第9話 リタ お嫁さんで妹


「もう帰してよ……もう嫌だよ……お兄ちゃんみたいに思っているリヒトとこんな事するなんて……うわぁぁぁぁーん」


泣きじゃくるリタを見て罪悪感が沸いてくる。


「「リタ……」」


魅了がとけたケイトとソニアも声が掛けられない。


可笑しくなる前は、二人ともリタを妹の様に可愛がっていたから余計だ。


俺達幼馴染を兄妹に例えるならリタは末っ子の妹みたいな感じ。


それが泣き叫んでいる。


ライトが真面なら、きっとケイトかリタと結婚して5人で仲良く暮らす。


そんな未来もあった。


……いや無いな。


『勇者のジョブを貰ってから彼奴は変わってしまった』そう思っていたが、そんな短期間で人が変わる訳が無い。


あのクズっぷりは根っこから腐っている。


きっと元からそうだったに違いない。


良く、猫をかぶっていたもんだ。


◆◆◆


「なんで、そんな目をしているのかな?」


「別にねぇ ケイト……」


「うんうん、ソニア……」


ソニアもケイトも魅了が解けたから、受け身じゃなく俺と一緒に攻める方に加わって貰う事にした。


リタは妹分で甘えんぼうな所があるからこの方が良い。


それに三人でした方が万が一の時への対処もスムーズにいける筈だ。


「裏切り者……いやだ、女の子にされるなんて……いやぁぁぁぁーー! 嫌だって 二人とも目が怖いよ……そんなやめて……いやぁぁぁーー」


リタも売春をさせられていた。


冒険者の中には女性でも女を買う人も居る。


それなのに、なんでこんなに怯えているんだ?


「リタが怯えている様に見えるんだが……」


「リタはこの容姿だから女冒険者に貸し出されて酷い目にあった事があったから……」


「やっぱり、あれがトラウマになっているのかな? 沢山の女冒険者に犬扱いされて連続奉仕させられたやつ......」


俺も全部知っている訳じゃないと言う事か。


「それじゃ、そうだな、ソニアとケイトはリタの手を離してくれ……それじゃ」


「解ったよ……ちゃんとしないと解放してくれないんだよね……」


まるで死んだ目の様な瞳で、ソニアとケイトの手を放し、モソモソと俺の体に跨ってきた。


皆が、痣や傷だらけだけど……リタが一番酷いな。


リタの女性に対する怯え方……


もしかしたら性的なことじゃ無くて純粋に『暴力の捌け口』として買われた事もあるのかも知れない。


小柄で胸が小さく幼く見えるリタ。


そのリタの体は痣と切り傷だらけだった。


二人以上にナイフで刻まれた文字が多い。


この傷はもう治らない。


痣は消えていくが、こういう切り傷は魔法でもポーションでも治らない。


歴戦の戦士の切り傷の跡がポーションや魔法で消えないようにこの傷は消えることは無い。



この傷……何だよ……『中出しOK 1回銅貨3枚』 それがお尻に刻まれていた。


銅貨3枚(3000円)


