第7話 取り戻したソニア リヒト愛している
無造作に転がっている干し肉とパンと水筒。
部屋の隅にあるトイレ代わりのバケツと尻拭きようの紙。
家畜小屋の様な獣じみた臭いに汗と糞尿の混ざったような臭いが部屋に充満している。
この部屋に窓は無いからもう何日経ったか解らない。
「ううっ……リヒト……助けて……」
「いやだよ……僕、こんな事したくない」
「おねがい、私が好きなら殴らないで……叩かなくても私ちゃんとするから……なんで、私ちゃんとしたのに叩くの」
眠っているソニア達は悪夢にうなされている。
別に正常になった訳じゃない。
前から眠っている時にこうして正常になるのか、偶にうなされている。
これがあるから、俺はソニア達が見棄てられなかった。
魅了で操られている姿は偽りだと確信したんだ。
例えどれ程、体を汚されようが、酷い仕打ちをされようが『本物の心』までは魅了では奪えない。
そう思えた。
女神が勇者のみに与えるエクストラスキル『魅了』
それを持ってしても『本物の心』までは奪えていない。
なんだ……クズ女神の力でも奪う事は出来なかったんだ。
『本当の心は』
女神イシュタス……俺は何度お前に祈ったか解らない。
小さい頃から教会で祈り、俺は熱心な女神教徒だった筈だ。
いつも、お前の敵である魔物を狩っていた。
幼馴染が壊されてからも『助け』を求め何回も祈った。
だが、お前は助けなかった。
お前の使徒の勇者が俺の幼馴染を壊し……聖女も剣聖も賢者も知らんぷりだ。
だから、俺はお前を捨てる。
俺は、今迄持っていた、女神信徒の証であるペンダントを糞尿の入ったバケツに放り込んだ。
ただでさえ汚かった体が風呂にも入らずやり続けていたから、更に汚くなった。
俺もソニア達も浮浪者処じゃない位汚い。
生ごみの腐ったような腐敗臭が三人からしてくる。
特に股間やお尻は悪臭に近い。
それは最早俺も同じだ。
4人で歩いたらきっとスラム街が似合う浮浪者にしか見えないな。
『ソニア、ケイト、リタ……俺頑張るからな』
俺は汗と垢と糞尿でむせかえる程臭う、三人を抱きしめた。
◆◆◆
「もう、満足したでしょう……私にしてない事なんて何もないじゃない……私だって全部したよ……これで良いんでしょう……満足したよね……帰してよ! 此処迄したら満足だよね……もう帰して、帰してよーーーっううっグスっううっうわぁぁぁーーん」
気丈で決して泣かないソニアが子供みたいに泣きだしだ。
「そうだ、僕の右腕をあげるよ……剣士の命だ。 それで良いんじゃないか? 今すぐ切り落としてあげるから……ハァハァこれで僕の命を差し出した……そう考えてくれないか? だから、お願いだ……お願いします……ライトの所へ帰してくれないか……頼むから」
「リヒトは私の瞳が好きって言っていたよね? 両目あげるよ……ライトの所に帰してくれるなら両方あげる……だからグスっ……スンお願いだよ……帰してよ……」
「体のパーツをあげたら帰してくれるの? だったらそうだ私は左手薬指をあげる……それでどうかな……駄目なら左手全部あげるよ」
「誰もそんな事言ってないだろうが……約束は1か月。それを反故にするなら、もう終わりだ。俺は生涯お前達を解放しない。二度とそんな事を口にしないでくれ」
「「「解った」」」
俺は彼女達を騙している。
奴隷とはいえ約束は守らないといけない。
だが、この約束は一方的に俺の自由に出来る。
『そこまで言うなら、解った!1か月だ! 1か月間、食事と排泄以外、寝る間も惜しんで抱かせて貰う!……そしてお前達は俺を『満足させろ』1か月経った後、『俺を満足させきり』それでもライトが好きだっていうなら解放してやるよ!』
満足って基準は俺が握っている。
どんなに彼女達が頑張り俺をいかせまくっても、最後に俺が『満足して無い』といえば終わりだ。
こんな事にソニア達が気がつかない筈はない。
もしかしたら、魅了は思考さえも鈍らせるのかも知れない。
◆◆◆
いつもの様にソニアを抱いて居た時だ。
濁っていた様に見えていたソニアの瞳が光を取り戻した様な気がした。
これは……もしかして……
「ケイトとリタはもう良い……下がって座って」
「今日はソニアを使うんだ。まぁ僕は楽で良いけどさぁ」
「ソニアお気の毒――っ、嫌いなリヒトに犯されまくるなんて、私は、じゃぁ休んでいるよ」
『黙れ』
二人を黙らせた。
ようやくだ。
ようやく、その時がきたんだ。
「ううっ、リヒト!? 嘘私なんで……嘘、わたし……ライトと嫌、嫌、いや、これは私、本当に私なの?いやぁぁぁぁぁぁぁーーーーーっ、私は、私は......うんぐっ、ハァハァ」
俺はソニアが舌を嚙み切らない様にキスで口を塞いだ。
