第23話 王女としての意志

「何者だ。ここは学院が貸し切っているはずだぞ」


 ふいに近づく二つの足音。

 不審な二人組の男女に、王女アリシアは剣を向けた。


「通りすがりの傭兵だよ」

「それに、今日はあなたじゃないのよ」


 しかし、二人組の目的は──シアンの後ろ。


「俺たちの狙いは、レニエ・フォードだ」

「……ッ!」


 その瞬間、シアンは直観した。


(こいつらまさか、『裏の傭兵』か!?)


 裏の傭兵とは、裏組織に雇われた戸籍のない傭兵のことだ。

 原作終盤で【闇】を持つことが明るみになり、レニエは組織に狙われる。

 そんな彼女を最終的に捕まえるのがこの連中である。


 つまり、上には何らかの組織が付いている。

 さらに言えば、連中の特徴としては──ただ強い。


「……っ」


 目付き、オーラ、風格。

 一見おちゃらけているようで、“裏”にふさわしいそれらを持っている。

 今まで戦った者とは、一線を画す雰囲気だ。


「な、なによっ……」


 二人組に、珍しくレニエの声が震えている。

 だからこそシアンは寄り添い、声をかけた。


「安心しろ」

「……!」

「レニエは俺が守る。命に代えても」


 すると、レニエはいつもの調子を取り戻す。

 シアンの安心感が、二人組の恐怖を上回ったのだ。


「命に代えてもらったら困るんですけど! バカ兄!」

「ああ、そうだな!」


 それからぐっと杖を構えた。

 今のレニエは自ら戦えるのだ。


 ──だが、『裏の傭兵』に正攻法など存在しない。


「盛り上がっているとこ悪いが……」

「?」

「すでに終わってるぜ」

「──ッ! レニエ!」


 シアンの体が勝手に動く。

 レニエごと体を突き飛ばし、自分もろとも横へ飛び込んだ。


「お、まじかよ」

「「……!」」


 次の瞬間には、地中から鎌が突き出した。

 当たっていたらと思うと、ぞっとする殺傷力だ。


「初見で避けられたのは初めてだぜ。けど、まあ──」

「フフフッ、終わりよ」


 その間、隣の女が準備を終えていた。

 存分に膨れ上がった魔法を、一気に放つ。


「【致死の毒デッド・ポイズン】」


 禍々まがまがしい紫をした、毒の波動だ。

 少しかすれば、皮膚が溶けるような属性魔法である。

 態勢を崩したシアンとレニエは回避が間に合わない。


 だが──属性魔法はかき消された。


「君達の目は節穴みたいだね」

「「「……っ!」」」


 シアンとレニエの前で、属性魔法はかき消された。

 両手を包み込むように立っていたのは、アリシア。


「私の属性を忘れたか」

「……あら、そうだったわね」


 アリシアが属性魔法を吸収・・したのだ。


 アリシアには、王女としての意志がある。

 民の声を聞き、要望を聞き、批判を聞き、全てを受け止めると。

 その想いが属性にも表れている。


 アリシアの属性は──【抱擁ほうよう】。

 あらゆる魔法を受け止め、全てを包み込む属性である。


 中でも、発動させたのはアリシアが独自に生み出した技だ。


「【王の器】」


 アリシアに属性魔法は通じない。

 これは作中において最強の防御技である。


「これが……」

「すごい……」


 【王の器】には、二人も目を見開く。

 加えて、シアンは何かを感じ取ったようだ。


(そういう原理だったのか)


 原作プレイ時は、ただコマンドを押すだけで発動する。

 だが、直接見たからこそ得られるものがあったのだ。


 そして、相手についても推測が立った。


(“くさりがま使い”ジャズに、“毒蛇”ビオラだな)


 裏の傭兵でも上位に位置する二人組だ。

 今の攻防からも分かる通り、かなりの手練れである。


 それでも、シアンは少しの情報アドバンテージがあった。

 つまり、まだ対策のしようはある。


「アリシアは、レニエを守りつつ後方から支援できますか」

「それは良いが、君は?」

「俺は一人で前に出ます」


 だが、それにはアリシアでさえも反対した。


「待て、それはいくらなんでも!」

「大丈夫です。それに、アリシアの魔法のデメリット・・・・・も考えると妥当かと」

「……! 君は一体、どこまで……」


 しかし、それには言葉を詰まらせる。

 加えて、長く話す隙がないのも事実だ。


「わかった。ただし、無理はするなよ」


 ならばとシアンの強い目を信じて、アリシアは渋々了承した。


「ありがとうございます。ではアリシアは援護、レニエは──」

「わかってるわっ!」

「よし」


 確認が取れれば、前方に意識を向けるのみ。

 シアンはふぅと一息つくと、一気に集中力を上げた。


「【身体強化】──×かける六」

「「「……ッ!」」」


 すると、爆発したように闘気が膨れ上がる。

 アリシアは大きく目を開く。


「これがシアン君の……!」


 アリシアにもシアンの話は入っていた。

 だが、実際に目にする六倍【身体強化】は、彼女の想像を遥かに越えていた。


 また、予想以上の力だったのか、二人組も目の色を変える。


「おい、ビオラ」

「ええ、少しはやるみたいね」


 そして、シアンはすっと構えを取った。


「次はこっちの番だ」

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