第10話 聖女SIDE 私達にはどうする事も出来なかった。


「リヒトはきっと私達を恨んでいるでしょうね」


あの目、全てを失い絶望したような目。


恨んでない訳が無い。


言葉では『恨んでない』って言っていたけど、そんなわけ無い。


あんな地獄の様な生活を送らせて……恨まない訳が無い。


「マリアンヌ、馬鹿じゃないの? 恨まないわけ無いだろう? 僕たち全員殺したいって思っているに決まっている! 僕たちは殺されても文句なんて言えないよ」


「そうね……私も死にたくは無いよ? だけど、殺されても納得はいくよ」


私達はリヒトから幼馴染を助けて欲しいと何回も頼まれていた。


最初は助けようと思って勇者であるライトに意見はした。


だけど、彼は歪んでいて一切聞く耳を持たなくなかった。


何度も、何度も時には土下座までして幼馴染を助けて欲しいとリヒトは私達に縋ってきた。


だけど、私達は助けなかった。


いや、助けられなかったんだ。


我々の雑用を一手に引き受けてくれていた彼に、何もしてあげなかった。


なぜ、勇者のライトがあんな事をするのか解らない。


だが、同じ女の私から見てその酷さは惨いなんて物じゃ無かった。


確かに四職(勇者、聖女、剣聖、賢者)は同等なんて言われているけど、リーダーは勇者だ。


決して同等じゃない。


それでも私達は、注意はしたんだ……だけど私達が注意をすればするほどライトは意固地になっていった。


それに『魅了』は聖女の私も賢者のリリアでも解除は出来ない。


最後は言い争いになったけど……


『面倒くさいな……それ以上文句を言うなら俺は魔王と戦うのを辞めるよ……世界なんてもうどうでもいいや』


そう言われた。


これは脅しなのは良く解る。


そんな事したら国単位が敵になる。


だが、万が一本当に『魔王との戦い』を放棄されたら、世界が困る事になる。


だから、それ以上、私達は何も言えなくなった。


目を瞑り関わるのをやめた。


たった三人の犠牲で済むなら安いもんだよ……そう思うようになった。


そして、無理な願いをしてくるリヒトを、うっとおしく思うようになっていった。


『お願いですっ!助けて下さい』


『幾ら言われても無理よ』


最初はそう返していた。


だが、いつしかそれが、更にうっとおしいと思うようになり……


『うるさいな、ライトは世界を救う勇者なんだから女の三人位差し出しても良いんじゃない……二度と言わないで』


『魅了で壊れる物なら本当に愛してなんかいなかったんじゃないの?』


『もう、あれは幼馴染じゃないよ……他の女でも探した方が良いって』


とうとう私達は、彼を完全に見棄てた。


その時の悲しそうな顔は、今思いだしても私の心を抉る。


そして彼女達が命令されるまま体を売るようになると私達は……


『汚い女、なんでそこにいるの』


『良く、そんな状態で生きていられるわね』


『勇者パーティの汚点だよ! 顔も見たくない死ねば良いのに』


彼女達を罵った。


『彼女達は被害者』それが解っていても、勇者パーティの傍にこの汚い女たちがいるのが煩わしかった。


リヒトは……私達が彼女達を助けないのを非難するかの様に『最低限の事しかしなくなった』


討伐の時も詠唱中の私やリリアを守る事をしなくなった。


ただただ、私達を恨みを込めた目で見ているだけだ……


流石にこの状態じゃ居ても意味がない。


だから、ライトに頼んで、追放して貰った。


勇者パーティの追放だから建て前が必要だから……


能力不足を理由にして追放して貰った。



◆◆◆



「なぁ、今のお前は本当に必要な仲間に出会えたんだよな? 指輪まであげたんだから将来は結婚するんだよな?」


「正直羨ましい……だから、俺にもおすそわけをくれないか?」


「お前がおもちゃにしている、ケイト、ソニア、リタを俺にくれないか?」



「ライトにしたら意味が無いかも知れないが……あの三人は俺とお前が小さい頃から一緒に過ごした『幼馴染』だろう?」 


「そうだな、悪かったな。 言い換えるよ……ライトにとっては牝豚かも知れない……だが、俺にとってはライトと過ごした楽しい時間を一緒に共有した奴らなんだよ。 ライトはこれから勇者として活躍していく未来がある。だが、そこに俺は居ない。親友のライトと過ごした思い出の品として譲って欲しいんだ」


今迄全てを失い腐った目をしていたリヒトの目に炎が灯った気がした。


怒りを抑えて交渉しているのが良く解った。


「それだけど……悪いが奴隷商までつき合ってくれないか? そこで『リヒトの永久奴隷になれ』と命じて欲しいんだ。そして俺に受け渡した後で魅了を解いてくれないか?」


「ありがとうな」


淡々と話していたが......



ケイト、ソニア、リタを連れてこの場を離れていくリヒトの目から、明らかに恨みを込めた殺意が伝わってくる。


多分、彼は私達を生涯許さないだろう。


あの目が『お前達を許さない』そう語っていた。
















幼馴染を連れて泣きそうな顔で歩いていくリヒトの顔を忘れられない。




『殺したい』『お前も同じようにしてやる』明らかに恨みを込めた殺意が伝わってくる。


多分、彼は私達を生涯許さないだろう。


もしかしたら魔王と戦う前に……彼と戦う事になる未来があるかも知れない。


あの目が『お前達を許さない』そう語っていた。





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