魔剣士と黒の組織【五】


 アレンがリア、ローズの二人と別れ、一人でロッキー商店へと向かったその頃。


 双眼鏡を使って遥か遠方から、アレンのことをジッと監視していた三人が動き出した。


「はいはーいっ! ターゲット一人になっりましたぁ! 怪我させちゃいけない王女様は、もういないよーん!」


「はぁ……やっとかよ、もう……。疲れたよ、もう……」


「サクッとってサクッと帰りましょう。次の仕事が控えてるわ」


 三人はとある筋から、アレンの暗殺を依頼された女剣士。


 暗殺を生業なりわいとする彼女たちは、日の目を浴びない闇の世界の住人。


 その腕は「五学院の代表レベル」とも噂される一流の剣士たちだ。


「りょーかいっ!」


「一々言わなくていいよ、もう……。すぐ殺すに決まってるでしょ、もう……」


「それじゃ、行きましょうか」


 三人が潜伏するは、鬱蒼とした森の中。


 彼女たちが「アレンを速やかに抹殺せん」として、背の高い一本の木から降りたその瞬間。


「ふむ……さすがはレイア様。頭は大変残念ながら、ここぞという『勘』だけ・・はピカイチでございますな」


 シルクハットをかぶり、白と黒の派手なステッキを手にした男が突如姿を現した。


 囚人番号0018――レイアからアレンの護衛を言い付けられた十八号だ。


「は、はぁぁああ? 誰、おっさん? つうか、こっちジロジロと見ないでくれますぅ? 気持ち悪いんですけどぉ?」


「うわぁ……。めんどいよ、もう……。なんかキモイし、殺しとこうよ、もう……」


「ここなら人目につかないし、何より時間も無い……。仕方ないわ、殺しましょう」


 彼女たちに標的以外を――一般人を巻き込まないといった悪党の美学は存在しない。


 仕事の障害となるものは、なんの躊躇いも無く即座に始末するだけだ。


 凄まじい殺気を放つ女剣士たちを前にした十八号は――彼女たちの顔、体つき、衣服を見て大きくため息をついた。


「はぁ……。まるで何も、わかっていない……」


 三人は三人とも、系統こそ違うものの非常に整った顔立ちをしていた。


 目鼻立ちがくっきりとした整った顔立ち。


 幼さの残るあどけない顔立ち。


 名刀を思わせるような凛とした顔立ち。


 スタイルも申し分無く、さらには身に纏う衣装も露出の多い扇情的せんじょうてきなもの。


 普通の男ならば、うるわしい美女である彼女たちを見れたその日は「今日はいい日だ!」と思うだろう。


 だが――十八号はひどく落胆していた。


 まるで長年積み上げてきたドミノが愚かなミスによって崩壊した――まさにその瞬間を目にしたときのような、得も言えぬ苦い表情を浮かべていた。


「這いつくばりな――<威圧の王コージョン・キング>ッ!」


むさぼれよ、もう――<大食漢グランド・イーター>ッ!」


「極寒に眠れ――<永久凍土パーマフロスト>ッ!」


 絶望的なまでの『圧』が十八号を襲う。


 並の剣士ならば卒倒するほどの光景を前に――彼は自慢のカイゼル髭を揉んだ。


「なるほど……魂装使いが三人ですか」


 一瞬だけ目を見開いた十八号だったが、


「まだまだ大き過ぎる力を扱えていないアレン殿には……少し手に余る相手かもしれませんねぇ」


 その顔には余裕の色があった。


「ほらほらぁ! お前はどんな風に鳴くのかなぁっ!?」


「清潔に死んでね、もう……。血とか飛ばしたらぶっ殺すからね、もう……」


「せめて痛みなく、一瞬で殺してあげましょう」


 三人の女剣士が魂装を振るい、血で血を洗う死闘が幕を開けた。


 そのわずか一分後。


「ば、馬鹿な……っ」


「な、んでよ……もう……っ」


「あ、あり得ない、わ……っ!?」


 そこには、地べたに這いつくばる三人の女剣士の姿があった。


 魂装を砕かれた衝撃により、意識は朦朧としている。


