第9話 届かない手紙

結局、全てが身から出た錆。でも、解っている。自分がいけない事。

でも認められない。認めたくない。それが殊更、悪い。

 ある時、街で優里のドライフラワーが流れて来た。

衝撃だった。とても気に入り、携帯にダウンロードして何度も何度も聞いた。

まるで僕の人生を歌っているのか、と思うほど。

 勿論、歌詞も全部覚えるほどに聞き込んだある日、違和感を感じた。

2番の最期で「時間がたてば、きっときっときっときっと色褪せる」と言う歌詞に引っかかった。

 いやいや、確かに色褪せはする。しかし、色が抜けたドライフラワーは無残に壁に、あるいは花瓶に残ったままで手放さなければ、ずっとそこに有るんだ。

僕の心の中みたいに。

 最初、綺麗に水分の抜けた花は、独特のフォルムを残しアンニュイな感じが素敵だ。枯れて居ながら、しっかり色気が残っていて格好良い。

でも、もっともっと時間が経つと、全てが茶色になり、本当に無残に、しかも埃だらけで、悲しい事になって居る事が多い。しかし、その花に特別な思い入れがあると捨てられない。

 そう、そして最後のリフの所で「ずっとずっとずっとずっと抱えてよ」とあるが、まさに死ぬまで抱え続ける事になる。


 僕は、綺麗な部屋が好きだ。何もかも整理されていて、全ての物が整然と置かれている部屋が好きだ。まるでホテルの一室の様に。

 しかし、ホテルでは、毎日スタッフの方が掃除をし、決められた物を決められた場所に配置してくれる。

 僕の部屋は、自分で掃除をし、整理して物を置かなければ、当然どんどん汚くなっていく。彼女が僕の部屋を最初に掃除しに来てくれた日の事を思い出す。こんな僕の為に僕の部屋を片付けに来てくれた。

 そんな素敵な彼女に、甘えて居る事に気づかず、それ以上に素敵な人を探していた僕の愚かさが悲しい。

 どれだけ素敵な人に出会えても、僕の心の弱さ、甘えを掃除しなければ、いけない事に気づくのに40年以上の時間が掛ってしまった。

どれだけ謝罪しても、この罪は消えない。

 彼女は、僕と別れてから、すぐに別な人と結婚をした。それは彼女にとって正解だったし、神様が、頑張った彼女に良いご縁をめぐり会わせてくれたのであろう。

 それとは逆に、僕には大きな罰を与えてくれた。もっともっと、成長しなければいけなかった僕。

 

 今初めて、彼女に謝罪したいと思って居る。結局のところ、僕に意気地がなかった事。彼女の人生を背負えるだけの覚悟を持っていなくて、情けなかった事。

いまだに未練を引きずっていると勘違いしていた事。誰にも話さなかった事の顛末は、ただ単に言い訳じみて自分の非を認められなかっただけだった事。


「鈴木容子さん、あなたは僕にっとって最高のひとであり、そんな素敵なあなたを手放した僕の人生は、最低でした。おそらく今後、この世で出会う事も無く、たとえすれ違ったとしても、もう関わる事は無いと思いますが、貴女にもし話をする機会が与えられるなら、謝罪したいと思います。僕の人生、僕の青春、全てはあなたの想い出で出来ています。何処を切っても貴女の笑顔が見えます。こんな僕で済みませんでした。ごめんなさい。吉田和哉」

 

 もう出会うことの無い彼女に、反省と感謝の手紙を送りたい。

これからも、僕の心にできた傷や、刺さったままの棘は時々痛みを伴い、疼くのであろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る