第22話 村への復讐


馬車で旅立つ事3時間。


ようやく3人が目を覚ました。


「う~んリヒト此処はどこなの?」


「リヒトくん、僕が寝ている間に何をしたのかな? ちょっと体がヒリヒリするんだけど?」


「リヒトお兄ちゃん、激しすぎるよ……あちこち擦れていたのかちょっと痛いよ」


完全に誤解している。


御者をしながらだから、振返られないけど……驚くかな。


「良かったら、自分の体を見て……驚くよ!」


背中以外、綺麗になっているんだから驚くよ……きっと!


「えっ! 嘘……体が治っている。こんな事ってあるの? 治す方法なんて無いって聞いたのに……」


「背中以外、完璧じゃん。なんでこんな事が出来るの?」


「凄い、凄いよ……これ」


ソニアもケイトも驚きの表情をしている。


リタに至っては馬車の中なのに立ち上がって服まで脱ごうとしている。


ちなみにこの馬車は幌馬車じゃない。


「リタ、見えちゃうから、服脱ぐのは……」


「あはははっ……ゴメン」


三人とも凄く嬉しそうだ。


少しつなぎ目に赤く線があるけど、ほぼ治った様に見える。


さっきから三人がスカートを捲ったり、胸元を大きく開けて覗き込む。


その姿を見て顔がつい赤くなる。


『普通の仕草』


それを見ていると本当の幼馴染が帰って来たような気がして、ついほっこりしてしまう。


尊い三人の犠牲は、黙っておこう。


聞かれなければ答える必要も無い。


だが、ソニアは回復師。


きっと俺が何をしたのか気がついたんだと思う。


さっきまで喜んでいたけど、他の二人と違いちょっとだけ表情が曇った。


幼馴染の俺じゃ無ければ見過ごす位の僅かな時間。


だが、俺と目が合うとニコリと笑ってくれた。


俺にとっては幼馴染以外はどうでも良い人間だ。


本来の俺は剣士。


幼馴染も、回復師、剣士、魔法使い。


魔王なんか縁が無く、冒険者として暮らすのが当たり前の人間だ。


それが、村の幼馴染だからと……


本当の仲間に出会うまで手伝ってやった結果が、この惨めな有様だ。


何故? 村の皆に頼まれたから……


そろそろ路銀も乏しくなってきた。


『良い獲物』がいるじゃないか?


たんまりと金を持った獲物がな。


「それで、これからどうするの?」


ソニアが聞いてきた。


「ライト達は魔国、最後に魔王城に向かうのだから、反対方向の南に取り敢えず向かおうと思う。 故郷の村には寄らないでそのまま南に少し進み、そこから西か東に進み安住の地を探す。 そんな感じかな…少しでもライト達から離れたいから、故郷の近くまでは転移石を使うつもりだよ」


当初の予定では北の魔国に向かうライト達と、悪評が広まっている南。


西か東に進もうと思ったのだが、そろそろ路銀が心許ない。


だったら……調達しようか。


「転移石? そんな物を持っていたの?」


「なんでまた、故郷の近くに?」


「そんな話、初耳だけど?」


「ライトと離れたら故郷に帰ろう。そう思っていたんだ」


「確かに私達は臨時パーティだから、そうか?」


他の二人も納得したのか頷いた。


だが、俺が故郷に行くのは……理由が違う。


◆◆◆


使う気は無かった転移石を使って故郷の近くの森にきた。


今は夜。


これから、俺がやる事には丁度良い。


「それでリヒト、これからどうするの?」


「もう流石に遅いし、今日は此処で野営して明日にでも村に行こう」


「そうだね、体も本調子じゃないし、そうしようか?」


「久々に父さん達に会えるのか、楽しみ……かな」


「お母さん元気かな……」


顏が青い。


あれ程の醜聞を晒していれば当たり前だよな。


だけど……真実はもっと……地獄だよ。


だから、俺はその真実を消す為に動くんだ。


三人は眠っている。


また、眠り薬を使った。


なにか起こると困るから、結界石を使い結界を張っておく。


これで盗賊が来ても魔物が来ても問題無い。


これから、俺は……修羅になる。


◆◆◆


村にやってきた。


さぁ此処から始めるのだ。


一番最初は、ライトの家族の家だ。


トントントン……ドアをノックする。


田舎だから満足にカギも掛けていない。


住んでいるのは知り合いばかり、だから戸締りなんて真面にしていない。


壊すのは簡単だが、一応はノックした。


「こんな夜中になんかようか? お前は……リヒト? うぐっ」


ライトの親父が出て来た。


俺はライトの親父の口を押さえて、そのままナイフを腹に差し込んだ。


「……」


ライトの親父は苦痛で冷や汗を垂らしながら口を開く。


「ハァハァうぐっ……何故だ」


「『俺はお前に息子を諫めてくれ』と手紙で頼んだはずだ……だが、手紙の返信もなかった。 冒険者ギルドに頼んで調べてもらったら、状況を知っていながら随分な物良いじゃないか? なぁ……なんて言っていたんだ」


