第7話 一触即発! オダジマと暴力金融の攻防(実話) ハードボイルド編2

 オレの仕事は弁護士だ(もはや隠す気なくなった)。趣味は筋トレと料理だ。北欧のコック長はオレの仮の姿だ。


 今日のメインの仕事は、午前一一時半に暴力金融に乗込んで権利証を取り返すことだった。借金のカタに自宅を乗っ取られそうになっている可哀そうな一家(旦那が金遣いの荒いダメな男なんだ)のために、この数週間、そこの奥さんと一緒にスポンサー探しに奔走してきたんだ。


 霞が関の東京地裁で一〇時半からの裁判を終え、いよいよ和解金を持って東池袋の暴力金融事務所に乗込む時がきた。なぜか東池袋にはこの手の業者が多い。闇金も多いんだが、なぜか闇金は「ハッピー」とか「ラッキー」とか、楽し気な名前の業者が多い。綺麗な色彩と甘い香りで虫を惹きつける花のようなイメージなのだろうか。オレから見ると、黒と黄色のマダラの毒蛇みたいな印象で、かえって逆効果な気がするんだが‥‥‥。


 あと二〇分ギリギリだ。

 オレは急いで地下鉄桜田門の階段を降りた。

 おっとラッキー、丁度電車が着たとこだぜ!

 東池袋まで一五分、これは間に合うな。


 オレは急いでドアの閉まり際に飛び込み、つり革につかまったが、大金の入った鞄は網棚に置かず、胸に抱えた。

 この金で、あの女子校生の娘(割と可愛いがギャル風)が助かるんだ、と考えると心も軽くなり、オレは思わず「美男弁護士の歌」を口ずさんだ(これはウソ)。


 そこに停車駅のアナウンスが入る。何? 「次は月島」だと? ヤバキチ、全然逆じゃんか!

 しかも駅三つも気が付かないとは、我ながら情けないゼ‥‥‥。

 こうなっては仕方ないな、月島でもんじゃ焼き食ってから行くか。この時間なら空いてるだろ。

 いや違う、何言ってんだオレ。すぐさま引き返さねば!


 そうしてオレは一五分遅れで暴力金融事務所に着いた。

 応対に出てきたのは、背の高い太った眉毛のない男だ。グレーのストライプのスーツにスキンヘッド。商売のためにあえてやってるのだろうが、すごい迫力だ。とても素人じゃ相手は無理だ。


(こいつがそうか‥‥‥)

 オレは、この数週間ワーワーやり合って、ずいぶん迷惑をかけられたその男を、静かな目で見つめた。

 男はオレの眼差しを細い目で受け止めたが、全く動じた様子も見せず、唐突に言葉を放った。


「オダジマ先生、なんかお忙しそうですね! お疲れに見えますよ(笑)。じゃ、さっさと精算やっちゃいましょうか!」


 このようにして、手続きはスムースに終わったのだった。

 スマン、実話なので大したオチはない。

 ワーワーやり合ったものの、向こうだって商売。ちゃんと話がまとまれば、仲良しとまでは言わないが、恨みっこなし、わだかまりなどない。


 やっぱり、一日一五時間労働を続けると集中力が削がれてダメだな。

 昨日も、交渉相手の弁護士から申入れがあったんだが、それを受けて「うわー、相手の弁護士が、こ~んなバカなこと言ってますよ、ウケケケ! (大笑いの顔文字)」ってファックスを、オレの依頼者じゃなくて、あろうことかその弁護士に送ってしまったよ。

 もちろん、オレはすぐ謝ったさ。でもやっぱり許しちゃくれなかったな。


 アンタもさ、働きすぎには気をつけなよ。


→ これは、わたくしが一番最初に書いたブログの記事ですから、三〇ちょいの頃だったと思います。この頃は馬力もあってよく働きました。今は毎日午後六時の京王ライナーでカクヨム見ながら家に帰っちゃいますけどね。

 それに、面白おかしく書いてますけど、この手の反社勢力類似の仕事は、我々だって嫌なんです。怖いし、すごくストレス溜まりますから。当たり前です。

 だけど、今回の闇の紳士みたいに、お金勘定で生きている人は、最終的には大丈夫なんです。つまるところ、お金で解決できますから。

 そうじゃなくて、組織のためにとか、極端な思想信条のために動く人って、本当に怖いですよ。経済合理性や社会通念が全く通用しませんから。後ろからプスってやられたらそれまでですからね。

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