第3話◇出逢い&可愛い…?*拓哉
何だったんだろ。あいつ。……なんか、笑えた。
……ちょっと面白くて。何だか……少し、可愛かった。
小動物、みたいな?
つかオレ……男相手に何言ってんだか。
◇ ◇ ◇ ◇
春。
オレ、
大学を卒業して、ある大手のコンピュータシステムの会社に入社した。
……人に言ったら、自惚れと呆れられそうだけれど、事実として、女にそういう目で見られるのは慣れていた。他人から見ると、目立つイイ男、らしい。
街を歩いていて、何度もスカウトされた。高校の時にその話を受けて、モデルとして一時期活動した。一時はかなり雑誌に出て、結構な問い合わせがあったらしく、役者にならないかとか、散々芸能界を勧められた。
でも、そこまで興味が持てなかった。他の男性モデルとのライバル争いも心底面倒だったし、そもそも人に見られる事が好きではなかったみたいで、モデルの仕事を始めてみてから、やらなきゃ良かったと後悔した。
普通に仕事について、普通に人生を送れればそれで良いと思ったので、芸能の世界とは完全に離別して、プログラマーの道を選んだ。
その入社式、だった。
急に頭上から、パラパラと降ってきた書類。
咄嗟に何が起こったのか、頭上を見上げたら。
バラまいた奴の焦った表情がツボにはまって、笑いを堪えるのが大変だった。
新入社員の代表挨拶を押し付けられ、嫌な気分で座っていたのだけれど、急に、気持ちが切り替わった。
笑いすぎてしまったせいか、そいつが、キッと視線を向けてきたのだけれど。間近で視線が合うと、一瞬で、ぽかん、という間抜けな顔になった。
「――――……」
すぐに視線を逸らされて。
ん?と疑問。
女に見つめられるのは慣れていた。
出会ってすぐにアプローチしてくる女も結構居るし、一目惚れされる時の視線も、何となく分かる位に慣れていて、それを鬱陶しいとすら、思っていた。
……女にされるのは慣れていたけれど。
いくら何でも、男に、ぽけっと見つめられたのは、初めてだった。
普通、男はそんな事しない。
むしろ、男はそれが本能なのか、警戒してくる。
「顔だけ」「ルックスだけ」
最初から、そんな否定的な目で見てくる奴も多い。
学校生活でも、アルバイトやモデル時代でも、女が勝手に言い寄ってきてるだけなのに、めちゃくちゃ煙たがられたっけ。正直、女絡みになると、男には嫌な記憶しかない。
もし仮に、男がオレの事を敵視せずに、「イイ男」と認めたとしても。
あんな風に素直に、ぽけーーと見つめてきたりする男なんて、当然ながら、今まで居なかった。
女だったら、まさに、「一目惚れしました」というような視線。
そんな表情で見つめられたら、もう女ですらウザイと思ってるのに。
それが男だった訳で、それはもう、心底ウザイ……はずだったのだけれど。
明らかに狼狽えてるそいつが、何だか面白くて。
書類を並べるのを手伝ってやってたら、その表情と仕草が。
ものすごくドキマギ不自然に狼狽えていて。
……なんか、ちっちゃい生き物みたいで。
なんだか、ちょっと可愛く見えて。
そこまで考えて、オレは一瞬、ん?と止まった。
可愛いって、何だ?
書類を整えて、ようやく落ち着いたみたいだった。入社式が始まるのに私語をしている訳にもいかないので、無言で過ごしていたら、すぐに入社式が始まるアナウンスが流れた。社長やら先輩やらの話を聞かされ、それから、新入社員代表の挨拶で名を呼ばれた。指名された時からこの上なく面倒だった。
正直そんなに仕事というものに意欲があった訳でもなく。ただコンピューターやプログラムを弄るのは比較的好きで、この会社が大手で、給料も良かったから選んだ位で。だから適当に、普通なら言うであろう言葉を並び立てながら、壇上で話していた。
その途中で、ふ、と、会場を見渡した時。
オレが座っていた所がぽつんと空いていて、目に止まった。
そして、すぐにその隣に、「織田圭」。
他の連中が神妙な顔で聞いてる中。
多分「すっげー……」とでも、思ってるんじゃないだろうか。
そうとしか思えない表情で、何やら瞳をキラキラさせながら、織田は、まっすぐオレを見ていた。
思わず、笑みが漏れそうになってしまって、慌てて顔を引き締めた。
何故だか少しいい気分になり、途中からやる気を含ませた挨拶に変えて、無事挨拶を終えて、席に戻った。
間もなく入社式が終わって、そのまま退出させられてお開きになった。
促されるままに会場を出て、いくつかのエレベーターに別れて一階に降りる間に、織田とは離れてしまった。
少し、話をしてみたかった。
そんな風に自分が思うのが珍しいことは、誰よりも自分が知っている。
家に帰ってからも、何故か、織田の顔が浮かんで、不思議だった。
何か。
……面白かったな、あいつ。
可愛かった?
……てのは、違うか?
明日からの集合研修でまた会うよな。
つか。
何でこんなに思い出してんだか。
書類をざざーと流した時の、顔。ぽかん、とオレを見つめてた顔。うろたえて、じたばたしてる顔。
勝手によみがえってきて、その日、何度も首を傾げた。
明日からの集合研修――――……。
ほとんど知ってる基礎からだって話だし。面倒くせえと思ってたけど。
……何だか少し、楽しみになっていて、不思議だった。
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