勇気をくれたメッセージ(中編)
/ \ /レ 香 ヾ(@⌒ー⌒@)ノ
『やほやほ山~ 玲央キュン
改めて 今日の放課後はお疲れ侍(`・ω・´)
でもでもでも 玲央きゅんが一生懸命仕切っているのにみんなして無視するなんてプンスカ斬首だよね
ていうか全然フォローできていなかった私も申し訳切腹でごわす
来週は絶対ゎたしも助太刀の助だからね』
い、井内さん!?
/ \ /レ 香 ヾ(@⌒ー⌒@)ノ
『それにしても 頑張っている玲央きゅん 格好良かったの巻でした
今まで寡黙な印象だったけど見方変化の術(=゚ω゚)ノ
ぁっ、寡黙な玲央きゅんも影がある感じで らぶりーらぶりーどっきゅんこだったョ』
い、井内さんん!?
/ \ /レ 香 ヾ(@⌒ー⌒@)ノ
『ねーなんで黙ってるのー?ねーねーねー!
はるちん寂しんぼ光線なんだけど
ズビビビビビ~』
い、井内さぁんんん!?
え? なにこれ? だれこれ?
い、井内さんだよね?
寡黙で内気な小動物系女子の井内晴香さんだよね?
たしかにチャットでは少しは喋れるとは言ってたけど……
/ \ /レ 香 ヾ(@⌒ー⌒@)ノ
『玲央きゅん もしかして眠い? ネムネムの実?
説明しよう
ネムネムの実とは夜になると眠くなるスキルを得られるのだ~! キャーカッコェェ
はるちんは玲央きゅんを子守歌で援護するヒーラーなのだ!
ねっろねっろ♪ れっおきゅん♪ ねっるんだ♪ ホイ♪』
何を言っているのか半分以上分からない。
IDネームの『/ \ /レ 香』ってなに? 『ハレ香』? あっ『 /レ』で『ル』か。『ハル香』ってことね。
ふぅぅ~……
『やほやほ山』ってなに!? 『見方変化の術』ってなに!? 『プンスカ斬首』ってなに!? 『らぶりーらぶりーどっきゅんこ』ってなに!?
これらの言葉は絶対ギャル文字ですらない。
井内さん独自の造語だろう。
たしかにチャットではよく話せるようだけど、こんなに解読不可な造語並べられるくらいだったらオドオドしていた井内さんの方が100倍話しやすかったよ!
もはや誰だよって感じだ。井内さんじゃなくてその辺の異世界人にでもメッセージが飛んだのかと思ったよ! ていうか今でもその線を疑っているよ!
あっ、そうだ。電話! 電話かけてみよう! 一応本人かどうか確認だ。
チャット欄を閉じ、アプリの『通話』ボタンをタップする。
「……も、もし……もし……?」
消え去りそうな井内さんの声が聞こえてきて安心する。
おっと、僕からかけておいて無言のままだとまずいよな。まずは挨拶しないと……
「やほやほ山です。井内さん」
ガシャンッという大音が鼓膜を刺激する。
通話口の向こう側でスマホを落としたみたいである。
「ぅぅぅ……は、恥ずかしいから、その挨拶……やめてよぉ……」
キミが先に言ってきたんだキミが。
通話なのに顔真っ赤なのが分かるくらい彼女の声は震えていた。
「井内さんってチャットだと愉快な人なんだね」
「え、えと、チャットだと顔見なくてもいいし、相手の声も聞かなくてもいいから、気持ちが強くなれるの」
まぁ、その気持ちは分かる。
顔見ながら会話するのは僕も普通に無理だ。
でも顔が見れない通話なら僕でも大丈夫だ。
それに井内さんも学校に居る頃よりはしっかりと話せているように思えた。
「俺は今の井内さんの方が話しやすいな。このまま通話で作戦会議するのでは駄目かな?」
「ぁぅぅ……お、男の子と通話だなんて……は、初めてで、その、頭が真っ白になってます。チャットの方が……私は……」
「そうか。分かったよ井内さん。じゃあ通話は切るね。作戦会議は予定通りチャットでやろう」
「う、うん。ごめんね」
通話を切り、再びメッセージ欄を立ち上げる。
/ \ /レ 香 ヾ(@⌒ー⌒@)ノ
『急に通話してくるなんてびっくりドンキーおろしそハンバーグ定食だよ!o(* ゚Д゚)o
緊張で心臓ドッキドキin東京
ゎたし 声裏返ってなかった? 声帯ちゃんリバースカードオープンしてなかった!? ねえねえ!?
早く死者蘇生してよぉ~!』
さて。
これからこの『/ \ /レ 香 ヾ(@⌒ー⌒@)ノ』さんと打ち合わせか。
脳みそ溶かされないように頑張ろう。
小畑玲央
『今日のクラスの様子を見ていると
たぶん月曜の話し合いもグダると思うんだ
ていうか「委員長達で勝手に決めてくれよ」みたいな流れになるような気がすんだよな』
/ \ /レ 香 ヾ(@⌒ー⌒@)ノ
『あー あり得るあり得るアリエールボールド
じゃあさ はるちんと玲央きゅんで今から文化祭の出し物考えまくり祭りしとく?』
小畑玲央
『そうだな。一応その準備はしておいた方がいいとは思う
でも出来ればクラスメイトから意見を吸い出したいんだよな』
/ \ /レ 香 ヾ(@⌒ー⌒@)ノ
『なぜの助?
