第15話 お前等も加害者だ

三人を高級ホテルに置いて飲みに来た。


高級ホテルを選んだのは、彼女達三人の安全を考えたからだ。


酒場でオークマンを待った。


他の人間は兎も角、オークマンには凄く世話になった。


挨拶も無く去るのは不義理だ。


「よぉ! 待ったか?」


「いやぁ、そんなでも無い」


オークマンには奴隷兼妻が12人も居る。


勇者パーティーの荷物持ちをしていたそうだが、その時に『複数婚』の権利を貰って、奴隷を買いハーレムを作り暮している。


だが、オークマンの奴隷ハーレムは変っていて、その全ての女性が『不幸な身の上だった女性』だ。


オークマンは良く言っていた。


『俺は醜いから女に愛されねー。だから金で女を買うしかない……だが、そんな俺でも傍に居てくれるんだ。死ぬ気で幸せにしてやる! それだけだ』と。


事実、オークマンと奴隷の関係はハーレムってよりは『大家族』に見える。


「それで、その顔は上手くいったようだな」


「ああっ、お陰様でな」


「良かったな……初めて笑ったな」


「笑った……」


「ああっ、お前気がついてなかったのか? いつも死んだような顔をしていたぞ……」


「そうか、確かにあの頃はただ絶望しかなかったからな……良かったら今日は好きなだけ飲み食いしてくれ、あと家族にもお土産も頼もうか、串焼きで良いか?」


「おおっ、太っ腹だな……悪いがお土産の串焼きとなると36本は必要だぞ」


「その位良いって……お姉さん、串焼き39本お土産用に包んで、あとエール2杯と……オークマン好きなつまみを頼んでくれ」


オークマン自身の分3本追加して頼んだ。


「それじゃ、唐揚げにオークのステーキと枝豆、焼き魚をくれ」


「あいよ」


これはささやかなお礼だ。


こんな物じゃ足りない。


いつか、オークマンが困る事があったら『絶対に助ける』


そう俺は心に決めた。


◆◆◆


「それじゃあなリヒト……またどこかでな」


「ああっ、またどこかで」


オークマンは愛妻家だからキッチリ2時間で飲むのを切り上げる。


これから、オークマンは家族サービス入るのだろう。


12人も妻がいるから、夜のお勤めも大変だろな……


12人の妻を満足させるまで抱き続けるなんて普通は出来ないだろう。


オークマンに前に聞いたら『がははははっ、だから俺はオークマンなんだ』と笑っていた。


何でも性欲がもの凄く強いそうだ。


しかも子煩悩で、生まれてきた子供の世話もしっかりしている。


彼奴こそが……きっと本物のリア充だ。


◆◆◆


やはり来たか。


オークマンと別れてから、わざとホテルに直ぐに帰らず人気のない場所を選び歩いていた。


「流石はA級冒険者だ、気配に気がつくとはな……銅貨3枚でソニア達を貸してくれねーかな」


「じゃ無ければ買い取りでも良いぜ……一人金貨3枚までなら出すぜ」


「それは断った筈だ。あれから正式にギルド婚の手続きをした。彼女達は奴隷だけじゃなく、正式に俺の妻だ。どこの馬鹿が脅されて妻を差し出すんだ」


「だが、俺達は……あいつ等をいたぶらねーと気がおさまらねーんだよ!」


ざっと30人は居る。


徒党を組んできた……そういう事だな。


「そんな事させる訳行かねーよ」


「命は保証するだから貸せ」


「貸さない」


「なぁ、お前は彼奴らが悪魔みたいな事をしていた事は知っているのか? 俺の妹は婚約者が居たんだぜ、だがあいつ等に攫われて、勇者ライトに犯されたんだ。 帰ってきた妹は精神を病んで未だに引き篭もったままだ」


