第4話 初春のなれそめ
学校も冬休みに入り、街はクリスマス一色になった。
バイトの店も、常連さんを誘ってクリスマスパーティーを企画する、店とは別の会場を借り、常連さんに還元するべくパーティーを開く。
3000円のチケットで、豪華ホテルの食事つき、5000円以上の内容なので、毎年すぐ売り切れる。
今年は、僕も誘ってもらって居たので、あの子を誘うつもりだった。
店のママさんにお願いをして、お酒が飲めないからと言うと半額の1500円にしてくれたので、2枚ゲットした。
翌日、あの子の家に電話して、パーティーの話をする。
「会場まではお店の人の車で連れてってくれるから、来る?」と何ともそっけない誘い方だ。これじゃあ、まともに彼女が出来ないのも、今なら頷ける。
「えぇ、お家の人に聞いてみる。」と言って、受話器を置いて、「おかーさーん」と呼ぶ声が聞こえ、向こうで何やら話している声がする。ドキドキしながら待っていると「もしもし、遅くならなければ良いって。」と返事が来た。
あの子には判らない様に、受話器のこちら側で、ガッツポーズをした。
それから暫く話して電話を切った。
あの頃は、もちろん携帯もメールも、ましてやLINEなどない時代、ドキドキしながら、家電にかけるしかないから、そこで度胸が着く。たまに父親が出ようものなら、慌てて切りたくなるが、声が上ずりながら「容子さんお願いします。」と言って、あの子が出るまでが、ひどく長く感じられた。
今度、電話する時は、時間を決めて電話するから、電話の前で待っている。
と言う事もした。
色々な方法で、あの子と連絡を取り、話しているうちに、僕はすっかりあの子を気に入ってしまい結局、付き合って居る様になった。でも、告白した記憶はなかった。
クリスマスパーティー当日、僕は持っている服の中で、一番のお気に入りを着て出掛けた。あの子も、ちょっと可愛い服でおめかしして来た。
店のチーフが、僕を弟の様に可愛がってくれて居たので、会場までの送り迎えを買って出てくれた。大人たちに交じって、ジュースで乾杯をし、たくさん食べ、ディスコを踊った。その年の暮れには、ジョントラボルタのサタデーナイトフィーバーが流行った時で、フィーバーと言う言葉が流行語だった。
ダンスのできない僕たちは、只くるくると、回るだけのジルバもどきや、ボックスを踏んで踊ったが、大人たちがかっこよくジルバを踊っているのが、憧れだった。
今でこそ、べたなクリスマスパーティーだが、その頃とすれば先端を行って居たと感じていて、もうすぐ大人になる事への高揚感が、堪らなかった。
帰りが少し遅くなったけれど、あの子の家の近くまで送って貰い、お店に着いた。
それから僕は、原チャに乗って、夜の田舎道を飛ばした。
そんな年末を過ごし、僕たちは新しい年を迎える準備をした。
正月2日、友達も遊びに来ない、ほかの友達に電話しても出掛けていない。
それで仕方なく、原チャで出掛けることにした。当てもなくふらふらと原チャで走って居ると、あの子の家の近くに居た。スタンドの手前に電話ボックスがあり、思い切って電話をしてみることにした。「突然だけど、近くにいる、と思う。」実際にあの子の家に入ったことが無かったので、そうとしか言い様が無かった。
「近くに何か見えますか?」と言うので、手当たり次第に看板や信号の名前や標識名を読んだ。「ええ、すぐそこだと思います、3分で行きますので待っててください。」と言って電話は切れた。電話ボックスから出て、原チャに跨って待っていると、
あの子はチャリでやって来た。
遠くからでも目立つ、真っ赤なスタジャンを着ている。袖が白いバイカラーのスタジアムジャンパーは、とても似合っていた。
髪の毛をポニーテールにして、いつもと雰囲気が違う。
「お待たせしました。」と言って、「こっちです。」と言うが「えっ、自宅に行くの?」心の準備がと思って居ると「お父さんも、お母さんも会いたいっていうら。」とニコニコしながら先に走り出した。どうする。どうするんだ僕!
って思っている間に、本当にすぐ着いた。見えていた信号を左に曲がったら、もう家が見えて、そこに入って行く間には畑が広がっている、大きな農家だった。
「こんにちは。」と腹を決めて入って行った。「寒かったでしょ、早く上がって。」とあの子のお母さんらしき人に勧められ、おずおずと上がりこむと、家族全員がこたつを囲んでいた。」父親が「いらっしゃい。」といい、ニコニコしてくれたのが救いだった。こたつの周りには、爺ちゃんや妹たちがいて、すぐ下の妹はなぜか色めき立っていた。多分中学生くらいだったと思うが、姉の恋人が来ると言う意味が、分かり始めている年頃だったのだろうと思う。
正月なので、おせちや、雑煮をご馳走になり、お腹が一杯になった頃、あの子の部屋に移動した。
「ふぅっ、お腹いっぱい。ヤバイ、眠くなる。」と言ったら「私の布団使う?」と言ってカーテンを開けた隣に布団が敷いてあった。「ええ?そんな。」と言うと「大丈夫、私、向こうの部屋に行って居るから、寝てていいよ。起きたらまた向こうの部屋に来てね。」と行ってしまった。
めちゃくちゃドキドキしながら、布団を借りて寝ることにした。その布団はあの子が毎晩寝ている布団で、いい匂いがした。
「結構大胆なんだな。男の僕が寝て嫌じゃないのかな?」思いながら、眠気には勝てず。すぐに落ちた。この時から僕は、あの子の事を彼女として見るようになった。
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