 対する十八号は、かすり傷はおろか汗一つかいていない。


 彼はあまりにも隔絶とした力の差を、まざまざと見せつけていた。


「あなたたちは優れた素材を持ちながら――何も理解していない」


 彼の厳しい視線は、三人の衣服へと向けられた。


「その服――見られることを前提に設計された、あまりにも愚かなデザイン……。あぁなんとなげかわしい……。残念ここに極まります」


 彼はゆっくりと語り始める。


「『人に見られることを意識する』、これ自体を責めるつもりはありません。外見に気を配るのは紳士淑女の嗜み、大いに結構でございます。――だがしかし! 見られることが常態化するあまりに『羞恥心』を失ってしまっては……もう終わりです」


 静かに首を横に振る十八号の顔には、悲しみの色がありありと浮かんでいた。


「見られている自分に酔い、あまつさえ『見せること』を選択したあなた方は……言ってしまえば『養殖もの』」


 そうして彼は力強く、持論を締めくくった。


「『天然もの』の――のぞかれていることに気付いていない女性が見せる、気の抜けた顔、ちょっとした癖、そしてのぞきが発覚した瞬間に見せる極限の恥じらい! これら全てが渾然こんぜん一体となり、絶妙な調和を為すことによって――一つの美が生まれる!」


 十八号が最後にもう一度だけ、三人の服装を見た。


 強調された胸元、すぐに中が見えてしまいそうなスカート、惜しげも無く晒したお腹。


 どれも彼の『美学』に反するものばかりだ。


「見せることを選択し、羞恥心を失ったあなたたちには――のぞく価値すらありません」


 自身の『美学』を朗々ろうろうと語った彼は、主であるレイアに連絡を取り、今回の一件をつまびらかに報告したのだった。



 無事にロッキー商店へ小麦を納品した俺は、待ち合わせ場所の時計塔へと向かった。


 するとそこには、ローズが一人ぼんやりと立っていた。


 彼女もこちらに気付いたようで、控え目に右手をあげた。


「アレン、こっち」


「ローズ! シャンディーさんの具合はどうだ?」


「もう大丈夫。ぎっくり腰だから、しばらく安静にしていればいいって」


「そうか、それはよかった……」


 大事にならなかったようで何よりだ。


「そういえば、リアはどうしたんだ?」


「まだ病院。『弱っているシャンディーさんを一人にしておけないから』って言ってた」


「そうか、リアらしいな」


 そういう心遣いができるところは彼女の大きな美点だ。


「それじゃ、行く?」


「あぁ、道案内を頼む」


「うん、こっち」


 そうして俺たちは、リアとシャンディーさんの待つ病院へと向かった。


 病院は時計塔からわずか三分のところにあった。


 受付で簡単な手続きを済ませて、シャンディーさんの病室へと足を向ける。


 彼女の部屋は四人用の相部屋だった。


「ただいま戻りました。具合はどうですか、シャンディーさん?」


「おぉ、アレン君かい……。いや、本当に迷惑を掛けてすまないねぇ……。おかげさまで何とか大丈夫だよ、ありがとうね」


「いえ、お気になさらずに。それと――これ、小麦を納品してきたお金です」


 そうして俺は小さな革袋を彼女に手渡した。


「おやまぁ……っ。本当に何から何まで悪いねぇ……」


「いえ、これも仕事の延長のようなものですから」


 こうしてようやくひと段落したところで、小声でリアに話しかけた。


「おつかれさま、リア」


「うぅん、これぐらい何でもないよ」


 彼女はそう言って優しく笑った。


 その後、そろそろ病院を後にしようかという頃合いで、シャンディーさんが口を開いた。


「そういえば……みんなはこれからどうするつもりなんだい? この時期にドレスティアここまで来たんだし、年に一度の大同商祭だいどうしょうさいを楽しんでったらどうだい?」


