第4話 「はい、あ~んっ!//」

 あの宣告通り、翌日も朝から俺の家にくるリノア。


「...いや、朝来るのはいいんだけどさ...早くないか?」


「そうですか?もう7時ですよ」


「...7時は俺の起床時間だから。こっから学校は10分くらいだし...8時くらいに来てくれればいいんだけど」


「別にいいじゃないですか。お邪魔します」と、俺の言うことも聞かずずかずか家にはいると母さんに挨拶をする。


「おはようございます、お母様」


「あら!また来てくれたの、リノアちゃん!おはよー!今日もかわいいわねぇ!」と、すっかり美也から乗り換えたわが母...。


 完全に取り残された俺...。

そうして、着替えて登校する。


 登校中もずっと俺の腕にまとわりつくリノア...。


「あのさ...近いんだけど」


「いいじゃないですか。どうせ、先輩みたいな童貞さんは『あ...!り、リノアちゃんの...!//む、胸が当たってるよぉ!//』とか考えてるんでしょ。本当、そんなんだから童貞なんですよ」


「...別に思ってない」


「あれぇ...?その割には目逸らしちゃってますけどぉ?w」


 こいつ...。これでよく俺のことが好きなんて言えるな...。


 周りからの嫉妬の目線を浴びながら校舎に入り、そのまま教室に入る。


「ねぇ、けんぅ...大好きだよ?」


「オ、オレモスゴクスキダヨ」と、棒読みで返答すると思いっきり足を踏まれる。


「いっ!!!」


「あらあら照れちゃってかわいいなぁ、けんはぁ//」


 こいつの演技力どうなってんだよ...。


 今やすべての注目を集めている俺とリノア。

その前でしょうもないクズ男とどうしようもない女がイチャついていようと、それはだれの目から見ても滑稽にしか映らなかった。


 しかし、そこで終わらないのがこの女だ...。


「あっれぇ...?よく見たらえっと...うーんと...私に何回も求愛してきたお猿さんじゃないですかーww」と、与一を見ながらなんとも楽しそうにそんなことを言う。


「...っち」


「よかったですねぇ!彼女できたんですか!w私にしつこく連絡先聞いてきてたんですけど、あぁ、そのレベルの女で手を打ったんですねw」と、どんどんと煽る。


「てめぇ...調子に乗ってんじゃねーぞ」と、立ち上がりものすごい形相で俺たちを見下す与一。


「...あぁ、先に忠告しておきますね。私もこう見えて人のことですから。先輩が今までしてきたことには目を瞑ってあげます。けど、これ以上私に...私の彼に何かするようなら、関野家の全戦力をもってお前も、お前の家族も全員生かしておかねぇから覚悟しろよ」と、目を見開きとんでもない迫力でそんなことを言う。


 それは...脅しには十分すぎる脅しであった。

実際、関野家はお金持ちということもあるが、親族には政治家、弁護士、警察、裁判官、マフィア、ヤクザ、FBIとありとあらゆるパイプがあると噂されていた。

正直、こんな小物以下の学生風情がどうにかできる相手ではないのだろう。


「...っち」と、おとなしく席に座る与一。

正直、胸がすっとしたのは言うまでもなかった。

けど、普通にめっちゃ怖くて焦った。


 もしかしてだけど、いまさらながら俺はやばい人を彼女(仮)にしてしまったのではなかろうか...。


 それからも当然のようにいちゃつきまくるリノア。


 お昼になると、俺の膝に乗って正面で座りお弁当のおかずを差し出してくる。


【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093078936124514


「はい~、あ~んっ!//」と、卵焼きを俺の口に突っ込んでくる。


 はたから見ればもういかがわしいお店の接客にしか見えねーぞ。


「...はい。あ~ん...」


「どう?おいしい?私の妹が焼いた卵焼き」


 おい、てめーで焼けよ。


「う、うん...。おいしい」


「じゃあ、次が祖母が作ったそぼろもどうぞ」


 駄洒落かよ...。


「うん...おいしいよ...」


「じゃあ、次はねー私が作った...佃煮」


 ...また駄洒落だし。

ようやくリノアが作ったものか...。

てか、つくだ煮って...和だなぁ...。


「いただきます...。っぐ!!!」と、思わず吐き出しそうになる。


 こいつ...!まず!!!なんだよこれ!と何とか飲み込む。


「...どう?おいしかった?」


「...おいしいわけねーだろ...!何入れたんだよ...!」と、小声でささやくと、「...普通に作っただけなんだけど」と、涙目で言うのだった。

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