第3話 紫苑の正体 屈辱の潜入捜査

それから暫くして。


「ふぅ…ふぅ…ふぅ…うぐっ…うぅ…」


紫苑は床にうつ伏せの体勢で横たわっていた。

しかもお尻を突き出し、情けなくビクビクと体を痙攣させながら。

その紫苑のお尻をレモンはその白い手袋に包まれた手で優しく撫でている。


「おつかれ、楽しかったわ。じゃあまた明日ね」

「ふぅ…ふぅ…んぐっ!…ふぅ…ふぅ…」


レモンは紫苑の黒タイツで包まれたお尻から手を離し、テーブルに鍵を置く。

そして更衣室のドアの鍵を開け出ていった。


一方更衣室に残された紫苑は暫く突っ伏していた後、両手を床に着きゆっくりと上体を上げる。


「ふぅ…ふぅ…ふぅぅぅ…」


大分呼吸が落ち着いてきたようだ。

それに股間とお尻からの振動音ももう聞こえない。

紫苑は足をガクガクさせながらなんとかその場に立ち上がる。

そしてテーブルに置かれた鍵を手に取り、ロッカーに入っていたトートバックを手に取った。

そのバックを手で力無くぶら下げながらおぼつかない足取りで更衣室を出た。


「ふぅ…ふぅ…うぅ…」


更衣室に来た時のように内股になりながら壁に手をついて違う部屋に入る。

そこはシャワールームだった。


シャワールームの個室の前にあるカゴにバックを入れると着ぐるみ姿のままそのドアを開け、内側からドアの鍵をかける。

そして個室の壁に背中をもたれかけ、ズルズル力なく腰を下ろして体育座りのような体勢になる。


「ふぅぅぅ…うぐ…」


レモンから渡された鍵をマスクの後頭部、ウィッグで隠れているうなじあたりに差し込み、回す。

カチ!っという金属音。

ジ~っとジッパーを開けるような音の後、紫苑は着ぐるみマスクを上にあげる。


「ふぅぅぅ…うぅ…」


マスクが取れた。

それと同時に蒸気がむわっ…と上がり、マスクの顎の部分に溜まっていた汗がドロ…とメイド服に垂れる。


マスクの中からは…やはり男性の顔が出てきた。

肌タイツが顔の部分だけくりぬかれていることと、中性的な顔のため一見すると性別がわかり難いが。


「うぅ…うぐ…」


そして彼が今まで一切喋らなかった理由がここで判明する。

なんと猿轡を付けていたのだ。

肌タイツは彼の汗でびっしょりになっていて、口元は今まで流れた唾液でべちょべちょになっている。

首筋の染みは汗染みによるものだと思われていたが、口を閉じられずに流れ出た唾液も含まれていたようだ。


彼は気だるそうに後頭部のチャックを開け、うなじあたりまで下して肌タイツのフードを脱ぐ。

彼の匂いが個室内に立ち込めていく。

そして後頭部に両手を回し、猿轡のベルトを緩めた。


「ぷは!ぶふっ!はぁ…はぁ…はぁ…ふぅぅぅ…」


猿轡を外した瞬間、彼の口から唾液がドバッ!っとメイド服に垂れてしまった。

何時間も噛まされていたためか、口を頻繁に開けたり閉じたりして固まった筋肉をほぐしていた。


「ふぅぅぅぅ…」


大きく深呼吸をした後、彼はよろよろと立ち上がりメイド服を脱いでいく。

やはりびっしょりになっていた。

特に唾液に濡れた首筋、背中や脇、お腹がひどく汚れている。

そして黒タイツに包まれた股間は汗とは違う体液でぐちょぐちょだ。


肌タイツの上から律儀に付けていたブラジャーを外し、肌タイツのチャックを腰まで下ろす。

そして汗で脱ぎにくくなったタイツから、その手に嵌めていた長手袋ごと抜き去る。


肌タイツを腰まで脱ぐ…彼の腰にはコルセットが巻かれていた。

紫苑のモデルのような体型はこれによって無理やり作られていたのだ。

彼は背中に手を回し、ギチギチに締め上げたコルセットのひもを緩めていく。


「はぁ…はぁ…うっ…ぷはっ!はぁ!はぁ!はぁ…はぁ…」


コルセットが取れると同時に彼の口に新鮮な空気が入ってくる。

いや、個室内は彼の汗と匂いで満たされており、そこまで新鮮ではなかったが。

コルセットに締め上げられていたせいでお腹の辺りにその後が赤く残ってしまっていた。


続いては腰まで下がっている肌タイツに手をかけ、黒タイツごと一気に太ももまで下す。


にゅる…ぐちょ!!


