第30話 逆転の一手

 「だったら、やるしかないか」


 シアンが想定以上に強くなっていたことで、セビルは追い詰められる。

 ならばと、用意していた最終手段を持ち出した。


──ドガアアアアア!


 セビルが合図をすると、王都のどこかが爆発したのだ。


「王都全ての者が人質だよ」


 セビルがここまでする目的は一つ。

 彼は再度警告するよう、レニエを指差した。

 

「君が僕の元に来れば、爆弾は解除しよう」

「あんたは……!」


 対して、レニエは怒りをあらわにする。


 だが、その瞬間、シアンは感じ取った。

 レニエから何かが飛び出そうとするのを。

 同時に、直感してしまう。


(セビルの目的は、【闇】を発現させることなのか……!?)


 なぜ、どうして。

 色々と疑問は浮かぶが、今は急を要する。

 ならば、そうならないように動くしかない。


「レニエ! 待て、抑えろ──」

「早くしてよ」

「……!」


 だが、セビルは間髪を入れずに合図をした。

 それと共に、また違う場所で爆発音が鳴る。


「「「きゃあああああああ!」」」

「……ッ!」


 もはや無差別攻撃だ。


「ははははっ! ああ、最初からこうしておけばよかった!」


 セビルは声を上げて笑う。

 後始末が面倒と言っていたため、取りたくなった手段なのだろう。

 だが、ここまで来れば、もうどうでもいいと言いたげな表情だ。


「セビルーーー!」


 シアンは全速力で殴りにかかる。


「お前だけは!」

「おっと、いかせねえぜ」

「……!」


 邪魔に入るのはジャズだ。


「てめえとの勝負は負けでいい。だが、ここは通させねえ」


 彼もセビル同様、シアンに負けを認めた。

 それでも、最終手段だけは意地でも行う。

 勝負に負けても、戦いには勝つつもりだ。


「邪魔すんな!」

「おっと、感情的になれば俺の領分だぜ」

「……! くそっ!」


 地中と空中からくさりがまが迫り、シアンは下がった。


 四方八方からの攻撃を得意とするジャズは、入り組んだ場所ではさらなる力を発揮する。

 シアンの邪魔だけをすることに注力している彼は、厄介という他ない。


 そして、シアンはレニエを気遣う。


「レニエ、大丈夫だ。俺が必ず止めてみせる」

「……え、ええ」


 しかし、内心は焦っていた。

 原作知識もり交ぜ、セビルの目的を理解したのだ。


 セビルの目的は、レニエの【闇】をおおやけに出すこと。

 その上で、レニエを表社会から追放することだ。


(原作でもそんな末路だったな……)


 【闇】は、恐怖や呪いといった“不幸”の象徴。

 もし明るみになれば、学院を追われ、家を追われ、表では生きていられない。

 結果、裏社会にしか身を置くことしかできなくなる。


 そうなれば、裏はセビル達の領分。

 レニエがどれだけ逃げようと、裏にいる限り、手にするのは時間の問題だ。


(どこで知りやがった……!)

 

 考えられるとすれば、王都でレニエがクラスの男子達に囲まれた時。

 一瞬ざわついた【闇】の気配を、逃さなかったのかもしれない。


 ──だが、思考を巡らす間にも、セビルは行動を起こす。


「ねえ、まだなの?」

「……ッ!」


 またも、大きな爆発音だ。

 これで計四回。

 被害が出ていないとは考えにくい。


(こいつら……!)


 常時レニエを狙う、十人以上の裏の傭兵。

 爆発を合図するセビル。

 セビルだけを守る“鎖鎌使い”ジャズ。


 レニエを守りながら全てを相手にするのは、さすがに手が足りなかった。


「ははっ!」

 

 ならば、ダメ押しだと言わんばかりに、セビルが合図をしようとする。

 同時に、傭兵たちも一斉にレニエに向かう。


 シアンが動けない中、爆発音は──鳴らなかった・・・・・・・


「うおおおおおおっ!」

「ぐあっ!?」


 セビルが後方からぶっ飛ばれたのだ。

 

「シアン君!」

「……!」

 

 駆けつけたのは、アルスだ。

 後ろにはティルとエレノラの姿も見える。

 

(勝ったのか!)


 ジャズが来ていることから、毒蛇ビオラが来ていることは予想できた。

 だが、アルスが帰ってきたということは、ビオラを倒したのだ。

 

 手が足りない時、助けてくれるのは友達。

 原作を改変してからこそ出来た関係は、ここぞの場面で逆転の一手となった。

 ならばと、シアンはエレノラに目を向けた。


「「……!」」


 エレノラは頭が回る。

 シアンの強い視線だけで、その意図を汲み取った。


((レニエの【闇】は発現させない!))


 そのために二人は動いた。

 シアンはようやく周りへ集中できる。


「【全方位気弾】」

「「「ぐわああああああっ!」」」


 闘気を飛ばす遠距離攻撃を、全方位に向けたのだ。

 セビルの監視がある内は下手な動きをできなかったが、今はようやく反撃できる。

 それから、エレノラは指示を出した。

 

「アルスは追撃! ティルはあの鎌を防いで!」

「うん!」

「はい!」


 アルスとティルは、この一か月シアンの元で鍛えられた。

 メインキャラという潜在能力を生かし、今は確かな戦力として活躍できる。

 また、エレノラも自身の属性を生かす。


「【属性増幅】……!」


 エレノラは、原作では立派な強化バフキャラだ。

 その力を発揮して、味方全員を支援した。

 

 そして、形勢は一気にひっくり返る。


「「「はああああああッ!」」」


 各々が役目を果たし、戦場を支配した。

 そうして、アルスが声を上げた。


「シアン君!」

「ああ……!」


 周りを蹴散らし、シアンがその場を蹴り出す。

 向かう先は──ひとつ。


「よくもやったな」


 アルスに追撃を入れられ、ぐったりとするセビルだ。

 未だ爽やかさを残すその表情に、シアンはようやく時が来たと言わんばかりに力を込める。


「最初から気に入らなかったんだよ」


 えんが大きく混ざっていることは認めるだろう。

 それも込みで、振りかざすのは【身体強化】七倍を込めた拳だ。


「うらあああああッ!」

「……っ!」


 言葉を出せない程の衝撃。

 気を失うのは一瞬だ。


 だが、最後の最後にセビルはニヤリとした。

 彼の最終手段はこの時を以て完成した。


「僕も所詮はの駒ってことさ」

「……!?」


 その瞬間、一際大きな爆発音が響く。

 セビルが最後に仕掛けていた爆弾は、自身の敗北で発動するものだったのだ。

 さらに、その場所が問題だった。


「あれは、王城付近か!?」


 アリシアも住む王城付近だ。

 同時に、シアンはすぐさま振り返った。


(しまった!)


 力の目覚めを感じたのだ。

 友達を想うばかりに、覚醒する【闇】の気配を。


「……ッ!」


 静かに漏れた声と共に、レニエからドス黒い触手が飛び出した──。

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