第5話 絶対に負けなければならない戦い
「いやだあああああああ!!! い゛き゛だぐな゛いいいいいいい!!!」
放課後、俺は即帰宅しようとしたところを舞原伊織こと鬼教師に見つかり首根っこを掴まれていた。
嫌な予感がした通り、この教師はここの野球部の監督らしい。
「ったく! わかってはいたがマジで重症みたいだな」
教師が呆れたように言うがあんたの親父のせいでこうなっちまったんだよ!
てか、あの
んでこの
あームカつく! 誰が野球なんてやるかよバカがよ!!!
「離せえええええ!! 離せえええええ!!」
俺は今まで溜めていたストレスを全て吐き出すかのように喚き散らした。
「おいおい……あいつ入学早々何やらかしたんだ……??」
「あいつに関わるのはやめとこうぜ……」
「てか羨ましい……」
クラスメイトたちの痛々しい視線が突き刺さるけどもう関係ねえわ!
野球なんてやるくらいならぼっちになった方がマシだ!!
てかこの女、なんて馬鹿力だよ! 逃げようとしてんのにどんどんグラウンド方面まで引き摺られる!!
「こ、この人が……監督……?」
あの樺井ですらちょっと引いてるじゃねえか!
絶対こいつ今後悔してるよ!
こんな高校来るんじゃなかったって!
まあ俺の方が後悔してるけどなあ!!!
「生徒虐待だ! パワハラだ! 訴えてやるよ!! ブス! ババア! クソ教師がっ!!」
「とりあえず落ち着け、おっぱい触らせてやるから」
「えっマジ?」
「んなわけないだろがアホ生徒があああああああ!!!!」
一瞬力を抜いてしまった隙をつかれて、俺は加速度的にグラウンドへ連れ込まれて行った。
汚ねえ……! 大人はなんて汚ねえんだ!
もう何も信用できないよ、人間不信になるよもう。
「えっ……奥村くん……?」
途中江波とすれ違ったけど、めちゃくちゃドン引きされた。
朝も幻滅されたけど、あれ以上に幻滅されるとは流石に思わなかったね。
***
「はぁはぁ……」
暴れ疲れて俺はグラウンド上でぐったりと倒れていた。
「おいおい、この程度でへばるなんて随分体力が落ちてるんじゃないか? これはまた鍛え直す必要がありそうだな」
悪魔のような囁きが聞こえたけど、もう反抗する気力がない。
「おいおい監督、これは何の騒っすか?」
「おう
「新入部員って、練習前になんでもうぐったりして……ってこいつは!?」
吾郷と呼ばれたユニフォーム姿の男……おそらく野球部員であろう男が驚いた表情で俺を見下ろしている。
「あ、あんたは……」
その男は……今朝、江波をしつこくナンパしてたガタイのいい先輩だった。
「おい監督……何でこいつが新入部員なんすか!?」
「こいつは私がずっと目をつけていた逸材でな」
「ふざけんな!!! 俺はこんな奴の入部を認めねえっすよ!!」
!?
いいぞ吾郷先輩!! もっと言ってやってください!!
「認めないも何も、こいつが入部するかどうかお前に決める権利はないぞ」
あんたにだってねえよ!!
「っ! こいつはチームの輪を乱す最悪な野郎っすよ! こんな奴入れたらうちの野球部は崩壊します!!」
「そうだそうだ!」
「あ?」
しまったつい心の声が……
鬼教師に睨まれて俺は思わず目を逸らした。
「全く、まさかお前らに確執があるなんてな。まあ確かにこのままこいつを入部させたらチームワークに支障が出そうだし、ここは一つ野球部らしく野球で白黒決めないか?」
……………………へ?
「ルールは一打席勝負で、勝った方の意見が通る」
「ほぅ……一打席勝負ってことは、こいつピッチャー志望すか?」
「打つ方もやるが、まあ投手メインだな」
「面白え……この浅羽高校が誇る最強の4番バッター、吾郷
あれ、なんか勝手に話すすんでるけど俺やらないよ?
「さあ奥村、お前の実力を見せる時が来たぞ。さっさと立て」
「なんか俺がいると空気悪いみたいなんで、失礼しますね」
鬼教師に無理やり腕を引っ張られて立たされた俺はその流れで自然と帰ろうとするが……
「おい」
もちろん上手くいくはずもなく腕を捕まれ、ものすごい眼光で睨まれた。
俺はこの目を知っている……
シニア時代に散々見てきて舞原監督と同じ目だ。
遺伝って凄いなあ。
どうやらやるしかないようです。
……全力で負けにいこう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます