第6話 料理人オダジマその2 オダジマとお姫様 内緒のおやつは女の人が大好きなアレ!

オダジマとサラ王女


【姫】 オダジーマ、いるー?

【オ】 おりますよ。どうぞ。


 サラ王女が厨房のドアを開けて入ってきた。おお、相変わらず超美少女。金髪碧眼でフランス人形みたい。王族は、城下から特別な美人を娶るから、自然と美男美女になるんだよなあ。


【姫】おやつ頂戴。お腹すいちゃったー。

【オ】そんなことしてていいんですか。今お勉強中でしょう? 教育係の大臣はどうしてるんです?

【姫】今休憩中なのよ。一〇分しかないから急がなきゃ。

【オ】あはは、勉強すると脳が糖質を激しく消費しますからね。お姫様みたいに成長期のお子さんは特にそうでしょう。

【姫】(クンカクンカ) なんか甘そうないい匂いがするわね。


 そこで、「チーン!」って電子コンベックが鳴った。


【オ】ああ、丁度焼けましたよ。一六〇度で九〇分。‥‥‥長かった。電気代すごそうだな。これ一昨日、日本から取り寄せたんです。私のおやつだったんですけど、半分こしましょうね。

【姫】えー、これ何? 銀紙に包まれてる。

【オ】ふふふ、分かるかな? (ペリペリと銀紙をはがす)

【姫】あ、お芋だー? 紫なんだ、珍しい色だねー。

【オ】そうですね。北欧じゃあんまり見ないですよね。じゃ、半分どうぞ。うわっ、アチー! 

【姫】え? オダジーマ、大丈夫? 冷やしてあげようか、やけどのとこ。ピトっ。

【オ】ああ、大丈夫です。油断してました。わたくし、前に「世界三大アチチ」ってお話を考えたことがあるんですが、だけどあれ? 忘れたな。記事にしときゃよかった。確か南千住のモヤシあんかけラーメンが入ってたような気がします。

【姫】えー? 聞きたいー。お話してよー!

【オ】ダメダメ。お姫様一〇分しかないんでしょう? また今度ね。さあ、おやつ食べましょう。


 姫は僕の隣にチョコンと座って、半分にした焼き芋を嬉しそうにかじった。


【姫】な? なにこれ? 甘いー! お菓子みたいよ。ねっとりしてて、なんか野菜って感じじゃないのね。おいしー!

【オ】ふふふ、そうでしょう、そうでしょう。イモ姉ちゃんには芋がお似合いですよ。

【姫】な、なんですってー!

【オ】あはは、冗談冗談。そんな眉吊り上げないの。美人が台無しですよ。まあ、それもすっごく可愛いんですけどね。ふふ。

【姫】ふん、まあいいわよ。許してあげる。でも、このお芋本当に美味しいわね。何て言うの?

【オ】日本の「安納芋」って言うんです。殆ど半分ゲル化してますよね。二つに折るのも大変なくらいです。これと二大巨頭というか、いや、どうだろ、今やだいぶ差がついたのかなあ、「金時芋」っていうのもあって、こっちはねっとりじゃなくて、ホクホクなんです。私はどっちかというと金時芋が好きですね。ノスタルジーっていうか、子供の頃に食べていた、焼芋の原点って感じがします。ホクホクだから天ぷらなんかに向きますね。

【姫】へー、じゃ今度、金時芋も取り寄せてよ。楽しみー。

【オ】是非そうしましょう。それに薩摩芋は、ご飯やパンよりgあたり低カロリーだし、食物繊維が多くてお通じにもいいし、ビタミンAやCが豊富で、美肌効果も高いんですよ。もちろん食べ過ぎたらだめですけど、主食を薩摩芋に置き換える「芋ダイエット」があるくらいですよ。お姫さまみたいな別嬪さんには最適なおやつじゃないでしょうか。


 そしたら、姫がちょっと瞳を伏せて、可愛い太腿の間に手を挟んでもじもじしてる。どうしたんだろう。


【姫】ねえ、オダジーマ。

【オ】なんです。

【姫】オダジーマは、恋人いるの? 彼女いるの?

【オ】と、突然なんですか。

【姫】ちゃんと答えて! 真剣な質問なのよ。

【オ】えー? 下宿屋の娘のエヴェリーナちゃんはちょっと気になってますけど、特定の誰ってのはいないですね。大体北欧で日本人なんてモテないでしょう? 女の人、みんな私より背高いし。

【姫】ふふふ、そうなんだ、いないんだ。じゃさ、じゃさ、私が大人になったら、オダジーマのお嫁さんにしてよ。毎日、美味しいもの食べさせてよ。

【オ】じ、自分で作る気はないのか‥‥‥。いや、だって、お姫様、一人っ子でしょう? きっとね、大人になったら、よその国のハンサムで立派な王子様をお婿さんに取るんですよ。私なんか王様と国民の皆さんが許しませんよ。

【姫】‥‥‥ふられた‥‥‥えふっ。グスッ。

【オ】あららら、えー? 泣いちゃった。えー? 何それ、困ったな。てか、大体お姫様、いまおいくつなんでしたっけ?

【姫】うう、九つよ。

【オ】そんなのもう犯罪でしょう。絶対なんかの条例に引っかかりそう‥‥‥。

【姫】ダメなの? 私のこと嫌いなの?

【オ】そんなことあるわけないでしょう! 大好きですよ。えー? でも齢が離れすぎ。私コールドスリープでもしないと、釣り合わないんじゃないでしょうか?

【姫】ふふふ、私はいいわよ。あと一〇年待っててね。私、絶対、オダジーマ好みの、ボン、キュ、ボンの美人になるからね。エヴェリーナちゃんなんて小指でチョイよ!

【オ】ボン、キュ、ボンが好みなんて一言も言ってないのに‥‥‥。まあ、お妃さまもすげーもんな。確かにああなりそう。それじゃ、まあ、お姫様が成長して大人になったら、二人で考えましょうね。だけど、その間、いい人と巡り合ったら、そっち行っても全然構わないですからね。

【姫】うん、絶対よ。約束よ。

【オ】日本では、約束した時には、小指を結ぶんですよ。はい、可愛いお手てを拝借。じゃ、お約束、指切りげんまん。お姫様、僕は期待しないで待ってますよ。

【姫】うん! オダジーマ大好き! 

 

 お姫様はそう言って、僕のほっぺにチュってしてくれて、「じゃ、もう行かなきゃ」って言って、パタパタ厨房を出て行った。


 僕は、ほっぺを押さえながら、ううむ、これは現実のことなのだろうか。と半ば疑ってもみたが、あれ、なんかついてる。はは、お芋がほっぺについてた。慌てて食べるからですよ。やっぱり本当のことだったんだな。

 お姫様、午後のお勉強も頑張ってね。焼き芋は腹持ちがいいから、晩御飯までもつでしょう。さて、晩御飯は何にしてあげようか。お姫様が「おいしー!」って笑ってる顔が早く見たいな。


→ てな感じで、一〇年ぶりに、料理人オダジマの続きを書いてみました。書いててすごく楽しかったです。夢中で書いちゃいました。お姫様の続きも書きたいですし、それ以外もいろいろ展開できそうです。今度はお妃さまに甘いものでも作ってあげましょうかね。

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