第4話 なんとかしないと!

「ふたりとも死ぬだけよ。逆に勝ったら、あなたの身体に戻してあげる。悪い話じゃないでしょ」


「なっ……何を……」


 何を言っているのだ。もともとわたしは死ぬ予定だった。お義兄ちゃんは身代わりになってくれただけだ。


「元に戻すだけじゃないダメなの!?」


「馬鹿なこと言うわね。わたしはひとつの願いを叶えてあげたのよ。無償でね。だから、もし次の願いを叶えるためには、その対価が必要なの……、分かるかな」


 これは罠だ。わたしは強い危機感を感じた。でも……。


「参考までに何をすればいいの!?」


 この女の子の条件を聞くしか方法がなかった。明らかに悪い条件ならば、乗る必要などない。


「ふうん。やはりあなた達面白いわね」


 女の子は周りを見渡した。


「とりあえずね、ここで話していたら、色んな人に怪しまれるから、少し喫茶店で話さない? もちろん、あなたの奢りでね」


「わたしはお金なんて……」


「何を言ってるの。今はお義兄ちゃんの身体なんだから、少しくらいあるでしょう」


 私は財布をチラリと見て、お札が数枚入っているのを確認した。お義兄ちゃん、ごめんなさい。返すあてがあったら返します。


「じゃあ、病院前の喫茶店でいいかな」


「やった!! お腹が空いてたんだよね」


「悪魔でもお腹が空くんだ」


「悪魔なんて、失礼なこと言うわね。わたしにはアリスと言う可愛い名前がついてるんだからね」


 アリス……、確かにあの童話のアリスが成長したら、こんな顔になりそうだ。青い瞳やブロンドの髪を見ただけで、日本人でないことが分かる。


「なぜ、あなたが神社に?」


「だって君たち人間はあー言うところだと信じやすいでしょ」


「お義兄ちゃんを騙すために用意したと」


「騙してなんかないわ。本当にわたしは神様よ」


 アリスはそう言って、えへんと咳払いをした。


「神様なら、なぜお金がないのかな」


「ぐっ……痛いことをつくわね」


 わたしの素朴な疑問にアリスは少なくないダメージを受けたようだった。この娘、よく分からないな。


「それはね。日本に来たから少し散財……違、少し研究費を使い過ぎたのよ」


 きっと、つまらないものを買い過ぎたのだろう。


「あなた達も国とかあるの? なんかなんでも出来そうだけども……」


「そこら辺は企業秘密だからね。あんまり言ってしまうとお父様に怒られ……いや、なんでもない……」


 何でもない、と言うわりには壮大な暴露をしてるように見えるけどね。


「アリスはヨーロッパの悪魔?」


 私たちは病院を出て目の前の喫茶店に向かいながら話をした。お義兄ちゃんの恋人と思われないかな。アリスは見た目はかなりの美少女だ。ここまで歩く数分の間でも何人もの看護師や患者が振り向いた。


「だから悪魔じゃないって言ってるでしょ!! 

 わたしはアメリカから引っ越してきたんだよ!!」


 引っ越しとか凄く人間的だ。


「神様でも引っ越すの?」


「うん! 人間に見えないだけで、たくさんの神が引っ越してるよ」


「そう言えば、なぜアリスは見えるの?」


「えと、その……あはははっ」


 なんか、また地雷を踏んでしまったようだ。本当にこの娘は隠すことができない体質のようだ。


「そこも秘密!?」


 わたし達は喫茶店の扉を開けて、一番景色のいい窓際の席に座った。


「うーん、秘密と言うほどでも、うわああああっ、これ美味しそう!!!」


 アリスはメニューを凝視していた。美少女に涎は似合わないだろ。涎をすする音が聞こえる。神様は礼儀とか教えてもらわないのかな? ただ、わたしにとってもパフェは久しぶりだ。


「これでいい?」


 恐る恐るパフェを指差すアリス。値段を見てびっくりした。七百五十円、た、高い。でも、今のわたしなら食べられる。わたしは、心の中でお義兄ちゃん、ごめんと叫んだ。


「いいよ。じゃあ、パフェ二つで……」


「うっわ、即答。もしかしてお義兄ちゃんのお金だからかな」


「酷いこと言わないでよ。気にしてるんだからね」


「ふうん、……まあ、いいや」


 アリスはあまり細かいことを気にしないようで、運ばれてきたパフェを美味しそうに食べる。


 わたしもスプーンで目の前のプリンパフェをすくった。これ食べたら太るかなあ。でも、甘いものは別腹って言うよね。それに今はお義兄ちゃんの身体だし……。お義兄ちゃんもパフェ食べたいよね。わたしは都合良く納得してパフェを口に含む。


 うっわー美味しい。女子高生って、こんな美味しいもの毎日食べてるの。


 あっ、いや……毎日食べたら太るか……。お金も持たないよね。


「美味しい。ほっぺが落ちそう」


 アリスもわたしと同じく感動に打ちひしがれていた。


「で、本題」


「本題って何!?」


「はあっ、お義兄ちゃんを助ける条件を聞くために、ここに来たんでしょ」


 アリスはわたしの顔をじっと見て本当に驚いた表情をする。


「そうだった、そうだった」


 もしかして忘れてた?

 アリスはわたしの不審そうな表情に気がついたのか、少しムッとした。


「忘れてなんかいないわよ!!」


 絶対、嘘だ。忘れてたに決まってる。でも、ここで、ヘソを曲げられても困る。


「じゃあ、言うね!!」


 わたしはごくりと唾を飲み込んだ。誰か知らない人とエッチするとかならどうしよう。絶対嫌だな。だが、アリスが言った言葉はわたしの想像の遥か上を行ってた。


「アイドルになって、人気アイドル澤田由奈を業界から追い出して欲しいんだ!!!」


「はあ? 何よそれ!? 意味がわからないんですけど!!!」

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