~人間横丁~(『夢時代』より)

天川裕司

~人間横丁~(『夢時代』より)

~人間横丁(にんげんよこちょう)~

 心太の様(よう)に透き通りながらも幾つかの残像をシャボンのように反射させ行き、奇麗に整う夢想(ゆめ)の内には、明日(あす)を暮れない目下の自分と、それを遮る現行等とが交錯しながら矛盾を吐き、俺の労苦は現実を観た。俺の体(からだ)が四方上下へ言動(うご)いて数々世に出た俺の一団(からだ)は如何(どう)でもこの地に根城を構えて宙(そら)を手にして喜びたいと、無数(あまた)に拡がる宙(そら)の欠片を手中に落して生き抜く事を、本気で憶えた四月の春。風は冷たく未だに咲かない桜(はな)の命は俺の周囲(まわり)で自然に解け入り、素知らぬ表情(かお)して何処(どこ)へ行こうと俺の体(たい)へは向かなくなった。女が居た。著書(ほん)を束ねて陽光の内にて英気を養い口数少なく又肌の少々浅黒(くろ)い女であった。そいつは俺へ現れ、ちょこんと会釈し笑顔を見せ行き、独創(こごと)を発する俺の肢体(からだ)へ触れ行き、所々で安(やす)んで腰掛け、休憩するのはよく図書館から望める銀杏(いちょう)の木の下、静かに備わるベンチの傍(そば)だ。座って居るが思惑(こころ)の内では明日(あす)へ芽が出て感覚(いしき)が躍動(おど)り、如何(どう)でも消せずの不安等には目下落ち得た自身の筵が縮んで観え行き俺へ届いて、図書館(うち)へ帰ると何時(いつ)もの諸業(しょぎょう)で女性(おんな)の躍起(ちから)を胡散に散(さん)して客(ひと)の入りなど臆面の内に数えて愉しむ。小さな日常(できごと)等には滅法気が行き、注意せずとも白紙が泳いで自力で活きて、脚色(いろ)を知るのは曇天成れども晴れの内でも変らず火の粉を落して純白(しろ)くして行き、俺の立場を圧倒して行く。俺の四月(はる)には発芽知らずの無重(ふりょく)が湧き行き、憶えられない無想の独語(こごと)は連呼と成り得て一体(からだ)を結び、彼女の道後を後(あと)から斜に構えて目的(さき)を知り得て少年(こども)と成って、彼女の眼(め)に良く映るだろうと画策したまま構築し終えた試算の残骸等を、頭上(うえ)に転がし思想を捲れば雲の内には伽藍が輝(ひか)る。泥濘(ぬかる)んだ瞳には明日(あす)が映らず曇りが在って、出し抜け気味には蛻を呈する苦労が羽(は)ためく。聖書の文句を壁へ並べてこの世に在る事無い事呟き知りつつ明日(あした)の糧をも今日の糧をも取ろうと努めて、行く行く白日(くうきょ)に成り行く自身(おのれ)の定めは孤踏(ことう)に知り行き到底知れない樞(なぞ)の在り処を捜索して行く。伴侶を探してずんずんずんずん現行(ここ)まで辿って漸く芽の出る〝凌駕〟の闊歩を孤独に見知れば明日(あす)の成果は漲り溢れて目に良く映り、如何(どう)にも咲かない凡庸(くうきょ)が規律(きまり)が眼前(まえ)飛び行き俺の白刃は白日(はくじつ)と化す。明日(あした)を知り得ぬ、知られぬ空虚を微塵に携え今日を束ねた生力(ちから)を知るのも夜毎に落ち着く座位の姿勢に多忙を知らされ、独語(こごと)は現在(いま)でも空気(ちり)の間を飛び交っている。媒体(メディア)を知らない俺の煩悶(なやみ)は何時(いつ)しか寝床へ飛んで自体(おのれ)の空虚を大樹へ目掛けて手足を拡げ、丸投げされ行く努力の源(もと)など白目を剥きつつ俺の幹(からだ)へ還って行った。所々で慌てた骸は何度も寝起きし、俺の寝床へ布団へ潜って行くから如何(どう)にも「これぞ」と糧を見付ける様子も無い儘ひたすら明日(まえ)へ明日(まえ)へと辷(あせ)って行って、明日(あす)が昼でも夜でも休みを知らない哲学(まよい)の人道(みち)へと大きく仰け反り入信(はい)って行くのだ。信仰(おもい)の欠片は断片毎に総身(からだ)を紡いで独走(はし)り俺の眼前(まえ)から消えて行くから体温(ぬくみ)は焦って冷淡(ひやり)とした儘、都会の流動(くうき)へ埋没して行き、鵥の鳴く夜独創(こごと)は白めき立って大樹を束ねる手腕の翳りは俺へと注ぎ、白昼(まひる)に堕ち行く肢体(からだ)の動静(うごき)が敏感成るまま色を失う。明日(あす)を今日へと、昨日を今日へと何かの糧(いみ)を知っていながら何かの手腕(て)に依り闇へ絆され、何かを見付けた千里眼(め)には虚ろに何かの生命(いのち)が燃え行き散り行き、灰色(さかい)に咲き得た何かの苦汁は灰汁を報(しら)さぬ態(てい)にて俺の還りを寝床に待った。結局、〝何か〟は力を尽さず俺の夢想(ゆめ)へと表れたまま四旬を遮る様相(すがた)を報さず透って行って、空(くう)の如くに得体の知られぬ余裕(ちから)を宿す。

 到底適わぬ春の寝床で観た夢想(ゆめ)から幾度も幾度も触手(て)が伸び青空(そら)へと生えて、遠くに消え得る囃子に見立てた白画(はくが)の縁(ふち)を機嫌取りして端正(きれい)に見立てて矛盾を取り去り、太宰の過失を自分の元へと、成功(かたち)を成すまま喝采され行く遺品の数等、日の照る下にて行水させて、俺の下へと還って来るまで、彼(かれ)の声明(いのち)に自分を仕立てて初夏(なつ)を待ち得た。透明色した硝子の向こうにひょこんと咲き得た小さな声明(いのち)が通りすがりに私へ呼び掛け、〝何処(どこ)かへ行こう〟と踏ん反り返った夢想(ゆめ)の内にて心地良く鳴り、私の小志(しょうし)は母に聞いたと錯覚したまま何処(どこ)へ行くとも知らぬ内にて蒼い空には煙を観ている。

 俺は俗世へ還り、嫌々ながらに協力し出して、他人と偽る俗世の魂(あかり)にその総身(み)を寄せ行き頻走(ひたばし)りと成り、倖(こう)も不倖もあっと言う間に通って消え去り、残る寂寥(かたち)に感情失くして不動に落ち着く。落ち着く果てには他(ひと)の情(かお)など具に知れずに感嘆行くまま振り向きもせず、俺の寝床へ生水(みず)が差すほど屈託せぬまま輝(ひか)る活性(いのち)は他情(たにん)に在って、俺の独歩は混沌活(い)く内如何(どう)でも知り得ぬ自然を見限り他(ひと)を呪って、他(ひと)の生輪(わ)からは外れて行くのだ。それでも俺には大きく見積り、霧散を呈した人の骸が狂気を採り活き被さって来て、落ち着く俺の腰には先程(さき)から輝(ひか)って落ち着く知り得ぬ女が居座り顔だけ覗かせ、体を保(も)たない意識の内では俺を罵(ば)し得る活気が仄(ほの)めく。女の表情(かお)など見たくもないのに始終活き行く女の身元は恐らく混沌(まざ)った事実を曲げ行き時代(とき)を創って安泰を成し、制した俺の心身(からだ)に具に撥ね行く泥の代わりに汗水(におい)を飛ばして母体(からだ)を形成(つく)り、俺の身元はそうした女性(おんな)に形造られ如何(どう)にも落ちない体臭(におい)を発する。

