第4話◇新入社員研修*拓哉



 その翌日。

 集合研修の初日の、朝。


 新入社員の集合研修の会場である本社の研修室に着くと、資料が手渡されて、席を指定された。何人かずつグループを作るらしい。


 何だか朝から張り切っていて、すごく早く着きすぎてしまった。


 何だかな。オレ。

 すげーやる気とか。


 ……おかしい気がする。



 まだ人もまばらな中、周りを見渡しながら指定された自分の席へと向かった。

 決められた座席に座って、配られた書類を読んでいると、近寄ってきた誰かが「あ」と声を出して、オレのすぐ近くで立ち止まった。


 ふ、と目をやると、昨日の、「織田圭」。



「あ――――……織田?」


 言うと、織田は、嬉しそうな顔をして、にっこり笑った。


「うん。席、また隣だね。織田 圭だよ、よろしく」

「オレは、高瀬 拓哉」


「うん、覚えてるよ」


 織田が、嬉しそうに、笑う。


 やっぱり何だか――――……。

 素直な笑顔が――――ちょっと可愛いなと思ってしまった。


 ……つか、こいつ、男だっつの。


 女が少ない職場とは言え、でも同期に女も居るんだから、せめて女を見ろよ、と自分に対して思うのだが。



 勝手に感じる気持ちは、どうする事もできず。




 ……隣同士か。

 一カ月位続く集合研修。もしかしてずっと隣か?


 ……縁があるな。


 素直な、嬉しそうな笑顔を見て、ふ、と笑ってしまいながら。



「よろしくな、織田」



 そう言って。

 さらに嬉しそうに緩んだ瞳を、オレが見つめると。


 また息を飲んで、数秒固まってる。



 ……はは。

 ほんと、かわい……っと。


 だから、織田は男。


 少しオレ浮かれすぎ。

 ――――気、引き締めねーと。

 


 なんて思うのだけれど。

 かくかくおかしな動きの織田を見てると、ぷ、と笑ってしまう。



「とりあえず座ったら?」


 ――――昨日も同じようなセリフを言ったような?

 なんて思いながら。



 微妙な動きの織田を見つめつつ。

 ――――……微笑んでしまう自分が、やっぱり不思議だった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る