第8話 追放幼女、魔の森を開拓をする

 その日の夕方は、ゾンビになって彷徨っていた人たちを送った記念ということでプチお祭りを開くことになった。


 といっても、各家庭からそれぞれ色々な食べ物を持ち寄り、広場に集まってたき火を囲みながらみんなで食べるだけだけどね。


 もちろんあたしが提供したのはワイルドボアのお肉!


 みんな楽しそうにワイワイ騒いでいて……なんかさ。こういうのっていいもんだね。


 前世でも今世でも、こうやって実際に大勢の人が楽しそうにしているのを見るなんて初めてだもん!


「姫様~!」

「お肉! ありがとうございま~す!」

「うん。たくさん食べてね」

「はい!」


 それに村人たちに最初はちょっと怖がられていた感じだったけど、今ではこうして気軽に話し掛けてくれるし……うん。がんばろう。


 せっかくこの村の領主になったんだもん。村を発展させて、来年も再来年も、ずっとこうやって楽しくお祭りができるようにしないと!


「姫様も食べて下さ~い」

「うん。ありがとう。食べてるよ」

「天使さ――」

「天使じゃない! 天使じゃないから! 絶対その呼び方、ダメだからね!」


 まったく、人がせっかく頑張ろうって思っていたのに、油断も隙もあったもんじゃない!


◆◇◆


 それから数日後、あたしの家となった元村長の家の執務室にマリーがやってきた。


「お嬢様、村の状況について大体把握できました」

「うん、ありがとう。どうだった?」

「非常に大きな問題があります」

「そっか。どんな問題?」

「食糧だけでなく、農具なども自給できていません。そのため、ただでさえ少ない村の現金が外部に流出しています」

「なるほど。それは大変だね」

「はい。特に問題なのは小麦が自給できていないことです。しかも行商人にもかなり足元を見られているようでして――」


 それからもマリーの報告は続くが、総じて内容は悲観的だ。


「そっかぁ。じゃあ、とりあえず今年は狩猟採集を増やして、来年に向けて畑を増やす方向かな?」

「はい。それがよろしいかと」

「うん。それじゃ、今日もウィルたちと森に行ってくるよ。あとはよろしくね」

「かしこまりました」


◆◇◆


 あたしたちは村で一番の植物に詳しいと評判のネイサンというおじいちゃんと、ベテラン農家のボブを連れて魔の森にやってきた。


「じゃあ、ボブはどこを畑にしたらいいか考えて」

「はい、お任せください」

「ネイサンは果物の木とか薬草とか、使えそうなやつを見つけてくれる?」

「お任せ下され」

「ウィルたちは魔物を見つけたらあたしに言うこと。今度は邪魔しないでね?」

「へい! もちろんです!」


 釘を刺してやると、ウィルたちはがくがくと首を大きく縦に振った。


 ちなみに昨日の狩りで余計なことをし、ワイルドボアにやられたあいつは全身の打撲と骨折で自宅療養中だ。一瞬、骨折したところを切断して生やしてやれば治療できるんじゃ、とも考えたのだが、なんとなく魔力が足りない気がしたのでやめておいた。


「お! 姫様、これはラズベリーの花ですじゃ。あとひと月もすれば実がなりますぞ」

「へぇ! ラズベリーかぁ。いいねぇ。ウィル、目印をつけておいて」

「へい!」


 ウィルは小さな布を分かりやすい位置に巻きつけた。開拓するときに、間違って伐採してしまわないようにするためだ。


「あちらの木はブラックベリーですじゃ。あと少しで花が咲きそうですな」

「へぇ。ブラックベリーかぁ。食べたことないけど、どんな味がするの?」

「ラズベリーよりも酸味が少なく甘いですぞ。そのまま食べてもいけますじゃ」

「そうなんだぁ。楽しみだねぇ」

「むむ、あそこにリンゴの木がありますぞ。あの白い花はリンゴで間違いありますまい」

「そうなんだ! 色々あるんだね!」


 それからもネイサンは目ざとく色々な果物の木を見つけてくれる。そうしているうちに、徐々に日が傾いてきた。


「姫さん、そろそろ帰らねぇと……」

「あ、うん。そうだね。じゃあ今日はこのくらいにして帰ろうか」


 こうしてあたしたちは今日の調査を終え、村に帰るのだった。


◆◇◆


 そうして森を調査し、ある程度の情報を集め終えたところで森の開拓に乗り出すことにした。


 その間にスケルトンの数も増え、今ではワイルドボアのスケルトンが三体とフォレストディアのスケルトンが一体の合計四体となっている。


 今は畑をすきで耕す時期ではないそうなので、四体とも荷物の運搬役として連れてきている。


 今回はボブが太鼓判を押したおよそ一ヘクタールくらいの土地を開墾し、来年から作付けできるようにしようと思っている。それまでは手切れ金を使ってしのぐつもりだ。


「じゃあみんな、よろしくね」

「「「へい!」」」


 ウィルたちは作業を開始した。カーン、カーンと小気味のいい音と共に斧が木に打ち込まれていき……。


「倒すぞ~」

「大丈夫でーす!」


 ザザザザザ! ドシン!