 俺は多勢が居座る一枠(クラス)に在った。何やら会話の飛び交う無造を呈する気熱であって、俺の寂寥(こころ)は直ぐさま孤独を忘れて輪に解け息を牛耳り、独声(こえ)に任せて悪政束ねる主(あるじ)の下へと先を急いだ。主が居たのは皆の頭上(うえ)にて太陽に観え、如何(どう)にも眩しく幻惑するまま一寸外れた陰(やみ)の内より干乾び果て行く霧散(みな)を知り行き、俺の心身(からだ)は主体(かたち)を拵え、霧散(やみ)に構えた。〝同級など要らぬ、俺には冷たく表情(かお)も見せ得ぬ不要な塊(やから)だ。如何(どう)してこの世に居座りしたり顔して笑って在るのか?皆(みんな)仲良く死ねばいいのに…〟、それほど退屈(ひま)を余した俺の体躯は好(こう)を逸して思春を捉え、時流(とき)の向くまま行くまま意識の開闢(はじめ)を掌(て)に採り転がし小馬鹿にしたまま土に棄て行き、俺はそれから供を探して神を見据えた奇遇を愛した。〝俗世の女は俺には要らぬ、俗世の男も次に要らぬ。両親だけが俺を見守り愛して、俺の為にと生汗(あせ)を流して懸けて行って、俺の傍(そば)にも永く居た。死んでも死なずに托生活くまま他と違って永劫(ずっと)居座り、俺の眼(まなこ)は満たされるだろう…〟、色々呟き恰好付けても俺の周(そば)には未だ変らず塊(むれ)が忍んで、弱い計画(はかり)の上では欲が踊った。

 〝皆で何処(どこ)か旅行へ出掛けて、湯にでも浸かって愉しんでみよう〟等とそこへ辿って経過(とき)を数えて、耄碌して行く俺の心身(からだ)が伸び行く最中(さなか)に皆の口から連呼され活き、如何(どう)でも向きを変えない強靭(つよ)い主(あるじ)は堅固に護った己の牙城(とりで)を落そうはせず、俺の夢想は夢に甚だ脚色(いろ)を付け活き、皆の還りを自分に待った。改心して行く古豪の砦は俺の心内(うち)にも微動に揺るがずひっそり建てて在り、白紙の内でも〝好(こう)を逸した〟あの頃(とき)等から一層大きな欲望(かて)を見知って飽きさえ知らずに〝蛻〟を打ち消し、遠くへ輝(ひか)った女の無感は酷く焦げ落ち至高に退屈(ひま)を極めた牛歩(ちから)を採った。下らなく、詰らない、女の魅了に散々廻され現行(ながれ)は何時(いつ)しか止み活き俺の周囲(まわり)で好機を取り消し俺は逸して、逸した好機は束の間揺らいで俺を過ぎ行き心許なく主(あるじ)の床まで還って行った。

 〝自然に対して礼儀正しくなれ、もう少し…〟等と折好く積まれ得た未開の苦労を片手を以て丁度良い程日用として採り、白紙に聞えた無音の連写(ドラマ)は柵を講じて一等星(ほし)を目掛けて、明日を見知らぬ自体(からだ)を白くし青くし、独身(ひとり)の空間(こごと)を成立させ得た。〝女に落ちたならば…〟とも少し堅固に飾れた生(せい)への活気(げんき)を自然に保(も)てた自体を省み、屈曲されない至極の連動(ドラマ)は遠に終った採掘(ぼうけん)さえ観て己を知り行き、〝明日は我が身〟の名言(もんく)の通りに地に伏せ始めた翼虎(げんき)の呈した程好い活路(みち)には淡白(あわ)く成り得た未知の道標(しるべ)が表情(かお)を変えずに並んであった。一台には無く幾つも並んだ同郷を想わす次第の果てには、矢張り将来(とき)を知れない独創(こごと)が居座り徘徊(まよい)と成り得て透って行って、白淡(はくたん)成らずや無業の訓練(もと)へと自気(じき)を呈して翼虎(つばさ)を拡げ、明日(あす)を象る銀杏並木に吹き遣る風の音には、同郷成り得ぬ東京(とかい)の街並(いろ)まで脚色し得ない無装(むそう)の羽音(はおん)がしどろもどろと跳ねて行き去り、至極躍動(おど)った淡色(いろ)の行事は寝屋を忘れて無想を知った。〝無想〟の内にて初めに観たのは俺がよく知る旧友(とも)でありつつ晦ます諸業は俺の眼(まなこ)へ何時(いつ)でも輝(ひか)り、慌てて息した俺の恰好(からだ)は明日(あす)を見果てぬ無聊の体(てい)して形見と成り行く鬱を知り行き真向きに構え、俺の思惑(こころ)は次第に荒れ行き儘成らぬ内に宿敵(とも)を蹴散らし王冠(かつら)を奪(と)り得た。俺は怒り心頭、独言(こごと)を漏らすついでに恰好(かたち)を変え行き炎熱(ほのお)に座して、〝旧友・宿敵(とも)〟を眠らし暴帝(ぼうてい)とも成る鬱曲(うっきょく)したまま根城に就き得た脂汗(あぶら)の行方を自身(おのれ)の内へと追跡して行く。俺は古豪(とも)を見限り屋端(すみ)に置き去り、符号の向くまま事変(じじつ)に座った間柄(なか)を取り持ち体汗(みず)を枯らして、喉を潤す言葉(かて)を臨んだ挙句に悪鬼と化し行き、手足の機敏(うごき)が迅速成るまま頂点(しこう)を極めて、眠りを知らない旧友(とも)の目前(まえ)では銀杏を散らす突風(かぜ)とも成し得た。その肢体(かたち)の在様(さま)には旧友(とも)も自然(めがみ)も、固唾を呑み干し四肢(からだ)を伸ばせず迅速(はやさ)を知り得ぬ鈍速(どんそく)成るまま現行(あるき)を見知った稚児の体(てい)まで、態(たい)を貶め俺を拝する姿勢(かたち)に落ち得た。ふと又自身に対する不審が芽生えて混紡に陥り、明日(あす)を夢見た自活の独走(かっぽ)は行方を報せぬ内にて桜を散らして季節を忘れて、俺への睨(ね)め付け・幸先極まる暴君(あばれ)の内には寝室(ねむろ)を色濃く潰して自然に投げ遣り、古豪と称した友人達には無視を呈して無知を採り行き、淡く紡いだ橙色(おれんじ)呈する陽(ひ)の輝光(きこう)等には、凡庸忘れた矛盾を喫する愛さえ無かった。何時(いつ)まで経っても海底(そこ)の上より還らぬ活気の果てには生け捕り終えた宿敵(とも)への割愛等が頭(くび)を擡げて滑走して居り、青空(そら)の果てから雨が振り降ち油と成っても、当てを外した雨が振り降ち油と成っても、当てを外した躍動(うごき)等には具に見取れた標的(あて)は知られず道上(うえ)は消え行き、窓の外などふと頭(くび)上げつつ自然(ゆめ)が生やした壮原(うみ)を見遣れば、そこには始めは空咲(からさ)く竜胆等が自色(じしょく)を掲げて活きて輝き、俺の眼(まなこ)は宿敵(とも)を忘れて旧友(とも)を掌(て)に採り、摘まんだ自活の糧さえ淡い骸へ葬り行く内、どんどん燃え行く気力の低下が活きればそれほど業を煮やして頭上を飛び交い、俺の懊悩(なやみ)は将来(さき)を摘まんで目下流出(なが)れる古い体(てい)へと翼虎(と)んで行くのだ。深緑など未だ見知らぬ初春での事。彼等はそれでも呑気に陽気に俺の態(てい)など忘れた在様(さま)にて旅順を愉しみ、古豪とされ得た昇華を謳って俺に構えた。俺の姿勢(すがた)は彼等の目前(まえ)では何処(どこ)か透って無力を呈した主(あるじ)に落ち着く。俺の眼(まなこ)は当てを忘れた躍動(うごき)に飛び乗り、何時(いつ)ぞや知り得た活路を忘れて何処(どこ)でも小踏(おど)れる彼等を採った。そうした良人(りょうにん)の内には女も居たが、俺は矢庭に無聊を衒った生粋の性(さが)を意図して充分堪能せ得る体位を求めて独歩(ある)いて見たが、如何(どう)にも一向落ち着く体位(かたち)に身が当て嵌らず、黒い夜道に角(かど)を崩した女性(おんな)が居ようと、目先を変えずに唯遠方(とおく)を見詰めて我が物顔して世渡(つなわたり)をして行くけれども、如何(どう)にも又一同(たまり)は俺から離れて夜目(よめ)を配した。

