第31話 モブとメインキャラ達
「僕も所詮は
シアンが渾身の拳を入れるも、セビルはそう口にした。
それと共に、一際大きな爆発音が
「「「……!」」」
さらに問題なのは、爆発した場所だ。
「あれは、王城付近か!?」
この国の象徴である王城付近からの爆発音だったのだ。
同時に、シアンはざわっとした嫌な空気を感じる。
振り返ったのはレニエの方だ。
(しまった……!)
王城には、アリシアが住んでいる。
彼女と友達になってしまったがために、レニエの怒りが頂点に達してしまった。
その瞬間、レニエから何かが飛び出す。
「……ッ!」
発現したのは──『闇の触手』。
一つ一つが巨木のように大きな触手が、何十本と飛び出した。
シアンが考えていた最悪の事態だ。
「「「な、なんだあ……!?」」」
周りの傭兵たちは大声を上げる。
【闇】を
そして何より、一番驚いていたのはシアンだ。
(なんだ、このデカさは……!)
『闇の触手』は二年前にも発現している。
エレノラとアームリー商会へ行った時だ。
だが、その時よりも遥かに大きく、数も増えていた。
(これじゃまるで……!)
自然とシアンの頭に浮かぶのは、原作の最終盤。
無理やり【闇】を覚醒させられ、ラスボスとなった時の強大なレニエの姿だ。
(まさか、レニエと一緒に成長したっていうのか!?)
レニエは、シアンの役に立ちたいと魔法の修行を重ねた。
それと共に、彼女に潜む【闇】も強くなっていたのだ。
今の力は原作ラスボス時と同等、もしくはそれ以上の大きな【闇】だ。
また、レニエ自身にも影響が出ていた。
「う、あああ……!」
「レニエ!」
すでに【闇】を制御できず、意識を失っている。
これじゃ誰も抑えることはできない。
そして、レニエから溢れ出す【闇】の出力が止まる。
「「「……?」」」
だが、これは終わりではない。
むしろ、ここからが
それを一早く察知したシアンは、周りに呼びかけた。
「退避しろ!!」
その瞬間、高くに上がった何十本という触手が、一気に牙を向く。
上から人を呑み込むように、地上へ手を振りかざしたのだ。
「「「うわああああああっ!」」」
あまりに異質な触手に、全員が一斉に散らばり始める。
だが、逃げ遅れた一人の傭兵が触れられてしまった。
「あぐぁっ!」
「「「……!」」」
すると、傭兵の体は一気に
まるで一瞬で生気を全て奪われたかのように。
その現象に、エレノラが声を上げる。
「シアン!」
「あ、ああ……!」
シアンと同じことを考えたのだろう。
見た目だけではなく、【闇】の力は明らかに大きくなっている。
以前も強力な効果を発揮した『闇の触手』だったが、せいぜい立っていられなくなる程度だった。
だが、今は違う。
触れられただけで、体内全てのエネルギーを限りなく“無”にするほどの影響力だ。
それを今の犠牲者が体現していた。
ならば、取れる手段は一つだ。
「全員、今はとにかく一度離れろ! 絶対に触れられるな!」
シアンが大声で叫ぶ。
今は敵も味方も関係ない。
それぞれが四方八方に駆け出した。
「「「うわああああああっ!」」」
未知の力の前には、裏の傭兵だろうと逃げ惑うしかない。
もちろんアルス達、シアン側もだ。
「シアン君、あれは一体!?」
「……っ」
言うのは
「レニエに眠る力だ。制御はできない」
「そんな!」
この場において、心配なことは複数ある。
まず、アリシアの安否。
爆発があった王女に住む彼女が、無事かどうかだ。
次に、レニエの状態。
「あ、あああああぁ……!」
「レニエッ!!」
いくら修行をしたレニエと言えど、この強大すぎる力は身に余る。
今のレニエは、出し切れない力を無理やり放出しているのだ。
その苦しみは計り知れない。
そして、王都の騒ぎだ。
「「「きゃあああああああっ!」」」
度重なる爆発と、シアン達の激しい戦闘。
人々はこの場から離れているが、王都全体はパニックと言っていい。
加えて、謎の巨大な触手が現れたとなると、事態は想定もできない。
(くそっ! 考えることが多すぎる……!)