 わ! すごい迫力! あっという間に一本の木が切り倒されちゃった。


「手慣れてるねぇ」

「へい。そりゃあ、木材がないと生活できねぇっすから」

「そっかぁ」


 ウィルたちはあっという間に枝を落としていった。


「よっ……と……」


 ウィルは枝を落とした大きな原木をなんと一人で担ぎ、スケルトンたちが待機しているところへ運んでいった。


 魔法、使ってないのにものすごい力だ。あたしだったら絶対にぺしゃんこだね。


 ウィルは手際よく原木をスケルトンの上に乗せると麻縄で固定し、すぐに次の木へと向かう。


「次、切るぞー!」

「了解でーす!」


 そうしてウィルたちは次々と木を切り倒してはスケルトンに載せていく。


 そして……。


「ふう。大分切りやしたね」

「うん。まだまだだけどね」

「そうっすね。でも、一気にこんだけ切ったのは初めてっす」

「そっか。でも、これもみんなが飢えないためだからね」

「へい!」

「じゃ、次の作業だね」

「あれ? なんでしたっけ?」

「切り株の根っこを抜くの。畑にするには、根っこが残ってたらダメなんでしょ?」

「ああ、そういやボブの爺さんが言ってやしたね」

「うん。じゃ、とりあえず切り株を殺しておこうか」

「切り株を殺す? どういうことっすか?」

「だって、本当は根っこが腐るまで待つんでしょ? でもあたしたちはすぐに開墾したい。なら、この切り株に死を与えて枯らしてやれば、ちょっとは楽になるんじゃないかな?」

「はぁ。そんなことができるんすね」

「まあ、あたしの魔法はそういうのだから」


 あたしは近くの切り株に手を添え、闇の魔力を解き放つ。黒く禍々しい魔力が切り株を包み込み……。


 くっ。やっぱり抵抗されるね。生きている命を奪うんだから仕方ないけど……でも!


 気合を入れて抵抗を押し切ると、魔力は切り株に浸透していく。


 しばらくして魔力が完全に浸透すると、切り株はすっかり枯れたような状態となった。


「あー、なんか本当に枯れたっすね」

「魔法だけで殺せるのか……」

「姫様、すげぇ……」


 ウィルたちが若干引いているような気がするが、別に誰彼構わず簡単に死を与えられるわけではない。


 死を与えるには、あたしの魔力が相手の魔力と生命力を上回っていなければならない。だからまほイケでも悪役令嬢オリヴィアは、冥界の神をその身に降臨させるまでは魔力を持たない普通の人に死を与えることができなかった。そして冥界の神を降臨させた後でも、魔力を持つ相手に死を与えるには相当弱らせる必要があった。


 ただ、そんな風に弱らせられるのであれば、そもそもわざわざ闇の神聖魔法で死を与える必要などないわけで……。


「姫さん、あいつらを使って引っこ抜くんすよね?」

「あ、そうだね。うん。じゃあ、やってくれる?」

「へい」


 ウィルたちは切り株に麻縄を括りつけ、それをワイルドボアのスケルトンに結びつけた。あたしはウィルたちが離れるのを待って命令を下す。


「切り株が抜けるまで縄を引っ張って」


 カランコロン。


 ワイルドボアのスケルトンはゆっくりと歩きだし、すぐに麻縄がピンと張った状態になる。


 ギシギシと麻縄がきしむ音が聞こえ、そして……!


 ボゴン!


 盛大な音と共に地面が爆ぜ、切り株が抜けた。


 うわっ! すごい! 木の根っこってあんなに大きいんだ!


「おおお! すげぇ!」

「でけぇ!」


 ウィルたちも驚いているようだ。


 そうだよね。木の根っこがあんなになっているなんて思わないもんね!


「よーし、じゃあ次もどんどん抜いていこうか!」

「へい」


================

 次回、「第9話 追放幼女、急報を受ける」の公開は通常どおり、2024/06/16 (日) 18:00 を予定しております。


 開拓を進めるオリヴィアが受けた急報とは!? どうぞお楽しみに!

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