第6話新入生歓迎会レクリエーション前編


「おはようお兄ちゃん」


朝目覚めてリビングに向かうともう雫は起きて朝ごはんの支度を始めてくれていた。


「ああ、雫おはよう。ふぁぁぁ……」


大きいあくびをしてまだ眠かった俺はリビングのソファに横になって二度寝しようした。


「お兄ちゃん」


雫が俺の名前を呼び俺はビクッと起き上がる。


「今……二度寝しようとしてたね」


雫はニッコリ笑顔のまま包丁を持っていた


「ははは……そんな訳ないだろ。ちょっと顔を洗ってくるよ」


雫の笑顔に恐怖を感じて俺はリビングから洗面所に向かい水で顔を洗う、さっきの雫を見て水で顔を洗わなくても完全に目が覚めていた。


「はいお兄ちゃん。これお父さん達の仏壇にお供えしてきて」


俺がリビングに戻ると盛られた炊きたてのご飯を雫に手渡され。俺はすぐに父さんと母さんの仏壇に供えた。


「父さん、母さんおはよう」


そして俺と雫は雫が作ってくれた朝ごはんを食べながらテレビのニュースに注目していたら、ででんとでっかく雫の顔が映し出されていて俺は驚く。


「そういえばもうすぐ私が主演の映画が公開されるってマネージャーが言ってたね」


雫はこう見えて小さい頃から子役をやっている芸能人で今では女優や声優を両立しながらテレビドラマ、映画、アニメなどに出演している。今回はそのテレビドラマの映画が公開される事になり朝のニュースではそれが取り上げられていた。


「お兄ちゃん折角だし、今度の休日一緒に見に行こうよ」


「いやお前……もし一緒に見に行ってもしバレたらどうするつもりだよ。大スキャンダルで雑誌やテレビのニュースとかにとりあげられるかもしれないだろ」


「大丈夫、大丈夫。安心してよ変装していくし、それにバレても兄妹だっていえばいいだけじゃない」


そんな雫のやり取りをしているとニュースは切り替わり皇財閥が大手大企業と提携して製作をしているテーマパークが来月オープンと雫のニュースとは違い小さく取り上げられているのを見る。


「お兄ちゃん~早く」


朝ごはんも食べ終えて、学園に行く支度を終えた雫の声が玄関から聞こえる。結局映画を見にいく話は譲らない雫に根負けして次の休日に雫と一緒に見に行く事になってしまった。


「はい、はい。今行くよ」


テレビを消してリビングから出た俺は玄関に向かい雫と一緒に家を出る。


「おはようございます雫さん」


家から出ると見慣れた黒い車が止まっていて、車のそばにはスーツを着た茶髪の女性が立っていて頭を下げて雫と俺に挨拶をしてくる。


「あれ、美波さん……?今日はお仕事入ってないはずですよね?」


雫がその人に近付いて声をかける。雫が声をかけたのは雫のマネージャーの美波さんという方だ、雫が子役をしている子供の頃から面倒を見てくれていて、実は母さんのお姉さんで俺と雫の叔母さんでもある。


「今日の朝のニュースで映画の事が取り上げられていたので、今日だけは学園まで送っていこうと思いまして。最近は雫さんを応援している熱心なファンも多いですし万が一、家や学園が知られればファン以外にも押し寄せてくる方達がいますからね」


「美波さん、おはようございます」


「讐君もおはよう、この間会ったばかりだけど本当に大きくなったわね」


美波さんがこの間会ったばかりというのは母さんと父さんが交通事故で亡くなって葬式をした時にも美波さんには大変お世話になったのでその時の事を言っているのだろう。


「そういう事なので二人とも学園まで送っていくから乗って頂戴、それと雫さん。これから学園に通う時は素顔を晒さずに必ず変装してください」


「えー」


雫は不満の声を上げるがもし素顔のまま学園に通う事があるならこれから毎日送り迎えすると美波さんに言われ、雫は文句を言いたかったのだろうが美波さんの言葉を聞き入れた。


「それでは二人ともいってらっしゃい」


美波さんが運転する車に乗って数分で俺と雫は学園に到着する。美波さんはそのまま黒い車を走らせ学園から離れていくのを俺と雫は見送る。俺と雫が学園の門を通ると校舎前に生徒達が集まっているのか少し騒がしくなっていた。


「よぉ、おはよう」


校舎に入る前いつの間にか後ろから生徒の誰かに声をかけられ振り返るとそこにいたのは海堂だった。


「あ、海堂さんおはようございます」


「雫ちゃん会うのは久しぶりだね、おはよう、今日朝のニュースで雫ちゃんがとりあげられてたから俺ビックリしたよ」


雫はあはは、ありがとうございますと苦笑いをしながら海堂と話す。


「これ何の騒ぎか、お前知ってるか?」


「おいおい、お前忘れてたのか今日は生徒会主催の新入生歓迎会レクリエーションの日だろ」


「あ、そういう事か」


俺は海堂の言葉に納得する。この学園では毎年入学した新入生の歓迎会として入学式の数日後に生徒会が主催するレクリエーションが学園で行われるそれが今日だったという事をすっかり忘れていた。


「で……レクリエーションって一体何するんだ?」


「はぁ、お前……今までレクリエーションの事完全に忘れてただろ。今年の生徒会主催で行われる新入生歓迎会レクリエーションは宝探しだ」


それから俺達と学園に通っている全生徒が校庭に集められるとイケメン生徒会長と名高い生徒会の生徒会長からレクリエーションについて説明される。


「おはよう生徒の皆、今日は我が学園伝統の新入生歓迎会レクリエーションを生徒会が主催となり行う。その名も……宝探しだ」


生徒会長が宣言すると屋上から宝探しと書かれた垂れ幕が降ろされる。


「簡単に説明すると、この学園全体の校舎、校庭、中庭、至る所に宝箱を隠した。それを探し出すこと、一人で探すもよし数人の仲間を作って探すもよし。ただしただの宝探しなんてのも面白くないので鬼ごっこの要素も含めようかなと思う、学園の運動部からサッカー部、陸上部の数人を鬼として宝箱を探す生徒達を捕まえる。君達は鬼から逃げながら学園に隠した宝を探してもらう、それと今回の宝探しの一番となる目玉が来月オープン予定のテーマパークのペアチケットが一つの宝箱に入っているよ他にも色々な景品があるので皆頑張って探してみてね。それじゃあ宝探しの説明はこれで終わりにしよう、あと数分で始まるので生徒の皆は準備していておくれ」


生徒会長が簡単に宝探しの説明を終えて壇上から降りると静かだった生徒達が歓喜した声を上げ騒ぎ始める。


「う、うぉぉぉ……テーマパークのペアチケットだって!!これは欲しいぞ」


「他にも色々な景品があるって言ってたけど、どんなのがあるんだろうね」


「お兄ちゃん、お兄ちゃん」


「どうした雫?」


「さっき仲間を作って探すのもありって言ってたよね、だから咲ちゃんも誘って私とお兄ちゃんと咲ちゃん三人で宝探ししようよ」


「亞麻寺か、俺はいいが……」


「なら私今から咲ちゃんの事探してくるね」


雫はそう言って俺の言葉を最後まで聞かずに騒ぐ数十人の生徒達の中へと急いで走っていく。


「それでは宝探しを開始したいと思います」


生徒会長とは違い銀髪の女子生徒が壇上に上がりマイクで話すと、運動会などで使われるのを見るスターターピストルを鳴り響かせて、生徒会主催の新入生歓迎会レクリエーションが始まったのだ。

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