体を売るにしても、こんなのを彫られたら、真面な客がつかないだろう。


他にも火を押し付けたような火傷の跡は二人の倍以上ある。


キスをした時に気がついたのだが、歯も何本か抜けていた。


恐らく殴られた時に抜けたのだろう。


こんな小さい体で……


駄目だ……


2人が戻ってきた事で気が緩んだのかも知れない。


「ううっううっ……」


涙が……涙が出て来た。


「「リヒト」」


「……」


「大丈夫だ……うっうっ……」


「きゃははっ、リヒト泣いて変な顔、馬鹿みたい……キモイ……女を抱いている時に鼻水まで流して……ブタみたい」


「ううっ……リタ好きだよ」


こんなに傷だらけで、ボロボロになって……


「きゃはははキモ……キモ……キモく無いよ、リヒトは……キモイのは私、うえあぁぁぁっぁぁぁーーっ! うえぁぁぁぁぁぁーー私は私は……リヒト……ごめんなさい」


そう言うとリタは頭を床に打ち付けようとした。


「ケイト」


「うん!」


すぐにケイトがリタを押さえつけた。


それでも最初の1回が間に合わずに、ガツッと音を立ててリタの額がぶつかり、額から血が流れる。


「止めないで……リヒト、私……私、汚れちゃった……ゴミみたいに汚れちゃったよーーっ」


「俺はそんなの気にしない」


「嘘だよ……こんな銅貨3枚でも買われないようなゴミ女なんだよ!」


オークマンは正しかったんだ。


これ以外『女性の尊厳』を守る方法が無いんだな。


「あのさぁ、リタ、今迄俺達は何をしていていた?」


「リヒトに……リヒトに抱かれていた……」


もう妹分としては諦めるしか無いな……


姉貴分としてのケイトはもう居ないの同じだ。


「好きでも無いのに抱く訳ないだろう?どんなに汚れようが構わない、俺はリタを愛している」


「そんなの嘘だよ……リヒトが愛しているのはソニアじゃない……私じゃないよ!」


「同じ位、リタも愛している」


「本当に? こんな汚れている私を愛してくれるの?」


「うん、愛している」


出来るだけ、笑顔を作り……優しく応えた。


「胸も小さいし、私凄くガキ臭いよ……ライトからガキみたいで抱く価値が無いって言われたんだよ!」


「そんな事無いよ……凄くリタは可愛いよ」


「そんな……信じられないよ……」


「言わせて貰うけど、それじゃリタはリヒトと恋人になりたくないのかな?」


「僕としては人数が減った方が良いから、リタはライトの所に帰っても良いよ……そうしな」


「あそこは嫌……ソニア、ケイト……酷いよ……」


「自分の体を見なよ、私達全員、最悪だよね……一生消えない傷が沢山あるし……沢山の男に抱かれた汚い体じゃない。 それでもリヒトは傍にいて欲しいって言ってくれた」


「どう考えても、僕たちって奴隷としても価値が無いよ……恐らく二束三文で売られている奴隷だってまだ真面な人がいるんじゃないかな?」


「ううっ、そうだよ……だからリヒトは私なんか愛して......」


「馬鹿じゃない? 私達の為に命すら捨てかねないリヒトがリタを愛していない訳ないじゃない?」


「僕やソニアの為に命まで賭けるんだよ……リヒトはね。そんなリヒトを信じられないの?」


「だけど、私は二人と違って、女らしくないんだもん。ガキみたいって……皆していじめるんだもん……一生懸命頑張っても、クソガキって言われて……叩かれて蹴られてばかり、リヒトに愛される自信なんてないもん! 綺麗な体でもそうなんだよ! 便所としても価値が無いってライトに言われ……うんぐっ……ハァハァリヒト?」


「便所にキスなんてする男は居ないだろう? 俺はリタを愛している……『リタ一人を愛している』とは言えない。 だけど俺にとって三人以上に大切な存在は居ないんだ。三人の為なら命を賭けられる位好きなんだ」



「そんな嘘だよ……今の私なんて……リヒトだけじゃなく誰も愛するわけないよ……あはははははっだって便器以下なんだもん」


どうすれば良い。


ソニアの時にみたいに命を賭ける様なことをしたら、今度はソニアやケイトが悲しむ事になるから出来ない。


「だったら、そのままで良いよ。元から俺の奴隷だから俺の傍に居るしかないんだから……」


「リヒト……」


「俺は、此処から出たら、ソニアとケイトと結婚するつもりだ」


「リヒト、嘘本当にそうなの……いやだうっうっ、嬉しい」


「僕、本当にこんななのに、お嫁さんにしてくれるの?」


「ほうらね、やっぱり私なんて愛してないんじゃない? 私……」


「俺はリタも花嫁にしたかったんだよ! だけどリタは俺なんか信じてくれないんだろう……だったら悲しいけど諦めるしかない……」


「違う!」


「だったら、俺のことが嫌いな……」


「リヒト、それは違うよ! 私はリヒトが好き……大好きだよ」


「それじゃ……」


「本当に、こんなゴミみたいな私で良いの? 本当に?」


「うん」


「私、リヒトに嫌いって言われたら、その場で死んじゃうからね!」


「そんな事絶対言わないよ」


「妹分じゃなくて『お嫁さん』で良いんだよね……」


もう、妹にはなって貰えない。


解っているけど、やはり寂しい。


俺は……


「両方は駄目かな?『お嫁さん』だけど『妹』両方が良い……駄目かな?」


「あはははっ、リヒトって欲張りさんなんだ。 良いよ……お嫁さんにしてくれるなら『妹』にもなってあげる……うん、解ったよ」


「それじゃ、僕は『お嫁さん』だけど『お姉ちゃん』が良いのか……それも良いな……了解」


「リヒト……私だけ『お嫁さん』だけなのかな? なにか他になって欲しいもの無いの……あっ、そうだ、お母さん」


「「「それはない」」」


「ううっ、酷いよ」


欲張れば良かったんだ……


姉みたいなケイト、妹みたいなリタだって取り戻すことは出来る。


諦めなければきっと大丈夫だ。


これできっと、昔見たいになれるよ…… 



















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