第26話 イレギュラーな存在

<三人称視点>


「今日は新しいクラスメイトを紹介する」


 始業時間、担任の先生が口にする。

 すると手招きに続いて、扉から一人の少年が入ってきた。


「皆様はじめまして。セビル・グリムです。入学が遅れた理由は、内政を手伝っていたためです。何卒よろしくお願いします」


 転校生──セビル。

 見た目は、少し小柄な黒髪の少年だ。

 しかし、整った顔と所作には、目を惹くものがあった。


 イケメン風でありながらも、どこかあどけなさが残る顔。

 可愛いとかっこいいが入り混じった様だ。

 まさに、女子ウケが良さそうな雰囲気を持っている。


 そして、それを証明するように、クラスの女子達はこそこそと話し始めた。


「え、ちょっと良いんだけど!」

「グリム家って、こうしゃく家じゃない?」

「そうだよね!」

「身分があって顔が良いとか……」


 第一印象はかなり良いようだ。

 それから、先生は手を前へ差し出す。


「席は自由だ。どこでも空いているところに座ってくれ」

「分かりました」


 それに従い、セビルは周りの様子をうかがいながら、教室の中央を通って行く。


「ごきげんよう」

「セビル君、こっちはいかが?」

「こちらでも構いませんよ」


 セビルの通る道では、そんな声が聞こえる。

 どれも女子が貴族らしさを振る舞った、丁寧な口調だ。

 早速お近づきになりたいのだろう。


「ありがとう」

 

 優しく応えるセビルだが、立ち止まることはない。

 彼が真っ直ぐ目指すのは、とある区画だ。


 そして、いよいよセビルが足を止めた。

 彼の前には──レニエだ。


「こんにちは」

「え?」


 レニエの前でぴたりと止まり、ニコっと笑顔を向けたのだ。

 それから、ふいにレニエへ手を伸ばす。


「おや、服に髪の毛がついてますよ」

「あ、本当だわ」

「そのまま動かないで。僕が取る──」

「勝手に触んじゃねえ」


 しかし、横からマッハの手が飛び出す。

 こんなことをするのは一人しかいない。

 もちろんシアンである。


「おいクソガキ、なに気安く触ろうとしてんだ。潰すぞ」


 怒りのあまり、シアンの表情は般若はんにゃのようだ。

 対して、セビルは手を振り払う。


「おっと、怖いなあ。ただの親切心だよ」

「黙れ、こ〇すぞ。レニエに触っていいのは俺だけだ」

「いや、アンタも触んな」


 横からレニエのツッコミが入ったが、シアンは構わず続けた。


「いいか、お前の席はあっちだ。レニエに近づくんじゃねえ!」

「編入生にいきなりひどいな」


 セビルが立ち止まったのは、このシアン一派の区画だ。

 周りには、お馴染みエレノラ、ティル、アルスなどが座る。

 だが、シアンはそれをよしとしなかった。


「知らねえよ。分かったらとっとと行け!」

「ははっ、分かったよ」


 レニエに知らない奴が近づくのが許せなかったのだ。

 しかし、シアンの態度には、周りは冷ややかな目を向ける。


「うわ、編入生にあんな態度って」

「さすがにないよね」

「セビル君かわいそう」

「これだからフォード兄妹は」


 これは、もちろんシアンに聞こえている。


(う、うるせえ~~~!)


 とはいえ、今の対応を後悔はしていない。

 レニエに近づくやからは、排除するのがシアンのやり方である。


 それと、セビルを退けた理由はもう一つ。


(ケッ、顔が気に入らん)

 

 単純に爽やかイケメンが嫌いだったのだ。



 


<シアン視点>


 放課後。


「あいつ、まじでうぜー」


 お手洗いの帰り、自然と口から文句が出る。

 同時に思い出すのは、今日一日のことだ。


『きゃー! セビル君かっこいい!』

『芸術もたしなまれるなんて!』

『あの、ご一緒してもいいですか!』


 セビルとかいうクソガキは、なんでも器用にこなすタイプだったのだ。

 剣術、芸術、学問に至っても。

 結果、事あるごとに黄色い声援を浴びていた。

 

「はんっ、気に入らん」

「まあまあ、落ち着いてシアン君」


 すると、隣のアルスになだめられた。

 こんな態度を取るなら、尋ねてみたくなる。


「アルスはどう思ってんだよ、セビルのこと」

「そうだね……ちょっと思考が見えてこないかな。何を考えているか分からないというか」

「……なるほどな」


 意外とよく見てるな。

 

 セビルは、気にくわない見た目を抜かせば、悪い奴ではなさそうに見える。

 だけど、アルスの言う通り、何かを内面に隠している気がしてならない。

 もっとも、これは原作知識を交えての考察だが。


(一体、何者なんだ……?)


 セビルは、原作に出てこない・・・・・キャラだ。

 そもそも、後でクラスメイトが増えるイベントなんて存在しない。

 つまり、完全なイレギュラーと言える。


 バタフライエフェクト──小さな影響が後に大きな変化を生む──なんて言葉もあるが、その結果なのだろうか。

 すでに、俺やレニエは少なからず影響を与えているわけだし。


 ただ、一つ気をつけるべき点はある。

 セビルが原作に出てこないという情報は、正確ではない・・・・

 名前が付いていないキャラもいるわけだし、その中にセビルがいたのかもしれない。

 

 それに、周囲の反応から、グリム家というのは実在するみたいだ。

 入学が遅れた理由も不自然とは思えない。

 

「うーん……」


 それらから踏まえると、現時点では顔以外に怪しい点がないのも事実だ。

 もちろんレニエに近づけさせはしないが、ここは一度許してやって、経過観察でもいいか。


 ──と思っていた矢先。

 教室の前で、セビルがレニエに話しかけていた。


「レニエさん、一緒にお茶でもどう?」


 はい許さーーーーん!

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