第5話 バラの鎖
目が覚めた時、不思議な思いで目が覚めた。
いつもの布団ではない布団で目覚めるなんて経験がない。
彼女が言っていた様に、目覚めたら炬燵があった部屋に行った。
「おはようございます。」ちょっと照れた。
「あっ、目が覚めた。お腹は?空いていない?」ってもう腹いっぱい。
と思ったら好物のお赤飯、お蕎麦もあるよって言うからびっくり。どちらも大好物。
遠慮なく頂いた。
夜。お礼を言って原チャで帰ろうとして、外に出た。
「これ。」と言って彼女は、昼間着ていた、赤いスタジャンを持って来た。
「貰ったものだけど、私には大きいから。」と言って手渡してきた。
「だめだよ、そんな貰えない。」って言うと「じゃあ貸すね。」と言って僕に着せて来れた。やっぱりいい匂いがして、着て帰ることにした。「解った。借りとくね。」
と言って、原チャのエンジンを掛けた。冷えていたがキック1発。普段の手入れが物を言うと自慢げに、発進した。
家に帰ってから母親に「どこ行ってたの?」と聞かれたが「友達の家。」とだけ言って自分の部屋に行った。背中の方で「お腹空いてないの?」と言う声がしたが「いらない」とだけ言った。「それより、そのジャンバーどうしたの?」と言っていたが、面倒なので黙って居た。
部屋に戻ってから、ストーブを付け、借りたスタジャンを脱ぎ、ハンガーにかけた。「確かに大きい。」僕が着ても大きので、彼女にはもっと大きいのだろう。と思いつつ、ハンガーにかけたそれの匂いを嗅いだ。やっぱり良い匂いがする。女の子の匂いだ。それだけで、十分脳みそが刺激され、ギュッと抱きしめたい衝動に駆られる。・・・嬉しいけど、息苦しい。アオハル。
暫くして、正月、彼女に家に遊びに行ったことが、両親にバレた。
別に不味い事はしていないが、なぜ解ったんだろうと思った。
母親が「お父さんの親友の佐藤さん。息子さんが最近結婚されて、そのお嬢さんとあなたがお正月に遊びに行った鈴木さんは親戚で、そこのお嬢さんと結婚した娘さんは従妹だそうよ。あなたが遊びに行った翌日、お父さんが佐藤さんの所で飲んで居たら、そんな話になったらしいって、言っていた。」と言うびっくりな事が発覚した。母親に「あなた、そこの鈴木さんのお嬢さんと、お付き合いしているの?」と聞かれ、曖昧に答えた。「こんど、家にも連れていらっしゃい。」と言うので「うん。」と気のなさそうな返事をしたが「内心、やったー。」って思った。
お互いの両親公認の間なら「何か、すべて上手く行きそう。」そう感じたのだった。
なるほど、彼女の父親が初対面でも機嫌がよかったのは、そういう事かと納得もした。
ある日、彼女と電話で長話をしていた。そんな中で「あなたの部屋ってどんな感じ?」って聞かれたから、見える風景を説明した。「僕は綺麗好きだが、今僕の部屋は死ぬほど汚い。飲み終わったトマトジュースの空き缶が、部屋のあちこちに置いてあり、布団は起きたままで、床には脱いだ服が散乱している。」
「お願いがあるの。」
「なに?」
「あなたのお部屋、掃除させて。」
「ダメ。」
「なんで?」
「汚い部屋を見られたくない。母親にも触らせてないのに。」
「良いじゃない、汚いからお掃除が必要でしょ?」一理ある。
「でもダメ。」
「どうして?」
「やっぱ恥ずかしい。」
「ヤダ。私掃除しに行く。」
暫く押し問答をしたが「今度家に連れていらっしゃい」の母親の一言が頭を過ぎり承諾する事にした。
次の土曜日、学校が休みだったので彼女が家に来た。
「こんにちは、鈴木ようこです。」と言って母親に挨拶をしていた。
「母親はニコニコして、いらっしゃい。いつも和哉がお世話になります。」と言っていたが、僕は彼女に、まだお世話されていないと、憮然とした。
部屋に入ると「わー、すっごい。遣り甲斐あるぅ。とニコニコして、持参したエプロンを付け始めた。」心配になった母親が「洗濯物はここに出して置いてね。あとで洗っておくから。」
「はい。あとごみ袋頂いても良いですか?」と言って、掃除する気満々だ。
気を良くした母親は、すぐに大きなごみ袋を持ってきて「汚いから、なんでも捨てちゃって下さいね。」と余計な一言を言って「じゃあ、お願いね。」と言って引っ込んだ。それから彼女は、忙しく動き回り、僕の部屋は1時間くらいで綺麗になった。
ごみを捨て、要る物と、要らない物を僕に聞きながら上手に仕分けて、テーブルやカラーボックスの上の埃りを、雑巾で綺麗に拭き、丁寧に整理していくその手際の良さは、目を見張る。普段から遣り慣れている証拠なのだろう。
暫くして母親が、コーヒーを入れて持って来た。
「わー、綺麗になった。ありがとう、ご苦労様。」と言って、綺麗になったテーブルにコーヒーを2つと、クッキーの入った皿を置いて「ごゆっくり。」と言って出て行った。
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