閑話:人物辞典【アース0】
【アース0】
住人:アース0
分類:世界観的生命体
性別:無性
「外見的特徴」
その全貌を観測した者は、アース0を始末したアストラルしか居ない。
アース0は無限大の宇宙を内包した輪郭を持たない生物であり、その姿を言葉で表現するのは難しい。強いていえば、アストラルが暮らす宇宙は、アース0の体内に在る宇宙の一つに過ぎず、アース0が生きている限り体内の宇宙は無限に増え続ける。
アース0の体内にある宇宙にはマルチバースの世界も含まれており、可能性の世界は毛細血管のようにアース0の体内に張り巡らされている。それ等の世界は、不可視かつ不可侵の領域であるため、アース0が生きている間は、どんなに宇宙を飛び回ってもアース0の住人が自力でマルチバースの世界に辿り着く事はない。
アース0は、宇宙そのものが体であり、世界は臓器、星は細胞、住人は遺伝子のような存在と言っても過言ではないだろう。
「アース0の死因」
観測する事はもちろん、攻撃を当てる事すら不可能なアース0がアストラルに始末されたのは、ある種の事故と言える。
事故の原因となったのは、七人の勇者を探して宇宙を旅したアストラルが、アース0の遺伝子、細胞、臓器を次々と破壊していったからだ。その中でも特に深刻な影響を与えたのが「マルチバース・ディザスター」である。人間で例えるなら、一つの癌細胞に体が壊されて行くようなものだ。
異常者を検知したアース0は、自身の体内で破壊活動を続ける異常者を体外に排出しようと試みたが、そのせいでアストラルに存在を悟られ、暗黒面に入った彼女から直接攻撃を受けて敗北。
アース0の屍の中に残された世界の主導権は、その世界の住人に権利が渡ってしまった。
「アース0の世話係=編集者」
アース0には、「編集者」と呼ばれる世話係が何体か存在していた。
編集者の役目は、アース0が死なないように宇宙、世界の状態を編集し続ける事だったが、例の異常者に対抗する術がなく、全員が編集に使う筆ごと叩き潰されている。
編集者は宇宙で形成された大きなマントを羽織った白騎士の姿をしており、両手両足の指が関節付きの筆になっている。
編集者は本来なら物理的にも非物理的にも攻撃する事が出来ない存在だが、「編集」という役割を得ている都合上、その生物がどんな生物か記された「情報」には影響を受けてしまう。
そんな彼らがアストラルと物理的に接触して近接戦を行う事態に陥った原因は、彼女の個人情報が編集者に負荷を掛ける質と量に達していたからだ。編集を試みても、彼らの指がその負荷に耐える事は出来なかった。編集者の目線から見れば、アカシックレコードが明確な殺意を抱いて殴り掛かって来た状態に近い。
結局のところ、どんなに上位の存在になっても、アストラルは相手の事情に構わず純粋な殴り合いを仕掛けて来る。それが出来なければ、原点回帰も成し遂げられない。
「タイタン」
宇宙を縄張りに活動し、星々のエネルギーを吸い尽くす大型生物のタイタンも、アース0にとっては必要不可欠な存在だったと言える。
タイタンは主に、編集者の労力を軽減する役割を果たしていた。
タイタンに滅ぼされてしまう星は、編集者が介入する必要のない星として、「
タイタンが迎撃されてしまう星は、編集者が介入すべき「
その星の住民の戦闘力によっては数秒で倒されるタイタンだが、タイタンの中にも格差は存在し、何億光年も離れた宇宙から星々のエネルギーをまとめて吸い込む超大型のドラゴン【スペクトルカイザー】が最強格だった。その名は、星々のエネルギーを吸収する時に発生する赤、橙、黄、緑、青、藍、紫などの色を持つ光に由来する。
スペクトルカイザーは、ヘンドリックの父親【アレクセン・ドルトール】が十五歳の時に投げた大槍「スターライト・プリズム」に右目を貫かれて以来、その周辺の星々を襲わなくなった。
スペクトルカイザーが右目を失って以降、アレクセン王の星は
右目を失ったスペクトルカイザーのその後に関しては、傷を癒す為に宇宙の片隅でエネルギーを吸収しているところをアストラルに感知されてしまい、そのまま討伐されている。
「アース0の神々」
神々の生息地として与えられている「天界」は、その世界、その星の環境によって様々な進化を遂げている。
基本的にはその星ごとに天界が一つ在る仕組みで、その星で死亡した善人はその星の天界に魂を送られていた。この時、善人には全ての記憶を失って同じ宇宙の異なる星に転生を果たすか、その星の天界に留まって神に成る為の修行に備えるか選択肢が与えられる。
特殊な生態系を築き上げた星に関しては、神が実体化して人間界を歩いているような環境が多かった。そのような環境に身を置く神々の問題点は、実体化した事が原因で欲望を抑え切れず、世界の秩序を守る歯車としては不適切な存在に成ってしまう事だった。