「そうか……それで」


「お前、ふざけているのか? 俺は妻だ。 子供3人も居る前で犯されたんだ。 逆らったら子供を一人ずつ殺すってな。 俺は……俺は……助ける事も出来ず……ただ、見ている事しか出来なかった」


「他にもあるのか……」


「うちは娘だ、いきなり家に入ってきたと思ったら、押さえつけられ犯されたそうだ。俺が家に帰った時には、泣きながら……」


「あーもう煩いな! 皆、同じような事があったわけだ。 だが、それを恨むのならお角違いだ。 それをする権利は勇者であるライトにはある。いやなら人間社会から飛び出て、人里を離れて暮らすんだな。 その上で女神イシュタスに文句をいえよ!」


「「「「「「「「「「お前ふざけているのか」」」」」」」」」」


「ふざけてねーよ! イシュタス教には『勇者に全て捧げよ』そう書いてあるそうだ司祭にでも聞くんだな! 嘘は言ってねーから。 本当に馬鹿げた教義だよ!『勇者に妻や恋人を差し出した者は、魔王討伐に参加したのと同じ位の善行』なんだってよ! それに『勇者保護法』でその権利が認められているんだぜ! 本当に可笑しいがよ、法律的にも宗教的にも、間違ってなく、正しいんだよ!」


「ふざけるなよ」


「確かにそうだが、人間として許せねー」


「あの三人にされた事に変わりはねー」


「あっ、そうならば相手してやるよ! だがな……もし、俺を生かして返したら、俺は憲兵と教会にこう言うぜ! 『勇者保護法を違反した奴がいるから捕まえてくれ』『女神イシュタスに背く奴がいるから破門してくれ』とな……犯罪者になって破門だ。しかもそれは家族にまで及ぶ。真面に暮らしていけなくなる。 それで良いならやろうぜ殺し合い」


此奴らの気持ちは解らなくも無い。


だが、決して許す訳にいかない。


「そんな……」


「だが、あいつ等を俺は許せねー」


「あのな……お前等の中に勇者や王に頼まれて断れる奴いる? 断ったら家族ごと地獄行きだぜ。 三人が関与しているのが気にくわなかったなら、勇者ライトに直接頼ませようか? 『お前等の家族を奴隷として差し出せ』って、お前等ならその頼みを断れるんだよな? そうしよう、一応彼奴は幼馴染だから、俺、手紙書くわ」


「「「「「「「「「「それは……」」」」」」」」」」


「なぁ、出来ないだろう? それにお前等だって気がついているだろう? 勇者のスキル『魅了』で操られていたって……敢えて言わせて貰うけど『今回の件の最大の被害者はソニア達だ』」


「ふざけるな!」


「ふざけているのはお前等だろう! 『魅了』に掛けられ、年単位で犯され玩具にされていたんだ。体には一生消えない傷を負わされた挙句、勇者だけじゃない、お前等だって散々犯して玩具にしてきただろうが! 幾らお前等が偉そうに言おうが、あいつ等を犯して、玩具にした時点で、ライトと変わらないゴミだ!」


