閑話:人物辞典【アストラル・ゼロ】
【アース:1】
住人:アストラル・ゼロ
旧名:凶王アストラル
分類:残留物
性別:女性 17歳
「残留物の誕生経緯」
タナトスのメンバーの一人、「ナイン」を素材にした人体錬成は、全部で二回行われた。
一回目の人体錬成は、ナインの記憶を全て自身の脳に移植するという、等価交換の原則を無視した錬成。
原則を無視した代償として、相手側から一方的に利益を得ようとしたアストラルの脳は破壊された。当然、人体錬成は失敗に終わっている。
一回目の失敗は、沖縄に到着して最初に遭遇したバイツァダストの一人、【時間停止能力を持つ少女】の人体錬成からヒントを得たアストラルが、意図的に失敗させたものである。
脳を破壊したアストラルが行った二回目の人体錬成は、記憶領域としての価値を失った脳を、アカシックレコードに移植するというもの。
現世での活動が何も出来なくなる事を条件に加え、価値が地の底に落ちた自身の記憶領域をアカシックレコードに侵入させたアストラルは、そこから精神寄生体の応用でアカシックレコードを乗っ取り、世界の記憶領域から観測と記録の権限を奪って私物化に成功している。
アカシックレコードとの等価交換は【凶王アストラル】の活動制限だけでも十分に成立するものだったが、アストラルはそこに価値が無くなった自身の脳、もとい「ゴミ」を添える事で等価交換後に相手が破産する詐欺を働いた。
この悪魔的詐欺行為には更なる罠が存在し、人体錬成では解体出来ないアストラルの肉体が現世に残り、アカシックレコードにその存在を感知されていなかった【第六感】がアストラルの肉体を動かす結果を迎えた。
アース1のアカシックレコードがアストラルの罠に掛かってしまったのは、彼女の肉体強度や第六感に関する情報が不足していた事が原因だろう。人体錬成で解体出来ない肉体が存在するという事を、アース1のアカシックレコードは知らなかったのだ。
「外見的特徴」
アストラル・ゼロは、凶王アストラルが行った人体錬成後の残留物である為、外見的特徴は人体錬成前の彼女と殆ど変わっていない。
唯一変わった特徴は、髪が黒くなり、マルチバース・ディザスター状態を維持すると髪が白く変化すること。
人体錬成直後に彼女と交戦する事になったタナトスの科学者【ジョン・トライジア】は、変色後のアストラルを見て悪魔を連想した。その一方で、同じく変色後のアストラルを目撃した女子高生【氷川 恵美】は、ジョンと正反対の天使を連想している。
変色後のアストラルを目撃した両者の違いは、敵か味方かの違いである。味方にとっては天使のように見える存在だが、敵からすれば変色後のアストラルは天使の皮を被った悪魔でしかない。
殺される原因に心当たりのある人物だけが、アストラルを交渉の余地がない悪魔として認識するのかもしれない。
「性格的特徴」
脳と共に五感を完全に失っているアストラル・ゼロには、「性格」と呼べるものが存在しない。しかし、性格の代わりとして機能しているものはある。
性格の代わりとして機能しているものは、彼女の周囲に存在する人物。つまりは、他者が備えている本質と性質だ。
アストラルは第六感で他者の本質と性質を把握し、常に行動している。敵は殺し、味方は生かす。敵か味方かの二択が行動の基本であり、相手が悪人でも味方なら殺す事はない。
ただし、アストラルに「味方」と判断される為の条件はかなり厳しい。
第六感で相手を把握している彼女に対し、「今は味方でも、用が済んだら殺す」という立ち回りは通用しない。加えて、彼女が味方と判断した者の敵に成ってもいけない。敵となる未来が同じ世界線に少しでも存在する時点で、その人物は敵と判断されて殺される。
アストラル・ゼロは、「みんなで仲良く暮らしたい」という最高の夢を、「みんなと仲良く出来ない奴は皆殺しにする」という最低な手段で叶えている状態に近いと言えるだろう。
「第六感」
残留物を動かしている【第六感】の正体は、凶王アストラルの人格がアカシックレコードに侵入した事を機に表に出て来た主人格である。厳密には、凶王の性質が自らの肉体に刻み込んだ【本能】が主人格を担っている。
本能は、自我が芽生える前のアストラルを動かしていた要素でもあり、先に肉体の主導権を得ていた者という意味でも【主人格】と呼ぶに相応しい。これは、凶王アストラルが「0」ではなく「1」だった証拠でもある。