はるちん達で決めちゃった方がスピーディ小林じゃない?』
小畑玲央
『文化祭はそれで落ち着くかもしれないけど
今後を考えるとベストの選択じゃないな
俺たちの委員任期は半年もあるんだ
クラスの決めごとの度に毎回俺らが準備しなければ
いけなくなるのはさすがにごめんだ』
文化祭の後も球技大会がある。
下手するとクラスメイト全員の出場課目を僕達が決めなればいけなくなる恐れすらある。
あのクラスはそのレベルで主体性がないのだ。
それはそうと、今まで秒で返信していた井内さんのチャットが急にピタっと止まる。
『既読』の文字はついているし、現在何かを書き込み中のアイコンも出ている。
これは長文が飛んでくる予感。
/ \ /レ 香 ヾ(@⌒ー⌒@)ノ
『そか
クラスのことを考えたらそうだよね
あの
今回私が一方的に小畑君を作戦会議に巻き込んでしまって
ごめんなさい』
急にしおらしくなった!?
って、そうか。僕が『毎回こっちで準備しなければいけないのはごめんだ』と言ったことを井内さんは『この作戦会議自体僕が迷惑している』と勘違いしてしまったんだ。
本当にチャットというやつはニュアンス違いで伝わり方が変わってしまうから厄介だ。
言葉は最大限に選ばなければいけなかった。
小畑玲央
『クラスメイト達の態度が気に入らないだけで、井内さんとこうやって話するのは普通に楽しいぞ?
こんなに長く誰かとチャットするなんて経験なかったから新鮮だし、俺なんかとチャット交換をしてくれる井内さんにも感謝してる
クラス委員とか関係なく、いつでもこうやってチャット飛ばしてもらっていいからな』
/ \ /レ 香 ヾ(@⌒ー⌒@)ノ
『////////////////玲央きゅん/////////////////』
ずっと思っていたけど『玲央きゅん』って呼び方めっちゃ照れる。
でも最初からフレンドリーに接してきてくれたおかげで初っ端から緊張が吹き飛んでくれた。
俺も彼女の距離の詰め方を見習ってみようかな。
小畑玲央
『井内さんが副委員長で良かったよ
今更だけど呼び捨てにしてしまっても大丈夫か?
委員仲間だし』
/ \ /レ 香 ヾ(@⌒ー⌒@)ノ
『もちろんOKパンチだよ!』
小畑玲央
『ありがとう
それじゃあ井内。改めて文化祭の出し物どんなのがいいと思う?』
/ \ /レ 香 ヾ(@⌒ー⌒@)ノ
『・・・・・・・・・・・・玲央きゅんのばか』
小畑玲央
『急になんだよ!?』
やばい。距離の詰め方間違えたか? いきなり呼び捨ては失礼過ぎたのかも……
/ \ /レ 香 ヾ(@⌒ー⌒@)ノ
『「はるちん」って呼んでくれない系男子なの?
苗字呼びは悲しんご爆誕』
うん。距離の詰め方間違えていたようだ。
もっと攻めなければいけなかったらしい。
は、はるちんか。
ちょっと恥ずかしいけどニックネームで呼び合う仲って結構憧れていたりする。
いいんだよな? 恋人でもないのにそんな風に呼んでしまって本当に良いんだよな?
こんなことで指が震えるほど緊張してしまう。
小畑玲央
『はるちん』
あっ、呼んだだけで送信しちゃった。
どんだけテンパっているんだ僕は。
/ \ /レ 香 ヾ(@⌒ー⌒@)ノ
『わぁい✌('ω'✌ )三✌('ω')✌三( ✌'ω')✌
玲央きゅん 玲央きゅん 玲央キュン 玲央キュ~~ン!』
一応喜んでくれているようだ。この子のチャットは感情が分かりやすくていいな。
ていうかこのやり取り、なんだかバカップルみたいだ。
でも心がポカポカする。
小畑玲央
『さて、はるちん
そろそろ話を戻させてもらうぞ
俺の案だけど 文化祭は一致団結できる出し物にするのがいいと思うんだ
団結力が高まればあのクラスにも自主性が生まれると思うしな』
/ \ /レ 香 ヾ(@⌒ー⌒@)ノ
『玲央きゅんっ! クラスのことをそこまで考えているんだね
好き しゅき』
小畑玲央
『からかうなってはるちん
しゅきしゅき言っていると勘違いするかもしれないだろ
男子と接するときはもっと相手を警戒しないと危ないんだからな』
/ \ /レ 香 ヾ(@⌒ー⌒@)ノ
『しゅき しゅき しゅき~ 玲央キュンしゅき~!