「はい。一応そのつもりです」


「おぉ、そうかい! それなら浴衣をレンタルするといい! せっかくのお祭りなんだ、学院の制服ってのも……ねぇ?」


 すると、


「ゆか、た……?」


「この国の伝統衣装のようなもの」


 リアが小首を傾げ、そこへすぐさまローズが説明を加えた。


 隣国の――ヴェステリアの王女であるリアは浴衣について知らないようだ。


「浴衣ですか……」


 考えたこともなかったな。


 どうしようかと悩んだ俺がリアとローズに視線を向ける。


「……ちょ、ちょっと着てみたいかも」


「うん、制服は目立つ」


 ……確かに、ローズの言うことは一理あった。


 今回のこれは『依頼』というていでゴリ押してはいるものの……実際かなり苦しいところがある。


 三人で祭りを楽しむ姿は、極力目に付かないに越したことはない。


 有名な千刃学院の制服よりも、普通の浴衣の方がきっと人目につかないだろう。


「そう、ですね……。せっかくのお祭りですし、浴衣を借りてみようと思います」


「それならこの病院の前にいいお店があるよ! 『浴衣レンタル本舗ほんぽ』って言う、私が若い頃からある老舗しにせでね。店の人もみんないい人なんだよ」


「そうなんですか。では、そこに行ってみようと思います」


 この情報は助かる。


 全く初めて行くお店よりも、誰かに紹介されたお店の方が安心できるというものだ。


「それではシャンディーさん、またどこかでお会いしましょう」


「腰、早くよくなるといいですね!」


「またね」


「あぁ、ありがとう。みんなも元気でね」


 そうしてシャンディーさんと別れた俺たちは、ひとまず病院を出た。


 すると彼女の言っていた病院前のお店――浴衣レンタル本舗がすぐに目に入った。


「とりあえず、入ってみようか?」


「うん、そうしよう!」


「浴衣、久しぶり」


 そうして俺たちは特に何も考えることなく、お店の中へと入って行った。


「いらっしゃい。浴衣のレンタルでしょうかね?」


 店に入るとすぐ、浴衣を着た物腰の柔らかいお婆さんが対応してくれた。


「はい、三人分お願いしたいんですけれど……」


「はいな、ぜひともお任せくださいませ!」


 すると彼女は、店の奥へよく通る大きな声を発した。


「おーい、男性のお客様が来たよっ! 誰か出てきておくれっ!」


 その直後、ドタドタという慌ただしい足音ともに浴衣を着た男性店員が姿を現した。


「はいはい、いらっしゃいませー! えーっと、お客様ですね。男性用はこちらになりますんで、付いて来てください」


 それから俺は男性店員に付いて行き、店の端まで移動した。


「こちらの浴衣の中から、好きなものを一着お選びください」


 目の前にはズラリと並ぶ男性用の浴衣。


 さすがに女性用のほどはないけれど、選ぶのに悩むぐらいの数はあった。


 一通りザッと目を通した俺は、


「そう、ですね……。では、これでお願いします」


 あまり目立たないようにするため、黒地の多い少し地味な浴衣を選んだ。


「こちらですね。――よっこいしょっと。はい、それじゃこちらへどうぞ。着付けをさせていただきます」


「お願いします」


 そうして俺は男性用の更衣室へと案内された。


 男の着付けは早いもので、黒い浴衣を羽織ってそこに白の帯を巻き付けてと――ものの一分程度で完了した。


「おぉ、これはよくお似合いですよ!」


 目の前の姿見を見るとそこには、一丁前に浴衣で着飾った自分の姿があって、なんだか照れ臭かった。


「あ、ありがとうございます……っ」


 それから更衣室を出た俺は、リアとローズが終わるのを待った。


 その十分後。


 ようやく女性用更衣室の扉がゆっくりと開き、


「ど、どう、かな……?」


「似合ってる?」


 いつもの制服姿とはまるで違う――あでやかな浴衣姿の二人が姿を現した。


「……っ」