 自分に培う夜目(よめ)を愛して地位(みのほど)携え一室(へや)へ入れば、俺の傍(よこ)には端正(きれい)な洋装(べべ)着た淑娘(むすめ)が現れ、着慣れた高価を高嶺へ揺らして褥は軟く、肢体の柔らは俺を堕として惰性に埋(う)も寝(ね)り、気遣いさえ無い夜のお供に従犯(じゅうはん)して行く。そうした安きを程無く得られる体裁(からだ)の内にて、俺の悦ぶ顔が見たいと白い表情(かお)した欲の礫は真っ向から来て俺へ対峙し、如何(どう)でも付かない見当違いは矢張り今日より明日(あす)へと独歩(ある)き自身(おのれ)の目論(ゆめ)など遠くへ挿(す)げ遣り、俺の覚悟を蔑ろにした。女は俺へ飛び乗り、俺は女性(おんな)を地に伏せさせ行き自重の体躯で深く抑えて、如何(どう)にも身動き取れない身重の躰へ女を仕立て上げたが現行行くまま女は気取られ俺への真向きを斜へと変えて、陽光滴る居間の内でも体裁(からだ)は跳ね行き思惑(おれ)から離れて、女の体躯は俺を抑えて頭上(うえ)へと跳んだ、天井間際にパラダイスを観た。そうする内にも女性(おんな)の気丈(こころ)は真面に独走(はし)って俺を過ぎ去り、遠くへ置かれた俺の夢想(いしき)は彼女を観ながら思春を棄て行き、到底叶わぬ調子(はやさ)に感けて無聊に衒った格好(かたち)は崩れて、忙(せわ)しく鳴り出す思春(はる)の息吹は女神(かのじょ)を捕えて生命(いのち)を吹き入れ足を速くし、彼女の体裁(からだ)は先ず複数とも成る。そうして仕上がる彼女の骸は俺に和(やわ)いで一層輝く幼春(はる)の源(もと)へは逆光(ひかり)が差し行き、俺の行く手を阻むようにと分れた女身(かのじょ)は俺を追うまま還っては来ず、丁度正位(せいい)を終え行き騎乗へ女性(かのじょ)が態(たい)を揺らして俺を目下に敷き詰め自信の内には自由(きまま)を見た時、女体(かのじょ)は軽くて俺から離れて、暗い眼(まなこ)に光明(ひかり)を見たまま夕日に燃え行く烏の鳴声(こえ)など横耳にして、〝蛻〟と呈した俺の肢体(からだ)を通い跨いで、一目散へと古巣の都へ還(もど)って行った。空蝉にも似た俺の肢体(からだ)は女体(かのじょ)を追い掛け股間は萎み、唐変朴(とうへんぼく)さえ銘を打たない怠けの体裁(うち)へと嗣業を植え行き教養(ドグマ)を配して、目下目立たぬ自活の行方は死地を晦まし古巣(みやこ)を睨(ね)め付け還って行った。俺の肢体(からだ)は彼女を追い掛け、女性(かのじょ)を追い越し、女体(かのじょ)を捕えて、女芯(かのじょ)を越えて、気付いて見遣れば赤空(そら)の麓は夕暮れを差し、俺の横顔(かお)には女装(かのじょ)が消えて、女香(かのじょ)を逃がした単色(あわ)い骸は女子(かのじょ)に化け行き俺へと近付き、体熱(ほのお)は冷たく冷気(よる)へと消えた。失せ去る彼女が俺に対して採り得た小踏(おどり)は如何(どう)にも解(げ)せない脚色が在り、彼等を射止めて落ち着く矢先(さき)には小さく萎んだ枯芽(かれめ)が咲き出て愛(かな)しくもあり、如何(どう)でも解けない成らずの回春(はる)など意識を擡げて還って来るのだ。俺は陽(ひ)を観て彼等を屠り、端(はな)から芽の出た幼体(かのじょ)の声(いみ)など摘んで踏み付け、如何(どう)にも咲かない人体(ひと)の荒地に汗(みず)を差すのも忘れて在った。愉しむ矢先にこの体裁(み)が解(ほつ)れて絆され、揚々透って過ぎ行く空の女体(からだ)にこの実体(み)を預けて快楽(らく)を知る際、それまで息(いき)した女の体は滔々流行(なが)れて翼(あし)が生え行き、俺の居間から姿を消した。初春(はる)に芽吹いた暁(ひ)の内の事。日頃の煩悩に良く対峙して居た俺の活気は生命(いのち)を掲げて一旦山奥の森の麓(した)へと降りて行ったが如何(どう)にも試算が付かずに荒くれ問答に萎えた自身(おのれ)の手足を如何(いか)に空高くへ振り上げるが狙いか言葉を認(したた)め試算を再び纏め、明日(あす)への活気(うごき)に自身(おのれ)の立場を程好く捜して今日の根城に吹く涼風(かぜ)等には如何(どう)にもし得ない無垢な試算(おもい)を垣間見て居た。

