第5話 大人気アイドルに勝つとは?
「アイドルになって、澤田由奈を業界から追い出して欲しいんだよ!!!」
何を言ってるのかよく分からなかった。アイドルって、お義兄ちゃんの顔はアイドルには向いてない。しかも相手はわたしが知ってるくらい有名な女性アイドルだ。
「えと、今……、わたしはお義兄ちゃんの身体だから、アイドル向きのイケメンじゃないと思うんですけども……」
わたしは見た目で判断する女が嫌いだ。でも、客観的に見てお義兄ちゃんはアイドルにはなれないと思う。
「だれが! そんな不細工な男の話をしてるんだよ!!」
うっわ、酷すぎるよね。わたしは不細工だなんて思ったことはない。とっても優しいお義兄ちゃんだ。お義兄ちゃん、聞いたらショックで一ヶ月は寝込みそうだ。
「意味が分からないんですけど!」
「半年だけ余命を伸ばしてやるって言ってんの!! 一度は病気が治る。その半年間であなたはトップアイドルの道を駆け上がるのよ!」
「えーーーっ、無理だよっ」
わたしは人前で話すなんて無理だ。知らない人に愛想よく振り撒くなんて無理だよ。
「だから、お義兄ちゃんと助け合ってやってよ!!」
アリスはそう言ってニッコリと笑った。要するにお義兄ちゃんに入れ替わってサポートしてもらえ、と言うことらしい。
もしうまく行かなかったらふたりとも死ぬ。その条件では、お義兄ちゃんに納得してもらわないと駄目だろう。
「じゃあ、お義兄ちゃんに聞いてみるね」
わたしはテーブルにふたり分のお金を置いて立とうとした。
「無理だよ」
「どうして?」
「間に合わない……」
「どう言う事?」
「お義兄ちゃんは、今日中に死ぬ!!」
「えっ!?」
本来のわたしの命日は来週月曜だったが、魂の入れ替えで身体に無理な力がかかったらしく、三日短くなったそうだ。
「それじゃあ、もう風前の灯だよ」
「今行っても追い出されるし、時間を置いたら危篤状態に陥る。流石に危篤からは何もできない」
わたしがアイドルになれなくて二人揃って亡くなる半年後より、今お義兄ちゃんを亡くす方が嫌だ。
「分かった。分かったから……、どうすればいいの」
その瞬間、あたりが急に暗くなった。
「パフェのお金払ったからいいよね」
わたしの手を取りアリスが前を歩く。喫茶店に居たはずなのに、歩いているのは山道だった。
「どこに行くの?」
「黄泉の国よ」
「えっ!?」
三途の川のふもとまで来ると、ちょっと閻魔大王に会ってくる、とアリスはそのまま空を飛んで行ってしまった。
「やはり悪魔だよ!」
どちらにせよ、アリスに頼る以外にわたしには選択肢がない。
わたしは三途の川の麓に座って、湖面を眺めていた。童話のように赤く濁ってなどいなくて、すごく綺麗な川で、流れも穏やかだ。
「おやおや、可愛い娘さん。まだ来るのは早いですよ」
気がつけば、おばあちゃんが優しい笑顔でわたしを見ていた。あれ、わたしの身体元に戻ってる。そうか、ここは死後の世界だから、魂だけが来てるんだ。
「いえ、ちょっと、見送りに……」
「そうかい。そうかい」
おばあちゃんは不思議な表情もせずにわたしに会釈をして船に乗り込んだ。
なんかイメージとは違うなあ。この様子だと閻魔大王は優しい人なのかもしれない。
数時間ずっとゆらゆらと動く湖面を眺めていると心が和らいでくる。病院では苦しみの連続だったので、こんなに優雅な時を過ごしたのは何年ぶりだろう。
「やっと納得したよ。本当にあの頑固親父めが!」
この世界は時の概念はないようで、昼すぎに閻魔に会いに行ったアリスが帰ってきたのも昼すぎだった。
「何をしてきたの?」
「死を司る神である閻魔にあなたの命を半年伸ばせと言って来たの」
「そんな、うまく行くわけないでしょ」
流石にそんなことで人の命を伸ばせたらえらい事になる。
「人間なら無理だよね。でも、わたしなら可能なんだ」
無茶苦茶、怪しいのだが……。こんな娘に何ができるんだ。
「なんか、その顔むかつく」
「へっ、なぜ?」
「不信感いっぱいじゃない。わたしの力を分かってないよね」
「うーん。喫茶店のこととか見てるとね」
アリスは腕を組んで真剣に悩んでいる。そんなところで悩んでも仕方がないのだが……。
「でも、うまく行ったんだよね」
わたしの言葉に満面の笑顔をする。喫茶店の時も思ったけど、ここまで正直だと人を騙したことなんてないよね。
「聞きたい!?」
聞きたくないなんて言おうものなら、何度も理由を聞かれそうだ。
「聞きたい、かな」
確かに命を半年伸ばすなんて、驚くべきことだ。それをやってのけた事については気にはなった。
「ふふん。あいつには相当の貸しがあるからね」
恋人を作ってやったとか、閻魔大王の仕事を与えてやったとか、口コミでいい人だと流行らせたとか。全て親が絡んで話ばかりだが、一応理由らしきものは聞けた。
「そう言う理由で、昔からあいつはわたしには頭が上がらないのよ」
「少しだけ聞きたいんだけども」
「なによ!!」
「その中でアリスのやった事って、何かあるのかな」
その言葉に何も言わずにわたしから視線を逸らした。本当にわかりやすい。でも、その方がいいかな。少なくとも信用はできる。
そう言えば、あまりに起こったことが非現実で聞き忘れていた。今のわたしは元の女の子に戻っていた。
「そういえばさ、わたしの身体戻った?」
「うううん。今は魂だからね」
「と言うことはお義兄ちゃんの身体は……」
「喫茶店で寝込んでるよ」
「不味くない?」
「うーん、どうだろう。ここには時間が存在しないからね」
どちらにせよ、あまり長い時間ここにいるのは何かとまずそうだ。わたしは本題に話を移した。
「ありがとうね。で、お義兄ちゃんと入れ替わるのはどうするのかな?」
「あっ!?」
しまった、と言う青ざめた表情でわたしを見た。
「大丈夫、大丈夫」
絶対、大丈夫ではない顔で、アリスはわたしの肩をポンポンと叩いた。
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