「ふざけるなよ! 俺達は……お前達を許せない」


「そうか……それじゃ仕方ない……死ね!」


俺は我慢した。


此奴らだって被害者なんだとな……


『殺してやりたい』 何度そう思ったか解らない。


ソニア達は酷い事をしたのかも知れない。


いや、したよ。


だが、その後此奴らはそれ以上の事をし続けた癖に被害者面すんな。


お前等が一方的な被害者なら、俺は命までは差し出せないが袋叩き位は我慢した。


だが、違うだろう……お前達も加害者なんだよ。


「「「「「「「「「「なっ」」」」」」」」」」


「殺し合いがしたかったんだよな? もう良いよ! お前等を俺も殺したくなったからなーーっ!」


剣を抜き構えた。


「待て!」


「待たない! A級冒険者リヒト参る」


すぐ傍にいる冒険者に近づき鞘のまま剣を振り落とす。



鞘のままでも腕の骨は粉々、治療をしても暫くは剣を握れないだろう。



「ぎゃぁぁぁぁぁーーー」


ああっ煩いな……


そのまま走りだし、次の男の元に走る。


俺は勇者パーティで一番弱い。


追放される位に……幼馴染を守れない位弱い。


だが、王国騎士団ですら相手にならない化け物と戦う為のパーティ。


それが勇者パーティだ。


何回も死線を越えて戦ってきたんだ……お前等じゃ相手にならない。


30人が100人でも殺す気になれば殺せるんだよ。


「やめろ……俺達が…….俺達が悪かったから……なぁ謝る」


「この結末を望んだのはお前達だ……受け入れない」


こんなのは嘘だ。


俺が怖くて謝っているだけだ……もし俺が死ぬ様な事があったら再びソニア達に牙を剥く。・


軽く剣を振るうだけで手首が明後日の方に向く


「俺はただついて来ただけだ……」


「あわよくば、ソニア達の暴行に加わり楽しむつもりだったんだろう? 知らんな」


此奴は足で良いか……


しゃがみ込み太腿から下を殴るように斬った


そのまま足が曲がり、倒れ込んでいく。


此奴らは、確かに被害者でもある。


だから……『俺は殺さない』


「何事だーーっ」


その場に居た全員を無効にした時、憲兵隊が此方に走ってきた。


◆◆◆


憲兵隊の隊舎に俺は来ている。


「それで、リヒト様、なんであんな事をしたんだ」


悔しいが、俺は勇者パーティに籍が残っている。


だから憲兵に俺を捕まえる権利は無い。


「勇者パーティの所持品にあいつ等は手を掛けた『勇者保護法、第32条』の適用をお願いします」


俺は勇者保護法を学んだ。


「勇者保護法……冒険者たちに聞いた話では奴隷の貸し借りで揉めた。そう聞きましたが……奴隷はあの三人ですよね」


「そうですが……ソニア達は勇者ライト様より正式に俺が下賜されたものだ。 そして俺は勇者パーティに未だ籍があり、彼女達は俺の奴隷、所有物になっている。その状況で俺が幾ら言っても聞かず、無理やり借りようとした……この場合は適応するよな?」


「本当に『勇者保護法』で裁くつもりですか? あの法は……」


「最低でも鉱山送りだな……それが何か?」


実質二度と社会復帰できず……人生を鉱山で終える。


かなり重い罪だ。


「もう少し温情をかけてあげられませんか?」


「もういいや……憲兵隊に言っても『無駄なら』このまま王国騎士団に行く」


「やめて下さい! そんな事になったら私達も只じゃすみません。 ただ、今回は30人です……勇者保護法では『鉱山送り以上』ですから、場合によっては死刑になる可能性があります。こんな事で30人も殺したくはないのです」


「こんな事?」


ソニア達の事を此奴も言っているんだ。


彼女達が、どんな有様か知っているだろうからな……


「いえ……すみません」


とはいえ、流石に、殺してしまうのは忍びない。


「それじゃどうだろうか? 1か月間だけ牢屋に閉じ込めて置いてくれれば良い。 あんた達、憲兵隊が責任をもって事の重大さを説明して、充分に反省させてくれた上で冒険者ギルドへの報告それで良い」


「それで良いのですか……」


この街に二度と来ることは無い。


この街から1か月出られなくなるなら……もう関わる事も無いだろう。


「これ以上は無理だ。 一応彼等の中で金が無い奴がいたら、そいつの分の治療費は俺が出すから、手足をくっつけてやってくれ。スパっと斬ったからまだ繋がる筈だからな


「解りました。厳しいんだか甘いんだか……それで纏めさせて貰いましょう」


「それじゃ、あとは頼んだよ」


「はい」


これで終わった。


これでもうこの街に来ることは無い。


これで良かったんだ……


あいつ等だって被害者なんだから、命まで取る必要は無い。
















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る