 現実に於いて近所に知り得た古木(こぎ)さんの死を母から聞かされ、余りに突然の話に驚きながら震顫(ふる)える片手は曇(どん)より曇った文字を連呼し丈夫に育った主張(おもい)の破片(かけら)は遠(とお)に消え入る姿勢を呈して俺から隠れ、確かに何も知らない彼の姿勢(すがた)に自身(おのれ)の野望は途方に暮れ行く紅の畔(ほとり)に佇むけれども自分の意思など生れる以前(まえ)からそこに居てくれ、居座り続けた男の存在(すがた)は誰から(何から)見得ても独語を知り得ぬ確固と成り得て無業に落ち着き、如何(どう)にも志気(しき)に満ち得た苦行の連鎖(ドラマ)は俺が知らねど黙殺され得る暗室(かこい)の内にて意気(いき)を撒き行き蜷局を巻いて、俺の足元(ふもと)へ従順成るまま満ち行く算段足るのは俺の寝床へ落ち行く事実であるのを彼の意識は俺に訓(おし)えた。彼の精華は自力(おのれ)を示して独身(おのれ)に知り得た生(せい)の在り処を力説して行き、俺が配(はい)した孤高の手足は目下生れた逡巡足るのを透った暗室(かこい)に準え行けども彼の一連(ドラマ)は無教に教わる連続(ドラマ)を愛して俺を蔑み、何処(どこ)にも居座る翳り知らずの一坊(いちぼう)成るのを俺の眼(まなこ)へ色濃く成し得て目下佇む〝日の粉(ひのこ)〟の袷は連動向くまま気質の行く儘、一組(ふたつ)を束ねる嗣業に行き着き連鎖(ドラマ)を成し終え、俺の行方は文盲(くもり)を捉えて明媚を知りつつ日々の内では修業(しゅぎょう)を知り行き、二者択一の程を成立し得ない一通足るまま連動して行く思索に向き得た。彼の思体(したい)は俺が来てからずっと居続け、少年成るまま遊んで暮らした朝にも夕にも事毎啄み損ねた情緒(くうき)の端片(かけら)を宙(そら)へ投げ出し少年(こども)に釣られた仲間の主(あるじ)へひっそり献(かえ)して渡航へ赴き、如何(どう)にも曲げない〝思体(したい)〟の徒路(みち)には俺を配(はい)した、仲間を配(はい)した蛻の画像をぴったり合せて無力を嘆き、思索を講じた天体(てん)へと掲げた手腕の具合(うち)には、何か返信(こたえ)を得る迄の日を滔々流れる経過(ドラマ)に知り行き自我の生誕(うまれ)に一縷の希望(ひかり)を据え置く有力闊歩の内実などを自己にも俺にも努めて報せ、有限(かぎり)を保(も)たない活力(せい)の器を極めて従順(すなお)に受け止め拝して、己の在り処は暗黙(ひみつ)に呈した。俺の自宅(いえ)から程好く離れた坂下に咲き得る彼の居宅は、蓮華の花咲く晩春の空想(おもい)がか弱く活き得る水辺を配して献花を想わせ、中部の地域に永らく活き得た県花の意義など宙(そら)へ返って水雲と打ち消し、彼の思体(したい)は日々を講ずる軒端の漁りに程好く慣れて行進し始め、坂上(うえ)に構える俺の居の前、夕餉に参じる頃合い等にはふっと微笑(わら)って微細を称え、小鳥を射落す内実(ちから)等には幼春(はる)の気配が程無く芽生えて俺の活気(からだ)を喜ばせていた。出会った矢先(さき)には必ず挨拶して来る笑顔が居座り、太陽(ひかり)が居座る奈落の果てでは少年(こども)に対して懐かしさが在り、自己(じこ)の幼春(はる)など密かに唱えて灯篭(あかり)と成して、昭和の親父は解体され行く団塊(かたまり)から出た薄い活気を自信に連ねた甘い記憶を頼りに然る時期には己の未来も献じて要所を合せ、〝少年(こども)の時期から幼春(はる)の息吹を逃さまい〟と躍起に言動(うご)いた自活の花など、受け身で居座る住民(ひと)の内では奇跡に在った。彼を観たまま死に損ねた俺の記憶が無間(むかん)に吐き得た言葉が以下に在る。

「…昔から居てくれ、俺の少年時代から一緒に暮らして来て、何時(いつ)も会ったら笑顔、又は真顔で挨拶して来てくれて〝良い、懐かしい、近所の小父ちゃん〟を演出して来てくれたその昭和の古木さんが死んだと聞いて、何か、心中に穴がぽっかり開(あ)いたような気分に成っていた。そしてそのボランティア精神溢れる古木さんが死んだ事は、今のこの希薄化した世の中では大損害に近い程度の物事であり、古木さんの抜けた穴はこの安塚(あんづか)にとって大きく、その穴を埋める事が出来る者は誰も居らぬだろう。そう思わされて、このように良い人が本当に少なく成り行く、否少なくなってしまった世間に居たって詰んない、等とも小志を煩う少年(こども)にさえ思われ留まるのであり、俺はこの際、自分も後追い死ぬ事さえ未練を排して恐怖を覚えず、苦し紛れに跳び撥ねようと宙(そら)を観たのは虚無を知らない事実に在った。…」

 幾度と無く、止めどなく流れ落ちる人体(ひと)の活性(あせ)には何時(いつ)も輝(ひか)った有終(おわり)が近付いて来て、こんな風に一組(ふたり)の意図(きずな)を分かち離して仕舞える白紙の吟辞(ぎんじ)に少々束の間辟易するのであって、俺の個体(からだ)は彼を透して隅々まで延び、酒を呑まない世生(よせい)を送る。

