双子の少女の夢
(さて、どうしたものか……)
僕は黒い扉の前で、目の前の扉を開けるべきか悩んでいた。
事の発端は、僕が屋敷と思わしき場所を探索していた時だった。屋敷の中は通路ばかりで、辺りに扉は見当たらない。あったとしても、大体は開かないか中が空っぽか。大体そんな感じだ。そんな中でやっと階段を見つけたので上ってみたら、この扉を見つけた訳だ。だが、妙なのだ。他の扉は時が止まったかのように綺麗な状態なのに、この扉だけやたら使い込まれた形跡がある。まるで、今も使われているかのようにだ。
(中に何があるのかな。そもそも扉は開くのかな。でも中に誰かいたらまずいよね……。迷惑ごとはごめんだし……)
しばらくの間その場で悩んだ末、扉をほんの少しだけ開け、部屋の中をこっそりと覗くことにした。でも今度は脳裏に疑問符が浮かんだ。
部屋自体はかなり広い。多分僕の部屋の2倍以上はあるだろう。それに、部屋の中には灰色のローブを着た20人くらいの人達がいる。全員、木で出来た長椅子に座っている。さらに、黒いローブを着た男が壇上に上がって話をしている。何かの怪しい宗教の集まりかもしれない。
「……ひっ!」
……しかも、それだけじゃなかった。最前列にはニアとミオ――以前僕に無理やり契約書を書かせたあの双子だ――と思わしき双子の少女達もいたのだ。でも、二人ともかなり幼い上に、その表情はどこか暗い。まるで二人が無理やり儀式に参加させられているみたいだ。
すると、ミオの方が黒いローブの男によって壇場の前に無理やり連れられた。男はミオに何か言っている。耳をよく澄ませても、何と言ってるのかは聞き取れなかった。しかし「誓い」だけはかろうじて聞き取れた。さらに、ミオはそれに対し「はい……」と弱々しく答えていた。
すると男はミオの肩を掴み、己の顔を彼女に近づけた。「これは誓いの儀式だ」と言うとミオの唇に己の唇を重ねようとしている。彼女は必死に抵抗していたが、あっけなく両者の唇は重なってしまう。その様子は、僕にとってあまりにおぞましいものだった。まるで僕自身がされている様な気持ち悪さを感じてしまい、「見ているのも辛い」とすら感じた。なのに、何故だかその様子から目を話せなかった。
しばらく経ち、ようやく二人の唇が離れると、ミオは元いた席によろけながら戻っていった。その顔は酷く青ざめている。ニアはそんな彼女を心配し慰めているが、彼女の顔も怯えからか歪んでいる。後ろの席に座っていた紫色の髪の少女も、彼女達の様子に言葉を失っていた。
とりあえず一旦目を逸らそうと扉から離れると、隣に人の気配を感じた。右の方を見ると長身で黒髪の青年が隙間から扉の向こう側をじっと見つめていた。
青年は僕の方をちらりと見ると、再び扉の向こうに目線を戻した。そして上着のポケットからマッチを取り出すと慣れた手つきで火を点け、それを扉のわずかな隙間から部屋に放り込んだ。その様子に僕が言葉を失っていると、青年は再び僕の方を見て、はっきりと一言呟いた。
「これであの子達は救われる」
その言葉の意味に首を傾げていると、青年はかすかに微笑み、そのままその場から消えるように部屋の中へ入っていった。
僕は慌てて扉を開け部屋の中を見たが、中にはもう何も無かった。代わりに椅子などの燃えカスと思わしき煤だけが残されていた。もちろん、部屋には先程の青年を含め、誰一人いなかった。ただ、一枚だけ窓が開いており、一つの大きな足跡と二つの小さな足跡が窓の方へと向かっていた。
窓からはかすかに風が入り、部屋の中の煤がふわりと舞い上がっていた。
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