第8話 めちゃくちゃ怪しい奴ら
「あれ、無いっ!?」
深夜の路地裏。
茶色に染めたロングの少女が、
どうやら探し物をしているようだ。
「まさか、落としちゃった……?」
彼女の名は『エレノラ』。
昼間にシアンとぶつかった少女である。
探し物というのは、シアンが拾った赤いペンダントのようだ。
そんなところに──
「探し物かな」
「……!?」
「ほら、これじゃないかな」
目元を隠す、左右に
深夜に溶け込むような、黒色のマント。
見ているこっちが恥ずかしくなるほど、怪しい姿の少年だ。
少年の正体は──変装をしたシアンである。
「坊ちゃま、怪しすぎます」
また隣には、黒色ピチピチスーツの上、腰に剣を差す女性もいた。
もちろんメイドのリアだ。
そんなヤバイ二人組に、エレノラは思わず身を引いた。
(ふ、不審者すぎる……!)
シアンもリアも、正体がバレないための変装だ。
夜の行動のため、黒色を選ぶのも分かる。
だが、それを差し控えても怪しすぎた。
しかし、シアンの手元に視線を移すと、探していた物があったのだ。
「あ、わたしのペンダント!」
「やはりか」
「……あ、ありがとうございま──」
やばい奴らと思っていながらも、一応は恩人だ。
恐る恐る手を伸ばすが、シアンが引っ込めた。
「ただし、渡すには条件がある」
「!?」
突然シアンが提案をしたのだ。
「君も今からアームリー商会へ乗り込むのだろう?」
「え……!」
その瞬間、エレノラは立ち上がった。
警戒心を一気に強めたのだ。
「な、なんでそれを……!」
商業で発展したこの街には、二大商会がある。
アームリー商会と、もう一つがコノハナ商会だ。
最近は押されてはいるが、コノハナ商会は元々一番大きな商会だった。
そんなコノハナ商会の主が、エレノラの父である。
だが、アームリーは利益を独占するため、ついに行動を起こした。
エレノラの父を
それを娘自らが助けに来た、というのが今回の
そこまで詳しい情報は知りはしなかったが、シアンは原作知識からなんとなく予想していた。
(やっぱりか……)
エレノラは、このゲーム世界における“メインヒロイン”。
そんなエレノラだが、原作ではとある事件で父を失っている。
その後、本編開始時には商会を継いでいるのだ。
だが、やはり少女一人の手ではうまくいかない。
そこを主人公が一緒になって助けることで、商会が軌道に乗り、アームリー商会が崩壊し、やがてエピローグで結婚する。
それが『エレノラルート』である。
(通称“就職ルート”な)
つまり、今夜エレノラの父は殺される。
その当日と、シアンの決行日が被ったのは偶然だが、シアンはこれを利用することにした。
(これで正当な理由で潰せるぜ!)
将来の破滅フラグを折りたいシアンだが、一つだけ
現時点では、アームリー商会が悪さをしている証拠がないことだ。
しかし、エレノラの父を
それを理由に戦えばいい。
つまり、破滅フラグを事前に叩き折るための正当な口実ができたのだ。
シアンはニヤリとして、迫真の演技をかます。
「実は、君の父にはお世話になっていてね」
「え、父に?」
「そうだ。だから、だからアームリー商会が許せないんだぁ!」
「……」
エレノラ視点では、正直怪しい。
警戒心はMAXだし、格好もやばいし、多くを知り過ぎている。
だが、いま襲ってこないならば、少なくとも敵側ではなさそうだ。
商会の娘らしい思考を巡らせ、エレノラは渋々了承した。
「……わかったわ」
味方と認識したわけではない。
だが、あくまで父を助けるまでの共同戦線を張るだけなら。
(いざという時はこいつごとやればいいし……)
エレノラには同世代では抜けた魔法の才能があった。
自ら助けに来たのも、このためである。
なんなら、こいつが混乱させている間に、父を助け出せればいいと考えていた。
「よっしゃ、行くぞお!」
「……え、ええ」
そうして、利害が一致した三人は、アームリー商会へと侵入した。
「ぐあっ!?」
見張りをしていた男が突然倒れる。
「おい、どうした──ぐっ!」
さらに、隣の男もすぐさま気を失った。
すると、離れた物陰でシアンが口を開く。
「よし、見張り突破」
使ったのはシアンの『気弾』である。
力を圧縮させることで、強力な弾丸にしたようだ。
頭に当たれば一発で気絶するだろう。
「さすがです、坊ちゃま」
「す、すご……」
それには二人も感心する。
(ていうか、今のは闘気……?)
任せてと言われたから見ていたが、エレノラの予想以上だった。
シアンに対する認識を少し改め、三人は奥へと進んで行く。
エレノラから「ここには悪い奴しかいない」との情報も得ているので、シアンも容赦はなしだ。
「「「……!」」」
そうして進む内、奥に一際騒がしい部屋の前に着く。
おそらく、本隊がいる部屋だろう。
「じゃあ
「はい、坊ちゃま」
「ええ」
三人でプランを確認し、扉をバンっと開く。
すると、突然シアンが“奇行”を始めた。
「キエエエエエエエエエエッ!」
「「「……!?」」」
大きな奇声を上げながら、中央に向かって爆走していく。
急にヤバイ奴が入ってきたことで、周りは思わず目を向けた。
ぎょっと驚いたり、お茶を吹き出している中、リアが無慈悲に気絶させていく。
あまりにも策士だが、あまりにも奇異な光景だ。
その隙に、エレノラは奥で
シアンの奇行は、父の見張りの注意を惹くためでもある。
「パパ!」
「エレノラ、どうしてここに!」
「しーっ! いま縄をほどくから!」
幸い、椅子に縛られていただけだ。
だが、父も気になり過ぎることはある。
「あ、あのヤバい少年は一体……?」
「ヤバいけど、敵じゃないことは確かだわ。今は一時的に協力してるだけ」
「そ、そうなのか……」
とりあえず、娘の友達ではないことを確認し、ほっと胸をなでおろす。
エレノラの迅速な行動により、父の拘束も解けた。
しかし──
「何の騒ぎだ?」
「「「……ッ!」」」
中二階のロフトから、一人の男が姿を現す。
男はグビっと酒を口にしながら、上から見渡した。
「商会の娘が一匹に、変な虫が二匹か」
「「「……!」」」
彼がアームリー商会を裏で操るボス──『アルド』だと。
噂には、Bランク冒険者が
「全員、死ぬ覚悟はできてんだろうなあ!?」
その殺気がビリビリと伝わってくる。
表向きの商会主とは違い、アルドは本物の悪党だ。
だが、ここまでくれば作戦は第二段階。
「さーてと」
「「「……!?」」」
今まで奇行をしていたシアンが、いきなり肩をぐるぐる回し始める。
それと共に、アルドへ強い視線を向けた。
「ここは俺の出番かな」
「あぁ?」
シアンとアルドの直接対決だ──。
───────────────────────
妹の破滅フラグを折るためならば、どんな奇行もやってみせるシアン君。
悪党集団のお相手さんもドン引きです。
レニエの愛からなのか、元から変人なのか。
でも、次はかっこいい所が見れるかも……?
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