で買い取ってはもらえないでしょうか?」


「あ、ああああっ! わ、わかったっ! も、もちろんだっ! すまなかった、もうこんな真似は二度としないと誓う! だから、い、命だけは見逃してくれっ!」


 別に命を取るなんて一言も言ってないんだけど……まぁいいか。


「ありがとうございます。それでは今から小麦を運びますね。どこへ置けばよろしいですか?」


「も、もう全部店の前に置いておいてくれ! 後はこっちでやっておくからっ!」


「そうですか、助かります」


 その後、荷馬車に積まれた全ての小麦を商店前に降ろし終えた瞬間、彼は現金の入った小さな革袋を突き出した。


「け、契約書に書かれた満額だ。し、しっかりと確認してくれ」


 念の為に確認すると、ちゃんと契約通りの現金が詰められていた。


「――確かにいただきました。それでは、失礼します」


 必要最低限の礼儀として、軽くお辞儀をしてその場を去ろうとすると、


「……あ、あんた、いったい何者なんだっ!?」


 彼は最後にそんなことを聞いてきた。


「別に大したものではありません。あなたの言う通り――ただの三流魔剣士ですよ」


 こうしてなんとか無事に小麦を納品した俺は、リアとローズの待ち合わせた場所へと向かったのだった。

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