      *

 てくてく独歩(ある)いた俺の個体(からだ)は束の間野暮を知り得て(無業に居着いて)無能を採り行き、〝迷い独歩(ある)いて気の向く儘に〟と、俗世を跳び越え教会(しち)へと着いた。〝死地〟では〝何時(いつ)ものように…〟と俺に対して悠々構えた頭(くび)など寝床へ咲かせ、活気(げんき)に咲き得た未熟は輝(ひか)って俺を護って、有限(かぎり)を知り得ぬ永久(とわ)への徒力(ちから)は茂みを講じて刺激を呈し、俺の眼(まなこ)は開眼して行く。古木氏の訃報を知り得た翌日の朝では少し早めに向かった俺の自力が功を奏して朝の九時頃既に教会へ着き、普段(いつも)は見知らぬ初老の主(あるじ)の密室(そこ)での体裁(ありかた)等には新鮮とも成る驚き生じて閉口成るまま微細を承け取り、相性気儘に視線の向くまま愛着報せた初老の陰には自然が居座る密度が濃くなり淋しさを知り、段々死地へと向き行く初老(かれ)の息吹が鎮(しず)んで行くのを両眼で見ながら哀しくなって、古木(かれ)と同じく初老(かれ)の場所には中々解けない塵が在るのを仔細に知りつつ、俺の寝床(とこ)には少々冷え込む寒気(さむけ)が吹いた。このようにして自然が居座り、希望(ひかり)を配して巷等では人の生気に無関(むかん)に咲き行く故習(ドグマ)が呈され小さく成り行く自身(おのれ)を知りつつ尚も活気を掲げる俺の目前(まえ)には、如何(いかん)ともせず小川の流れる透った隙間を逡巡埋め行く自然の強靭(つよみ)が在るのを目の当たりにさせ、曇った筆(ひつ)などまるで棄てられ未熟と成り行く〝怒号に過ぎない〟等とも自然に謳われ散らされ始める自身(おのれ)の業績(けっか)を報せ得る生誕(はじめ)が在る程俺の個体(からだ)は諤々し始め、矢張り〝蛻〟と呈した己の自体(からだ)をひらひら拡げて解体し出した現世(うつしょ)に於いて活きる等には、目下目指した〝思体(したい)〟が活き得る間隔(ばしょ)など在る筈も無く、如何(どう)でも虚しく薄く拡がる人間(ひと)の群れから一歩外れた用地に塒を認めて生きたいものと、俺は瞬時に何億回にも呟いて居た。それを聴き得た初老の主(あるじ)は、他の初老を差し置き独自に独歩(ある)いて俺まで近付き、〝甘さを捨て去り、自身(おのれ)と向き合い思考を重ねて、新たな活気を興せるようにと神に縋って悟りを求めよ…〟成る箴言めいた独語の羅列に己も乗り出し豪語して来て、朝の少年(こども)の礼拝等での役割などを、ぽつんぽつんと訝る儘にて、俺の足元(ふもと)へ投げ掛けて来た。初老に相対(あいたい)した儘、少年(こども)が居座る従順(すなお)の体(てい)にて初老を俺が拝した最後の日であり、俺の両眼(まなこ)はそれから何時(いつ)しか見知らぬ朝の空気へ逡巡しながら埋れて咲き得た。活気を知り得た俺の体(からだ)は何処(どこ)でも活き得る窓辺の光を充分〝思体(したい)〟に先取(さきど)らせたまま追々畝(うね)る試算の成就は頑なを知り、初老の宴はその日成らずも晩年迄もと上手に気取った相対(あいたい)をして俺への瞼(まなこ)は飽きを報せず、向かった矢先(さき)には俺へ対する余程の軽い調子が白く成り行く自然に表れ、俺と初老(おやじ)は何処(どこ)とも知らない、何時(いつ)とも知り得ぬ、無間奈落(むかんならく)へ落ちたようでもあった。所変らず、ずっと寸断され得た核心への疑問(ひかり)は人工照射に倣ってその体(たい)故意の内にて輝(ひか)らせており、それに躓き気付いた初老と俺とは初めに置かれた疑問の数には圧倒されつつ、それでも玉子(ぎょくし)の態(わざ)にて人が救いを勝ち取る機会を得たのだ、等と豪語を土台に報いを着て在り、冷気を保ち、事毎織り成されて行く自然の態(わざ)には自身の未完を痛感するほど知り得たけれども、如何(どう)にも救われ難きを拝して止めない自身の内実(ぼうぎょ)に実力(ちから)を知りつつ体裁(ありかた)を知り、明日(あす)の見えない計画(いしき)等には、束の間絶えない生命(いのち)の流行(ながれ)を逆さに捉えて自意識(いしき)と読み取り、初老の自意識(いしき)は俺を運んで教会外(そと)へ活(い)け捕り、俺の自意識(いしき)は涼風(かぜ)の間(ま)に間(ま)に勝負の付かない未開の争い等へも巡行しながら塒を勝ち取り、教会内(うち)の気色を程好く咲かせた。初老と俺とは結託したまま人間(ひと)の主(あるじ)に華(あせ)を握らせ虚空に生け捕り、〝明日(あす)は明日(あす)へと無業の内にも希望(あかり)は在る…〟との箴言めいた独言を吐きつつ独歩を重ね、行くは狭筵(むしろ)へ見立てた己の居場所を天へ置こうと熱心向くまま着飾り始めた勇士(ゆうし)に見立てた。季節外れの人の流行(ながれ)が咄嗟に機転を変え出し自然と解け得る遊女を観たとき我等の思体(むくろ)は服を着替えて八倒し始め、緩い坂にて微温(ぬる)く栄えた人の気等にも寡の住み行く希望(あかり)を見出し虚言を認(したた)め、主(あるじ)の寝室(ねむろ)へふと近付く態(てい)にて、独創(こごと)を紡いだ舌を見返す。白く曇った窓の外では一日一日(いちじついちじつ)緩く流行(なが)れた人気(ひとけ)が踊って傀儡(かたち)を造り、俺の両眼(まなこ)は初老を遠ざけ一旦落ち着く寝間を捜して徘徊して行き、俗世の女に躊躇するまま美しさを知る。その美味を講じた美観(びかん)等には聖人(ひと)が活き得る糧など具にも無く、仔細に講じた樞(ひみつ)が興じる美しさが在り少年(みじゅく)を惑わす枷とも成り得て、試算は自然の内にて打算を知り得て遊女(おんな)を原罪(つみ)をも許して行くのだ。俗世に甘えた少年(こども)の息には青く輝(ひか)った音頭が採られて無業(無教)と成り堕ち、息を失くした寡等には烏が呈した暗黒(やみ)が生じて活性して行く上気が取り憑き不毛を芽生え、全ての俗世女(おんな)が孤島に居座る舞女(ゆうじょ)の態(てい)へと窪んで行って憐れみを承ける思体(したい)と成り着き、孤踏(ことう)に憶えた無教の境地は心境(こころ)を離して生気を灯さず、一点に活きる自体の狭筵(むしろ)を啄み行くのだ。〝刈り入れ時〟には何も無い、故習に対する煩い等には自体を憐れむ一心(こころ)を知りつつ何にも言動(うご)かず、自衰(じすい)に咲かせた人の華美など具に捉えて離そうともせず自酔(じすい)して行き、仕方が無いから活きる意欲を取立て行こうと闊歩を図れば生きる為にと罪に留(とど)めた糧を頬張り闊歩(あるき)を譲る自炊に行き着く。滞りもせず古着の内にて外界(そと)を見ず、傍観成るまま未完(みじゅく)の社(やしろ)へ他(ほか)と入る頃には個人(ひと)の息には安息が無く、独創(こごと)を仕立てる無聊の主(あるじ)が鎌首上げて「音頭」を讃え、宇宙の果てから人の地迄へと、「闊歩」を揺さぶる大きな試練を呈しながらに、人の自然は俗世に居座る。俺は俗世を捨てた。

 希薄化する(希薄化して行く)社会(世界)に生きる事が辛くて悲しい事もあり、ずっと一緒に楽しい人と、良い人達と、生きる事が続けられてそんな人達と自分で溢れ返るような世間とまでは行かないかもだが、そんな人達がずっと居続ける良い所へ早く自分も行きたい、と言う願いに駆られて臆病にも成り、後追いする気分に少々駆られた体(てい)にて俺は今でも夜空を見上げる。ぽつんと輝(ひか)った入道雲が一等星(ほし)を隠して月にも見得た。夜風(かぜ)は北風のように青く白(しら)いだ。〝余韻〟を与り打ち首に据えた密かな花束など陽光(あした)に準え、奇麗な友人関係など保(も)とうと内心(おく)で決め込む俺の決意(おもい)は、仄かに髑髏を想わせ、星降る夜空の遠方からでもこの両手(て)を捕えて愛してくれぬか算段講じて待っては見たが、誰も何も来ぬままその内白々(しらじら)明け始めて行く夜雲の翳りが俺の背中を俄かに肩押し突き押し淋しく成り果て、俺はも一度両親(おや)を認(みと)める居間へ還った。黒い仄かな花瓶の裾には何時(いつ)か見知った諦めの〝音頭〟がぽつんと置かれて一人で転寝(うたたね)、哀しく透った影の横には、俺が居座る幼少(こども)の根城に欠伸をしたまま今では遠い秋空が在る。季節も付かぬ紅(あか)い時期には何時(いつ)ぞや見果てた遊園地での鑑賞(あそび)が講じて塒を換え得た俺が飛び立ち、母の元へも父の元へもどうやら還れる試算(みち)が付いた。そうしてうとうと、俺は道路へ寝そべり、手にした日曜細工を心中(こころ)へ仕舞ってあたふた滅茶苦茶、心配症なる夢想(ゆめ)と出会った。夜雲は白々(しらじら)流れて解(ほつ)れた。