「私は……」


「俺が言ってやるよ! 幼馴染だからって息子は勇者なんだ。使って貰えて有難く思え……そう言っていたんだよな? ふざけてねーか? 俺達はお前達この村の人間に頼まれて『仕方なく』ライトについて行ったんだぜ……お前等が頼まなければ、こんな目に遭わなかった。しかも加害者はお前の息子だ。それなのに馬鹿にしやがって、殺されても仕方ねーよな」


「貴方、どうしたのこれ……リヒトくん?」


「リヒトさん……なんで」


ライトの母親と妹が呻き声に気がついてこっちに来た。


「あのさぁ……俺は何度もライトを止めてくれって頼んだよな! なのに、お前等は何もしなかったばかりか、俺達を馬鹿にしやがって……なにが息子を頼むだ……なにがお兄ちゃんを宜しくだ! ふざけ!」


「はぁはぁ……勇者になった息子に俺が……なにが……」


「そうよ……」


「お兄ちゃんは勇者なんだから逆らえないよ……えっ」


俺は思いっきりライトの妹の顔を殴った。


「ううっ」


「娘に手を出さないでーーーっ」


「なぁ、それで俺が止まるとでも? お前等が頼んだから、ライトとパーティを組んだ……その結果どうなったか手紙で書いたよな? それなのに何も行動しなかった……たかが一発殴っただけで文句言うなよ! ソニアがケイトやリタの地獄はそんな物じゃない。その何千倍も苦しんだ……魅了を掛けられ自由を奪われてな……それを知っても動かず村全員で笑い者にしていたんだってな」


「ううっ、お父さん、お母さん助けて……いやぁぁぁぁーー」


「まずは此奴からだ」


「ハァハァ……俺達は良い……娘だけは助けて」


「お願いします……私は何をされても良い、娘だけは助けて下さい」


「そうか……それじゃ『私はクズでーす......性処理しか出来ない馬鹿なクズでーす。勇者の母親でごめんなさい』『私はクズでーす......性処理しか出来ない馬鹿なクズでーす。勇者の妹でごめんなさい』そういって村人全員に抱かれて来い……それが出来たら助けてやるよ」


「そんな出来……」


「えぐえぐっ、そんなの無理だよ」


「出来ないなら仕方が無い。 何年も見てきた地獄の日々。それを1回も耐えられないなら……」


「助けて下さい! お願いですから……」


「ライトはあれでも家族思いだった。 お前達なら止められる可能性はあった。 それなのに動かなかった。 しかも、俺達がこんな目にあったのはお前達が『頼んだ』からだ」


「ううっううっハァハァ……助けてくれ、俺は良い……娘と妻は頼む」


「私の命は奪って貰って構いません……だから娘だけは助けて下さい」


「助ける方法は言ったよな? 『私はクズでーす......性処理しか出来ない馬鹿なクズでーす。勇者の母親妹でごめんなさい』そう言って今から村人を起こして全員の家を裸で母娘で回って来い。抱きたいと言われたら拒むな……それで許してやるよ」


「ううっ、私、そんなの出来ないよ」


「私が……それをやれば許して貰えるのですか……」


「頼む……ハァハァ、私の命だけで許してくれ……」


「あのなぁ、俺は冒険者だ。 雇った冒険者を護衛対象の人間が危害を加えた。だから、依頼者は責任を負わせられる。当たり前の事だし、法律的にも正しい! これが俺が考えた責任だ。悪いがこれでもソニア達にお前の息子がした事に比べればはるかに軽いんだ……それが解らないのか?」


三人はお互いに顔を見合わせていた。


「もういいや、金で解決で……償いは金でして貰おう」


ライトの家にはライトが勇者になった時に貰った支度金が沢山あった。


このお金がある事からライトは家族を大切に思っていた事が良く解る。


ライトの家族ならあの蛮行を止められた筈だ。


「待ってくれ! それを全部持っていかれたら、俺達は生きていけない」


「半分、1/3で良い残してお願い!」


全額なくなったら確かに生活に困る。


だが、そんなの関係ない。


幼馴染は地獄を見たんだ。


これは頂いていく。


「死にたくないなら、全部寄越すんだな! あとほらよ!」


俺はライトの妹にポーションをかけてやった。


「あと、これからこの村は跡形も無く無くすからとっとと逃げた方が良いぞ」


そう言いながらストレージに金貨が入った袋をしまいライトの家を後にした。






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