「うぐっ!」


なにか薄手のゴム製の筒が音を立てて床に落ちる。

筒から白濁した液体がドロ…と流れ出る。


そう、彼は肌タイツの下でこの筒に自分の男性器を入れていたのだ。

しかもその筒にはピンク色をした小さな器具が付いている。

おそらくこれが股間からでる振動音の源だったのだろう。


「はぁ…はぁ…うぅぅ…」


彼は床に落ちたその淫具を見ながらタイツから足を抜く。

股間、いや太ももが汗とは違う体液でぬらぬらと光っていた。

そしてお尻の方に手をやり、眉間に深いしわを寄せた。


「う…うぅ!はぁ!はぁ!うっ…うぅぅ!うぅぅぅ!」


苦悶の表情を浮かべながらプルプルと体を震わせる。

ときおり喘ぎ声のような切ない声を上げながら。

一体何をしているのだろうか?


「はぁ!はぁ!はぁ!ぐぅ…うぐっ!うぅぅん!いぃぃぃん!!」


じゅるり!ゴトン!


彼がお尻から何か黒く、丸いゴムのようなものを引き抜いた。

それが音を立てて床に転がる。


「はぁ!はぁ!はぁ!はぁ…あぁ…」


彼は顔を真っ赤にしながらへなへなとその場に腰を下ろす。

先ほどまでの辛そうな表情と違い、どこかスッキリしたような、そんな顔をしている。


そう、これが彼のお尻からしていた振動音の元凶…アナルプラグ。

彼は股間だけでなく、こんな凶悪なものでお尻の穴、いや前立腺をグリグリと責められていたのだ。


「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…くぅ!」


一番つらかった淫具が取れて解放されていた彼の顔がまた曇っていく。

眉間にしわを寄せ、唇をキュっと噛みしめるような、そんな悔しそうな顔に。


(くっ…なんで俺がまたこんなことをしなくちゃいけないんだ!)


彼は汗まみれの全裸のまま、しばらくその場から立ち上がることはできなかった。

個室には彼が今まで着ていた着ぐるみによる体液とむせ返るような匂いが充満していた。



彼の名前はリアン、麻薬取締官だ。

現在、新たに開拓された麻薬取引の現場を押さえるために活動している。

そしてこの着ぐるみ喫茶「ドールズ」がその現場というわけだ。

そのためリアンは仕方なくあの着ぐるみメイド"紫苑"として働き、証拠をつかむため三週間も前から潜入している。


リアンは男性のわりに顔立ちが中性的かつ細身で肩幅も狭いため、普段から女装して囮捜査をさせられることはしばしばある。

本人としてはかなり嫌なのだが、成果が出てしまっており皮肉が効いている。

そして今回も案の定、女装(着ぐるみ)で潜入させられることになってしまったのだ。


この着ぐるみ喫茶は定員の募集に性別による制限はかけていない。

そのため体型がいい意味で男性らしくないリアンも簡単に潜ることができた。

しかし大きな問題が発生した。

それがあのリアンに課された忌々しい淫具の装着義務だ。


この着ぐるみ喫茶のオーナー、ノエルは若い男が大好きだ。

しかもリアンのようなスラッとした細身の男性は尚更大好物だった。

そしてノエルは厄介な異常性癖を持っている。

それはリアンのような男性を着ぐるみに押し込め、女性として振る舞わせ、虐げることなのだ。


そのためリアンが着る着ぐるみ"紫苑"には黒タイツとハイヒールをわざと履かせ、その脚線美を露わにさせて辱めている。

そのうえコルセットのみでの体型補正に加え、口に猿轡、股間と肛門にあの淫具を装着させている。


あのレモンという名のリアンを虐めていた着ぐるみメイド、実はアレの中にはノエルが入っている。

紫苑が店内でお尻をビクつかせていたのもレモンに扮したノエルが淫具のスイッチをいじり、中のリアンに性的快楽を与えていたからだ。

自分も店に出つつ、紫苑…いや中のリアンが刺激にビクビクするさまをマスクの中でニヤニヤしながら見ていたのだ。

しかもノエルの手に着ぐるみの鍵が握られているため、リアンは自力でこの忌々しい着ぐるみを脱ぐことができない。

この状況は他のメイドもうすうす知ってはいるのだが、ノエルに口を出そうものなら次は自分の身が危うくなると、何も言い出せないのだ。


一方捜査は難航していた。

リアンは店内やバックヤードにカメラやマイクをいくつも仕掛けているのだが、まだ麻薬取引の現場を押さえられていない。

そのため、いくらノエルから物理的にも性的にも嫌がらせされてもただただ耐えることしかできないのだ。


(本当にここが現場なのか?もう三週間も経ってるのに…間違ってたら許さないからな!)


リアンは今の情けない自分の姿と理不尽に与えられた任務に苛立ちながらも汚れた体を熱いシャワーで流すのだった。

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