 親父と母親ともう一人誰かと俺は俺の自宅のキッチン辺りで談笑して居り、夜景を当てにと散々息巻き尾を巻き蜷局を巻きつつ、夕べの幻想(おもい)に足取り任され、ぷいと消え行く快楽(オルガ)の最中(さなか)は今日を待っても現れない儘、奇麗に片付く各自の皿には今日の糧など見付からずにある。そうした最中(さなか)に誰が言うのか〝大きな巨峰の実なんか食べてみたいなぁ、あれ、美味しいって評判やったし、夜に食べると尻(けつ)が輝(ひか)って、順々話も甘くなるから、頭も冴えて、ええお摘みになんのんちゃうん〟等、かたかた響く奥歯を揺らして実姉(じっし)のような女の人が、俺の目前(まえ)にてあたふたして居り、動作の陰からひょこんと飛び出た振動(ひびき)を奏でる。奏でたキッチン(ばしょ)から少し離れた居間迄飛び行き、辺りを照らした密会(かい)の灯(あか)りは、到底少年(ひと)には破れないままそのまま流行(なが)れて燃え尽きて行く。燃え尽き行っても何分(なにぶん)夜との相性(ためし)が好くて、俺の少年(こども)は密かな安堵(ねぐら)に取り憑きながらに両親(おや)を離れたもう一人の眼(め)にひたすら長引く照準(あかり)を合せた。到底密接したまま叶えられない本能(ちから)の限りは集中するほど倦怠(だるさ)が生じて燃え尽き行って、俺の脳裏は冷たい女が冷笑讃えて小じんまりした野菊を結(ゆわ)える口許などを、女の唇(くち)だと逡巡しつつも認(みと)め入(はい)って、小言を並べたテーブル等では既に並んだ他(ひと)の活気が縦横無尽に連呼し始める。何時(いつ)もの夜行(やこう)に相(あい)した灯篭(あかり)の在り処が此処で却って現れ始めて、白い吐息は挨拶がてらに無人に居座る正義と成った。〝美味い、美味い〟と皆で大きな葡萄を食べながらにして会話に咲く灯(ひ)は愈々太く、尻(しり)の明かりは各自より発揮(で)て透明色した頭の頭巾(かむり)を何時々々(いついつ)迄もと皆で崇めて窮地を忘れた。その葡萄は巨峰なのだが時折り桃や外国産から取り寄せられ得た少々黄色の勝ち行くメロンのようにも変化し始め、瑞々しいまま畔(ほとり)に酔わせた果実の美味(あじ)など彷彿させ行く。その葡萄とは総て自宅(うち)の畑で親父が育てて肥料を介して、充分愛した果物でもあり、長年住み得た自宅の内では母と息子の、父と息子の、母と父との、離れた記憶や近所の記憶が余程に積まれて押し込められ得た至宝の財にも総じて等しく、ばらける価値など追従(ついしょう)させ得ぬ固い絆が愛しく在った。父が四季の内にて、躰の活気がはっきり落ち行く涼風(かぜ)を嫌って働き要(い)った柵門等を、程好く伸び行く蔓の先端(さき)には、父の労苦が華(あせ)と成り行きほっと溜息(ひといき)吐(つ)け得る程度の安楽さえ在り、俺は軒端で傍観して居て父の苦労を程好く観て居り、当世一代、少年(こども)の振りして両親(おや)を和ます知性を採りつつ同時に不甲斐を知り得た経験の故、如何(どう)して巨峰が成ったか知ってた訳だ。あの柵門を造る代わりに夢想(ゆめ)の内(なか)では葡萄を作った父の姿勢(すがた)が映り生え行き、如何(どう)でも連続して行く意識の壁など無像に捉えた無意識(くうきょ)の姿勢(しせい)が辺りを気にせず壊して行くのだ。こうした連動(うごき)がぴくりと止み行き止(とま)った体裁(かたち)に陽光(ひかり)が当たると、がらがら崩れる俺の活気(いしき)は何処(どこ)へでも跳ぶ身軽を手にする。母親はそんな父親に〝あんた葡萄売ってお金にしたらどうや?〟と投げ掛けて居た。父親は暫く黙って居た。献身的なクリスチャンにて商売事には一切無感の母を知る故、少年(こども)の俺にはそうした夫婦の何かを睨んだ遣り取り等には「おっ」と鳴るほど新鮮(たから)が見えて、心身(からだ)を微震(ふる)わす涼風(かぜ)の入った木張(きはり)の上にて俺は嬉しい恐怖を知った。そうして黙って、暫く佇む背中(おやじ)を観て居た。ふいと興味が泳いで視線の先など他へ譲れば辺りが静かに従順(すなお)に成り出し、親父の服など具に知れた。

 親父はその瞬間(とき)、白く皺打つポロシャツに、ズボンは水色に白色のストライプが目立たぬように刺繍され得た寝間着の様(よう)だった。

「作って売る、かぁ、ええかも知れんな」

 低い口調で辺りを濁さずすっと逃げ得る態(てい)にて放(はな)った親父は早速次の動作へ足早・手早(あしばやてばや)に腰を浮かせて、空気(かぜ)を切りつつ俺の目前(まえ)など独歩(ある)いて行った。こういう時、親父は必ずその「良い」と思った事をやる気質(タイプ)であって、施行の段にて躊躇しながらああでもこうでも様々構えて脆(よわ)く吠え出し、辺りのもの巻き込む調子に力歩(りきほ)して行く。成った試しははっきりしたので七分(ななぶ)に至る。しかし俺は又子供の頃から唯そうした両親に連れられ行くまま黙って佇み、降り来る残骸(たから)を下がりの物でも食い尽して行く餓鬼の容姿を心中(こころ)へ温(あたた)め睨(ね)め付け得たので、この瞬間(とき)覚えた両親(おや)の背中に仄かに開いた華(はな)の蕾も、行く行く自分の良心(こころ)に解け入り綻ぶ汚れも具に観立(みた)てて仕舞えるだろうと与信(よしん)に準じて理性(じぶん)を失い、片付く迄へと凍えた心中(こころ)は両親(おや)の麓へまっしぐらである。二人に出会えたのが、唯嬉しかった。わくわくして居た。親父に付いて行くもう一人の母親を観て、わくわくして居たのである。

