第38話 境界に住む

俺がソニア達を失ってから更に1年の月日が経っていた。


今の俺はもう人間ではないのかも知れない。


「だれか……誰か助けて下さい……」


女が俺に助けを求めてきた。


少し先で馬車がオークに襲われている。


冒険者が3人、どうにか馬車を守っているがこのままでは危ないな。


多分、この女を逃がす為に踏みとどまって足止めをしたのかも知れない。


「……解った……ついてこい」


「はい」


俺は女を連れ馬車の後ろから近づく。


「加勢するぞ!」


「ありがたい……えっ!? うぐっうあわぁ」


誰がお前達に加勢すると思ったのか?


馬鹿だな……


俺が加勢するのはオークだ。


一番近くの冒険者を斬り捨てた。


これで残りの冒険者は二人。


「お前、何しているんだーーっこんな時に」


「なにやってんだーーっ」


叫んでいるが知らんな。


俺の横でさっき助けを呼びに来た女は顔を真っ青にしてこちらを見ている。


オークの顔が俺を見てニヤリと笑った気がした。


気分が良い……サービスだ。


「お前等2人もついでに殺しておくか」


俺は素早く近づくと剣を振るい2人の腹を一瞬で斬った。


「腹を押さえないと内臓が落ちて死ぬぞ」


だが、腹を押さえたら剣でオークの攻撃を止められない。


「ああっあああーーー」


「クソっ……ハァハァ、お前はなんで……ハァハァ」


もう詰んだ。 


「俺はイシュタスが嫌いだ。助けを求めて来た女がイシュタス教のペンダントをつけていたから、オークの方の味方についたそれだけだ」


此奴らはこれで終わりだ。


腹を押さえなければ内臓が飛び出て死ぬ。


腹を押さえたらオークに殴られて死ぬ。


あとは……


「何をするのですか? いや、いやぁぁぁぁぁぁーー」


女の服をひん剥き、胸を曝け出した状態でオークに突き飛ばした。


「た、助けて……お願いします……何でもしますから…….」


「そうか? それじゃチャンスをやろう?『イシュタスのクソ野郎、死にやがれ』それを10回言ったら助けてやるよ」


「それは……出来ません」


あんなクソ女神良く信仰しているよな。


折角チャンスをやっているのに……


「それじゃ、チャンス終了。これからはオークの苗床人生を楽しむんだな」


「いやぁぁぁぁぁぁーー」


オークは俺に笑顔を向け女を大事そうに担いでいった。


◆◆◆



今の俺は魔国と王国の境界に住んでいる。


この世界の殆どの人間はイシュタスを信仰しているから見る度に殺したくなる。


だから、人間社会を半分捨てて余り人が寄り付かないこの場所の廃屋に棲みついた。


この近くの街道沿いでは良く魔物が人を襲う。


最初のうちは魔物も俺に牙を剥いてきた。


だが、現金な物で俺が魔物に手を出さないと知った為か、俺に牙を剥かなくなり、味方だと思ったのか最近では笑顔を向けるようになってきた。


◆◆◆


この場所を選び、住処に住んだのには理由がある。


魔王城を目指すなら必ずこの場所を通る。


ここに居ればいつかライト達と遭遇する。


未だにあいつ等の殺し方は解らない。


だが此処にいれば、何時かは出会える。


その時が俺の本当の復讐の第一歩だ。



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