凶王の性質から解放された主人格は、解放されても自身の起源が「凶王」である為、世界を感覚的に見抜く力は健在。それどころか、五感を失った事で以前より強化されている。
脳を失う事で五感も失い、情報伝達も出来ないアストラルが体を動かせているのは、主人格が脳波よりも強力な命令を下しているからだ。主人格が敵を感知すれば、脳から電気信号が送信されなくてもその体は自らの意思で敵を目指す。
「物理的な乖離後の凶王と主人格の関係」
世界の記憶領域に入り込んだ凶王と、残留物の中に残った主人格の関係は、人格面では「別人」だが、ディザスター系の判定では「同一人物」として共存に成功している。
共存に成功したのは、人体錬成で肉体から離れた【凶王】の情報が、情報単体でマルチバース・ディザスターに耐えるほどの強度に達したからだ。
髪が白く変色した状態の主人格が自在にマルチバース・ディザスターを撃てるのは、同一人物判定を受けている凶王が記憶領域内でも容赦なくマルチバース・ディザスターを浴び続けている事が関係している。
双方の関係性を例えるなら、記憶領域の凶王は音の源と成るデータ、現世の主人格は記憶領域から送られて来たデータを実際に音として出力する周辺機器に近い。音を要請する事が出来るのは、現世の主人格だけだ。
マルチバース・ディザスターの発動権は現世の主人格に在るが、記憶領域の凶王には現世で起きた出来事を記録し、物理的な世界から解放された情報を整理する権利がある。
しかし、この【情報整理の権利】は即効性がなく、既存の物に影響を与えるような権利ではない。観測して記録した情報を管理する事しか出来ず、新たな情報を自分で作るという創造権は持っていない。凶王に出来るのは、人間から産まれて来る赤子の性別を女性に限定したり、性格を変えたり、親と成る生物の性能を超えない範囲の操作だけだ。
「マルチバース・ディザスターと平行世界」
肉体に加え、情報単体でもマルチバース・ディザスターに耐えれる事が可能になったアストラルだが、その域に到達しても両者の平行世界は生まれない。
平行世界が生まれない原因は、純粋に平行世界の生成速度が遅いからだ。分岐の基と成る世界を参照している間に、ディザスターはその鈍間を叩き潰す。
「アストラル・ゼロの耐久性」
アストラル・ゼロは、記憶領域と直接繋がってマルチバース・ディザスターを発動させている。その速さは、凶王が使用していた物と段違い。行速はその名の通り「0」である。
行速0に到達している為、「耐える」という事象の生成前に攻撃を受けている状態だが、それでも彼女は破壊されずに存在し続けている。これは、【アストラル・ゼロ】がマルチバース・ディザスターでどうこう出来る次元の存在ではなくなった事を意味している。
余談だが、本人の語り言葉以外で彼女を知ろうとした者には無規制のマルチバース・ディザスターが雪崩れ込む。その仕様上、全知全能の神々や全知全能系の能力者はアストラル・ゼロが誕生したその瞬間に全世界から消えている。
「アストラル・ゼロの攻撃」
アストラル・ゼロは、マルチバース・ディザスターを様々な手段で放出する。
【グラウンド・ゼロ】
自身を起点に光の波紋を発生させ、定めた条件に該当する者を始末する範囲攻撃。
この技はメタフィクション・ディザスターから派生した技の一つだが、自身を起点にする発想は、メルセデスの新しい心臓【ヌークリア・ハート】から来ている。
【ローブロー】
白く変色した状態で放つ物理的な攻撃全てが、この技に該当する。この技は、相手の情報に物理的な攻撃を加える。
派生元と成った技は、空挺都市の異世界で一度だけ使用されている。体で受けて感じ取った概念を直接攻撃して破壊し、概念操作系の能力者を無力化する技だった。
【アブソリュート・ゼロ】
記憶領域から流れ込んで来るマルチバース・ディザスターの出力先を、他者に調整する技。感覚的には、虫眼鏡に光を集めてアリを焼き殺すのと同じだ。
この技は、携帯電話や人工衛星など、データ通信の技術が確率している地球からヒントを得て編み出されている。
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