はるちんを心配してくれている優しさで玲央キュンへの好感度メーター盛り盛り太郎だお
はるちんに優しい玲央キュン好き好きマウンテン8合目~』
小畑玲央
『言った傍からお前は……
しかも8合目なのかよ せめて頂上までがんばれよ』
/ \ /レ 香 ヾ(@⌒ー⌒@)ノ
『じゃあ好き好きマウンテン10合目~!
やほやほ山 踏破おめでとう玲央キュン』
小畑玲央
『やほやほ山は伏線だった!?
お前 本当に普段とチャットでは別人なのな
ていうか本当に別人じゃないだろうな!?
実は姉妹が代打ちしてるとかそういうのないだろうな!?』
/ \ /レ 香 ヾ(@⌒ー⌒@)ノ
『失礼なヽ(`Д´)ノ
キミのはるちんはこの世に1体だけだよ!
別人云々いうんなら玲央キュンこそちょっとキャラ違うぢゃん
俺についてこい系のワイルドさんになってるぢゃん
・・・・・・優しい所はおんなじだけど(〃▽〃)』
小畑玲央
『俺 はるちんに優しくした覚えないけども』
/ \ /レ 香 ヾ(@⌒ー⌒@)ノ
『なんで覚えてないの!?
今日の放課後に「愛しのはるちんが喧騒を止めてくれようとしてくれたのは僕も気づいていたよ? みんなを注意しようとしてくれてありがとう。好きだ」って言ってくれたよね!?
優しくなければそんな嬉しいこと言ってくれないよ』
……言ったっけ?
言ったっけ?
言ったっけ!?
『愛しのはるちん』なんて言ったっけ!?
『好きだ』なんて言った!?
小畑玲央
『ほぼ告白じゃねーか!
本当に俺そんなこと言ったか!?』
/ \ /レ 香 ヾ(@⌒ー⌒@)ノ
『言ったもん! たぶん言ったもん!
帰った後ず~~っと頭の中で玲央きゅんの言葉リフレインしていたんだもん
脳内の玲央きゅんが段々美化されて行ったのは認めるけど、でも絶対優しい言葉は受け取ったもん!
だからきっと告白もしたんだよ! そういうことにしよ!? ねっ!? ねっ!?』
なんか話が変な流れになってきた。
戸惑いが半端ない。
身に覚えのないのに告白したことになっているとか、どう受け止めたらいいのか分からない。
/ \ /レ 香 ヾ(@⌒ー⌒@)ノ
『じゃ じゃあ はるちんが告白しゅる💕
玲央きゅん好き好き光線ずびびび~!
これで玲央きゅんははるちんの告白を肯定することしかできなくなりました~
というわけで玲央きゅんは今から『はい』か『イエス』か『キミにドストライク』しか答えられませーん。
と、いうわけで
小畑玲央くん
真剣に好きです
私と付き合って
くれますか?』
だから急にしおらしくなるな。
そういうギャップを使ってくるのズルいと思う。
もっと、この子のこういう一面を見たいと思っちゃうじゃないか。
小畑玲央
『あ えと 告白ありがとう
本気の告白ってことでいいんだよね?』
/ \ /レ 香 ヾ(@⌒ー⌒@)ノ
『キミにドストライク』
イエスって意味ね。
ならば僕も本気で答えければいけない。
ていうかノーの選択肢ははるちんに封じられちゃったし、うん。僕はこう答えるしかないのか
小畑玲央
『キミにドストライク
これからよろしくな愛しのはるちん』
/ \ /レ 香 ヾ(@⌒ー⌒@)ノ
『ドストラァァァァァァイク!
いやっふぅぅぅ~!! ぷれいぼーーる!!』
かくして……
ただの文化祭の話し合いとして設けられた会議の場でなぜか僕とはるちんは恋人同士となっていた。
なんっつーテンションの高い告白合戦だったんだ。
ていうか告白イベントをチャットなんかで済ませていいものなのか?
絶対よくないよな。週明けにきちんと対面で気持ちを伝えよう。
それにしても——
「ニヤケ顔がとまらん……」
はるちんとの通話の後、僕はずっと頬を緩ませながらチャットに応じていた。
恐らくチャット会話開始地点で僕はこの子に恋をしていたのだろう。
/ \ /レ 香 ヾ(@⌒ー⌒@)ノ
『明日デートしよう系
玲央キュンとおでかけすりゅ』
小畑玲央
『文化祭の作戦会議が無事に終わってからね』
/ \ /レ 香 ヾ(@⌒ー⌒@)ノ
『うぐ……
委員なんて放りだして玲央キュンとデートしたいよぉぉぉぉ!』
僕だってはるちんとデートをしたいが、それはやることをしっかり終わらせてからだ。
僕らには文化祭のクラス出し物決めという重要な任務がまだ残っているのだ。
しかし結局この後も話は脱線しまくりで文化祭出し物の考案すら決まらなかった。
そしてデートはお預けとなってしまい、土日はずっと文化祭の出し物決め作戦会議を行うことになるのであった。
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