 漸く押し黙って在った俺に対する別の世界が軽く扉を開(あ)けて俺の躰を揺らした様(よう)にて、俺は何時(いつ)まで経っても少年(こどく)に居(い)られる扇風を捕えて持参として行き、白く照った表情(かお)の在り処はもう別の表情(かお)をしながら居場所を教えて俺へと跳び付き、俺と〝別世界(せかい)〟は融合して行く。母が好く知る安積班「班長」の班員達が何処(どこ)からともなくひょっと現れ、俺の軒端を少し動かし環境仕立てて宙(そら)を仰げば、何時(いつ)まで知ったか、寝床に据え付けられ得た襖の絵画(えがら)は遠(とお)に消え去り物語(はなし)を始めて、俺の記憶に介入して来た。キッチンの麓で押し黙ったまんまで何にもし得ずの母が居たとき俺の心中(こころ)は少し踊って父を捕えて、アルキメデスの原理成らずや明日(あす)から見紛う数多の懐妊達を具に押し遣り〝蛻〟と化し行き、如何(どう)でも振舞え行かない生死の名残は俺の為にと静かな安堵を衒った内にて水雲と消えて、果てを見知らぬ自然の境地は悠々豊かに未熟(あお)く沈んだ。片手落ちに似た死太い輪舞曲(ロンド)は頃合い計らう超自然(スーパーマン)へとその実(み)を成らせて俺と母へと相対(あいたい)して行き、如何(どう)でも解け得ぬ泡(あぶく)の形(かた)にと、受解(じゅかい:受容とほぼ同義)の出来ない自然物(かたまり)等を密かに残してすっと飛び立ち、何気も講じず数多の労苦は見境付けずに二人に対して脆くも成り得た。密室成るまま日暮れは過ぎ去り、果して炎陽(えんび)が燃え盛るのを如何(どう)して採ろうか算段するまま退引(のっぴ)き成らずの凡庸(ひび)は過ぎ去り億尾は消えて、明日(あす)を牛耳る処女の実力(ちから)が充満するほど俺の輪舞曲(ロンド)は未熟に白覚(しろざ)め始めた。一階ではとうとう二階を知り得ぬ未開の宴が期を得た儘に、と続き狂った。

 そうした最中(さなか)に俺の計画(かたち)はふと欠伸に遣られて失敗した後、冷めぬ灯(ひ)を保(も)ち、俺の刀は何処(いずこ)を独歩(ある)いてそのキッチンへと入所(はい)るその前、母を通して不毛に生き得る班員を観た。白い一紙(いちし)に延び遣る表情(かお)を曇らせ肢体(からだ)を延ばして、滔々流行(なが)れる経過の渦まで足下(ふもと)へ落して配下とした儘、隆々蠢く瞬間(とき)の言動(うごき)に上手く乗じて奥行曇らせ、未完を呈した淡い至極(しぎょく)は一糸纏わぬ老齢成るまま指を折り行き、自滅の終着(ゴール)を体良く愛して寝耳を澄まし、遠(とお)に終った連動変遷(かいてんもくば)を急遽揺らして俺へと対した。中村俊輔扮する村雨刑事と、未熟に徹した若い体動(むくろ)の桜井刑事が共に出で立ち俺と一緒に一線追いつつ、向こうへ消え去る犯人認(みと)めて地場を馴らして傍(よこ)へ跳び退(の)き、俺が居座り、犯人(ほし)を追え得る間隔(すきま)を残して何やら二人揃ってにやにやしながら挑戦する姿勢(の)が一目散へと俺へ乗っかり、何処(どこ)でも脛齧りのまま両親(おや)に頼った俺に居座る不甲斐の精神(こころ)は何時(いつ)ともないまま無常の周辺(あたり)を浮き彫らせている。漸く納めた俺の刀は実力(ちから)の無いまま身内へ還って、周囲を取り巻く刺激を観始め、揚々白(しら)いで淡く畝(うね)った二人の精進(せいき)は俺の頭上(うえ)にもぽつんと燃え立ちきりきり舞いにも程好く寝就いて牛歩を湿らせ、繰り出す二人の精気は漸く芽吹かれはっきりした後(のち)、俺の足元(ふもと)へ身軽に跳んで地場を馴らした余裕を見せ行く。俺は二人に起(き)した挑戦(ちから)の姿勢に如何(どう)でも勝ち得る自力(ちから)を欲して独り立ち行き、慌てた右手を懐(うち)へと隠して少しの未完(よわさ)も覚らせない儘、二人に揃って明日(あす)を夢見た。銃撃戦と成った。犯人(ほし)は凶暴、強か成る儘、二人の予想(こえ)など軽く凌いで強靭(つよ)く成り立ち、俺の眼(め)にさえ正義の映らぬ寡黙を通して異国種(エイリアン)足る悲愴を覚らせ闊歩を先取り、白い一紙(かべ)には誰も通れぬ扉を打ち立て強靭(つよさ)を呈して、空想(おも)い描けぬ他者の現実(かべ)など具に見立てて構築し出して、我等は呆気に芽吹いた様子を、事毎行くまま愚情(ぐじょう)に愛して、躓き知り得ぬ逡巡(とき)としたのだ。唯、犯人(ほし)は強靭(つよ)かった、それだけの経過(こと)に在る。

 余程の迷彩を束ねて知り得た霧散に散らばる情景(けしき)の体(てい)など塊(ひとつ)に纏め得る自然(おおもと)を見立てた俺の眼(まなこ)は、〝一つの結界(リンク)〟を無尽に延(はし)らせ結束して行く自然(つよさ)を知り得た暁などには遠に報せた〝浮き出の小槌〟を二人に齎し俺の躰(しぜん)に回帰させよ、と内服漏らして輝彩(こうたく)を採り、〝蛻の順路(いろは)〟を事毎見破り論駁して行く人の強躯(つよさ)に溺れた儘にて、到底満腹し得る欲の傀儡(かたち)を宙に掘り下げ狭筵(むしろ)とするのは一生(じかん)の純度が許さぬものと、挙句に呈した。〝犯人が独りならいい〟と颯爽行くまま既に着古すmonkの上着を姿勢に正して仰ぎ着る時、予想の通りに犯人(ほし)の軟体(からだ)は四つに割れ行き路頭を排して、三人銃士に徐(おもむろ)行くまま白く生え立ち奈落も排して、分身(かず)を漏らさぬ複数迄も膨れ上がったmonkの人数(かず)には到底敵わぬ苦慮を覚えて引き退(の)いて行き、退(の)いた我等の背後(うしろ)に在るのは何も知り得ぬ苦界に満ち行く輪舞曲(ロンド)の墓地だと一向固めて報され始め、報せた自然(つよみ)は犯人(ほし)の身元(ふもと)で軽く蹴られた毬の如くに辛酸極めて苦くも成った。〝移りに蹴りな悪戯に…〟我が苦労を良く知る眺められ得た無機の触手は転々(ころころ)転がり俺の小言を余裕に連呼し革質(かくしつ)と成り、何時(いつ)まで見果てぬ闇夜の内にて、到底適わぬ泡(あぶく)に落ちた。泥濘消えない無行の主(あるじ)は朝まで待てども昼まで待てども一向不現(ふげん)にその身を浸らせ気を照るけれども、明日(あす)に適った無垢な神秘(あらし)はこの世の何処(どこ)でも一輪咲きつつ俺の影さえ残さぬ体(てい)にて極度を見極め俺の存在(かたち)を微温(ぬる)く輝(ひか)らせ、夜が来るのを億劫とした。夜に咲くのは命の短い思春なれどもそこしか憩を知り得ぬ俺の声明(いのち)は声辛々(こえからがら)ながらに途端に咲き行く未完を愛して、金の亡者を私欲に留めた一寸先へと己(おの)が思体(からだ)を打ち震わせ行き、形成(かたち)を留めぬ静嵐(あらし)を愛した。紫色まで体表(からだ)を鎮めた後(あと)には俗世(このよ)のあらゆる希望(ひかり)が黄泉から抜け出し表情(かお)を潜めて空虚を舐めさせ、俺の純心(こころ)は手当り次第に犯人(ほし)を追うまま明日(あす)への活路を解(ほど)いて行った。

