第42話 神の奇跡


「結局、ドーベルではなく、教皇を殺したのはリヒトだったのだな」


「ハッ!間違いありません」


「そうか……」


我が名はデモーニッシュ、近く魔王になる存在だ。


あのリヒトという男に魔国ダークランドは沢山の借りがある事になる。


個人的にも我が親であるクロフォードの仇迄とってくれたのだ、魔族の王子として何かお礼をしてやるべきだ。


「それで、あのリヒトという男が望むことは無いのか? 地位、金、武器なにか心当たりはないか?」


「女神イシュタスにより殺された幼馴染三人の仇として勇者パーティを狙っていた。という話ですが、此処に来た時にはまるですべてに絶望していた様子でした……復讐を終えた今、もう欲しい物は無いでしょう……全てを終えたら死ぬのではないか? そういう者もいる位です」


死んだ三人の幼馴染がキーだな。


そこさえどうにかしてやれば恩が返せる可能性がある。


◆◆◆


リヒトという人間は良く教会に祈りに来る。


しかもこの人間はドーベルを名乗り、憎きイシュタスに仕える教皇を殺したというでは無いか。


イシュタスを心から憎み、タナトリシス様に一心不乱に祈る姿はこのジャミルの心さえ動かす。


この様な敬虔な者を救えなくて神官を名乗って良い物だろうか?


怨敵である教皇を含む邪教の人間を殺し……あまつさえ魔王様の仇まで討った人間。


私はこの様な人間の求める救いの手を払う事など出来ない。


祭壇に火を灯し、邪神タナトリシス様に一心不乱に祈った。


もし奇跡が起こるのなら……この人間の為に起こして欲しい。


「偉大なる邪神タナトリシス様、どうか、かの者救いたまえ! 怨敵教皇を含む聖職者を殺し、あまつさえ勇者パーティを討った者に祝福をあたえたまえ」


私が祈っているといきなり教会のドアが開いた。


「何事ですか……あっ!? デモーニッシュ王子……その方たちは誰ですかな?」


王子だけじゃなく、黒ずくめの人間が10名程いた。


「ハァハァ、悪魔神官ジャミルよ! お前こそが邪神タナトリシス様に仕える最高の神官だと我は思っておる! 我に仕える死霊使い(ネクロマンサー)を10名連れてきた! この者達と協力をし、リヒトの妻の魂を此方に連れてくるのだ! 良いな」


どう見ても高位のネクロマンサーが10名も居る。


これなら、魂がまだこの地上にあるのであれば……いけるかも知れない。


「デモーニッシュ王子感謝します」


「礼は良い早く取り掛かるのだ」


「はい!」


「それじゃ、ジャミル殿我らはまず、降霊術に入ります……リヒト殿の妻の名前をお教え下さい!」


「ソニア、ケイト、リタです……お願いします」


「心得た、皆の者やるぞ!」


「「「「「「「「「おうーーっ」」」」」」」」」


「冥界とこの世の間に居るであろうソニア、ケイト、リタの魂よ……我れの声が聞こえるなら、その眠りから覚め我らの元に姿を現すのだ……いでよ……ソニア、ケイト、リタよ」


三つの小さい炎が私達の前に現れた。


魂はまだあったのだ。


「ジャミル殿!」


「解った……偉大なる邪神タナトリシス様、我が願いお聞き届け下さい……この三つの魂をお救い下さい!」


あたりの闇が濃くなった。


昼間なのに何も見えない真の闇。


腐ったような悪臭があたりに漂う。


そして、全てを凍てつかせるような光る目がこちらを睨んでいる。


「神の降臨だ!」


邪神タナトリシス様が現れた。


『敬虔なる者どもよ……何も言わなくとも私は全て見ていた。あの者の功績は私にとっても無視できない物だ! その者達を蘇らせてやりたいのは私とて一緒なのだが……あの憎きイシュタスが無理やり魂が壊れるのも構わず『奇跡』をむしり取った為魂が壊れている。 3人あわせても1人の魂に満たない程にな……これでは3つの魂をあわせて1人を作っても崩れて結局は消失してしまう』


「それでは……邪神タナトリシス様を持ってしても無理……」


『侮るでないジャミルよ! 3つの魂では足りぬのだから、他の魂を足せば良いのだ……あと少し、魂を足せれば命が満ちて復活させる事も可能だ』


「その足す物は、我が父では如何でしょうか? 聖剣で殺された魔王は魂魄が壊され全ての世界に存在できない……そう聞いた事があります……それならいっそう、その三人の復活になるのならお使いただければと……」


『成程。それは面白い! 消えてしまう前の魔王の魂を練りこむのだな……解った』


「それでは、魔王様の魂も……」


『呼んでも無駄だ……もうすっかり自我を失い崩壊しかけておる。だが、その膨大な魔力はまだ漂っておる……使えるぞ……よし……4つの壊れた魂から、今一度新しい魂を作ってくれようぞ……クリエイト!』


4つの魂が一箇所に集まり、交わっていく。


そして変形を繰り返し……黒髪の背の低い少女へと変わった。


『こんな物だ……リヒトに伝えよ! これからも私を信仰し、女神の仲間と戦えとな……』


「はっ、必ずや」


『うむ……』


邪神タナトリシス様は奇跡を起こし消えていった。


これで、リヒトの心は救われる。


私は邪神タナトリシス様に心から感謝の祈りをささげた。

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