第8話 最強世代……?

 浅羽高校野球部。

 部員数は現在3年生5人、2年生7人の12人で、去年の夏の県大会は3回戦敗退。

 強豪校ひしめく神奈川大会を制しての甲子園なんて夢のまた夢……


 そんな浅羽高校野球部でただ1人のマネージャーを務めるのが無表情でお馴染みのこの私、藤江ふじえ 芽衣子めいこ

 この高校で甲子園を夢見る2年生。


 そして今、私は顔には出ていませんが珍しくワクワクしています。

 なんと今日から新入部員さんが入ってきます。

 高校での初めての後輩です。

 野球未経験の子もいるかもしれませんし、先輩である私がしっかりサポートしてあげねばなりませんね。


 そういえば、昨日我が部の2年生ながら4番バッターを務める吾郷くんを負かした新入生がいたそうですが、昨日はあいにくお休みしており実際に見ていないのでいまだに信じられません。

 もし本当にそんな子がいたとしたら、ぜひ我が野球部に入っていただきたいのですが……


 そんなことを考えているうちに、新入部員たちと少し遅れてキャプテンがやってまいりました。


「初めまして、僕は浅羽高校野球部でキャプテンを任されている吉光よしみつ 理人りひとだ。ふむ……今年の新入部員は5人か」


 吉光キャプテンが新入部員たちを確認しています。

 ところで監督の姿が見えませんが、どこに行っているのでしょうか……せっかくの入部式だというのに。


「この中で野球経験のある者はいるか?」


 キャプテンの問いかけに2人手を挙げました。

 例年より少し少ないくらいといったところでしょうか。


「じゃあ名前と出身チームとポジションを教えてくれ、そっちのメガネの君から」

「樺井 次郎です。三国シニア出身。ポジションはずっとキャッチャーをやってきたので高校でもキャッチャーを希望します。よろしくお願いします」


 真面目そうなメガネの子がハキハキと答えます。

 頭脳派でいかにもキャッチャーって感じです。


「じゃあ次はそっちの……何故か怯えてる子」

「えっ! あっはい、えっと僕は……宇和島うわじまさとしです、平松ひらまつボーイズから来ました。一応ショートやってましたけど、お力になれるなら雑用でもなんでもやらさせていただきます……どうか居場所をください……」


 手を挙げたもう1人の子は大人しそうな子ですね。

 それにしてもシニアリーグにボーイズリーグ……どちらも硬式のリーグで強豪校のレギュラークラスはこの2つのリーグ出身者が多いと聞きます。

 うちでは吾郷くんだけですが……


「キャッチャーにショートか。どちらもレギュラーが定まっていないからはやく試合に出れるかもしれないな。そのつもりで練習してくれ」


 2つとも特に重要なポジションなので即戦力ですね。

 本音を言うとピッチャーが入ってほしかったんですが……現状うちでは適正ポジションがセカンドの吉光キャプテンがピッチャーも兼任している状況なので。

 

「おいおい、結局あいつ入部しねえのかよ! だったら昨日の勝負意味ねえじゃねえか!!」

「っ!?」


 吾郷くんがいきなり声を張り上げたので驚きました。顔には出しませんが。


「例のサウスポーか。まあ、無理して入部させる必要もないさ。僕は下手でも真摯に取り組んでくれる子のほうが好きだからね」


 流石は『努力の人』吉光キャプテン。

 彼が言うと説得力が違います。


 ですが、吾郷くんを負かした子はどうやら入らないみたいですね……残念です。


「あ、あとうちの部は坊主強制ではないからそこら辺は安心してくれ。こいつは好きで坊主だけど」

「うるせえすよ!! 髪とか鬱陶しいだけっす!!」


 吉光キャプテンと吾郷くんのいつものやりとり。

 微笑ましいです。


「よしっ。じゃあアップの後に経験者はポジションについてもらって実力を見る。未経験者はまずはキャッチボールの練習だ」

「「はいっ!!!」」


 吉光キャプテンの指示で皆さん一斉にアップを始めました。

 さて、私も急いで自分の仕事に取り掛からなければなりませんね。

 マネージャー希望者はいないみたいなので1人でやるしかありません……


 ***


 ふぅ……ようやくひと段落終わりました。

 さてさて、新入部員たちは頑張っていますでしょうか。


 グラウンドへと顔を出してみると、どうやら経験者の実力を見ているみたいですね。


 ……!?


 あのキャッチャーの子、セカンドへ矢のような送球をしています。

 それにワンバウンドになるようなボールも後ろに逸らさずにしっかりキャッチングしています。

 シニア出身とはいえ、強豪校の正捕手でもおかしくないレベルに見えます。

 一体何者なのでしょうか。


 ……!?


 あのショートの子、難しいバウンドのボールや速い打球も難なく捌いています。

 それに動きを見ていると足も相当速そうです。

 ボーイズ出身とはいえ、強豪校のショートを張っていてもおかしくないレベルに見えます。

 一体何者なのでしょうか。


 ……この世代、もしかしたら本当に甲子園を目指せるかもしれません。


 後はピッチャー……ピッチャーさえいてくれれば……


「だから俺は野球やらねえって言ってんだろおおおおおおおお!!!!」

「っ!?」


 後方からいきなり現れた男の子に驚いてしまいました。顔には出しませんが。


「そう言いながらグラウンドまできてるじゃあないか!!!!」


 その男の子のすぐ後ろには舞原監督が。

 追いかけっこをしているみたいですがなんなんでしょう……


「それはあんたがグラウンドに向かうように仕向ける追っかけ方してるからだろ……ってあ!?」


 あ、捕まりました。


「正解〜! いちいちお前を引っ張るのも疲れるからな、グラウンド前で捕まえりゃ楽だろ?」

「いつでも捕まえれたってか! マジでうぜー!」

「はっはっは! あ、藤江! こいつは新入部員の奥村だ。仲良くしてやってくれ」


 それだけ言われると監督は新入部員を部室の方へと引きずって行きました。


 今の子も新入部員ですか……この世代でも、やはり甲子園は厳しいかもしれません……

 

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