第13話 ジェリコの進化
朗報。
ジェリコが金属を溶かせるようになった。というかもっと言うとジェリコ自身が金属になった。多分鎧熊を散々食ったからだと思うが正確には不明。ボス部屋に落ちていた鎧熊の鎧を難なく消化し、形態変化をして、金属光沢のあるスライムへと変貌した。合金スライムだ。代わりにだいぶ小さくなったが。コイツ倒したら経験値爆上がりしそうだよな。倒さないけど。
『ますたー、ますたー、つよくなったよ』
「おうおう、すげーな」
『えへえへ』
実際強くなった。消化液は金属の弾丸で、鏃だけを飛ばしているような感じ。さっき槍の先端を吐き出して壁に突き刺していたけれど、あれを常時できるらしい。速度だってただの消化液と比べて桁違いに速い。
これはいけるんじゃないか?
ジェリコが『
ぽんぽんとなでてやると『えへえへ』言いながらすり寄ってくる。腕は食うなよ。どうも俺が即死級のダメージを受けてからジェリコは甘えたちゃんになったらしいな。テイムってそういう死の感覚も伝わるもんなのかな。俺が死んだところで、ジェリコが死ぬわけじゃないだろうけど。
「よし、じゃあ地下牢にもどるか」
『おー』
と言って、扉を出たものの道が解らない。しばらく歩いてみたが完全に迷った。ええ、どうすんの俺。メイドが地下牢に戻ってきたらダンジョンに逃げたことバレて伯爵に『呻け』連呼されるんだけど。死ぬんだけど。ともかく元来た道を戻ろうと思ったがそれも解らない。途方に暮れる。
「ジェリコ、どうやってここまで来たか覚えてるか?」
『さっきたべたものもわすれた』
「最悪かよ」
合金スライムになったから少しは頭良くなったかと思ったけれどそうでもないらしい。詰んだ。あのボス部屋までも戻れない。こんなことなら俺たちが落ちてきたあの縦穴を登れば良かったと一瞬思ったけれど、トラップは完全に塞がっていたから登ったところで上に出られる訳じゃない。
『さっきのへやならばしょわかる』
「……ほんとかよ」
半信半疑でジェリコについて行くと本当にボス部屋まで戻ってこれた。扉は開いたままでジェリコが魔物の死体を食い荒らしたので綺麗なままだ。
「おお! マジで戻って来れた!」
『ほめてほめてほめろ』
「はいはい。えらいよお前は」
『えへえへ』
「さっき食ったものも忘れてんのにどうしてこの場所解ったんだ?」
『えっとね、なんかね、こっちのほうだなって』
「……もっと具体的に教えてくれ」
『えっとね、これ。じぇりこのからだだから』
そう言いながらジェリコが示したのは、さっき威力を調べるために飛ばした消化液の弾丸で、壁にぐっさりと突き刺さった金属片。ってことはなんだ。身体の一部を埋め込んでおけばその場所までなら戻れるってことか?
『そうそう』
「そりゃ凄い。よし、じゃあ俺たちが落ちてきたあのトラップに金属片刺してこい。それに向かって歩いて行くぞ」
『わかった』
と言うことで、俺は地下牢に戻ってきた。ほぼほぼ同時にメイドがやってきたので冷や汗掻きまくり。あぶねーあぶねー。とは言え、これで地下牢に戻ってくる術を手に入れたので俺は、この日からダンジョン探索を始めた。
◇◇◇
一ヶ月が経過した。
命の残高は死の危険を乗り越えれば乗り越えるほど増加するが、それは実績やらレベルやらを含めて考えるべき哲学だったらしい。ダンジョンに潜ってレベルを上げながら俺は思う。
場所は鎧熊がいた階層より一つ下。鱗に覆われた巨大なトカゲを目の前にして、俺は剣を構えている。ああそうだよ。またトラップに引っかかったんだ。嫌になるね本当に。
ジェリコの援護を受けながら、トカゲに接近する。かぎ爪を避けて剣で首を殴る。ダメージは0で残高が30000円増える。トカゲは斬られたのに傷がない状況に一瞬だけ躊躇う。そりゃそうだ。こんな訳わからない戦い方をするやつは俺以外にいない。
生身を賭け金にして、リターンを得る。距離をとる前に五回切りつけて150000円の稼ぎ。このサイズの魔物に吹っ飛ばされれば即死級のダメージを喰らうのは経験済み。つまり、失敗すれば百万の損失。そのうえ魔物をレベルアップしてしまうリスクを孕む。それでも金を稼ぐ。
レベルアップのために。
「限定解除」
五分で15000円の損失。攻撃すればその分の残高が減る。さらに言えば、攻撃失敗時にも残高は減る。一度ミスって空振ったら、当たってもいないのに三十万円減ってぶち切れた。ったく割に合わないよな。これならスライムやらゴブリンやらをパカパカ叩いてた方が残高が増える。まあ、その場合レベルは一向に上がらないんだけどな。
成長したいなら挑戦しろ。
リターンがほしいなら命を賭けろ。
それこそがこの能力の哲学。
その証拠に隠密系スキルをとってみたものの、限定解除の倍くらいの値段で残高を消費する。スニークキルは哲学に反するとでも言うかのように。厳しいというか脳筋というか。もっとスタイリッシュなチートがほしかった!
そんなこんなでリターンがなきゃ死ぬ状況にある俺はダンジョンに潜り、自分より遙かにレベルの高い魔物たちを討伐して、ジェリコを鍛えて一ヶ月。
一億円を貯めた俺に、ついにその日がやってきた。
伯爵をぶっ飛ばす日が。
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