第18話 一方その頃

「ストライク! バッターアウト! ゲームセット!」


 はい、余裕〜〜〜〜〜。


 俺──廣川雅也は最後の雑魚バッターを三振に打ち取り悠々とマウンドを降りる。


 神奈川って強豪揃いのはずだろ? レベル低すぎんだろ。

 打たれる気がしねえわ、マジで。

 勝っても何の自慢にもならねえこんなカスどもに、逆にどうやったら負けられるのか教えてくれや。

 

「流石、王者東王……打線のいい村尾工業を全く寄せ付けず完封リレーかよ……」

「危なげなくベスト8か。今年も盤石だな」

「廣川か……U-15ではあまり目立ってなかったが、やっぱ好投手だな」


 いや、俺が強すぎるだけかねぇ。

 この調子でいけば夏も余裕の甲子園で、華々しい全国デビューだぜ。

 そうなりゃ、いい女にモテまくりのヤリまくりだろうなぁ。

 ガードの硬え桜庭も簡単に股を開くだろうよ。

 へへっ、今からあいつのあのエロい身体を好き放題できると思うとたまんねえな。

 あー人生楽勝すぎるわー。イージーだなこれ。

 

「おい廣川、あまり浮かれるなよ」


 帰り支度をしていると、3年の一応エースナンバーを付けている毛利もうりが話しかけてきた。


「今日の試合、球速にこだわりすぎてコントロールがバラついてたぞ。三振に拘るのもいいが、無駄な四球が多い。もう少し周りを信頼して、打たせて取る投球も覚えろ」

「はーい、反省してまーす」


 チッ……うっせえな……

 結果0点で抑えたんだからいいだろうがよ。

 年功序列でエースナンバー付けさせてもらえてるだけのくせに、実質エースの俺様に一々説教してくんな。

 あー、せっかくいい気分だったのによ。しらけるわー。


「反対側のブロックで勝ちあがってくるであろう、黒須学院は見逃してくれないぞ。特にあそこの4番、小清水は相当いい。うちでもクリーンアップを張れるほどの強打者だ」


 小清水ねぇ……確かU-18の代表候補だっけか。

 もう県内で俺の相手になりそうなのはあいつくらいだろ。

 ツラも中々に良いらしいから、目障りだな。

 まあ野球の実力もルックスも、所詮は俺の下位互換だけどな。

 

「も、毛利さん……! 黒須学院の試合見てきました!」


 他校の偵察に行ってたベンチ外の奴が、息を切らしながら俺たちの元へと走ってきた。


「お疲れ様。言った通り、小清水は頭一つ抜けてたろ?」

「そ、それが……負けました……」

「……何?」

「しかも4番の小清水さんが手も足も出ず、1人のピッチャーに完封負けです……!」

「バカな……おい、黒須学院の相手は!? ピッチャーは誰だ!?」

「相手は浅羽高校ってとこで……ピッチャーは奥村っていう1年生です!」


 …………何? 奥村だと?


 俺は毛利と偵察班の間に割って入る。


「おい! 奥村ってまさか、奥村太陽か!? サウスポーの!」

「えっ? あ、ああ。調べてみたらU-15のエースだった奥村太陽で間違いない」


 ……くっくっく、こいつはいい。

 奥村のカス野郎、まさか同じ神奈川県内に進学してたとはな。

 しかも浅羽なんて無名の弱小校にいるなんてな……やっぱりあのカス、どこの高校からも声がかからなかったみてえだな。笑えるわ。

 高校のスカウトもやっぱり俺の方が上ってわかってたってことよ。

 ただ、やっぱてめえは直接倒さねえと気が済まねえわ。

 黒須学院を完封? 春季大会だから手抜いてただけだろ。

 俺が決勝の舞台でてめえをギタギタにぶっ潰して、実力の差を見せつけてやるからよ。

 震えて待ってやがれ。


 ***

 

 次の日──俺たち浅羽高校の準々決勝。

 俺は肉体的、精神的疲労を考慮して登板を回避。

 吉光キャプテンが粘りのピッチングを見せるも古豪、一柳いちやなぎ学園に後半捕まり3-5で敗退。

 春季大会はベスト8、夏の県大会のシード権を獲得という結果で幕を閉じた。

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