例の異常者が発生する原因となった星の天界については、責任追及から逃れる事に成功した神々の避難所と言える。
天地創造以降、最後の一人に成るまで殺し合う傾向にあった人間界の生物を宥める為に神々は実体化して地上に降りたが、人間界の生物は神々に世界の欠陥を指摘し、その責任を取らせる為に神々の首を刎ね回った。
例の異常者が産まれる時代の天界は、死後も責任追及をして来た古代人を封印する監獄と化している。
肉体を放棄出来ない神々は監守役として天界に留まり、絶えず天界に運ばれて来る善人の皮を被った狂人達に言い訳をして生き延びている。
天界に留まっている神々が生かされているのは、「全能じゃないならお前に言っても仕方ない」という理由だ。
その一方で、肉体を放棄して不可視の存在に戻れた神々は、お互いが全能である事を隠して「〇〇の神」と嘘をつき、最高神の座には誰も就いていない。
不可視に戻れた神々にとって、最高神の座は処刑台と言える。
アース0には、神羅万象を司る神や、起きた出来事を全て夢の中の出来事にする異質な外界の神も存在したが、他の世界、他の星で起きている問題であった為、例の異常者が襲い掛かって来るまでは他人事だった。
最終的に、アース0の神々は全員がたった一人の処刑人に刑を執行された。
「アース0の亜人」
アース0の亜人の定義は、その星の主要生物の形を得ているか否かである。
姿形はその星の環境に依存するが、血を吸う生物が「吸血鬼」と呼ばれたり、武器を作る事が得意な種族を「ドワーフ」と名付けるなど、物事の捉え方や発想はある程度共有されていた。
一部の星では、ゴブリンが主要生物として地上を支配しており、その星ではゴブリンが「人間」と呼ばれ、ゴブリンの要素を兼ね備えた別の種族を「亜人」と呼んでいた。当然、その星の神々も主要生物の姿をしている事が多い。ゴブリンだと思って攻撃したら実は死神だった、なんて事も普通にあり得る。
孤独な神ほど自分に似た創造物を創る傾向にあり、その創造物が中心となって回り続ける星を眺めている。
「アース0の魔族」
魔族は、その星を創った神々の失敗作として封印されている事が多い。その封印されている領域を「魔界」と呼んでいる事も多いが、天界と違って魔界には「こう在るべき」という見本が存在しない。滝を潜った先に在る洞窟の奥が魔界という事も多々ある。
魔族という言葉の起源は、成功と失敗の狭間に属する者。成功とは言えず、失敗という訳でもない中間地点に生み出された者を魔族と呼ぶようになった。言い換えれば、何かの
試作品である為、魔族にも様々な個体が存在する。魔人の場合は人間を創る過程で生まれた者、魔神の場合は神を創る過程で生まれた者。
魔族に分類される悪魔に関しては、「出来損ない」や「死に損ない」という意味がある。この二つの違いは、前者が堕天使に対するもので、後者が死を経て悪魔化した者に対するもの。
自分の事を「私は〇〇の悪魔だ!」と誇らしげに紹介する悪魔は滅多に居ない。これは名前の意味を考えれば当然の事で、悪魔が名前を隠すのもこれが原因と考えられている。
「アース0の星」
アース0の体内は様々な生物が混在する世界ではあるが、星そのものが生命体という珍しい環境も在った。
その珍しい星の代表格と言えるものが、【未知の病の星】だ。
この星は、「未知の病に侵される」という概念そのものが星の形をしてこの世に顕現していたものである。物理的に接触できる概念である為、一見すると何処にでもある普通の星だ。
例の異常者も、この未知の病の星にはかなり苦戦した。
というのも、この星の概念は「未知の病」という曖昧な表現が根底にある為、病に対する耐性を上げて体を強化しても、耐性に関係なく様々な病をもたらす。
病気を発症しない体に進化しても、病に分類されない未知の手段で体を蝕む都合上、どう足掻いても未知の病を克服する事が出来ない。
様々な耐性を獲得しても病を克服する事が出来なかった結果、彼女は病に蝕まれながら瞑想を行い、自身の体に【この体は不都合を糧にする】と思い込ませて進化を促し続け、克服すべき対象を「病」から「不都合」にすり替えた。
体に悪影響を及ぼす結果を不都合に落とし込まれた星は、不都合に分類されない手段で体を蝕むという概念を形成してしまい、「蝕む」という行為自体が不都合という無限ループに陥り崩壊した。
未知の病という曖昧な表現と、不都合という曖昧な表現。どちらがより幅の広い概念かといえば、圧倒的に後者と言える。未知の病は、不都合という名の容器に閉じ込められる形で克服された。
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