ジェットコースターの夢
今日僕は、とある遊園地に遊びに来ている。普段はあまり遊園地には行かないけど、今日は違う。今日の最大の目的は、何といっても最近出来たジェットコースター「ツインコースター」に乗ることだ。……でも、一緒にジェットコースターに乗るはずの水蓮さんが見当たらない。
(どこ行ったんだろう……。でも水蓮さんのことだから、またどこかに行ったのかな……。まあ、いいか。乗る時までに合流出来ればいいだしさ)
とりあえず、まずは近くのベンチに座ることにした。でも何もしないでボーっとしているのも嫌だったから、鞄の中からある一冊の本を取り出した。そして、おもむろにページをめくりある物語を読み始めた。その物語はこんな内容だった。
「30人の生徒は古いトロッコに乗り込むも、コースを外れたり熊に追いかけられたりと散々な目に遭う。何とか中継地点に着くと、生徒らは別のトロッコに乗り込む。トロッコが途中まで進むと猿に襲われるが、最後尾の生徒が無理やり進む方向を変え備え付けられていた旗を振りかざしたことで、猿から逃れる。しかし、その際に3人の生徒がトロッコから振り落とされる。3人は実はアンドロイドで、水に落ちた際に壊れて消滅してしまう。そのことを知らない他の27人は何故3人がいなくなったのかを知らないまま、元の場所に戻ってくる」
今回僕が乗るジェットコースターは、この話を元に作られたものらしい。「人が死ぬ作品を元にしていいのか」という批判もあったらしいが、連続した2本のジェットコースターやスリルの高さ、バックストーリーなどから、初日から長い行列が出来る程の人気があったらしい。
でも、その割には今日はやけに人が少ない気がする。道ゆく人の顔もどこか暗そうだし……。
何だか嫌な予感がする。一旦本を鞄にしまい、それから時計を確認する。今は2時を過ぎたところみたいだ。そして、水蓮さん達を探すことにした。あちこち歩いてみるが、なかなか見つからない。
(どこにいるんだろう……。それに、さっきから変なのがうろついてる気がする……)
本来遊園地にはいないはずの、黒い影みたいな人が所々にいるのだ。数えただけでも7、8人はいる。
やっと見つけた時には、既に時計は4時を回っていた。それに、水蓮さんだけでなく、他の方達もいる。早速近寄ったが、直前で足を止めた。
(何だか様子がおかしい。みんな柵の近くでしゃがんで何かをぶつぶつ言っている。泣いてる人もいるし……)
それに、あの影みたいな人がやたら集まっている。数えたら、ちょうど10人だった。
そんな時、近くの古びたラジオから何かが聞こえてきた。若干ノイズが混じっているが、何とか聞き取れそうだ。僕は耳を澄ませてそれを聞いた。
「……次のニュースです。本日発生しました×××ランドのジェットコースター『ツインコースター』の爆発事故について、新たな情報が出ました。先程、事故の際に搭乗していた乗客12名全員の死亡が確認されたとのことです。……」
膝から崩れ落ちそうになった。
(爆発事故……?死亡……?訳が分からない……。いや、違う……?分かるような、分からないような……?)
頭の中がこんがらがりそうだ。ふと手を見ると、手が黒ずんでいるように見えた。あの影みたいだ。その瞬間、脳裏に映像が浮かんだ。
何かが爆発するような、かなり強烈な映像が。悲鳴とガスのような匂い、そして目の前で焼け死んでいく人々。
もしかしたら、あれが「最期の景色」なのかもしれない。でも、まだ実感がない。
もしかしたら、奥に何かあるのかもしれない。そんな思いで、僕は奥の方へと足を進めた。
歩く度に、段々と足が重くなっている。それに、気付いたらレールの上にいた。重い足を必死に動かし進み続けるが、同時に胸が苦しくもなっている。息苦しさもある。
そして、目の前が一瞬暗転した後、僕は目の前の光景に言葉を失った。
大破した猿のロボットとトロッコ、そして12個の黒焦げになった何か。……遺体だ。
先頭の遺体に近付いてみた。それは周りの遺体より小さくて、それにベレー帽を持っていた。……僕が、被っているのと同じ、青いベレー帽を。
……そうだ。全部思い出した。
(確か、僕はあの時一人でこのジェットコースターに乗ってて……。猿のロボットの所でアラームが鳴って……、それで……僕は……)
そこで、ようやく僕が「死んだ」んだと確信した。
もう一度手を見て、震えが止まらなくなった。手は、足は――いや、全身が、目の前の遺体のようになっていたのだ。
愕然としている間もなく、「文字通り」僕は崩れ落ちた。
シオンの夢 猫山ゆづき @Nekoyuzu_25
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