第24話 再び固める決意

 「次はこっちの番だ」


 六倍【身体強化】を発動し、シアンは反撃を開始する。

 この圧倒樹な闘気には、“くさりがま使い”ジャズ、“毒蛇”ビオラも目の色を変えた。


「おい、ビオラ」

「ええ、少しはやるみたいね」


 原作終盤並の強さを誇る、裏の傭兵。

 その中でも上位に位置する二人が、本気の構えを取る。


 それでも、シアンは真っ直ぐに突っ込んだ。

 【気弾】のブーストを生かした、得意の高速移動だ。


「はあッ!」


 対して、ジャズはくさりがまを投げる。

 その安易な攻撃は、難なくかわすシアン──だが、これは布石だ。


「へっ、かかったな!」

「……!」


 シアンがジャズに迫った直前で、さらに地中から鎌が突出する。

 一本は投げたはずなのに、だ。

 シアン自身が速すぎるあまり、避けられる距離ではない。


 しかし、シアンは体を横にひねって回避した。


「んなっ!?」


 ジャズが得意とする戦法は、“初見殺し”。

 ズルであろうと、数多の戦略で先に目標を仕留める。

 それが彼の傭兵としての流儀だ。


 だが、シアンには知識があった。


(それは知ってる……!)


 ジャズは一本に見せかけ、もう二本・・の鎖鎌を隠し持っている。

 一本は地中、そしてもう一本は──空中。


「だが、三本目は!」

「それも知ってる」

「バカな……!」


 攻略サイトのすみに書いてあった情報だが、オタクのシアンはしっかり頭に入れてあった。


 それでも、この高速移動の中だ。

 正確にいなすのは至難の業である。

 これは今までの努力の成果とも言えた。


「終わりか?」

「──がはぁっ!」


 まさか二手の初見殺しを破られるとは思わず、ジャズの防御が遅れる。

 そこに高速移動と、六つの【身体強化】を重ねた渾身のパンチだ。

 さすがのジャズも相当に堪える。


「何やってんのよ! ──【毒牙】!」


 すかさず、“毒蛇”ビオラが魔法をかざす。

 だが、紫色の牙は、シアンに当たる直前で異空間に吸収された。


「【抱擁の手】」

「……! このクソ王女が!」

 

 アリシアの属性魔法だ。

 ある程度の距離までならば、属性魔法を吸収する小さな空間を造り出せる。

 だが、アリシアの顔が一瞬ゆがんだ。


「……っ!」

「アリシア!」


 その原因は、シアンだけが知っている。


 アリシアの属性──【抱擁】。

 全ての属性魔法を包み込むという、チート属性に思えるが、デメリットがある。

 それは、アリシアの体が他属性に浸食されることだ。


 アリシアは、相手の属性を無にしているわけではなく、呑みこんでいるのに近い。

 つまり、異物を体内に入れているのだ。


(もう、なのか……!)


 持って生まれた属性と、それ以外の属性は反発し合う。

 これは違う血液を混ぜたら危険な事と似ている。


 大抵の属性魔法は、何事もなく包み込めるアリシア。

 しかし、相手の魔法が強すぎれば、吸収しきれない。


 そんな弱点を今までバレずに過ごしてきたアリシアだが、今回は二発でその兆候を見せた。

 それほど、ビオラの属性魔法が強力なのだ。


(だったら、なおさら早く決着をつける……!)


 弱点が明るみになれば、そこを突く悪者は必ず出てくる。

 シアンが単身で前に出たのは、アリシアの弱点を知っていたからでもあった。


「ありがとうございます、アリシア! でも無理はしないで!」

「……!」

「ここは俺がやります!」


 シアンは照準をビオラに合わせる。


「【気弾】!」

「ふふっ、──【纏毒ポイズン・ドレス】」


 だが、全身を【毒】でおおったビオラに魔法は通じない。

 さらに、自ら触れにいけば皮膚が溶かされる。

 物理・魔法、共に封じられた状態だ。


 これが裏の傭兵、ビオラである。


(相性が悪すぎる。せめてアリシアのように、一部分だけでも吸収できれば……って、待てよ)


 シアンはふと浮かんだ思考を巡らせた。

 実際に目にした、アリシアの【抱擁】からヒントを得て。


「もう近づけないかしら、シアン・フォード」

「……いいや、これからだ」


 そして、ニヤリと笑った。


「いくぞ!」

「速いけど、無駄よ──【纏毒ポイズン・ドレス】」


 シアンの速すぎる移動に、ビオラも目で追うのが難しい。

 しかし、毒で全身を覆えば造作もない……と考えていた。


「うおおおおっ!」

「……!」


 隙を見計らって、シアンが後ろから手を伸ばした。

 ビオラの防御が遅れるが、関係ない。


(触れられないでしょう)


 そう油断した最中──強い衝撃を覚える。


「あぐっ!」

「通じた……!」


 シアンの拳が届いたのだ。

 後方からのパンチに、ビオラは軽く飛ばされる。


「そんな……!?」


 その上、皮膚が溶ける様子もない。

 シアンは息を切らしながら答える。


「闘気で、圧縮して、やったんだよ」


 攻撃の際、シアンは確かに【毒】に触れた。

 その瞬間、何重もの闘気のバリアを拳に張り、毒の装甲を貫通。

 そして、圧倒的な闘気量で【毒】を圧縮することで、なんとか消化した。


 だが、少しとはいえ、致死性の毒を取り込んだのだ。

 つまり、猛毒の食べ物を口に入れ、大量の水で無理やり押し流したことと同じ。


「誰が来ようと、レニエは渡さない」

「ったく、どんな脳筋よ!」

「……うぐっ」


 シアンと言えど、かなり堪えたようだ。

 しかし、その間に──溜まった・・・・

 ニッとしたシアンは、忠告する。


「それともう一つ。あんまりレニエを見くびらない方が良い」

「……!?」


 そう告げた瞬間、辺りが急激に寒くなる。


「無理しすぎよ、バカ兄!」

「ああ、悪いな」


 レニエの属性魔法だ。


「【銀氷の息吹】……!」


 レニエを杖から、対象を凍り付かせる魔法が放たれる。

 まるで、氷を操るドラゴンのブレスかのようだ。

 

「チィっ!」


 対して、ビオラは舌打ちをしながら、ぐったりするジャズに触れた。

 手に持っているのは、小さな水晶玉だ。


「次はない。シアン・フォード」

「待て! ……ぐっ」


 追いかけようとするシアンだが、毒が動くことを阻む。

 その間に、二人組は一瞬で姿を消した。


 そして、レニエとアリシアが急いで寄って来る。


「アンタ!」

「シアン君、無事か!」

「休めば何とか。ですがすみません、逃がしてしまいました」

 

 しかし、アリシアは首を横に振る。


「いや、様子見のつもりだったんだろう」

「かもしれません」


 姿を消したのは、おそらく魔道具のたぐい

 最初から引く気があったようだ。

 

 とはいえ、レニエは無事に守り切れた。

 相手が原作終盤クラスだったことを考えると、十分と言えるだろう。

 だが、アリシアは怒っていた。


「それにしても、なんだあの無茶な作戦は!」

「え?」

「相手は何者か分からないんだぞ! それを一人でなど……!」

「す、すみません」


 了承はしたが、相当心配だったようだ。


「でも、本当に助かった」

「……はい」


 そんな彼らの元に、後方から声が聞こえてくる。

 急いで駆けつけた教師たちだ。


「何があったんだ!」

「すごい魔力反応だったけど!」


 それには、アリシアは前に出る。


「シアン君、報告は任せてくれ。すぐに救護班も呼ぶからな」

「ありがとうございます」


 頭を下げつつ、シアンはふと思考を巡らせる。


(結局、あいつらはどうしてレニエを……)


 【闇】を持つことがバレたのか、それとも他の目的か。

 どちらにしろ重大な問題だ。

 シアンはもう少し探りを入れることを決めた。


 ──そんな中で、後ろからきゅっと手が握られる。


「!?」


 間違いなくレニエの手だ。


「レ、レニニニニ!?」

「ちょっ、静かに!」


 思わず慌てるシアンだが、レニエがしーっと静める。

 それから、周りにバレないよう小声で話した。


「手が、冷たかったのよ……」

「……! そっか」


 レニエの手は冷たいと共に、震えていた。

 二人組の強さを目の前にし、狙われることがより怖くなったのだろう。

 あとは、シアンが心配だったのだ。


「あんまり無茶、するんじゃないわよ」

「……ははっ、悪い」


 対して、シアンの口からは自然と言葉が出てきた。


「レニエは絶対に守るからな」

「……うん」


 するとレニエは、頭をそっとシアンの肩に預ける。

 シアンの手を握る力も、少し強まった。

 

「……あったかいわ」

「そうだろ」


 そうして、シアンは再び決意を固める。


(何があっても、お兄ちゃんが守ってみせる)


 ちなみに、シアンが手を握り返したら怒られた。

 やはり理不尽である。







 一方その頃、とある場所にて。


「だー! うぜえ、あのクソガキ!」


 傷を癒したジャズは荒れていた。

 シアンに完璧に攻撃をいなされ、危うく気絶寸前だったからだろう。

 それには、ため息をついたビオラが返す。


「うっさいわね。酒がまずいでしょ」

「チッ。いいよな、後ろから魔法撃ってるだけの毒女さんは」

「毒なんですけど。次それ言ったら溶かすわよ」


 どちらも機嫌が良くなさそうだ。

 シアンに一杯食わされたからだろう。


 そんな二人に、横から口が挟まれる。


「で、どうだったの? フォード兄妹は」


 聞く限りは少年のような声をしている。


「雑魚だ、あんな奴! 次会ったら殺す!」

「……まさかあそこまでやるとはね」


 言ってることは真反対だが、二人は認めている。

 レニエ自身の力、そして何よりシアンの力を。


 それには少年も、うんうんと頷いた。


「やっぱり様子見して良かったね。じゃあ作戦は本来通りに行こう」


 だが、少年もやはり“裏”の人物。

 作戦に容赦はない。


「まずは周りから潰すんだ」


 謎の組織が、シアン一派へと迫ろうとしていた──。




───────────────────────

なんとか敵を退け、密かにイチャつくシアンとレニエでした(* ˘꒳˘)⁾⁾

ただ、シアン達もさらに強くなる必要がありそうです!

これからの彼らの成長もお楽しみに!

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