さすがのシアンも焦りを隠せない。
だが、この間にも犠牲者は増える。
「ぐあ、ああっ……!」
「あぅあ……!」
何十本という巨木のような触手が、人を狙って襲う。
これをかわし続けるのは不可能だ。
まだ傭兵にしか被害は出ていないが、このままでは一般市民が逃げたエリアにまで触手が侵攻する可能性がある。
もちろんレニエもそれは望んでいない。
ここで絶対に止めなければならなかった。
(((どうする……!)))
シアン達は必死に考える。
しかし、思考を巡らせるあまり、ティルが注意を
「──あっ」
建物で見えない所から、触手が迫ってきたのだ。
両側から挟まれた彼女に、逃げ場はない。
「ティルー!」
「くうっ!」
ティルは思わず目をつむる。
だが、彼女が触手に触れられることはなかった。
【闇】という最強の属性の塊である『闇の触手』を、止めた者がいるのだ。
「【王の器】」
「「「……!」」」
両手を包み込むようにして立っていたのは──アリシア。
彼女の属性【
「アリシアさん!」
「間一髪だな」
ティルに振り返り、アリシアはふっと微笑む。
しかし、すぐにガクっと膝を落とした。
「それにしても、さすがに強力だな……」
「アリシアさん!?」
【
その証拠に、アリシアの頬の一部がじわりと黒紫色に変色する。
「アリシア、大丈夫ですか!」
「シアン君か。遅くなってすまない」
「そんなことはありません! とにかく離れましょう!」
シアンはアリシアを抱え、一行は距離を取った。
わずかな時間ではあるが、そこで現状把握を図る。
「アリシア、爆発は無事だったんですね」
「ああ、一つ目の爆発からすでに警戒をしていた。王城付近は心配ない」
「……! さすがです」
また、アリシアはさらなる吉報をもたらす。
「市民に関しても問題ない。私が先導して避難をさせた。それで遅れてしまったのは申し訳ないが」
「ということは……」
「ああ、後はあの触手だけだ」
「……!」
アリシアはどこで爆発が起きるかも分からない中、己が声一つで人々を先導し、避難させた。
まさに王女たる振る舞いだ。
彼女の人々を導く力は、セビルなど優に越していた。
そして、今度はアリシアが確認する。
「あれは、レニエ君から出ているので間違いないな?」
「はい」
「止める
「……」
【闇】は強大すぎる力だ。
シアンと共に修行をしたアリシアでさえ、一度無効化するのがやっとだ。
すでに
対して、シアンは“属性無し”。
今ほど、自分の恵まれない才能を悔やんだことはない。
──しかし、そんなシアンだからこそ、否シアンにしか出来ないことがある。
「……これなら」
苦しい表情から、シアンは目を開いた。
アリシアのじわりと変色した頬から、何か着想を得たように案を浮かべたのだ。
「どうにか出来るのだな」
「はい。でもみんなの力が必要になります。それにかなり危険で──」
「大丈夫だ」
「……!」
案の危険さを説こうとするシアンだが、アリシアは首を横に振った。
またそれは、周りも同じだ。
「ここには、君に協力しない奴はいない」
「そうだよ、シアン君」
「いまさらでしょ、シアン」
「師匠、ワタシも協力します!」
アリシア・アルス・エレノラ・ティル。
原作メインキャラ達が、原作モブのシアンに命を預けるというのだ。
これは今までの努力、レニエに尽くしてきた行動が、実を結んだ結果だ。
この光景に、シアンは目頭が熱くなる。
「みんな……」
加えて、これはシアンだけの為ではない。
レニエという友達を救いたい。
そんな気持ちも全員から感じられる。
シアンはそれが何より嬉しかった。
「……そういうことなら」
シアンは立ち上がる。
向いたのは、巨大な『闇の触手』の中心部だ。
「みんなでレニエを止めよう!」
推しであり愛する妹のレニエを助けるために。
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