階段の夢
(もうどのくらいこの階段を上っているんだろう……)
相当の階数分上っているのかもしれないけど、案外そうではないのかもしれないな。ていうか、そもそもこの階段はどこにあり、どこに続くものなんだろう……。
階段には赤いカーペットが敷かれており、壁や窓に施された装飾もとても綺麗だ。また、大きな窓からは常に暖かな光が差し込んでいる。しかし、四角い螺旋状の階段はどこまでも続いており、決して終わりは見えない。
今は何階分まで辿り着いたんだろう。ふと窓の外に目をやり、言葉を失った。窓の外には「何か」がいた。
「それ」は骨で構成されている――所謂「スケルトン」だが、頭は真っ赤なバラそのものだ。それに、ウェディングドレスを着ている。そして何より大きい。数十mはあるだろうか。「それ」は花婿を待っているかのように静かにその場に佇んでいる。こちらには全く気づいていないみたいだ。
「ローザ……」
気づいたら僕は「それ」を見ながらそう口走っていた。ローザが「それ」の名前なのか、あるいは僕が勝手に命名したのか……。
とにかく、僕は「それ」……ローザをしばらく見ていたが、ずっとその場に佇んでおり微動だにしない。階段の方も気になった僕はその場から離れ、再び階段の方へと足を運んだ。
しばらく階段を上っていると、足がもつれ盛大に転んでしまった。
顔を上げると、目の前に紫色の猫が現れた。メアだ。メアはこちらを見るなり、難しそうな顔をした。
「アンタ……、『お刑さん』に憑かれているね」
「お刑さん……?」
「死刑で死んだ人のことだよ」
お刑さん?死刑で死んだ人?意味を聞いてもさっぱり分からなかった。でもメアの表情から察するに、あまり良い存在ではないらしい。
「えっと……、それで、僕がその『お刑さん』に対して何か気をつけることとかってあったりするの……?」
「そうね……。確か、アンタの鞄の中にネックレスがあったよね?それを付けると多少はマシになるかもしれないね。じゃ、そういうことで」
それだけ言うと、メアは音も無く下の方へと下りていった。
「ネックレス、ね……」
僕は鞄の中から小さな青い宝石が埋め込まれたネックレスを取り出すと、それを首に付けた。半信半疑ではあるが、面倒ごとに巻き込まれるよりはマシだろう。
それから、よいしょと起き上がると、再び階段を登り始めた。
どれくらい登ったんだろう。
再びそんなことを考えながら歩いていると、顔面を「何か」にぶつけてしまった。
「いった!え?何?……って、え?」
慌てて顔を上げ、そのまま言葉を失った。
扉だ。階段と同様、やはり丁寧な装飾がなされている。とりあえず引っ張ってみると、重そうな外観とは裏腹にあっさりと開いた。
恐る恐る扉の先へ進み、そして驚きのあまり言葉が出てこなかった。
扉の先には、無機質な普通の屋上が広がっていた。何もない、普通の屋上が。
「何……?ここは……」
試しに足を踏み出してみるが、やはり普通の屋上だ。何かないか、どのくらいの高さにあるのか、フェンスの方に寄った時だった。
「……え?」
「それ」が……「ローザ」がいた。ローザはさっき窓越しに見た時より相当大きくなっている。ちょうどフェンス越しに僕を見下ろしている形だ。すると、ローザは手を頭部の高さまで持ってくると、ある一点を指差した。
指差された方を向くと、そこに「それ」がいた。「それ」は、青白い肌に灰色の髪を持ち、左前の白い着物を着ている。髪の隙間からは、大きなぎょろっとした黒い瞳がこちらを見つめている。
「バレチャッタ、バレチャッタ。ソウ、ワタシガ『オ刑サン』……」
不満そうに、「それ」――お刑さんは呟く。
すると、お刑さんは目の前から音もなく消えていった。
……そういえば、さっきからローザの気配も感じない。慌てて振り向いたが、遅かった。ローザも消えていたのだから。
ローザとお刑さんが何者だったのか……。何が目的だったのか……。今となっては何も分からない。
屋上には、僕だけが一人残されていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます