第7話 命名ジェリコ

 スライムの名前はジェリコにすることに決めた。ゼリー娘からジェリコ。1.21ジゴワットの電気を流した電子レンジで未来から飛ばされてやってきたという設定。コイツの色、緑じゃなくて青だけど。てか女かどうかもわかんないんだけどね。女っ気があった方が良いという微かな願いをこめて。


 テイムしたらジェリコのステータスが見られるようになってた。



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 名前:ジェリコ

 種族名:スライム

 レベル:20


 HP    :5000

 MP    :6000

 攻撃力  :3000

 防御力  :5000

 魔法攻撃力:3000

 魔法防御力:10000

 敏捷   :1000


 状態   :従魔契約Lv.1(所有者 ハル・ガストレル)


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 そうだよな、普通はHPとMP表示されるよな。もっと早く気づいていればテイムの時に無駄に残高を減らして死にかけずにすんだものを。そんな風に溜息を吐きつつ俺は残高を眺めた。


 残高:32000円


 ジェリコはあのあと食って食って食いまくり、もう地下牢に入るには身体を分割しなければ無理ってくらいにでかくなっていた。レベルアップしたのは俺のせいだけれどそれにしたってでかくなりすぎだよな。



『ますたー、うでたべたい』

「こっわ! 人の味覚えてんじゃねえよ! 食うな!」



 こいつはアホなので脈絡なく突拍子もないことを言う。と言うかテイムって普通、魔物に餌をやったりして警戒を解かないとできないはずなのに、コイツは戦闘中に普通にテイムできてたからな。戦ってる間に何で戦ってるのか解んなくなってたんだな。アホだな。


 そうは言いつつも俺にとって初めての攻撃手段であるジェリコは地下牢脱出に大いに役立ってくれるだろう。もっと言えば、奴隷契約破棄にはなくてはならない存在なのだ。


 説明しよう。


 奴隷は直接主人を攻撃できないが、。そして、攻撃が成功した場合に限り、奴隷契約が破棄されるという裏技がある。これはゲーム知識で『潔癖アンタッチャブル』と同じくらいヤバい上級魔法使いから逃げ出したテイマーキャラが語った方法だった。


 つまり、ジェリコ、お前が伯爵をぶっ飛ばし、太ももタッチコンプリートするための道しるべなのだ。期待してるぞ。アホだけど。



『ふとももってなに? おいしい?』

「ある意味」



 お前にとっては人の味だろうからな。絶対食わせないけどな。俺のだ。


 とは言え、ジェリコを使った契約破棄は最終手段にすぎない。まずはメイドに方法を調べてもらっているところだけど、どうも伯爵の目が厳しくて時間がかかるらしい。その間、俺は毎日、ジェリコのレベル上げと、ダンジョンから逃げるために必要な残高稼ぎをかねてダンジョンに潜り戦闘を繰り返していた。


 え? その間地下牢が無人でダンジョンにいるのが伯爵たちにバレなかったのかって?


 実を言えばその心配はなかった。どうもマジで俺は放っておかれているらしい。日に一度伯爵派閥のメイドが顔をしかめながらやってきて、食事と生活魔法での清掃、俺の身体にも生活魔法をかけて清潔にして病気の予防、最後に寝わらの補充をやって帰っていく。その時間だけ地下牢にいればあとはダンジョンに潜っていても問題ない。


 ジェリコのレベルアップは単純。ジェリコを殴ればいい。俺の残高は増えないがジェリコの経験値だけは増えるようで、ダメージ0でレベルアップが可能だった。「経験値うまうま」である。ある程度レベルアップしたら、今度はジェリコが周りを監視して、俺は木刀を握りしめてザコスライム相手に残高を増やす。


 それが最近のルーティン。


 そのザコスライムもテイムすれば放置で残高増えるじゃんと思われるかもしれないが、俺のテイム枠はまだ一つしかなく、ジェリコが我が物顔で陣取っている。それに、もし枠があったとしても、テイムした魔物の怪我は俺の残高で回復するから、むやみやたらにテイムしていたら俺が死ぬ。スライムはアホで、攻撃が基本突撃だからな。かなりの頻度で死にかけて、ジェリコの稼ぎは毎日5000円くらいにしかならない。


 そんな感じで二週間。



 残高:932000円



 当分死ぬことはないぜ、はっはっは。と笑ってはみたものの、俺のレベルは一向に上がらない。どころか、スキルツリーのレベルも上がらない。かろうじて《獣術テイミング》だけレベルが上がっているけれど、新しくとった《剣術》は木刀を毎日振っているのにびくともしない。



操力デクスタリティ】Lv1

 ├《剣術》Lv1

 └《獣術テイミング》Lv2



 どうなってんだこれ。

 そう思っていると、ポンッと表示が現れる。



『戦闘スキルを残高でレベルアップすることはできません』



 裏を返せばそれ以外のスキルはレベルアップできるってことか。いやそれにしたって、使いまくってるのにレベルアップしないのはおかしいよな。



「スキルに対する俺の認識が間違ってんのか?」



 思えば《剣術》スキルを解放する前から俺は剣を普通に振れた。きっと交通整備の人形だって振れるだろう。ってことはこの《剣術》ってのは「剣の振り方」とか「足の運び方」とかそういう技術的なスキルじゃないのか。



「じゃあなんなんだ?」



 ダンジョンへの道に蓋をして、地下牢で首を傾げる。それに他にもいくつか金で解放できないスキルがあって困っている。特に魔法系のスキルはほとんどダメ。でもハルって《聖魔法》使えたはずなんだよな。《火属性》も《水属性》も魔法系のスキルはかなり解放されてたはずだ。ダメージ0だったけど。ハルの記憶がそう言ってる。じゃあどうして使えないんだ?


 唸ってみたが解らない。


 でも、まあこのくらい残高が貯まればレベルを上げなくてもダンジョンから逃げ出せるだろう。攻撃を受けても大抵は一万円あれば回復できる。この地下牢はそんなに深くないから、ダンジョンの階層で考えても第二階層くらいだろう。


 いける。

 あとは奴隷契約を破棄する手立てをメイドが調べてくれるのを待つだけだ。


 とか思っていると、その日の夜、ガタンと音がして誰かが降りてくるのが解った。その日すでにメイドは来ていたので俺は目を覚まして首を傾げ、寝わらから身体を起こした。


 やってきたのは確かにメイドだったけれど俺たちの世話係をしていたメイドだった。何か契約破棄についてわかったのかと思って身体を起こすと、彼女は誰かを一緒に連れている。


 それはアクセルだった。

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