 その姿を見た俺は、思わず息を呑んでしまった。


 あまりの美しさに言葉を失ってしまったのだ。


 リアの薄い肌色の浴衣にはあかね色のトンボ柄があり、帯は彼女のツインテールを結ぶリボンと同じワインレッド。


 ローズの紺色の浴衣には白い桜の柄があり、帯にはワンポイントとして黄色が用いられていた。


 お世辞を一切抜きにして、二人とも本当に綺麗でよく似合っていた。


「う、うん。二人とも凄く似合ってるよ」


「そ、そう? あ、ありがと……」


 リアは頬を赤らめながら小さな声でそう呟き、


「ふふっ、嬉しい」


 ローズは幸せそうに笑った。


「そ、その……アレンもとっても似合っていると思うわ」


「うん、シックで締まりがいい」


「あはは、ありがとう」


 そうしてお互いの感想を言い合った俺たちは、浴衣のレンタル代金を支払って、いよいよ大同商祭へと繰り出したのだった。



 ドレスティアの中央には『神様通り』と呼ばれる大きな道がズドンと一本通っている。


 大同商祭は、この神様通りで開催される年に一度のお祭りだ。


 この国で開かれるものでは、間違いなく最大の祭りだと言い切っていいだろう。


 その後、神様通りへ到着した俺たちは、


「あ、改めて見ると、凄い人だな……っ」


「オーレストよりも遥かに多いわね……っ」


「相変わらずの混雑具合……」


 そのあまりの人の数に圧倒されていた。


 右を見ても、左を見ても――どこを見ても人だかりだ。


 通りの左右に所狭しと並んだ露店。


 活気のいい客呼びの声。


 食欲を掻き立てるいいにおい。


 そこには『これこそ祭りだ!』と言わんばかりの濃密な空間が広がっていた


「せっかくのお祭りだし、全力で楽しまなきゃねっ!」


「うん、早く行こう!」


「あぁ、そうだな!」


 俺たちは、人混みの中へと進んで行く。


 人の波に沿って少し歩くと、


「あっ、ほらアレン! チョコバナナだよっ!」


「見て、りんご飴もある!」


 ほとんど同時にリアとローズが、それぞれ気になったものを指差した。


「あぁ、一つずつ頼もうか」


 それから俺たちは様々な露店を回って、たくさんのものを食べた。


 始まりはチョコバナナ、それからりんご飴。

 イカ焼き、焼きそば、唐揚げ、わたあめ、フランクフルト――正直、もうお腹がいっぱいだ。


 立ち寄った露店がここまで『ご飯系』に偏った理由は、間違いなくリアだ。


 とにかく彼女は本当によく食べる。


 あの体のどこにそんな量が入るのか、と聞きたくなるほどによく食べる。


(……さすがに女の子に「よく食べるね」と言うわけにはいかないからな)


 それぐらいは俺でもわかる。


 しかしそうなると、どうやって彼女の暴走を止めればいいのか……俺にはわからなかった。


「あっ、凄い! 見て見て、アレン! 最高級ぎゅうロースの串焼きだよっ!」


 彼女は今も目を輝かせて、もう十数軒目にもなる露店を指差した。


 そこには濃厚な脂がこれでもかというほどに載った、分厚い牛ロースがあった。


(うっ……)


 さ、さすがにこの超満腹状態でアレ・・はきつい……っ。


 見ているだけでも胸が苦しくなってくる。


(ら、ラムザックのときから、薄々勘付いていたけど……。リアは「大食い」ってレベルを軽く超えている……っ)


 彼女がどれほど食べようとも、あの健康的な体型を維持できる範囲ならば、口を出すつもりはない。


 しかし、俺たちにまで同じ量を求めるのは……勘弁してほしい。


 俺はローズと顔を見合わせて、コクリと頷いた。


 彼女も俺と同じで、とうの昔に限界のようだ。


「り、リア……? まだ食べるの……?」


「そろそろお腹を休めたい」


「えっ、うそ?」


 信じられないことに、リアは真顔でそう言った。


 それは本当に――ただただビックリしたという表情だった。


(ま、まだまだ余裕だというのか……っ!?)


