第5話◇新入社員研修*圭


研修、高瀬と、一緒にできますように!



◇ ◇ ◇ ◇



 入社式の翌日。

 配られた書類を見ながら、指定された席に近付いた。  オレが、今から座ろうとしている席の隣に居たのは。


 居るかな、会えるかな、話せるかな、と、昨日からずっとワクワクしていたその人、だった。



「あ」


 オレは思わず声を出してしまい、そのまま固まる。

 何と言っても、一目惚れの相手。


 一目惚れ自体、人生初めて。 しかも、男相手。 

 常識とか全部すっ飛ばして、強烈に、ときめかされてしまった相手な訳で。


 ……ああ、なんか、今日のスーツ姿もすっごいカッコイイなあ、なんて。


 とても一昨日までの自分には信じられないであろう事を、

 しみじみ思ってしまっていると。



「あ――――……織田?」


 高瀬が、オレを見て、そう言ってくれた。

 

 あ、覚えててくれた。なんか嬉しい。

 心の中で小躍りしながら。


「うん。席、また隣だね。織田 圭だよ、よろしく」

「オレは、高瀬 拓哉」


「うん、覚えてるよ」


 オレがそう言うと、高瀬が口角を上げて、ふ、と笑う。 

 その様が、感心する位カッコよく見えて、オレは一瞬言葉を失う。


 カチコチ固まりながら、高瀬の隣に座った。



 その後始まった説明で、一ヶ月の集合研修は、今のこの席の周囲五~六人でチームを作って作業していくという事を知って。


 プログラミング初心者のオレにとって、かなり憂鬱だった研修も、一瞬で、超ご機嫌な期間に変わった。



 だって。

 ……すっげー、オレ、ラッキーじゃねえ?


 一カ月の研修期間、高瀬とずっと一緒、なんて。



 まあ、さ……。

 男に一目ぼれなんて、誰にも言えないけどさ。


 でも、してしまったものはどうしようもないし。

 男を好きだと思ってしまった事を、暗く悩んでても仕方ないし。


 昨日も考えて思ったけど、やっぱり、付き合いたいなんては思わないから、悩む必要もない。


 物凄く好み過ぎる、超カッコイイ奴の近くで、楽しく、密かな片想い生活を、しばらく送ったって良い、と思う。


 だって、ほんとに、見惚れる位、超カッコイイし。


 こんな風にドキドキすんのって、きっとすっげえ体にいいぞ。うん。

 肌とかピチピチになっちゃったりして?



 なんて、自分で考えた事に密かに ぷぷ、と笑いながら。




 オレのご機嫌の研修生活が、始まった。











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