習作

黒川小蛇

第1話 夜道

 熱が抜けた体を起こす頃には、日がすっかり落ちてしまっていた。

 じわじわと追い込まれるように弱らされた体はひどく重く、かえって陽光のまぶしさを浴びずに感謝しているらしい。

 体温計、微熱。

 正直まだ動くのも億劫だが、そろそろ何か食わねば死んでしまう。


 えっちらおっちら服を着替えて、どうにかいつものカバンを携えて、ようやく自転車を引っ張り出した。

 鍵が引っかかって焦る。サイドスタンドを蹴とばすのさえ一仕事だ。

 道路まで転がして、というより転がる自転車に引きずられるようにして、なんとかまろびでるといったていであるが、なんとか道路までは出て、それから、またがる。もうすでに汗だくなのは何故なのだろう。

 ペダルを漕ぐ。重い。行け。為せば成る。

 のったり滑り出した自転車。ひと漕ぎ、ふた漕ぎするうちにタイヤの回転だけは調子を取り戻す。

 風が顔を打った。体に残った火照りをぬぐってくれるようで、それがやけに気持ちよく感じた。

 遅めの会社帰りの大人たち、まだ遊び足りない若者たち、習い事帰りの子供たちと保護者たち、散歩中の犬と飼い主、買い物帰りのご老人。

 人はいるが、少ない。それが本当にありがたい。


 腹が鳴った。思い出したように腹が減った。

 否が応にも全身に血が巡っていく。ようやく思い出した、空腹と腹痛。なんだこの痛みは。腹を壊した覚えはないのに。


 ゆるい坂道を下る。特売の時間まであと五分。

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習作 黒川小蛇 @KurokawaOrochi

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