 リアとの食事については、今後少し考える必要があるな……。


 とにもかくにもこれ以上はまずい。


 何とかして、彼女の思考を食べ物からそらす必要がある。


「た、食べ物以外の露店もたくさんあるし、そっちの方ものぞいてみないか?」


「い、いいね、アレン! 私は賛成する!」


 すぐさま俺の提案に乗ってくれたローズ。


 するとリアは、


「そっか。二人が言うなら、そうしよう!」


 大きな抵抗は見せずに、すぐにこの案に賛同してくれた。


 ようやく地獄の食巡りから解放された俺とローズは、ホッと安堵の息を漏らす。


 それから俺たちはくじ引きや金魚掬いに輪投げといった――遊び系統の露店を巡り歩いた。


 リアの射的は、まさに百発百中。ぬいぐるみ、フィギュア、缶バッジなどなど――大量の景品を手にしていた。


 一方のローズは、驚異的な器用さでスーパーボールを全てかっさらった。


「いやったーっ! 大収穫っ!」


「ふふっ、完全勝利っ!」


「あ、あはは……。店主の人が涙目だったぞ……」


 そうして様々な露店を巡り、大同商祭を満喫していると、


(……ん? なんだあれは?)


 ちょうど目の前に、ずいぶんと警備の厳重な大きな建物があった。


(地上七階建てぐらいだろうか……?)


 威圧感のあるその巨大な建物の周囲には、おびただしい量の剣士が静かにたたずんでいた。


 制服を着ていないところからも、彼らが聖騎士じゃないことは間違いない。


(……いったいこれは、なんなのだろうか?)


 そうしてボンヤリと建物と大勢の剣士を見ていると、


「アレは大同商館だいどうしょうかん。中では今頃五豪商ごごうしょうがいろいろな話をしている」


 それを敏感に察知したローズがサラリと説明してくれた。


 五豪商――五人の大商人の総称であり、五学院の理事長と並ぶ、この国の権力者だ。


(なるほど……)


 それじゃ、あの剣士たちは中にいる五豪商を護衛する私兵というところか。


「ローズは本当に物知りだな」


「そうでもないさ。ここへは昔、お爺さまに連れてきてもらったことがあってな。それで少し知っていただけだ」


「ローズのお爺さん……? それってもしかして桜華一刀流の――」


 俺がそう口を開いた次の瞬間――大同商館が爆発した。


「「「なっ!?」」」


 続けざまに周囲の建物から、黒衣に身に包んだ集団が次々に大同商館へと突入していった。


 その身のこなし、爆発を知っていたかのような落ち着きよう、顔を隠した衣装――この事件を起こした犯人たちと見て間違いないだろう。


(……狙いは五豪商か)


 そうして俺が考えをまとめ終わる頃には、


「だ、大同商館が燃えてるっ!?」


「くそ、せ、聖騎士を呼べぇえええええっ!」


「早くしろっ! 中には五豪商がいるんだぞっ!」


 あたりは完全にパニック状態となっていた。


 警備を担当していた私兵の動きは――バラバラだった。


 聖騎士に助けを求めるもの。 


 何も言わず静かに大同商館へ突入するもの。


 パニックに陥り、その場で固まるもの。


(……爆発による火は、それほど激しくない)


 それにこの建物は、見たところコンクリートで覆われている――つまり、火の回りは遅い。


 じきに到着する聖騎士たちによって、火はすぐ消し止められるだろう。


 だったら、この場で俺がすべきことはただ一つ。


「俺は行く。リアとローズはここで待っていてくれ!」


 一人の剣士として、困っている人たちを助けるだけだ。


「わ、私も行くわよっ!」


「当然、私も……っ!」


 こうして俺たち三人は、燃え盛る大同商館へと突入したのだった。

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