「ぷはぁ、大丈夫、大丈夫だから、愛している……愛しているからねソニア」
「嘘だーーーっ! 私は私は……汚い、汚い女なんだよ! 大好きなリヒトの前であんな事やこんな事……ライトだけじゃない街中の男に抱かれて……うんぐっぷはぁ」
キスで遮った。
「それでも俺はソニアを愛している」
「こんな汚い体でもリヒトは愛せるって言うの? 沢山の男に抱かれ子供をおろし続けたから、赤ちゃんも産めない体なんだよ」
「いま、正に愛し合っているだろう? それでも俺はソニアが好きだ。どんなに汚れようとそれでも好きなんだ!」
「駄目だよ……リヒト私なんか……もう汚いゴミだもん……相手なんてしない方が良い……うんぐ……ハァハァなんで言わせてうんぐ」
否定的な意見を言う度にキスで口を塞ぐ。
「俺はソニアや幼馴染が好きなんだ。 記憶はあるんだろう? 俺がどんな想いでいたか解るよな? 助けられなくて、それでも諦めきれなくて彼奴がライトが、飽きるまで長い時間待っていたんだ」
「だけど、私……私、こんな汚い体で、貴方を裏切り続けて……生きて行きたくない……ごめんねリヒト、私……」
『死ぬな』
「うぐっ」
嘘だろう、奴隷紋でも押さえられないのかよ、舌を噛もうとしている。
無理やり押さえてやめさせる事も出来るが……
それじゃ一時しのぎだ。
どうすれば良い。
『『この人の為に生きたい』もしくは『この人は自分が死んだら悲しむかもしれない』『この人は自分が居ないと生きていけない』そこ迄思わせて初めて第一段階の終了だ』
オークマン……そうだよな。
「どうしても、ソニアは死ぬっていうんだな……それなら良いや……俺、もう生きていたくない……」
「うぐっ、リヒト!?」
俺はソニアに背を向けストレージからナイフを取り出す。
「さようなら、ソニア……」
俺はナイフを首筋にあてがい一気に引いた。
首筋から血が一気に吹き出す。
「嘘……リヒト、リヒトっリヒトぉーーーっなにしているの! 嫌だ、嫌だ嫌だぁぁぁぁぁーーーーーっ!」
ソニアが命を捨てるって言うなら、捨てられなくしなくちゃな。
だったら『上乗せするしかない』俺の命を。
「俺、ソニアが居ない世界でなんて生きたくない、ハァハァ。ソニアが死ぬっていうなら俺も死ぬ……からな」
「リヒト嫌だよ……嫌だ……私なんかの為に死なないで、そうだポーション」
「要らない……ソニアが死なないと約束してくれないなら、このまま死なせてくれ……」
俺はソニアが俺のストレージから取り出し、手にしたポーションを払いのけた。
「ううっ、解ったよ……こんな私でもリヒトは生きて欲しいんだね……こんな汚らわい体の私でも……良いよ、私生きるよ。リヒトが要らないって捨てたくなるまで生きる……だから私なんかの為に死なないで……お願いだから……ねぇリヒトお願い……リヒトに死なれたら私、地獄に落ちても償いきれないよ......」
「ハァハァ、解った」
俺がそう言うとソニアは俺にポーションを振りかけた。
「それじゃ……うんぐっ」
俺はソニアの手からポーションを受け取り口に含みキスをした。
「うんぐっ……リヒト?」
これで、ソニアの舌も治った筈だ。
「ソニア……好きだ、愛している」
「私、凄く汚い女だよ……」
「知っている」
「沢山の男に抱かれて中絶を何回もしたから赤ちゃんも作ってあげられないんだよ……」
「知っているよ、教会に連れていったのは俺だし……それに赤ちゃんは要らないから丁度良いかな」
「赤ちゃん……産んであげられないんだよ」
「俺はソニアの一番でずうっといたいんだ。赤ちゃんが生まれたらソニアの一番が赤ちゃんになって焼きもち焼いちゃうから要らない」
こうでも言わないと、きっとまた落ち込むよな。
「あはははっ、リヒトううっぐすっ、本当に私が好きなんだね……ゴメンね……本当にゴメンね……」
「魅了に操られていたんだから仕方が無いよ……それより謝るより『リヒト大好き』もしくは『愛している』って言ってくれた方が嬉しいな……俺はずうっと言っていたんだから」
「リヒト愛しているよ……あっ」
「冴えないね、ゴメン……」
なんで下半身が反応するんだよ。
「良いよ、こんな私でも反応してくれるんだ……嬉しい……それじゃ」
「ちょっとソニア」
「大丈夫、思いっきり気持ち良くしてあげるから」
そういってソニアは俺に跨ってきた。
今迄のとは全く違う。
生き生きとして明るい表情で俺を貪るように求めるソニア。
これが本物のSEXだとしたら今迄の物は全くの別物だ。
全然違う……
なんだ……女神だ勇者だと言っても本当の心までは奪えないんじゃないか……
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