第7話 追放幼女、ワイルドボアを狩る

2024/06/14 一般的でない単語に注釈を追記しました。

================


「あなたたち! こっちにワイルドボアをおびき寄せて!」

「えっ!? 姫様!?」

「いいから早く!」

「で、ですが!」


 ああ! もう! 本当に!


 あたしが走ってワイルドボアに近づこうとすると、また後ろからウィルに掴まれた。


「姫さん! 危ないっす!」


 あああああ! もう! なんで邪魔するのよ!


「放しなさい! 邪魔しないで!」

「うっ!?」


 うめき声がして、ウィルの手が緩む。


 その隙にあたしはウィルの拘束を抜け出し、ワイルドボアに向かって走り出す。


「姫様!」

「危ない!」

「危なくない!」


 あたしは一喝し、前にウィルにやったのと同じようにワイルドボアの魂を縛ってやった。


「ブヒッ!? ブフー! ブフッ! フゴッ!」


 動けなくなったワイルドボアは必死に暴れようとするが、魂を縛られた状態で動ける生物など存在しない。


「あ……」

「あんときの……」


 動けなくなったワイルドボアを見て、ようやく自分たちがしでかしたことに気付いたようだ。


「そういやそうだった。姫さんは聖女――」

「ウィル!」

「あ、すいやせん。天……魔法使いだったっすね」


 あたしがギロリとにらんでやると、ようやく正しい呼び方をしてくれた。


 ホントに!


「ほら、あとはやって。あたしはこの後も魔法を使うから、魔力は温存したいの」

「へ、へい」


 ウィルたちがワイルドボアに近づき、トドメを刺した。


 ……ちょっと、ううん。かなりグロい。でも、これにも慣れなきゃいけないよね。


 こうしてあたしたちはワイルドボアの狩りに成功し、村へと帰還するのだった。


◆◇◆


 その後、村に運ばれたワイルドボアは解体され、お肉と毛皮と骨とその他に分けられた。お肉はもちろんあたしたちの胃袋に、毛皮はトニーという職人がいるので彼に処理を任せる。


 その他の内蔵とかは何に使うんだろ?


 やっぱり無駄なく使い切る知恵みたいなのがあるのかな。


 ま、それはそれとして。


「あのさ、ウィル」

「へい、なんでしょう?」

「その骨、持ってきてくれる?」

「へっ? 骨っすか?」

「うん。ほら、スケルトンを作るって言ったでしょ?」

「ああ、言ってやしたね。すけなんとか。わかりやした。全部っすか?」

「うん、全部。そこに置いてくれる?」

「へい」


 あたしの目の前にワイルドボアの骨が積まれていく。


「じゃ、やってみますか。あたしもスケルトンを作るのは初めてだけど……」


 魔法で一番大切なのは結果のイメージだ。ということは、まほイケで予習しているあたしのイメージは完璧のはずだ。


 それに悪役令嬢オリヴィアは、スケルトンやゾンビといったアンデッドを操り、散々に悪事を重ねていたのだ。


 そのオリヴィアに転生したんだから、あたしに同じことができないはずないでしょ!


 あたしはワイルドボアの骨に向かって魔力を解放した。どす黒く、禍々しい魔力がワイルドボアの骨を包み込む。


 う……これ、かなり魔力を消費するんだね。毎日鍛えてたけど、やっぱりまだ八歳のこの体にはかなり負担が大きいのかも。


 そうしているうちにワイルドボアの骨は少しずつ漆黒に染まっていき……。


 カランコロン。


 黒いワイルドボアのスケルトンが立ち上がった。頭をブルブルと震わせている。


「ひょえええええ! 骨が動いてる!」

「きゃっ!? いきなり大声出さないで! びっくりするじゃない!」

「す、すいやせん」


 ウィルは慌てて頭を下げてきたが、それでもちらちらと黒いスケルトンを見ている。


「大丈夫。あたしの命令にはちゃんと従うはずだから。この広場を一周しなさい」

「へ? へい!」


 なぜかウィルが広場を一周しようと歩きだした。


「ウィル! あんたに言ってないから! スケルトンだから!」

「あ……すいやせん」

「まったく」


 一方のスケルトンはというと、カラカラと乾いた音を立てながらゆっくりと広場を歩き始めた。


 うん、ちゃんと歩いてる。問題なさそうだね。


 さて、村人たちの反応は……うーん、ほとんどの人が困惑している感じで、子供とかは興味津々な感じかな?


 嫌悪感とかはなさそう。


「ねえ、ウィル」

「へ、へい」

「あのスケルトン、村を守る役に立つと思う?」

「え? どうっすかね……」

「ちょっと戦ってみてくれる?」

「へい」


 あたしは戻ってきたスケルトンに新たな命令をする。


「この男を倒しなさい」


 するとスケルトンは真っすぐウィルに向かっていく。生きていたころのワイルドボアさながらの猛スピードだが、カランカランと乾いた音を立てているのでものすごい違和感がある。


「あー、こりゃ多分使えないっすね」


 そう言うとウィルはあっさりとスケルトンを受け止め、そのまま軽々と投げ飛ばした。


 ガシャーン! 


 地面に激突し、スケルトンはバラバラになった。しかしすぐに元どおりになって立ち上がり、再びウィルに向かって突進を始める。


「あ! もういいよ! 止まれ!」


 スケルトンはピタリとその場で止まった。


「あー、姫さん。もしかしてこいつ、死なねえのか?」

「え? そんなことないんじゃない? あたしが与えた魔力を使い切ったら動かなくなるんじゃないかなぁ。多分?」

「そうっすか。倒したのに起き上がるのはちょっと嫌っすけど、そんならダメっすね。動きがまんまワイルドボアっすから」

「そうなの? でもそのワイルドボアには苦戦するんでしょ?」

「ワイルドボアは硬くて重いのがやべぇんすけど、こんだけ軽いそれがないっすからね。はっきり言ってよえぇっす」

「ふーん。そっか。じゃあ、こいつに任せられるのは駄獣 くらいかな?」

「そうかもっすね。運べるんならっすけど」

「よーし。やってみよう。ちょっとウィル、そいつのうえに乗ってみて」

「え? 乗れるんすか?」

「わかんないけど、試すだけだから」

「へい」

「この男が乗りやすいように屈みなさい」


 カランコロン。


 スケルトンがウィルの前で膝を折った。


「よっと。乗りやしたぜ」

「うん。じゃあ、この広場を一周しなさい」


 カランコロン。


 ワイルドボアのスケルトンが立ち上がり、ゆっくりと動き出す。


「お? おおっ? すげえっす!」


 まるで子供のようにウィルがはしゃいでいる。周りの子供たちが羨ましそうにウィルを見ている。


 そうこうしているうちに、スケルトンは広場を一周して戻ってきた。


「どうだった?」

「すげぇ揺れるっすね」

「そう。壊れそうだったりとかは?」

「いや、全然ねぇっす」

「そっか。なら駄獣にはなりそうだね」

「そうっすね」


 と、ここであたしはふとひらめいた。


「あれ? ならさ。すきく牛の代わりにもなるかな?」

「あ! なるほど! そうかもしれねぇっす。さすが姫さん! よくそんな難しいこと、思いつきやすね!」


================

※駄獣とは、荷物などを背中に載せ、運搬する使役動物のことです。


 果たしてオリヴィアの閃きは上手くいくのでしょうか?


 次回、「第8話 追放幼女、魔の森を開拓をする」は通常どおり、2024/06/15 (土) 18:00 の公開を予定しております。


 お楽しみに!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る