 俺は先程から誰にも知られぬ小型の拳銃二二実包(にーにーマグナム)を懐(ひそか)に所持し、季節が化(か)われど誰が見知らぬ我聞がひょいと現れ立ち振る舞えば、迷わず薬莢飛ばして現実(かたち)の在る物軒並み壊して所々へ自身の証拠(かげ)さえ残す獅子の覚悟は構築して在り、涼しく構えた詩人の酔狂(よい)など何処(どこ)へ向く儘、故郷へ生き抜く試算は講じて幾つの場面を夢想しながら行方を晦ます犯人(ほし)の在り処を徹して追った。端(はな)から犯人(ほし)など無いとも限らず、何処(どこ)へ向くまま気の向く内にも、やっと拾った気色の内には白紙に捉えた希望は輝(ひか)って逡巡して在り、誰にも観られぬ脆(よわ)い社(やしろ)は俺の身内(うち)にて既に存在して在り、誰にも言えない犯人(ほし)の正味は何時(いつ)まで過ぎても俺の居場所に然(しか)と在るのだ。これを逃(のが)して、何故(なにゆえ)自分に纏わる疑惑の触診(さわり)を妬んで居るのか、否解明するのか、職旨(しょくし)に纏わる無像の誘導(うごき)は試算に講じた〝手向けの花〟と何時(いつ)しか見知った孤独の恋慕にふと夢見た態(てい)にてあの瞬間(ひ)に居座る。居座り続けた俺の孤独に注意を遣らずにこのまま退(さ)がって淡い生活(ひび)などやっては来ないと、顰め面した俺の真摯は極度に照らした覚悟を決めてる。

 明日(あす)に成らねば犯人(ほし)の在り処も刑事(とも)の在り処も明然得ぬまま魅力に漂う夜更けを知るのは所々で未熟を落した幽幻(ゆうげん)成る、と展開(あす)を射抜いた未知の試算は俺を説き伏す。白く揺らいだ今日の希望(ひかり)は明日(あす)の眼(まなこ)を梵天足るうち陽(ひ)の光に照射されつつ微温(ぬる)く和(やわ)いだ灰色(グレイ)の確率(たしか)へその身を投げつつ、我等の目前(まえ)では浮上して在る。我等はこれを追いつつ今日の確率(たしか)を遊泳(およ)いで採って、未完を分かった明日(あす)への空虚を抑えて行くのだ。冬眠したまま無冠の銃は、俺の懐(むね)にて静かに鳴り行き、身(しん)の果てには照射(ひかり)が差して、現実(かたち)を射止める手段を打った。

 しかし俺には空想ながらに銃の在り処がきょとんとしたまま何処に飛び出て威力が在るのか遁(とん)と報されずの為、実包(マグナム)の実利が何処(どこ)に在るのか見当らないまま解(と)けて失(き)え行く実弾(かたち)の独歩を辺り構わず捜して行く等、不純に乞われた姿勢(すがた)が在って、銃撃戦(さわぎ)が鬱蒼茂った俺の巷で煩悩(なやみ)を掻き消す騒乱(さわぎ)に成れども俺の行く手は端(はな)から無い儘、ずっと握った棒の行方は行方知れずの不貞に陥り、灰色(はいしょく)混じった独創(こごと)の銀貨は表裏を示さず暗雲漂う騒乱(しげみ)の内へと還って行った。騒乱(さわぎ)の最中(さなか)で結局銃を出せずに疑物(ぎぶつ)を抱(いだ)いた俺の背中は両手を呈せず楚歌と成り行き、独創(こごと)に居座るmonkの門戸(とびら)は褐食(かっしょく)するまま自体(からだ)を空(くう)へ与(あず)けて懐かせ得ようと、自然に対して音頭を執った。俺は束の間懐から出す疑物(ぎぶつ)の銃など辺り構わず繁々見遣って形成(かたち)を象(つく)るが、如何(どう)にも淡い蛻の試算(おもい)が掌(あたま)を辷って地面に落ち行き、空包(くうほう)鳴るまま無駄を称して無機へと行き着き、俺の試算(おもい)は頭脳(あたま)を離れて寸分遠い、遠く輝(ひか)った野辺の果(さ)きにも自体を仕立てた。疑物(ぎぶつ)の銃には何時(いつ)ぞや見知った過去の資産の〝ワルサー象るガバメント型した滑稽銃〟など仔細を示さず露わに落ち得て俺の目前(まえ)では単身光り、涼風(かぜ)を泳いで透明色した過去の風など過失へ埋(うず)めて藻屑と化(か)して、輝(ひか)った果(さ)きには未だ黄色い我等が主(あるじ)のmonkの姿が、自体(からだ)を現し輝彩(きさい)を放(はな)って、開け拡げにさえ具を報せぬ天使を指した。

 我(わ)が騒乱(さわぎ)止まずの人気(ひとけ)のせぬまま自然が降り立つ街道等では人体(むくろ)を手に取り我が物顏して未来(さき)への調和を解体したまま叫喚している現実(かたち)の傀儡(かたち)が踊りを踊って奏主(あるじ)を知り得ず、解体され得た無機の疑物(ぎぶつ)は人体(かたち)を通して正味(かたち)を偽り、炎も降らせぬ自然の弱体(よわみ)に付け込み行く内、実体(すがた)も漏らさぬ帷子(とびら)を閉め行き当の主体(あるじ)を透して成った。これでは犯人(ほし)に勝てなかった。勝てずと言うより、実物(からだ)が透って華(あせ)が気化され、撃ち抜く標的(あて)さえ何処(いずこ)へ失(き)え行き我等三人、総身を固めて萎縮するのが既知でも在った。俺は瞬時、上司を介した村雨刑事に〝怒られる!…〟を連呼しながら幾度の場面に辟易しながら身構えて居たが、結局難無く仔細は過ぎ行き、俺の感情(おもい)は叱られずに居た。そうする周囲(あたり)で我等の真摯を邪魔するように根掘り葉掘りと無難に矛盾を繰り出し始める桜井刑事が若手を遮り前方(まえ)へ出たので、俺と村雨(けいじ)は虚を突かれた体(てい)にて矛盾を読み取り、掌(あたま)を丸めた孤高を呈して俺は束の間簡単に、桜井若手(わかて)を呪い始めた。


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~人間横丁~(『夢時代』より) 天川裕司 @tenkawayuji

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