第22話 姫騎士と刺客

 「本日は合同授業をしていくぞ!」


 列を組んで並ぶ生徒の前で、教師の声がひびいた。

 前世なら、いかにも熱血の体育教師っぽい人だ。


「一年生にとっては良い機会になるだろうから、しっかりと学ぶように!」


 軽い説明が始まったので、俺も頭の中で思い出す。


 今日は『上級生との合同野外授業』だ。

 先輩と混じって野外学習をすることで、色々学びましょうという授業である。


 俺たち一年生の隣に並ぶのは、三年生の選ばれた人たち。

 最高学年の中でもエリートってことだ。

 中でも、気になるのが一人だけいる。


 だけど今は、それ以上に後ろの連中が気になった。


「「「……」」」


 視線を感じるのは、同じクラスの連中だ。

 隠しているつもりだろうけど、殺気がバレバレ。

 そこらの冒険者の方が隠すの上手いんじゃないか。


(やっぱり仮説は当たっていたか)


 どうやら先日の奴らだけでなく、割とクラス全体のヘイトを集めているらしい。

 まあ、位の低い俺たちが目立てば面白くないか。

 もちろん向かって来るなら、ぶっとばすだけなんだけど。


 そんな事を考えていると、熱血教師が手を広げた。


「場所はここ『クリスタリア森林』である!」


 クリスタリア森林は、学院から少しの位置にあるダンジョンだ。

 魔物が住んでおり、奥に進むにつれて難易度が上がる。


「今日は上層半分までを探索してもらう!」


 そこで、教師が定めた地点までの探索実習というわけだ。


 上層半分までなら、出てくる魔物は最低ランクのE、もしくはD。

 地形を考えても決して難しくない。

 競うと言うより、上級生から学ぶことに重きを置いた授業だな。


「それでは、一年と三年が混じってパーティーを組んでくれ!」


 説明によると、パーティーは三人。

 一年生二人につき、三年生が一人つく形だ。


 早速、俺はちらりと隣のレニエに目を向ける。


「レニ──」

「仕方ないわね! アンタと組んであげるわっ!」

「お、おう」

 

 まだ何も言ってないんだけど。

 けど、もちろん大賛成だ。

 ということで、一年ペアは決まり。


 でも、こうなると……。

 

「「「……」」」


 しーーーーーん。

 やはり三年生は誰も名乗りを上げない。

 考えるのも苦しいが、レニエの評判を考えれば仕方ない。


 これでも、結局誰ともパーティーになれず、早退した原作のレニエよりはマシではあるんだけど。


「うーん」


 でも、いるとしたら一人だけ考えていた。

 って、あれ、その人はどこに行ったんだ。


「誰を探しているのかな?」

「……!」


 すると、ふいに真後ろから声が聞こえた。

 振り返った先には──いた。

 

「はじめまして」


 真っ先に目につくのは、輝く金色の髪。

 腰には長い剣を指し、姿勢はピシっと正しい。

 透き通りながらも耳に残る声は、人を導くようだ。


「私はアリシア・フォン・グランデだ」


 彼女は──『アリシア』。

 原作メインヒロインの一人だ。


 さらに、学院生徒会長にして、この国『グランデ王国』の第二王女である。

 肩書き・実力から、“姫騎士”と呼ぶにふさわしい。


 まさに俺が探していた人物だった。


「はじめまして、シアン・フォードです」

「レニエ・フォードです……」


 差し出された握手に、挨拶と共に応える。

 さすがの人物だったのか、レニエもツンを発揮せずに素直だった。

 

「では早速だが、私とパーティーを組むのはどうだろうか」 

「ありがとうございます、でもいいんでしょうか?」

「もちろんだ。それに、私以外に誘ってくれる者はいないだろう?」

「……はい」


 それには何も言い返せない。

 もちろん断る気もないけど。


「それではよろしく頼む。シアン君に、レニエ君」

「こちらこそです。よろしくお願いします!」

「よ、よろしくお願いしますわ……」


 レニエはどこぞのお嬢様みたいな口調になってた。

 珍しく緊張したのかな、かわいい。


 でも、こうなってしまったか。

 本来なら、ここは主人公のアルスがアリシアとパーティーを組む。

 それが何の因果が俺達のところに来たわけだ。


「私のことはアリシアで構わない。では、早速進もうか」

「「はい!」」


 これが何に影響してくるのか。

 怖さもありつつ、少し楽しみになっていた。







<三人称視点>


「筋がいいな!」


 森を進む中、アリシアが声を上げる。

 視線を向けたのは──シアンだ。


「特にシアン君!」

「それはありがとうございます、っと!」

「グギャアッ!」


 なお絶賛戦闘中・・・である。

 そんな中、アリシアには気になることがあった。


「君たちは、魔物に襲われる星の下に生まれたのかい?」

「やっぱり数が多いですよね?」

「ああ、かなりね!」


 明らかに魔物が多いのだ。

 何度か足を運んでいるアリシアでも、ここまでは初めてだ。

 シアンはふと思考を巡らせる。


(他のパーティーが誘導でもしてるのか?)


 それでも、アリシアとシアンにかかれば、魔物など造作もなかった。


「ふぅ、一旦こんなところだろうか」

「そうですね」


 そして、魔物の襲撃も一度落ち着く。

 息を整えながら、シアンはじっとアリシアを見つめる。


(やっぱり強いな)


 シアンがそう感じる程に、アリシアの実力は高かった。

 原作において、主人公アルスを含め、同じ一年生のメインキャラはいずれ脅威的な成長を遂げる。

 主人公補正、物語の尺上と言っても良い。


 だが、アリシアは現時点でかなりの実力を持つ。

 本気のシアンと戦えば勝敗は分からないが、学院でトップであることは間違いなかった。


 対して、アリシアも疑念を抱いていた。


(シアン君、君は何者だ?)


 王族という続柄、貴族社会については詳しい。

 それでも、学院に入るまで「シアン・フォード」の噂は聞かなかった。

 これほどの実力ならば、何かしら話は聞くはずなのにだ。


(ちゃんとした実力をこの目で確かめたかったのだがな)


 また、生徒会長として、シアンの学院での活躍を耳にしていた。

 アリシア自ら誘ったのも、この考えからである。


(あとは……聞いていた以上のシスコンだな)


 はぁとため息をつきたくなるほど、シアンは視線の先で行動を起こしていた。


「レニエ、後ろが少し汚れているぞ! お兄ちゃんが拭いてやるからな!」

「触んな」


 ちなみに、事あるごとにこの調子である。

 さすがのアリシアもげんなりしてきていた。


 アリシアに実力を認められているのに、それを帳消し、むしろマイナスにするほどの執着具合だった。


(まあ、守るべき者レニエ君が強さの秘訣ということか)


 だが、そんな彼らの元に足音が迫る。


「「……ッ!」」


 それをアリシア・シアンは同時に察知。

 すぐに集中状態へと切り替え、足音の方向に向き直る。


「おーいたいた。あれで合ってるよな?」

「そうね、間違いないわ」


 現れたのは、“二人組”。

 鎌を持った男と、杖を携えた女だ。


 だが、格好が明らかに学院関係者ではない・・・・

 二人組には、アリシアがたずねた。


「何者だ。ここは学院が貸し切っているはずだぞ」


 アリシアは王女という立場だ。

 狙われる立場に慣れているのだろう。

 しかし、二人の目的は彼女ではない。

 

「通りすがりの傭兵だよ」

「それに、今日はあなたじゃないのよ」


 二人組が目を向けたのは──シアンの後ろ。


「俺たちの狙いは、レニエ・フォードだ」

「……ッ!」


 その瞬間、シアンは目を見開いた。


(こいつら、まさか……!?)

 

 何か心当たりがあるかのように。

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